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Summer Life  作者: ゆっくん
9/9

-Epilogue-

これで最後です。

8/16 ルビの修正

 数年の月日が流れた。

 俺は高校を卒業し、その後のんびりと時雨町で過ごすのもよかったのだが、バイトをして金をためて、ある程度親に仕送りを送ってもらう、という形で都会へ出ることにした。

 最初は自分でもそれにためらったが、時雨町にいてはあまりにも小さすぎて職場もなにもない。

 とりあててやりたいこともなかったのだが、逆に時雨町ではすることがなさすぎたのだ。

 一哲たちや親はそれを止めはせずに俺を送ってくれた。

 結局、出る場所は違えど、一哲たちもそれぞれどこかへいくと決断し、今ではなかなか会えなくなってしまった。

 最初はなれない都会生活で、苦労していたが、最近になって少しコツみたいなものを掴んできた気がする。就職先も小さい企業ではあるが決まって、今のところ順調といったところだ。

 そんな都会生活の仕事中。夏の暑いある日に、久しぶりに一哲からのメールがきた。

 メールの内容はこうだ。


 『題名:旧友たちへ。

  内容:このメールはワタル、ミナツ、こずえ、光介、透に送っているものとする。

     久しぶりに故郷に帰って、みんなで遊ばないか?

     遊ぶといっても、高校のときとは違うかもしれないがな。

     大人になったことだし、集まってみんなで飲もうじゃないか!

日時は八月二十一日の昼過ぎ』


 ということだった。

 たぶん故郷というのは時雨町のことだろう。

 久しぶりに帰ってみるのも悪くはないか、と思い俺は、わかった、と一言返信する。

 八月二十一日。今日は八月十九日で、あさってはちょうど日曜日で仕事も休みのことだし、久しぶりにいってみるのも悪くはないと思ったまでだ。

 俺は久しぶりに会う一哲たちがどんなになっているだろう、と期待に胸膨らませ仕事をとりあえず終わらせることにした。



 八月二十一日、日曜日。

 集合時間は昼過ぎとなっていたので、朝早くから準備をしていくことにする。

 親にも連絡は入れておいたことだし、久しぶりに親のほうにも顔を出すんだ。結局のところ俺は月曜日に有給休暇をとって時雨町へ赴くことにした。

 時刻はまだ六時を回ったところ。早いのにこしたことはないし、と俺は家をあとにした。

 新幹線で数時間。さらにそこから市電に乗り換えて数十分。そこからはバスに乗って一時間弱で時雨町へとたどり着いた。

 都会に出てから、この時雨町の空気のうまさを知った俺は、都会で吸ってきた空気を完全に入れ替えるようにして深呼吸をする。

 ――帰ってきた。

 数年ぶりに、この時雨町へと帰ってきた。そこは確かに“あの”夏休みを過ごした時雨町だ。

 俺は背伸びをして、とりあえず実家に戻ることにした。

 実家に戻って、とりあえず少しシワの増えた父さんと母さんが出迎えてくれた。

 おかえり、と暖かく迎え入れられ俺は荷物を置いて時間を確認する。

 時間はもうそろそろ十一時を指そうとしている。

 親に用件を告げて、俺は蝉樹に行く前に時間つぶしに町を回ることにした。


 「よかった」

 一番確認しておきたかった場所――コンビニがまだ残っていることに俺は安堵する。

 違う点があるとすれば、少し店が大きくなっていることぐらいだ。

 ここは、俺とあいつが出会った場所だ。何度もここで会い、別れた。俺は少し感傷気味になっていた。

 次に向日葵畑。ここも変わらず、今年も暑い日差しに向かって顔をあげている。

 空から見れば黄色の地上が見えることだろう。そういえばミナツは向日葵が好きだとかなんとかいっていたな。この何も変わっていない向日葵畑を見れば、きっとミナツは喜ぶだろう。そして、ここでも俺はあいつと遊んだ。

 次に海。

 まあ、ここは変わりようがないといっちゃないのだが、何も変わっていないことに俺は安心する。

 元気な子供たちが遊んでいる光景が、今では懐かしく思える。

 その子供たちにあいつの面影を重ねて……。

 「なに未練がましくしてんだよ、俺は」

 なんだかさっきからあいつのことばかりを思い出している自分に嫌気が差して、少し自重しろと自分に叱咤する。

 次に商店街へいってみる。

 ここも見た目は変わってはいなかったが、微妙にあのケーキ屋が大きくなっていたり、魚屋のおっちゃんが子供に店を継がせたのか、若い男に代わっていたりしていた。まだあのおっちゃんはそんな歳には見えなかったが、身体に限界でもきたのだろうか。

 一通り商店街を見て回って、思い出に浸りながら俺は時計を確認する。

 すでに三十分を回っていて、俺はもうそろそろ蝉樹にいこうと思い商店街をあとにした。


 思えば、昼過ぎというのは一般的に考えてだいたい一時過ぎのことをいっていたのかもしれない、と考え始めたのは蝉樹へ行くための森の入り口についてからのことだった。

 まあどうでもいいか、などと適当にその考えを捨て、俺は森の中に入っていく。

 手入れをされていないのか、森の中は前より荒れていた。歩けない場所がないほどではないが、前よりかは足場が見えにくくなっている。

 「いい歳した大人が、なにをこんな森の中を歩いてるのか、っと!」

 枝につまづき、バランスを崩す。

 なんとか近くの樹に手をかけて転ぶのを防いだ。

 「子供のときはどうやって歩いてたんだよ、ったく。」

 悪態をつきながら森の中を進む。どうせなら一哲たちを待って一緒にいけばよかったのかもしれない。いや、なによりなぜこんな面倒な場所を集合場所にしたのかがわからない。

 やはり故郷の象徴的なものだからだろうか。

 何度も何度もつまずきながら、時には転びながら森の中を歩き続けること約二十分。

 やっとこさ着いた時雨町の象徴。蝉樹へとやってきた。

 服はところどころ汚れてしまっていて、もうちょっと汚れてもいいような服装でくればよかったと後悔する。

 高校のときに来たときより伸びている草を見て、時の経過を実感する。

 前までは膝ぐらいの高さだったというのに、今では腰ぐらいまで来ている。誰もここまで来て手入れをしようとするものはいないようだ。むしろ、ここまで来る人なんてそうそういないだろう。

 「ここってもしかしたら立ち入り禁止区域なんじゃないのか?」

 そんな疑問も出たが、まあ、そうだったとして。いまさらどうでもいいことだ。

 森の中を歩いてきて疲れた俺は蝉樹の下にいって座り込む。で、俺はここでぬかったわけだ。


 ミ”ーン”ミ”ン”ミ”ン”ヅグヅグガナ”ガナ”ボージ!!


 「うおがおああああ!!」

 思わず叫び、耳を塞ぐ。時刻は十二時をちょうどまわったところ。蝉の大合唱の時間だ!

 久しぶりに聞いた蝉の大合唱は前の比じゃない。耐性が薄れたのか今の俺には大ダメージを与えていた。

 やがて蝉の大合唱が終わり、蝉が普通にミンミンと鳴き始める。

 しばらくの間、蝉の大合唱が終わっても耳を塞ぎ続けていたのは、何か余韻が残っていたからだ。

 やっと自分の頭の中で蝉の大合唱が終わったころに俺は耳から手を離す。

 「忘れてた……」

 力なくいって蝉樹にもたれかかる。

 それでも、この蝉の大合唱で俺は改めてこの時雨町という町に。あの夏を過ごした場所に戻ってきたのだと改めて実感できた。

 目を瞑り、一哲たちが来るまで俺は寝ることにした……。


 ―――――――ちゃん。


 声が聞こえる。それが誰の声なのかはわからない。


 ――――――いちゃん。


 次第にはっきりとしていって、それがやっと少女の声だということがわかった。


 ―――――にいちゃん。


 にいちゃん? 俺に妹などいただろうか? いや、いないはずだ。

 ましてや、血のつながっていない妹がいるわけでもない。

 まず、ここはどこなんだ。白い光に包まれて自分が今どこにいるのかがわからない。もしかして、俺は夢を見ているのだろうか?


 ――――おにいちゃん!


 この白い光の中のどこからか聞こえてくる少女の声。

 やっぱりそれは『おにいちゃん』と呼んでいるようだ。やっぱり、俺には義妹-ギマイ-なんてものいたのだろうか。


 「――もう! ワタルおにいちゃん!」


 「っ!」

 目を覚ます。そこは白い光に包まれた世界でもなければ夢の世界でもない。目の前に広がるのは腰ぐらいの高さはあるだろう草原があるだけだ。

 そして、俺の後ろには巨木――蝉樹がある。

 「えい」

 誰かに頬をつつかれる。俺は横を見てみた。そこには――。

 「――瀬美…………?」

 信じられないものがあった。

 そこには、もういなくなったはずの――。

 「もう、わたしの歌声で耳を塞ぐなんてひどいよ。もしかして、わたしの歌声が綺麗だったっていうのは嘘だったの!?」

 一人でしくしくと泣き始める瀬美。もちろん、それが演技であることはまるわかり。

 俺はそんな瀬美をただ言葉もなく見ているだけしかなかった。驚愕のあまり、なかなか声が出てくれない。

 「でも、戻ってきたんだね。ワタルおにいちゃん」

 「――ああ」

 やっと声が出たと思えば、そんな間の抜けた一言だった。

 瀬美は笑って――

 「――おかえり、ワタルおにいちゃん」

 次に瞬きをした瞬間に、瀬美はいなくなっていた。まるでそこには元から誰もいなかったように。

 「――――――」

 しばらくの間、さっきのやっぱり夢だったんじゃないかと疑う。

 実際、俺はほとんどしゃべれずに瀬美は消えてしまった。だが、それでも。

 俺の目からは自然と涙が出てきていた。それは静かに頬を伝って落ちてゆく。

 「あー、もう! 誰か手入れしなさいよ!」

 その声で我に返った俺は前方を見てみる。

 そこには、一瞬誰だかわからなくなったがミナツがいた。

 続いて、一哲、光介、こずえ、透と出てくる。みんな変わっていたが、どことなくわかった。

 「ほんとに、蝉樹に先にワタルがいってなきゃもうちょっと楽な場所で集合できたのにねー」

 「元はといえば、俺がここを集合場所にしたんだ。ワタルが悪いわけじゃない」

 「それじゃ、一哲さんが悪いんですね?」

 「……そうかといわれればワタルが悪い」

 おい、それはないだろ一哲。

 みんなが俺に気づいたようで光介が大きく手を振る。

 俺は涙をぬぐって手を振り返してやる。みんなが駆け寄ってきて俺は背伸びをしながら立ち上がった。

 「久しぶり、ワタル。僕を覚えてるよね?」

 「えっと……透、だよな?」

 「うん……間があったということは忘れていたのか……はあ、やっぱり僕なんてどうでもいい存在なんだな」

 「待て、落ち着け。何もそういうわけじゃいだろ! 久しぶりに会ったんだから少しわからないのは当然だろが」

 「ふっ、どうだかね」

 なんだか透のネガティブ具合にさらに磨きがかかってしまったようだ。

 「お久しぶりです、ワタルさん」

 「久しぶり、こずえ」

 「! なんでこずえはすぐにわかって僕はわかってくれないんだ!?」

 「いや、だからその、えっと」

 さらに自分を追い詰めてゆく透。こいつがネガティブじゃなくなるときってくるのだろうか。

 一哲と光介とミナツと再会の挨拶を交わし、ミナツは俺が一人でここまで来て待っていたことに悪態をつく。さっきも聞こえたが、俺はやはり空気を読んで、せめて入り口らへんで待っていればよかったのかもしれない。

 「さて、どうする? 今から戻るのも面倒だしな」

 「そうねー。まだきたばっかりだし、久しぶりにここらへんでのんびりするのもいいんじゃない?」

 「なあなあ! 久しぶりにこの蝉樹登ってみえね!? すっげぇ懐かしくてたまらないんだけど!」

 「登るって、あんたね、いい歳してなにいってんのよ」

 「見た目は大人、心は少年だ!」

 光介が意味のわからんことをいいだす。それでもみんなは乗り気になって蝉樹を登ることにした。しかも競争形式でだ。

 まあ、さすがに高校のときのような気力はないから、単に誰が一番早く頂上までいけるか、というだけで、妨害はなしになっているが。

 俺もそれが懐かしくなってやることにした。


 「よーし、それぞれ位置についたか?」

 「「「「おーう!」」」」

 威勢良くいって、みんな蝉樹の周りにつく。さすがに走るところからスタートするというのは厳しかったらしい。

 「それじゃいくぞ! よーい……」

 一哲のスタートの合図が言われる前に、一匹の蝉が俺の手に止まった。

 俺は驚いた振り払おうとしたが、不思議と気持ち悪くない。

 「スタート!」

 木登り競争の始まりの合図がいわれたのがわかっていても、俺はしばらくの間その蝉を見つめ続ける。

 その蝉も、静かに俺のほうを見ているようだ。

 ――少しだけだが、俺はその蝉に夏樹瀬美という少女のことを重ねた。

 「よっしゃ」

 そういって俺は高い蝉樹を見上げる。

 「勝負だ、瀬美」

 自然と口から出た言葉。それは手についている蝉にいったものか。それとももうこの世にいるはずのない瀬美にいったものなのか。どちらでもいい。

 「――今度こそ一番は俺だーーー!」

 手を振りかざし、それとともに蝉がミンミンと鳴きながら飛び立つ。

 鳥だったら絵になっていたんだろうな、なんてくだらないことを考える。

それが綺麗かどうかなんてことはどうでもいい。蝉は飛んでゆく。蝉樹の頂上へ向かって。

 蝉樹に手をかけ、俺も蝉樹を登り始めた。


 ――追いかけよう、あのセミを。

 そして楽しく過ごそう。この短い俺の夏休みを。

 セミの歌声は響く。あの太陽のある青空に響くように――。


Fin


ここまで読んでくださりありがとうございました!

自分でも最後の部分は蛇足かな、と思いつつも書いてました。

本当に長かったと思いますが、ここまで読んでくださってありがとうございました!

ぜひ、感想をお待ちしております。無駄に長いだけで面白くなかった、っていう感想でもなんでもいいので。

それでは、本当にありがとうございました!

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