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1 不幸な転移

その…最近忙しかったんですマジで

 ***



 『―――貴方に与えられる供物は―――ええ、と………あっ門が開いてしまいました!それでは良い人生を!!!』


 「…えっ」




 ――――――――――




 「ぐぅッ…!―――き、来たのか…?」


 体を捩じられるような感覚と共に―――私は異世界に転移した。


 「…は、はは…オイ、なんだこれ」


 本来なら…そう、ラノベのように上手くいくのであれば。


 ―――魔法、いくらでも打てたり…とか?

 ―――デコピンで、クレーター作ってみたり?

 ―――念動力とか、精神干渉的な?


 こんな感じの、いわゆる「チート」が与えられて、放り出される物なのではないか?…私にも、そんな事を考えていた時期はあった。


 しかし…現実は残酷である。いいや、残酷を通り越して最早無だ。無情、無慈悲、無碍。


 およそそんな感じの言葉で表される今の私の現状を、どうか笑わないでくれ…




 「指一本動かせないって…どういう事だよォーーーーーーッッッ!!!???」




 ――――――――――




 女神ケセト。数いる神々の中でも最高峰の位の高さを持つ彼女は―――焦っていた(・・・・・)


 何しろ、今までに無いレベルでの異常事態が発生していたからだ。

 その内容は、というと―――ズバリ、供物の数え間違い。


 供物とは、根源たる世界である第一世界にて死亡した者に分け隔てなく与えられる―――俗に言う、チートの事。

 女神ケセトが受け持つ門―――第一世界と死後の世界、第二世界を繋ぐ門は基本的にケセトによって完璧に管理されている…が。手続きの大変さ、膨大さ故に眷属に任せている部分も多数存在する。

 それが今回の問題の原因だった。完璧主義者であるケセトですらも考えなかった、単純明快にして起こりうるはずの無い間違い。―――二十二の部分で同時に計算間違いが起こるとは…天文学でも表せない確率を想定できるはずは無かった。


 結果、今回の被害者―――リオンという女に与えられるはずだった五つの供物はその前の死者に与えられ、さらにリオン自身はその埋め合わせのため六つの供物―――身体能力を奪われた。




 「…終わった…」




 小さく呟くケセトは、どこか遠くをぼんやりと見つめていた。その手は依然として死者の処理を行っているために爆速で動いているが―――最早取り返しのつかないこの事態に半ば絶望していたケセトは、どこか…仕事に逃げ場所を求めているようにも見えるのだった。


 三百年後の審問会。そこでケセトの地位を狙う者どもに大々的に糾弾され、晴れてケセトはその地位を失う事だろう。


 「―――いいえ。まだ諦めてはなりません。…っ、そうですよ。そうですよね!そうそう!!これからですこれから!!!」


 堰を切ったかのように叫び、立ち上がったケセト。その後ろを眷属が通りかかるが、ビクッと体を震わせて逃げていった。…彼も、失敗した原因の一人であるからだ。


 彼女は、考えていた。どうすれば今の状況を維持できるか。そして答えを出す。




 「リオン…あなたには、三年以内に幸せになって貰います」


 


 三百年とは第二世界において大体三年である。

 









 「そうすれば…後は後任に任せて、私は引きこもって…!はは、アハハハハッッッ!!!」


 ケセトは…ちょっとした屑であった。




 ――――――――――




 「私が何をしたって言うんだ……」


 鬱蒼とした森の中。木の幹に寄り掛かったまま動けない私を余所に、世界は回る。

 そう、こんな感じに。


 「フシッ…!グルルゥッ、ゥゥウルル…フシィッ…!」


 可愛いワンちゃんが私の所に遊びに来たみたい。

 ボタボタ涎垂らしちゃって、あらまあ。

 ちょっと…何か、毛が漆黒なのと、明らかに正気で無いのは…あれかな、躾がなってないのかな。ま、野生だしね。あはは、はは…


 …と、思ったら。


 「フッ、フッ…シュルルゥッ…グゥゥ…」


 「おおおおっちょっと待った!何でこっちくんの!?ひっひぃっ」


 ノシ…ノシ…と、明らかに普通の犬より大きい体躯を揺らしつつ、こちらへ向かって来た。


 「…あれ?まさか…?」


 私、死ぬ?

 前世でも大した事してないのに…?今回も、こんな…こんな、ゴミみたいに死ぬのか?

 …痛いだろうな…やだな…


 そんな事を考える私をじっと見据えながら、犬は…


 「シッ、フゥシッ…ァゥッグルルルゥッ」


 3m。


 2m。


 1m。


 徐々にその距離を縮めていった。


 「ぁ…ぁ…ひ…あぁ…」


 指一本動かせないとは言いながらも、反射はしっかりと起こるらしく、私の全身はぶるぶると激しく震えていた。

 ―――思ったより…滅茶苦茶、大きい。

 何㎝、ではきかない。2mくらいあるかも。

 と、その犬は―――


 「フ、グゥフッ」


 

 笑っ……?



 「………ッ」



 最早声も出ない。余りの恐怖に目を閉じ―――

 ヤバい。ヤバいやばいやばいヤバイ―――ッ!!!




 「きっ…キャアァァァァッッッ!!!」




 ―――その瞬間。耳鳴りが脳をつんざく。

 



 「あぁぁ…って、え」


 衝撃は、来ない。

 痛みも、来ない。


 「あれ…」


 薄っすらと、目を開けると…眼前。目と鼻の先、15㎝程の所に真っ黒な牙が迫っていた。


 「うっ…!?」


 慌てて腕で顔を隠そうとするも、未だに体は全く動かない。

 そこで私ははたと気付いた。

 …何か、これ。止まってね…?と。


 五秒待つ。犬は動かない。十秒待つ。犬は動かない。


 「―――いやいや…なにこれ。もう訳分かんないんだけど」


 よく見たら犬は私に向かって跳びかかっている。全ての脚が地面から離れているのだ。

 ああ、これは…時間止まってますわ。




 〈―――はぁ、はぁ…〉


 

 脳裏に、突如として謎の声が響く。

 私は勿論の事ながらビビり倒しつつ、手に汗をかいた。

 

 「っうわ!びくったー…!」


 〈す、少し、休ませて貰っても、良いですか…〉


 「…えっ」


 


 …知らんがな!




 ――――――――――




 「…ほう、じゃあ全てあんたの不手際と」


 〈仰る通りです〉


 「私は今、死にかけたよね」


 〈はい〉


 「時間が止まらなければ、私はどうなっていたかな?」


 〈そ、その…お亡くなりにですね〉


 「ですよね?」


 〈はい……〉


 「……」


 〈…あ、あの…その、宜しければ、埋め合わせを〉


 「待ってましたッ!」




 疲れ切った声が話し始めたのは―――失敗談。事のあらましであった。

 おかしいと思ってたんだ。いや、実際おかしいだろうし。

 普通はチートの一つや二つがあんだろうがオラァ!


 そう心の中で呟くと、この―――神的人物?は申し訳無さそうにその内容を告げる。


 〈では、お詫びとして『身体能力の超向上』、そして『全魔法適性』、さらに『補助』、『レベルアップ易化』をお付けします。これで大体の事は出来るでしょう〉


 「やったあ」


 何それ絶対強い、っていう奴がガン積みである。これで異世界生活勝つる!

 

 〈あ、それから〉


 これからのいせかいはっぴーらいふを想像しにやけていた所、神的人物は続けて語り掛けて来た。

 

 「ん?まだあるの?」


 〈はい。この状況を打破するためのモノです〉


 …それもそうだ。

 目の前の犬は今にも噛みついて来そうなほどの迫力を放って私に牙を向けていた。

 マジでヤられる3秒前である。いや、この感じだと0.3秒くらい?いや、どうでもいいか。

 確かに、こんな状況から魔法だとか物理だとかは無理がある。では…?


 「で、何をくれるの?」


 〈『破壊光線』です。一日に一度しか放てませんが、超強力です〉


 「…オイオイオイオイ!」


 良いの来ちゃったねえ!大盤振る舞い最高だぜ!

 破壊光線。何とも良い響きだ。つまりは破壊する光線って事でしょ?


 「すげええええ」


 〈…浮かれている所申し訳ありませんが、これから供物の受け渡しに移りますので。耳を澄まして下さい〉


 むっ。内心はしゃぎまくっていたのがバレた。


 少しだけ鬱陶しそうな感情を滲ませた神的人物は、そのまま喋らなくなってしまった。

 しかし、とても有り難い。もし機会があったら、それっぽい銅像とか建てよう。うん、それが良い。




 〈では、始めます―――あ、あれ〉



 

 再び聞こえて来たその声。しかし、焦りのようなものが途中から含まれている。

 

 「えっ何?大丈夫?」


 問い返すと、神的人物の声は更に―――


 〈まっ…不味いです!不味い不味い不味い!!!凄く不味い!〉


 焦りは恐慌に変化し―――


 「えっ何何何!?やめて!おいッ!やめてよ!何してんの!?」


 〈とっとりあえず―――これだけ―――でも―――〉


 苦しげな声が響く。途切れ途切れのその声は―――まるで、邪魔されているかのようで…


 「ちょっ、ちょちょちょ」




 【供物『破壊光線』を獲得しました】




 神的人物とは違う、機械音声のような声が脳裏に響く。

 破壊光線?―――あれ、他のは…?


 〈こ―――送り―――した!じかん―――終わる―――やく―――なえて―――〉


 今にも消えてしまいそうな、その声は―――何かを伝えているように聞こえる。

 そして―――完全にその声と私とのリンクは、消滅した。

 …感覚で分かった。

 

 「…いや、待てって…神的人物さんはなんて言ってた?というか明らかに…」


 異常事態。

 そして、何よりも不安なのは―――


 「受け渡し、無事に終わった―――のか?」


 確か、供物とやらは全部で五つ。『身体能力の超向上』、『全魔法適性』、『補助』、『レベルアップ易化』、加えて『破壊光線』。

 『破壊光線』を獲得したという声以外聞こえていないのが何よりも恐ろしい。


 「い、いやいや。まさか、そんな…事って…」




 そのまま長考に入ろうとした、その瞬間だった。

 ギギ…という音が、すぐそばで鳴った。


 何だ、と意識を向けると―――


 ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎぃぃ…!!!


 犬の体が、軋みをあげているようだ。何というか―――動きたい、とでも言うかのように。


 「―――ッ!」


 私は察した。時間停止は、もう長くない…と。

 ここに来て、私の脳は最大の活性化と回転を見せる。


 先程の女神の言葉、その穴埋め。


 〈こ―――送り―――した…〉

 →これだけ、送りました?


 〈じかん―――終わる―――…〉

 →時間停止が…終わる?


 〈―――やく―――なえて―――…〉

 →早く…唱えて?


 ――――――…。 



 

 ぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃいっっっ!!!




 時は動き出す。犬は、変わらず動かない餌を前に、口を大きく開いて噛みつこうとした。実際の所、その肉は格好の的であった筈だし、彼―――か、彼女か―――の感覚を以てしても、その肉が―――まさか、反撃をする肉であったなどとは思いもよらなかった。




 「『破壊光線』」



 

 動き出した時と同時。どこからとも無く表れた一条の光は走り抜け―――黒い犬ははじけ飛んだ。




 ――――――――――




 ―――――――――

 ――――――

 ―――


 ………


 「はぁ…分かってましたよ」


 神的人物の焦燥を伴った声。その後の邪魔が入ったかのような途切れた声。

 そして―――未だ動かない体。


 そう、時間停止状態では私は体が動かせない事は分かっていた。神的人物が『破壊光線』をくれたあたりからも、そう見るべきだろう。いや、口が動かせてたのは…知らん。神パワーだろ。

 …だから、というか。何というか。希望を抱くのも、仕方ないよね…


 「ホント…どうするかな…」


 血を被り真っ赤に染まった体と、合わせるように暮れていく陽。

 犬の肉片が放つ悪臭に耐えながら、かと言って何も出来ない無力感を味わいつつ…


 「餓死、か…」


 色々―――色々、抑え込みながら…私は小さく呟いた。


 


 ――――――――――




 あれから7日が経った。




 蟲も。獣も。人も。何も…来ない。何もない。




 喉が渇いた。




 眠くなってきた。




 もう…良いや。




 運、悪いな…




 「―――あら、大変。連れて帰りなさい」




 ***

投稿滞留してるやつは…ゆるしてちょ

あっこれも三分くらいで考えた奴なのですぐやめるかも

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