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 地下道は、思ったよりも長かった。

 ただ思ったよりも綺麗な道で助かった。歩きやすくて。

 なんかもっと掘っただけのヤバい道を想像していたから、案外普通の道で正直拍子抜けした。


「こんなとこまで付き合わせてしまってすみません」


 歩きながら、騎士みたいな人にそう声を掛けると、彼はにっこりと笑ってくれる。


「全然大丈夫ですよ。それに俺、ちょっと嬉しいんです」

「嬉しい? 道案内が?」

「はい。ローデヴェイク様が、ご自分の恩人の護衛を俺に任せてくださったんだから、そりゃ嬉しいでしょう」

「なるほど」


 敬愛する主人に重要な役回りを任命された喜びか。分からないこともない。知らんけど。敬愛する主人なんかいたことないし。


「それに、大切な仲間を安全な地まで送り届ける任務でもあるし」

「仲間……」

「仲間!」


 薄暗い地下道にいるはずなのに、なんだかちょっと明るく見えた。

 騎士みたいな人の笑顔が眩しかったから。


「ところで、シェリー先生と呼ばれていましたね?」

「ん? あぁ、はい」

「そもそもシェリーさんというお名前で?」

「まぁ、はい、一応」


 さっきの眩しい笑顔はどこへやら、突如きょとんとした顔で矢継ぎ早に質問を飛ばしてくる。

 何を急に、なんて思いながら彼の顔を見上げると、軽く眉間に皺を寄せられた。


「よく考えたら、今まで名乗ろうともしてくれませんでしたよね」


 なんで? と言いながら首を傾げている。


「別に、アンジェリアの替え玉として来た治癒魔法が使える人くらいで丁度いいと思ってたからです」


 今まで思っていた正直な思いをぶつけてみたけれど、騎士みたいな人は納得してくれなかったようだ。

 相変わらず「なんで?」の顔のまま私のほうをじっと見続けている。


「名前って、目には見えない魔力を持ってるんですよ」

「目には見えない魔力?」

「私たちが日常で使う魔法とは別の、不思議な力みたいなものです。だから、名前を名乗り合うと良くも悪くも記憶に残りやすくなるんです」


 そんな私の言葉を、騎士みたいな人は難しい顔をしながら咀嚼している。もちろん、足は止めないままで。


「……記憶に残りやすくなると、ダメなんですか?」


 長い沈黙の後、彼の口から疑問が零れる。


「ダメっていうか、記憶には残らないほうがいいと思ってたんです。だって私、諸々がバレて処刑されると思ってたわけですから」

「あぁ……?」


 全然分かってもらえないな。


「知ってる人が処刑されるって、皆さん後味悪いでしょ? だから、誰の記憶にも残らず処刑されるべきだと思ってたんです」


 ちなみにロミーに対しては名乗ってしまったのでちょっと申し訳なさを感じていた。

 でも他の人と違ってずっと一緒にいるのに名前も分からないんじゃ不便だろうなとも思ってしまったし……。


「そんなの、寂しくないですか?」


 騎士みたいな人の問いかけに、今度は私がきょとんとしてしまった。


「え」

「え? いやいや俺はもちろん、ローデヴェイク様を含めあの屋敷にいる人たち皆寂しがりますって」

「そんなはず」

「いやいやいやそもそも記憶に残す残さないはこっちが考えることであってシェリーさんが考えることじゃないって! 俺は名前なんか関係なく、大切な仲間として勝手に覚えててやりますからね」


 え、なんか宣言された。

 ついさっきまで理解出来ない、みたいな顔をしていたくせに、今はもう完全にご立腹状態である。


「っていうかローデヴェイク様も可哀想では? あの人はシェリーさんのことを恩人であり女神であると思っているのに、あなたからは記憶に残らなくてもいいと思われてるってことでしょー?」

「え、や、まぁ、その……女神?」


 こちらは捲し立てられてたじたじ状態なのだが、女神という単語だけは気になった。

 そして首を傾げた私を見て、ついに騎士みたいな人の歩みが止まった。


「ローデヴェイク様は絶っっっっっ対に寂しがります」


 なんか断言された。


「俺はね、アクロイド家がどうとか、そういうの関係なく、なんだかんだでこのままローデヴェイク様とシェリーさんが本当に結婚してしまえばいいと思ってたんです」

「いやなにそれ無理でしょ」

「無理かどうかとかの話ではないんです」


 あれ、これ私怒られてるな?


「この際言ってしまいますけどね、治療を終えたあの日、シェリーさんがローデヴェイク様の頭をわしゃわしゃなでた時のことは覚えてますか!?」

「はい!」


 人との触れ合いを我慢しなくてもいいのか、みたいなこと言うもんだから思わず頭わしゃわしゃしたやつですね!


「あの時! ローデヴェイク様は! シェリーさんに惚れましたよ!」

「そんなバカな!」


 あんなイイ男が私みたいなそこら辺にいるような女に頭わしゃられたからって、そんな簡単に落ちるわけないでしょ。私が落ちるほうが現実的だよ。何を言っているんだこの人は。


「絶対そう! 断言出来ます!」


 断言された!


「ね!」


 騎士みたいな人が突然ロミーに話を振った。

 突然話を振られたロミーは驚いてビクりと肩を揺らしていたけれど、すぐに復活してこくこくと何度も頷いた。


「私も、そう思います」

「ほら! ただねぇ、残念なことにあれが恋だと気付いていないみたいなんですよね……」

「私もそう思います」

「でしょー? 俺もこの子も、多分屋敷の人皆なんとなく察してるんですけどねぇ」


 残念そうな様子でそう言う騎士みたいな人に、ロミーもうんうんと頷いている。

 ロミーが突然あっち側の人間になってしまった。私の味方だと思っていたのに。


「ところであなたのお名前は?」

「あ、私はロミーです。あなたは?」

「俺はリュード」


 いやいや。いやいやいや。恋って。私に? 私だよ?


「やっぱ何かの間違いでは?」

「いや間違いではないと思いますけど。ただあの呪いのせいで人間を片っ端から遠ざけてましたからね、恋も初めてなんですよ。だから多分本人は気付いてないんだろうなぁって」

「……あー」

「どうしました?」

「いや、分かるなぁって。私も小屋暮らしで人と深く関わってこなかったから、恋なんかしたことないなぁなんて」


 そうぽつりと零すと、ロミーと騎士みたいな人は一度顔を合わせたうえで、あちゃー! と同じようなリアクションを取った。


「だーから気付かなかったんだー!」


 なんだか馬鹿にされた気がした。





 

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そしていつも読んでくださって本当にありがとうございます。

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