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牡丹の国  作者: ひさぎぬ
13/14

エピローグ

「今日、休講だって」

「休講?なんで?」

「病欠。教務課で聞いてもらったら今、病院に行ってるみたいよ」

「病院って…マジかよ?倒れたのか…」

「先生って五十ぐらいだろ?…有り得るな。出席に厳しいのに本人が連絡もなく休講ってぐらいだし」

「あー、どうもぎっくり腰らしいよ」

「ぎっくり腰!?」

「マジかよ…」



時間が過ぎても始まらない授業。不思議に思った学生の一人が教務課に聞きに行ったのだった。

まさか原因がぎっくり腰だったとは…。

そう広くもない教室から学生が出ていく。


「休講ねぇ。菜々はこの後、教職よね。一旦帰るの?」

「ううん、時間まで図書館にいるつもり。他の課題もあるし」

「柚以子は?」

「わたしは帰ろうかなー。バイトから直に来て眠いしねー」

人手が足りなくて早朝にバイト先からの電話。なので眠い。

「そう…。なら時間あるわよね。ちょっと話があるんだけどいいかしら」

「話?まぁ大丈夫だけど」

「…じゃあ私は行くね」

「あっ、ちょっと菜々子はいいの?」

「私は柚以ちゃんが来る前に聞いたから。じゃあまたね」

そう言うと足早に教室を出ていった。

いつの間にか教室内はわたしと瑠加の二人で、シンとしている。

今日は土曜日。

平日と違って土曜の三限に大学に来ている学生は少なく、構内全体が閑散としている。

二階の窓から見えるのも先程まで教室にいた数人程度でその他は見あたらない。

ああ今って授業中か。


「話ってここでいいの?ラウンジ行く?」

「ここでいいわよ。大した話じゃないし…。

今日の夜、バイト無かったわよね?一緒に合コン出てくれない?」

「合コン?」

「そう合コン」

「あのさ…わたしがそういうの断ってきてるの知ってるよね?…まぁ滅多にそういう話は来ないけど。

てか瑠加も合コンとか行かないんじゃなかったっけ?」

わたし自身には声は掛からないけど瑠加達といると、ついでに君もどう?って

感じて誘われるのだ。

「そうだけど今回は別。お姉ちゃん経由の合コンなのよ。

この間の英訳を手伝った貸しを返しなさいって。それが合コン」

「菜々子は?」

答えはわかっているが聞いてみる。

「いつもと一緒。まだお酒飲める年齢じゃないから行けないって。食事がメインだって言ったんだけど無理だった。

あの子も合コンとか苦手な様だし、強く言えないわ」

わたしも苦手なんですが。

行って、飲んで食べて多分電車乗って家に帰って化粧おとしてシャワーして課題して…想像するだけで疲れる。それがおまけ的な扱いなら尚更。

ちなみに、わたしと瑠加は一浪していて菜々子より一つ歳が上だった。

「お姉ちゃんが言うには職場の先輩から食事の誘いがあって、それがいつの間にか合コンもどきになったらしいの。

因みにその先輩っていうの女性だから。

それで、それならいっそのこと合コンにしよう、新鮮な風を!ということでわたしが呼ばれたの。

一人が嫌なら友達呼んでいいからって言われてね……はぁ…」

「そう、なんだ…」

瑠加のお姉さんはなかなか豪快な人らしい。

瑠加によると男っ気のない妹を心配して性の指南書の類をプレゼントするらしい。

なんでも、いざという時困らないようにと。

普段はクールな女王な瑠加もお姉さんにはたじたじらしい。

「合コンって言っても食事と癒しが目的みたいよ。下心がある奴は呼んでないってお姉ちゃん言ってたし」

食事と癒しと新鮮な風…

お姉さんには悪いけど大概の男の下心は食事の席で瑠加を見たら発生しそう…。

それくらい瑠加は出るとこ出てるのにすらっとしてて美人なのだ。

「…時間と場所は?それとこれ、会費制?割り勘?」

「来てくれるの?」

「貸しだからね」

「貸しはいやよ」

「ふふ」

「からかったの!?」


そして瑠加から場所や時間等を聞いてると、携帯のバイブ音が響いた。授業がないから電源を入れてたようだ。

「瑠加のじゃない?」

「えぇそうね……

―――あぁ私、行かなきゃ。後でメール送るから。じゃあね」

メールを読むと慌てて教室を出ていった。


そして瑠加と入れ違いに誰か教室に入ってくる。

スーツを着た男性で年は三十前ぐらい?

「君は美濃山教授の生徒?今出ていった彼女も?」「そうですけど…」

「やはり学生は帰ったようだね」

そう言って男は室内を見回した。

誰?なんかの講師?もし部外者だったら二人っきりはまずいよね。

急いで立ち上がると男が立っている入り口ではない入り口に向かう。

「待って。聞きたいことがあるんだが」

「…ここでですか?」

「あぁ、警戒してる?私は美濃山教授と同じ大学で教えている若月という。なんだったら名刺でも」

そう言って名刺を差し出した。

近づいて差し出された名刺を覗く。


…確かにこの授業を受け持っている美濃山先生と同じ大学の人みたい。


美濃山先生は他大学からこの科目を教えに来ていて籍はこの大学にはないのだ。

「…受け取らないのかい?」

「はい」

「どうして?」

少しおかしそうに聞いてくる。

どうして?……強いて言うなら見ず知らずの人の個人情報は扱いに困るから?

もしかして受け取らないのって失礼にあたるのかな…

「それは…」

「君には必要ない?」

「ええ、まあ、そうですね…」

「そう」

男…若月さんは名刺をしまった。


「教授からここの授業内容を聞いたんだが…率直に言って君たちは内容についてこれているのかい?

気分を害したなら申し訳ないが教授は、なんというか…難解な要求もするだろ?」

確かに無茶なレポートや問い掛け。それに出席も他科目に比べ厳しい。

一回欠席すればその他がどうであれ落第でないだけまだまし!という評価らしい。届けを出してもその評価ならむごい。


「……確かに無茶だなぁと思うことはあります。レポートのテーマとか短い提出期限とか。内容は予習しないと厳しいです。少なくともわたしは」

「予習はしてるのか……確か君達にとってこの科目は選択必修だろ?

わざわざ選ぶくらいだから興味はあるということか」

最後の方は呟くように言う。


興味…?

いやー

純粋にこの科目が好きで選んだ人は少ないような…。

確か…、

菜々子は土曜に教職課程があるからついでに。

瑠加は人が少なそうな講義を取りたかったから。

わたしはバイトの関係と家から自転車で通える距離だから。というか歩いて通える距離。

不純な動機でなんとかなるだろと思って受講したら多大なリスクを背負ってしまったのだ。


「…ならば内容の質は落とさなくてもいいんだな」

「落とすというかもう少し易しくても構わないですけど…」

「君、名前は?」

…なんか答えたくないんですけど。……苗字だけでなら。

「鈴森です」

「鈴森……鈴森、柚以子?」

「えっ?名前、どうして知ってるんですか?」

「君のレポート面白かったよ。…割と授業を聞いているようだね」

「レポート?いつ読んだんですか!?」

その問いに答えることなく若月さんは教室から出ていった。

ただ最後にまた来週という声が聞こえた。


***


食べた〜!

アパートに戻り服を脱ぐ。

初めて会った瑠加のお姉さんは美人だった。

ご飯も美味しかったし、合コンと言うより食事会と言う方が近かった。わたしと瑠加以外は社会人で話の中で就職のことについて教えてくれたりした。

確かにお姉さんが言うように下心ありそうな人はいなかったと思う。

どちらかというと、妹を心配する兄姉といった雰囲気だった。

化粧室でお姉さんと二人で話した感じだと、お姉さんは本当に瑠加を心配しているようだった。

なんでも瑠加は小さい頃から人目を引く容姿だったからお姉さんは、男は変態、甘い言葉は信用するなと散々教え込んだそうだ。

だから大学生になっても恋とか男っ気のない瑠加にお姉さんは責任を感じてるらしい。

多分、お姉さんも美人だから異性で苦労や厭な目に有ったんじゃないかなぁ。

だから瑠加に…

まぁ指南書とか色々極端だとは思うけど。


***


「今日休講じゃないけど教授来るのかしら?」

「さぁ来るんじゃない?」

「でもぎっくり腰でしょ?大丈夫なのかな」


時間になり、教務の人と一緒に入ってきたのはあの男性、若月さんだ。

「えー、美濃山先生は都合により授業を受け持つことができなくなりました。

皆さんには申し訳ないけどこちらの若月先生が今回から授業をして下さいます。

あー、何か質問があれば教務課まで」

そう言うと教務の人は出ていった。


「ねぇあの若月って先生、先週柚以子とはなしした人だよね?」

瑠加が小声で聞いてくる。わたしは無言で頷く。


「若月です。美濃山教授から授業内容と今後の予定を聞きました。私としては教授の予定通りに―――……」


若月先生の話は頭からすり抜けていく。



外見年齢は彼に近いかな。

背格好は…向こうのほうが筋肉質だよね。


もう逢うことのない彼と外見年齢が近い男性を見ると、ついつい思い出してしまう。

別に何かが起こった訳じゃないし、意味の無いことだと思ってるのに…。

自分の好みじゃなかったのに忘れらないのは、やっぱり気になるから?

でもなー


そう考えているとこっちの世界にいない彼と…、ううん違う、若月先生と目があった気がした。

はぁ

まずい、重症だわ。


そう思いながらうつ伏せになる。


「―――君、私の授業を受けたくないなら出ていってもらって構いませんよ」


出ていく…?

そうね、このまま未練がましくしててたら良くないよね。

桃花がいたら、思い切っちゃえって言いそうだ。


「柚以ちゃん!?」

「ちょっと本気?」


思い切ったことをすれば忘れられるかな――…


教材を鞄に入れ、立ち上がろうとすると感情のない声がした。


「…何が気に入らないか教えてくれないかな?今後の参考の為に」


…目が全く笑ってい。

久しく感じなかった冷たいモノが背筋をつたう。

瞬間、彼の事も牡丹の国の事も頭から飛んだ。


―――そう上手くいかないものか………。

ここをどう切り抜けるか、今わたしの頭にあるのはそれだけだった。




読んでくださった皆様、ありがとうございました。

主人公のらぶはこのような感じになりました。

らぶって言う程のらぶじゃないですよね;


追記

主人公の名字を鈴森に変更しました。若月と似通っていたので;;

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