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明るみのナンパ師(脚本)

作者: 山科晃一
掲載日:2022/10/12

【登場人物】



豊島理子(24)…………………主人公


豊島新平(20)………………理子の弟


タツヒコ (25)………………ナンパ師


花枝(37)…………………主人公の上司


米田(27)………………タツヒコの上司


スーツ姿の中年男性


子供


通行人/通勤男性A、B/通勤女性






1 オフィス・面会室(夜)

           

           豊島理子(24)、ポツンと椅子に座っている。 

花枝(37)、入ってきて、理子の目の前の机に大量の紙の束を置く。

花 枝「これがお客様からの苦情。紙にした方がリアリティ出るでしょ?」

理 子「(唖然)」

花 枝「何もあなただけの責任じゃないよ。でも、商品の企画責任者としては、お客様一人一人の気持ちに沿った今後のケアを考えなくちゃね」

理 子「……はい、すいませんでした」

花 枝「謝らなくて良いの。仕事で挽回してくれれば問題ないから」

理 子「はい、すいません……」

花 枝「だから」

           

2 S駅前・エスカレーター(朝)


           スーツ姿の理子、スマフォを耳にあてて右側をトントンと降りてくる。


3 道A(朝)

           タツヒコ(25)、椅子に座ってカウンタを手にカチカチと鳴らしている。

タツヒコ、やってくる理子の姿を見つける。

           理子、タツヒコの前を通りがかる。

タツヒコ「あ、お姉さん、おはようございます」

           理子、タツヒコの前を通り過ぎていく。


4 道B(朝)


           タツヒコ、理子の隣に並んで歩いている。

タツヒコ「今日も暑いっすね。最高気温が25℃を超えるとビールの売り上げがあがるらしいっす」

           理子、黙々と歩いている。

タツヒコ「アイスクリームは27℃で、かき氷は30℃」

           理子、スマフォを取り出して時計を確認する。

タツヒコ「かき氷、食いたくないっすか?」

           理子、点滅する信号を走って渡っていく。

           タツヒコ、渡ろうとするが、赤になり立ち止まる。

           タツヒコ、カウンタをカチカチと複数回鳴らす。


5 理子のアパート・居間(夜)


           ワイシャツ姿の豊島新平(22)、弁当を食べている。

           理子、そこへ帰ってくる。      

新 平「姉ちゃん、お帰り」

        新平、立ち上がって、理子からスーツの上着を預かってハンガーにかける。

理 子「……ありがとう」

新 平「今日も遅かったね」

理 子「……うん」

新 平「あ、ご飯、作る時間なかったから今日はお弁当で良い? 姉ちゃん、ビビンバ好きでしょ」

理 子「……ありがとう」

          ×   ×   ×

          理子、虚ろな表情でテーブルで黙々と弁当を食べている。

          新平、それを対面で見つめている。

新 平「食欲ない?」

理 子「……あ、いや……そんなに見ないでよ」

新 平「あ……」

          新平、後ろ向きの格好となる。

新 平「僕たぶん、今日の面接受かったと思うよ」

          理子、思いつめた様子で黙々と食べている。

新 平「姉ちゃん? (と振り返る)」

理 子「……(ハッとして)内定? ほんと? おめでとう」

新 平「いや、たぶんだよ……」

理 子「よかったね。新平はいつも粘り勝ちだねー」

新 平「……うん……だから内定出たら、約束通り出て行くつもりだけど……」

理 子「そっか、そうだね。ほんと良かったね」

新 平「……もう少しいようか?」

理 子「……(首をかしげて)どうして?」

           理子のスマフォに着信。

           理子、慌てて電話に出る。

           理子の動悸の音、だんだんと激しくなる。

理 子「(スマフォを耳にあてて)はい、もしもし、豊島です。おつかれさまです……はい……違う商品のノベルティが……混入……はい、そうですか、大変失礼いたしました。すぐ確認して折り返します」

           理子、ノートPCを取り出して開き、起動する。

           新平、理子のPCのキーボードの上に手を置く。

理 子「ちょ!」

新 平「正月もゴールデンウィークも帰ってこないから、田舎の母さん、心配してたよ」

理 子「え、邪魔! ネコなの?」

           理子、立ち上がってPCを手に持ってキッチン台の上に置いて操作を再開する。

           新平、立ち上がって理子の隣に立つ。

新 平「……ごめん……そこじゃやりにくいからこっちでやりなよ……」

           理子、黙々と作業を続ける。


6 S駅前・エスカレーター(朝)


           スーツ姿の理子、右側を歩いて降りてくる。

           理子、立ち止まる。

           理子の前に、立っているタツヒコ。

理 子「ちょっと、すいません」

           タツヒコ、左側による。

           タツヒコ、腕時計を確認して理子の後ろ姿を見つめる。


7 道A(朝)


           理子、歩いている。

           タツヒコ、隣に並ぶ。

タツヒコ「おはようございます。お姉さん、最近どんどん出勤時間早くなってませんか? 今日は僕、遅刻っすけど」

           理子、黙々と歩く。

タツヒコ「武士って、刀を左側にぶら下げてるじゃないですか、だから右側通行らしいっすよ」

           理子、黙々と歩く。

タツヒコ「でも大阪は、英国の紳士のルールを適用して、右利きの多い日本人が手すりにつかまりやすいよう左側通行にしたらしいっす」

米田の声「おい、タツヒコ! 遅かったじゃねえか。交代の時間だよ」

           米田(27)、道路脇の椅子に座っている。

           理子とタツヒコ、米田の横を素通りしていく。

米 田「おい、タツヒコ!」

タツヒコ「(振り返って手を挙げて)さーせん。辞めるっす」


8 道B(朝) 

  

           タツヒコ、理子の隣に並んで歩いている。

タツヒコ「俺、これで交通量調査のバイトクビなんでもう会えないかもっす」

           理子のスマフォに着信。

理 子「(電話に出て)はい、おつかれさまです。はい、もう到着します。えっ……はい……申し訳ありません、はい……」

           タツヒコ、走り出して横断歩道を渡って振り返る。

           理子、それを見て立ち止まる。

電話から花枝の声「謝ってもしかたないって言ってるでしょ? こっちはこっちで仕事あるんだから、あんたが対応しなさいよ。お客様にはあんたの携帯の番号教えとくから。これ以上会社にくるのは迷惑なのよ。ねえ? 聴いてる?」

           理子の心音、激しく鳴る。

           タツヒコ、ポケットに手を突っ込んで笑っている。

           信号、赤になる。

          

9 カフェ・店内


        タツヒコ、テーブルでかき氷を食べている。

        理子、かき氷を虚ろな目で見つめている。

理 子「……私の開発した化粧水が特定の人には肌荒れしたみたいで。本人だけでなくそのご家族やご友人を怒らせて、ウチの会社にもともと恨みを持ってた人達まで便乗させてしまって―」

タツヒコ「へー。あ、それうまいっすよ」

        理子、かき氷を一口食べる。

タツヒコ「うまいっしょ。天然氷だから頭もキーンとならないらしいっす」

理 子「……(窓の外を気にする)」

タツヒコ「ここは安全っすよ」

理 子「やっぱり行かないと。私の責任だし」

           理子、立ち上がる。

           理子、ふらついて座り込む。

理 子「あれ」

タツヒコ「顔や手足が麻痺して、うまく動かせなくなる」

理 子「……(タツヒコを見つめる)」

タツヒコ「めまいや立ち眩みが起こる」

理 子「たまたまだよ」

           理子、立ち上がる。

タツヒコ「ろれつが回らなくなってうまく話せない」

理 子「ほら、たまたまだった」

タツヒコ「目の焦点が合わない」

理 子「(店内に向かって)お会計」

           タツヒコ、唐突に立ち上がる。

理 子「……?」

タツヒコ「俺の親父は脳血管疾患というやつで死んだんすよ。過労死だったらしいっす」

理 子「……あ、ご愁傷様? でした」

        

10 電車・内(夜)

        

           理子、虚ろな表情で吊革を持っている。          

花枝の声「こんな大変な時に遅刻とかほんとありえない! あんた、一応、グループ長でしょ? あんたの企画で社員何人分かの給料分の損失よ? 分かってる? あんたが会社の人の生活、脅かしてるのよ?」

           理子の心音、はやく鳴る。


11 理子のアパート・居間(夜)

           

           理子、水道で水を飲んで、ジッと一点を見つめている。

           蛇口からポタポタと水が落ちる。

           新平、花枝の肩に「にゃあ」と猫の如く飛びつく。

理 子「ちょっと、何」

新 平「姉ちゃんって呼んでも全然振り向いてくれないから」

理 子「……」

新 平「内定もらったよ。今、連絡があった」

理子、ハッとなって新平を軽くハグする。

理 子「良かったねえ。ほんと長い戦いだったねえ」

           新平、浮かない表情。


12 同・寝室(深夜)


           パジャマ姿の理子、眠っている。

           新平、上体を起こして理子の寝顔を見つめる。

           理子の枕元に置かれていた理子のスマフォ、着信。

           理子、眠ったまま唸る。

           新平、慌てて、理子のスマフォを手にとる。

           スマフォ画面―「非通知」

           新平、理子のスマフォを耳にあてている。

スマフォの声「もしもし? あなたの会社の商品の定期購入は全部解約させていただきました。手元に置いておくのも嫌だし、返品先は御社の住所で良いですか? ……あの、もしもし? 私の声、聴こえてます?」

           新平、電話を切る。

           ×  ×  ×

           新平、ハッと目を覚ます。

           辺りはすっかり明るい。

           新平、隣を見るが理子の姿はない。


13 駅・改札口(早朝)


           理子、茫然と立ち尽くしている。

           人だかりができてザワザワとしている。

通勤男性A「(スマフォを耳にあてて)すいません。人身事故で電車が遅れていまして―」

通勤女性A「(スマフォを耳にあてて)今からタクシーで十時には間に合うと思いますので―」

通勤男性B、スマフォ画面をひたすら見ている。

理子、スマフォを取り出して手にする。

理子の手、震えている。

理子、スマフォを耳にあてた瞬間、誰かに手を引かれる。

           その衝撃で理子の手からスマフォが落ちる。

理 子「あ」

           タツヒコ、理子の手を引いていく。

タツヒコ「たまたまっすよ」


14 河川敷


           タツヒコに手を引かれてついていく理子。

タツヒコ「世界には富が有り余っているらしいっすよ。食料なんて、生産されたうちのほとんどを破棄してるらしっすから」

理 子「怒られる……怒られる、怒られる!」

タツヒコ「面倒な仕事は全部ロボットがやってくれる時代がくるっす」

理 子「まだきてないよ……」

           タツヒコのスマフォ、着信。

タツヒコ「結構、怒ってるみたいっすね」

           タツヒコ、スマフォを川に投入する。

理 子「(その方向を見つめながら唖然)」

           川にできた小さな波紋。

               

15 古着屋の並ぶ道

        

理子、走る。

          タツヒコ、後を追って走る。

          理子、紙袋を手にドレスのような可憐な格好。

理子の声「でも、どうして私?」

タツヒコの声「本能っすかね」

理子の声「本能って性欲らしいよ!」

タツヒコの声「そうなんすか?」


16 鉄橋・上


         理子、走ってくる。

         タツヒコ、走ってくる。

         理子、急に立ち止まって振り返る。

         理子、タツヒコに向かってジャンプして抱きつく。

理子「今日はずっといて欲しい」


17 河川敷・中州(夕)


         タツヒコと理子、それぞれ片手に酒瓶を持ってはしゃいでいる。

         タツヒコと理子、乾杯し、飲む。

         理子、フラフラして倒れ込む。

         タツヒコ、理子を支えながら、理子に顔を近付ける。

         理子、微笑んでいる。

         理子とタツヒコ、見つめ合う格好となっている。

タツヒコ、少しずつ表情が曇る。

タツヒコ「……そろそろ暗くなるっすね」

タツヒコ、理子をゆっくりと寝かして立ち上がって、川の傍に行く。

         理子、身体を起してタツヒコの後ろ姿を見つめる。

理 子「どうしてえ!」

         理子、立ち上がってふらついて、また座り込む。

新平の声「姉ちゃん!」

         新平、自転車を乗り捨てて、理子のもとに駆けつける。

新 平「姉ちゃん! 何してんの!」

         新平、理子を起して土を払ってやる。

新 平「会社の人がうちに来たよ。連絡つながんないから心配したよ!」

理 子「新平……」

         理子、新平の頭を優しく撫でてやる。

新 平「僕、姉ちゃんと一緒にいることにする。姉ちゃんが大丈夫になるまで」

理 子「……だめだよ……」

         理子、遠くをみてハッとする。

         タツヒコ、遠くでこちらを見ている。

理 子「ああ……(タツヒコの方に手を伸ばして)」 

         タツヒコ、去っていく。    

新 平「誰、あの人」

理 子「……わかんない!(泣きべそ)」


18 同・道(夕)


         タツヒコ、ポケットに手をつっこんで歩いている。

         タツヒコ、ふと目の前をみて立ち止まる。

         スーツ姿の中年男性、川を眺めて立っている。

         タツヒコ、その姿を見つめる。

子供の声「お父さん! 何ボーっとしてんの。行くよ!」 

         中年男性、子供の方へと向かって行く。

         タツヒコ、また歩き出す。

                             〈了〉


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