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呪われた第三皇子と捨てられた令嬢  作者: 蔵崎とら


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「あれが出口ですよ~」


 騎士みたいな人のその言葉を聞いて顔を上げると、そこには重厚そうな扉があった。

 ゆっくりと開かれる扉の向こうから明るい光が差し込んできて、私は思わず顔を顰める。


「うん、大丈夫そうだ」


 地下道が真っ暗だったわけではないけれど、こうも突然明るさが変わったら、目がしぱしぱしてしまう。だというのに騎士みたいな人は平気そうな顔で外の安全を確認しているらしい。

 私なんか瞼が仕事を放棄して開こうともしないというのに。

 それからたっぷり数十秒ほどかかってやっと瞼が仕事を思い出した頃、ふとロミーのほうを見ると、彼女も私と同じような顔をしていた。眩しかったよね。


「さてさて、あれに乗ってください」


 騎士みたいな人の言う「あれ」とは、小さな馬車だった。いつの間に用意されていたのだろうか。


「あれであなたの家までお送りします」


 地下道の案内を、って話だった気がするのだが、どうやらあの小さな馬車で小屋まで送ってくれるらしい。


「送ってもらっていいんですか?」

「もちろん。小さな馬車で申し訳ないんですがね」


 騎士みたいな人はそう言って笑う。

 馬車のサイズなんか、乗れるならなんでもいいのだけれど……あれ?


「これ、誰が御者台に?」

「俺ですね。シェリーさんの家ってどの辺なんですか?」

「え、え? あ、えーっとディディエルという村の端の端なんですけど」

「あぁ、あの辺なら通りかかったことあるんで分かります。ってことで馬車の中で寝てても構いませんよ」

「え、あ、はい」


 なんだか強引に話を進められた気がしないでもないが、いくつか疑問があるだけで特に断る理由もないということで、私とロミーはその馬車に乗り込んだのだった。


「案外快適ね」

「そうですね」


 件の馬車は、見た目こそ小さかったけれど、乗ってみれば充分快適だった。

 少なくともアクロイド家が準備したであろうあの馬車よりも乗り心地はいい。

 まああの時は拉致だったし、乗り心地どころか居心地も悪かったのだけれど。

 それから、数度の休憩を挟みながら私たちは私が住んでいた小屋を目指した。とても和やかな旅路だった。

 あまりに和やかだったから、どうしてもローデヴェイク様のことを考えてしまう。

 あの後、ローデヴェイク様は大丈夫だったのだろうか、と。

 私だけがこんなに和やかでいいのだろうか、と。

 私がこんなにも和やかなのはローデヴェイク様のおかげ。しかしそのローデヴェイク様は、苦手なはずの第二皇子と対峙している。嫌な思いをしているかもしれない。少なくとも面倒臭い思いはしているだろう。

 どうか大丈夫であって、と祈ることしかできないのがもどかしかった。


「ディディエルに到着したんですが、ここからは?」


 いつの間にやら到着していたらしい。


「この先の森の奥です」

「はーい」


 あの人、完全に小屋まで来るつもりだ。

 おもてなし出来るようなお茶は残っていただろうか? そもそも荒らされたりしていないだろうか? 突如そんな不安が脳裏をよぎる。

 こんなに長い期間この小屋から離れたことがなかったからな。貴重品は持ち出したから大丈夫だとして、眠れる状態じゃないくらい荒らされていたら……。


「あの豪華な馬車が停まってるところですかー?」


 豪華な馬車? うちの小屋にそんなものはないはず……と目視で確認をしたところ、うちの小屋の前にマジで豪華な馬車が停まっていた。


「そ、そうです」


 豪華な馬車についてはまったくもってこれっぽっちも見覚えがないけれど、ここは確かに私の小屋だ。間違いない。


「よーし到着ー。ささ、お手をどうぞ~」


 なんともいえない呑気な声に誘われるまま馬車を降りると、今まで豪華な馬車で隠れて見えなかった小屋の入り口付近が視界に入る。

 そしてそこには見知った人物がいた。


「まあ! まあ! 先生だわ! あなた無事だったのね!?」


 見知った人物とは、うちの常連客であり、お礼の品にといって物凄く高そうな宝石をくれた貴族のご婦人だ。

 なるほど、あの豪華な馬車はこの人の乗ってきた馬車だったのか。そりゃあお貴族様の馬車だもの。豪華であって当然か。

 そもそも私はずっと小屋の中で仕事をしていたから彼女が乗っている馬車なんて今の今まで見たことがなかったのだ。


「先生ったら、突然いなくなるから心配していたのよ!」

「え、あ、まぁその、もうしわけありません」

「頑張って探したけれど何の手掛かりもないんだから! ああでも、よかった! 無事で本当によかったわ! 無事なのよね?」


 貴族のご婦人は私の頭や頬、手なんかをなでなでさすさすしながら私の無事を確認している。


「あら?」


 そんなご婦人が、ふと動きを止めた。

 何事だろうかとご婦人の顔を見ると、彼女の視線は私ではなく騎士みたいな人のほうを見て止まっていた。


「あなた確か……宮廷にいた騎士だったわね? 見たことがあるわ」

「え、あーはは」


 騎士みたいな人は何かをごまかすように、乾いた笑いをこぼしている。


「なるほど。わかったわ! そう。そうよね。言えないのね! あなたきっと宮廷で仕事をしていたのね!」

 

 ご婦人は勝手に納得している。


「私もね、シミを消してもらったりしているからわかるの。まず顔にシミが出来たことすら恥ずかしくて誰にも言えない人だっているものね」

「まぁ、そうですね」


 勝手に話が進んでいるので、私もそれに合わせるよう適当に相槌を打つ。あんまりわかってはいないけれど。

 しかし第三皇子の所にいたということは伏せておかなければならないので、勝手に納得してくれるのであればありがたい話かもしれない。


「あなたは確か第二皇子のお抱え騎士だったからー……その周辺の偉い人あたりに呼ばれたのね! うん、まぁいいのよ! 先生が無事だったのなら安心だわ! じゃあ、今日は私、もう帰るわね!」

「え!?」

「だって今日はシミを消してもらうためじゃなくてあなたのことが心配で探してただけだったんだもの! 無事ならいいのよ! あ、でも先生ちょっと痩せちゃったみたいだから、今度来るときはお土産においしいお菓子を用意してくるわね! それじゃあね!」

「え、あ、はい! あの、心配してくださってありがとうございます!」

「はーい!」


 ご婦人はそんな軽い返事を残して嵐のように去っていった。

 何とも言えない変な空気を置き去りにして。


「第二……皇子……?」


 

ご無沙汰しております。

読んでくださって本当にありがとうございます。

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