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 話を聞かずに追い出したいところだったが、顔面蒼白汗びちゃ男こと私を捨てた父親はずかずかと小屋の中に入り込んできた。図々しいな。さすがは貴族。

 今まで貴族相手に散々ぼったくってきたから大声で文句は言わないけれど、貴族のそういう図々しいところって嫌いなのよね。


「お前はアンジェリア・アクロイドとして嫁に行け」


 いや誰だよアンジェリア。


「お断りいたします。仕事もありますので」


 私がそう言うと、さっきまで真っ白だった顔に、どんどん血が上っていく。

 そしてあっという間に真っ赤になった。そのまま頭の血管が切れてしまえばいいのに。


「お前はアクロイド家が今どういう状況なのかを知らないのか!?」


 新聞で読んだ程度にしか知らないし別に私には関係ないと思うのだが。


「詳しくは存じ上げません。そちらだってうちの母が再婚したことももうここには居ないことも知らなかったではないですか」

「そんなことは関係ないだろう!」


 関係ないだろうか……?


「お前は俺の娘なんだ! だからお前はアクロイド家のために動く義務がある!」

「ゴミのように捨てたくせに?」

「うるさい!」


 都合が悪くなったら怒鳴っちゃって。本当に人として最低だなあ。


「お前は我々が可哀想だとは思わないのか! 血のつながった家族だろう!」


 自分で蒔いた種なんだから可哀想もクソもねぇだろ何言ってんだお前。


「じゃあ逆にお尋ねしますが、血のつながった家族を、こんな小屋に捨てて放置して、今まで一度でも可哀想だと思ったことはありますか? そもそも私たち母子を思い出したことはありますか?」

「あるわけ……ないだろうが」

「どうして? 血のつながった家族なのに? 血のつながった家族なのだから可哀想だと思うのが当然のような物言いでしたよね?」

「う、うっ、うるさい! うるさい! そんなことはどうでもいい! とにかくお前は俺の娘の代わりに嫁に行けと言っているんだ! 連れて行け!」


 汗びちゃ男がそう怒鳴ると、小屋の外に待機していた、どこからどう見てもならず者の集団のような人たちが小屋の中に雪崩れ込んできた。

 彼らは瞬く間に私を拘束し、用意されていたらしい馬車に私の身体をぶち込んだ。要するに拉致である。

 最低だ。本当に最低だ。

 不必要だといって幼い私を捨てたくせに、必要になったからといって無理矢理拉致をするなんて。

 しかしそれはそうとして私はどこに連れて行かれるのだろうか?


「ちょっと待ちなさいよ! せめて貴重品だけでも持って行かせて」


 そもそも戸締りだってさせてくれ。小屋とは言え私の家なんだから。


「そんな暇は」

「嫁に行った先で全部洗いざらい喋るわよ」


 そう言って睨みつければ、汗びちゃ男が言葉を詰まらせる。

 そして少し悩んだ後に一旦私の拘束を解かせて、馬車から出した。おそらく洗いざらい喋られると困るのだろう。

 あまりの腹立たしさに我を忘れてしまいそうだが、落ち着いて金目の物は全て持ち出さなければ。

 私には今まで貴族のご婦人たちからぼったくってきた多額の貯金があるし、貴族のご婦人たちから贈られたたくさんの貢物もあるのだ。どこへ連れて行かれようと問題はない。絶対に大丈夫だ。


 大人しく馬車に揺られて連れてこられたのは、小さな町にある宿泊施設のようなところだった。

 この小さな町の領主にでも嫁がされるのか? なんて思いながら通された部屋に足を踏み入れると、侍女らしき人達から服をひん剥かれた。そしてひん剥かれたと同時に見たこともないくらい多量の布が使われたドレスを着せられる。

 ドレスを着たのは初めてなのだが、これ、こんなに重いんだ。


「ぶかぶかだわ」

「そりゃそうよ、あのアンジェリア様のドレスだもの」


 アンジェリアデブ説。


「ちょっと背中と腰のあたりで適当に詰めましょう。針と糸なら持ってきているから」

「時間がないのに」

「でもこのままってわけにはいかないでしょう」

「こっちはどうする?」

「……詰めましょう。パッドを」


 侍女たちはそんな会話をしながらてきぱきと働いている。

 背中あたりで何かをしているなと思ってぼんやりしていると、前から迫って来た侍女が私の顔面に粉を叩き始める。

 ごりごりの化粧をした貴族のご婦人は毎日のように見ていたが、自分が化粧をされる日がくるとは思わなかった。


「あわわ」


 化粧に集中していたら、今度は髪を弄られる。

 私はされるがままの着せ替え人形の気分だった。


「よし、これで……それなりに見えるようにはなったでしょう」


 どうやら終わったらしい。


「あの、私は今からどこに連れて行かれるのでしょう?」


 ふう、と息を吐いている侍女の皆さんに声を掛けると、皆さんの表情が一気に曇る。

 それから何か可哀想なものを見るような目で私を見ていた。


「何も知らされていないのですか?」

「そうですね。よく分からないまま拉致されました」


 私がそう答えれば、侍女さんたちの表情がさらに曇る。

 なんだか己の息子を戦地に赴かせる母の顔のようだ。


「私たちの口から言っていいものかわからないのですが……その、あなたは今から第三皇子の元へ嫁ぐことになっております」

「お゛」


 第三皇子……だって……?

 貴族としての教養なんか一つもないのに第三皇子って、あ、わかった。そうか。私死ぬんだ。

 だから皆己の息子を戦地に赴かせる母みたいな顔をしているんだ。

 金でなんとか出来る相手であれば多額の貯金でどうにかなると思っていたが、相手が第三皇子となると金に困っているとも思えない。

 これは……詰みかもしれない。





 

ブクマ、評価、いいね等ありがとうございます。とても励みになっております。

そしていつも読んでくださって本当にありがとうございます。

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