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 絶対に逃げ延びること、と約束を交わした後、私はすぐに部屋に戻って荷造りを始めた。

 地下道を案内してくれる人を用意してくれるそうなので、その人が来るまでの間にさっさと荷造りをして気持ちを落ち着ける時間を作りたい。


「良かったですね、シェリー様」

「……そうね、うん。多分」


 ロミーは嬉しそうに言ってくれるけれど、本当に良かったのかどうかは分からない。

 私がここにいたこと、ここから逃げたことで今後何が起きるか分からないのだから。

 しかしあんなにも真剣に逃げろと言われたのに、今更やっぱり逃げませんとは言えないし、私は逃げるしかない。

 ただ逃げるだけならともかく逃げた後、なんとも性格の悪そうな……じゃなくて、ローデヴェイク様と相性の悪そうな第二皇子とやらがここに来る。

 ローデヴェイク様がどんな嫌な目に遭うかを考えただけで、なんだかちょっと腹立たしい。勝手に想像しているだけなのだが。


「それにしてもロミー、あなたは良かったの?」

「何がでしょう?」

「折角ここで雇ってくださるって話だったのに、それを蹴って私に付いてくるなんて」


 荷造りを終えてしまい、しばし待機の時間が出来たので、私はふとロミーに問いかけた。

 ローデヴェイク様は私が言った「この仕事の報酬はロミーの今後の身の保証で」という話をしっかりと覚えてくれていたようで、私が逃げた後はロミーをここで雇ってくれるつもりでいた。

 しかしロミーがそれを蹴って、私に付いてくると言ったのだ。

 どうせ働くならうちのような小屋よりも、後ろ盾の大きいローデヴェイク様のお屋敷のほうが絶対いいに決まっているというのに。


「私、シェリー様のお手伝いがしたいのです」

「いや、お手伝いは嬉しいんだけどね?」


 そりゃあまぁまぁの稼ぎはあるし、お給料を払える余裕もあるけれど、ここよりも出せるとは言えないというのに。


「それに、ローデヴェイク様から直々に『俺の恩人を頼む』って言っていただきましたからね!」

「え、そうだったの? いつの間に……」


 私の知らない間にローデヴェイク様とロミーも約束を交わしていたらしい。


「私、お仕事も頑張って覚えますし、シェリー様のお仕事終わりに温かいお茶を用意しますからね」

「嬉しい!」


 ロミー可愛い! こんな可愛い子を連れて帰ってもいいならもう遠慮なく連れて帰るか。

 しかしローデヴェイク様、第三皇子ともあろうお人が、アクロイド家から連れて来た使用人に「頼む」って言ったんだな。私なんかのために。

 じゃあやっぱりお礼の品を渡さなければ、そう思った私は荷物の中に隠し持っていた魔石のプレートを用意する。

 そしてそのプレートに闇の魔法で『因果応報』の文字を刻む。

 それを一緒に隠し持っていた小袋に入れて、ポケットの中に忍ばせた。

 これを絶対にローデヴェイク様に持たせるのだ。そうすればローデヴェイク様に対して悪事を働く者……主に第二皇子にはそれなりの罰が当たるだろう。

 ローデヴェイク様はいつものことだから大丈夫だとか言っていたけれど、私の気持ちが大丈夫ではない。

 ふふふ、とこっそり陰湿な笑みを零していたところで、ゴンゴンと豪快なノックの音がする。


「迎えに来ました!」


 そう言って雪崩れ込んできたのは、騎士みたいな人だった。

 どうやら地下道への案内人はこの人らしい。知ってる人で良かった。


「準備は出来ましたか?」

「はい。お迎えありがとうございます」


 私がそう言ってぺこりと頭を下げると、彼はにこりと笑って「お安い御用です」と言ってくれる。


「じゃあ、行きましょうか」

「あ、はい」


 騎士みたいな人に促されるまま部屋から出る。

 これでもうこの場所とはお別れか。

 拉致されて連れてこられたけれど、案外楽しかったな。

 案外楽しかっただけに、ローデヴェイク様はもちろんお世話になった人に別れの挨拶でも出来ればと思ったのだけど……あと呪いの、いや因果応報のお守りを渡したかったのだけど、万が一私が見つかって迷惑をかけることになってもいけない。

 ここは静かに帰ろう。それであの小屋に戻ってからお手紙と一緒に送ろう。


「あれ、シェリー先生……?」


 ヒィィ見つかっ……うん?


「あれ? あなた」


 鞭で打たれた傷と傷跡を治してほしいと言ってうちに来てくれた子では?

 ちらりと騎士みたいな人を見てみたが、一切焦った様子を見せていないようだし、ここにいるのは第二皇子の関係者ではなさそう。


「シェリー先生、ですよね?」

「ええ、はい」

「やっぱり! 良かった、ご無事だったのですね!」

「ご、ご無事?」

「急にいなくなったからって、シェリー先生にお世話になった皆さんがずっと探していて……!」


 マジか。私なんかを探してくれる人がいたんだ。


「私も、シェリー先生にお礼がしたくて探していて」

「お礼?」


 この子からはちゃんと報酬も貰ったし、私のことを探してまでお礼を? と、きょとんとしていたところ、彼女は彼女の隣にいた男性の腕をきゅっと掴んだ。


「シェリー先生のおかげで、無事に結婚が決まりましたっ!」


 眩しいほどの幸せいっぱいオーラが私に向かって降り注いで来た。

 そうか、面倒な継母やらその継母の実子やらがヤバそうだって話だったけど、無事に結婚することが出来たのか。

 良かった良かった、と思っていると、彼女がちょこちょこと駆け寄ってきて私に耳打ちした。


「あのお守りのおかげで、継母は今も寝込んでいるみたいです」

「幸せ新婚生活の邪魔はされなくてすみそうね」


 二人でくすくすと笑い合う。

 さすがは私の闇の魔法。まさに因果応報……あ、そうだ!


「結婚が決まったってことは、あなたたちがローデヴェイク様が言ってたお友達?」

「私たちというより、彼がローデヴェイク殿下のお友達だそうです」


 ひそひそこそこそと会話を続ける。


「じゃあ、そんなあなたたちにお願いがあるんだけど」

「私に出来ることでしたら」

「これを、ローデヴェイク様に渡してほしいの」

「これは……!」

「あなたに使ってもらった物と同じお守りなんだけど」


 彼女の瞳を真っ直ぐに見つめてそう言えば、彼女は察してくれたらしい。ローデヴェイク様にも何かあるのだ、と。


「でも、シェリー先生が直接渡すことは出来ないのですか?」

「私はもう、帰らなきゃ」


 逃げなきゃ、とも言うんだけども。


「あ、そうなのですね、えと、じゃああの、シェリー先生、また!」

「ええ、またね」


 次があるかどうかは分からないんだけども。

 どちらにせよ騎士みたいな人がちょっぴりそわっとし始めたから、急いだほうがいいのだろう。


「お待たせしました」


 騎士みたいな人にそう声を掛けると、彼は今までよりも少し早いスピードで目的地へ向かい始めた。





 

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そしていつも読んでくださって本当にありがとうございます。

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