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 その少女との再会は、あれからたった二日後のことだった。


「シェリー先生、その……ちょっと、ご相談が」


 多分あのお守りのことだろうなぁ、と思いつつ、私は少女を座らせた。

 そして、テーブルに温かいミルクティーとクッキーを並べる。


「先日いただいたお守りが、割れてしまいました」


 私が魔力を込めたプレート状の魔石が割れた。割れた、ということは効果を発揮したということだ。


「割れた後、あなたの周りに何か変化は?」

「それが……継母が、背中に強い痛みがあると言って寝込んでしまいました」


 少女の継母が寝込んだということはどういうことか。

 そこから私が推測出来ることと言えば、先日少女が言っていた話は嘘ではなかったということ。

 実際に少女の継母が、少女の背中にあのおびただしいほどの傷跡を作っていたということ。

 そして、おそらくまた叩かれそうになったのだろうということ。

 そこで私の闇の魔法が発動し、己の行いが己に返ったということ。

 そんなところだろう。

 その後、お茶とお菓子で心を落ち着かせた少女が教えてくれたのは、ほとんど私の推測通りだった。

 推測通りじゃなかったことといえば、叩かれていたのが背中だけじゃなかったことくらいかな。


「継母は、どれくらい寝込むのでしょうか?」


 そんな少女の問いかけに、私は少しだけ考える素振りを見せる。


「あなたはどのくらいの期間、継母からの暴力に苦しんでいたの?」

「ええと、一年ほど」

「そう」


 私はそう短く返して、ミルクティーを口に含む。

 そんな私の様子を見て察したのか、少女はおずおずと口を開いた。


「……まさか、一年ほど?」


 自分の行いが巡り廻って自分に返ってくる。それがあの魔石プレートに刻んだ『因果応報』の真意なのである。

 善行も返ってくるものなので、いいことをしてたら痛い目は見なかったと思うのだけれどね。


「穏便に家を出て結婚出来るわね」


 私のその言葉を聞いて、少女はあからさまにホッとしていた。

 そうしてしばらく談笑した後、少女は晴れやかな笑顔で帰っていった。どうか彼女の結婚生活が、穏やかで幸せなものでありますように。

 こうして女性の晴れやかな笑顔を見る瞬間が、私の楽しみであり生き甲斐だ、なんてことを考えていた時のこと。

 ふと新聞の一面が視界に入る。……どうやら、私を捨てた伯爵が何かやらかしたらしい。

 読み進めてみると、やらかしたのは横領だと書かれている。しかし一面に、しかもかなり大々的に掲載されているのに……横領だけだとは思えない。

 もちろん横領だって立派な犯罪だけれど、死者のいない事件が一面に載るというのは本当に珍しい。

 何しちゃったんだろうなぁ、伯爵。

 私を捨てたんだから、それ相応の罰が当たってほしいものだ。没落とか? 取り潰しとか?

 跡取り欲しさにそこらへんの女を捕まえて子どもを産ませて、産まれたのが女だったからっていう理由で捨てたくせに、その大事な大事な継ぐ家がなくなるとなれば……なんとも滑稽な話である。

 まぁでも、捨てられたおかげで今回の事件の火の粉を被ることなく、実入りのいい仕事をしながらのんびり暮らしていくことが出来るわけだから、結果としては捨てられていて良かったのかもしれない。

 なんて、対岸の火事を眺める気持ちで、一度鼻で笑ってからその新聞を放り投げたのだった。


 しかしそれから数日後、まさかもまさか、対岸からものすごい勢いで火の粉が降って来やがった。

 私には関係ないと鼻で笑っていたというのに、どうやら巻き込まれてしまいそうになっている。

 突然外でバタバタと音がしたと思ったら、我が家、いや我が小屋のドアがどんどんと叩かれる。

 外では男が大声で叫んでいた。

 この小屋に来るのはほとんどが女性なので、半狂乱の男が来るなんて珍しい。

 だがしかし男にだって消したい傷跡の一つや二つ、と、そこまで考えたところで男の叫び声が少し聞き取れた。

 どうやら、再婚して出て行った母の名を叫んでいるらしい。

 そんなに叫ばれてもここに母はいないのに。


「母ならもうここには居ませんが?」


 ドアを開けてそう言って、ふと顔を上げて男の顔を見ると、今まで見た誰よりも顔色が悪い。

 顔面蒼白ってこういう状態のことを言うんだなってくらい血色が悪い。そして汗が酷い。顔中びっちゃびちゃだ。


「セーラはどこだ!?」

「もうここには住んでいません。再婚して出て行きました」

「再婚!? 俺は聞いていないぞ!」


 そんなこと私に怒鳴られたって知らないんだけども。お前に知らせる義務も義理もないと思われてたんじゃないのか。


「まぁ、まぁそんなことはどうでもいい。セーラを母だと言ったな? じゃあお前がシャーロットか」

「あー……そんな名前だったこともあるようなないような?」


 幼い頃に、私には本当の名前があるとかないとか、母に言われたことがある。けれど、父親に捨てられた時にその名も捨てた。

 そしてさっきから嫌な予感がしているのだが、この目の前にいる汗びちゃの男は、もしや?


「セーラの娘だということは、俺の娘だな」


 私を捨てた男だな?


「ちょっと存じ上げません」

「いや、お前は俺の娘だ。セーラが別の男との間に子どもを作った話は聞いたことがない」


 再婚の話も聞かせてもらってなかったくせに、どの口が言ってるんだか。

 あ、そういえば、私を捨てた父親は今罪人なんだったっけ。じゃあこれ罪人じゃん。


「よし、お前は俺の娘だ。だから俺たちを助けろ」


 ……それが人にものを頼む態度か?





 

読んでくださってありがとうございます。

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