第6話 娘とお隣さん、父と旧友
安住とこより
車に乗り込もうとしたところで階段を降りてくるこよりちゃんの姿が見えた。
私はおーいと手を振って声をかける。
「おはよ! こよりちゃん! お出かけ?」
「そ、学校の友達と遊んでくる。安住はデート?」
「だったらいんだけどね。残念ながらデートじゃないの、職場に忘れ物を取りに行くだけ」
「ふぅん……はやく『そうそうこれからデートなの! きゃぴ!』って堂々と言える相手見つけなね」
「が、頑張るよ……」
年下に、それも小学生に励まされちゃった……トホホ。
「にしてもこよりちゃん、なにか良いことでもあったの?」
「な、なんで?」
「だって私が声かける前、こよりちゃんすごく幸せそうな顔してたから」
「そ、そんな顔してないしッ! むしろ朝からものすごく不愉快だったしッ!」
「え、そうだったの? そんなふうには見えなかったけど」
「それは安住の目が節穴なだけ! ウチは松田のせいで朝から大層不機嫌なの!」
「松田さんとなにかあったの?」
「あったあった! 松田のヤツが――」
そこまで言いかけて、こよりちゃんは言葉を飲んだ。
「……やっぱんでもない」
「え~、気になるから教えてよ~」
「しつこい女は嫌われるぞ安住。よく覚えとくんだな」
「し、しつこい女って⁉ ひどいよ、こよりちゃん……」
「ふっふっふ、安住もまだまだだな。んじゃ――職場に忘れ物を取りに行くなんて悲しい休日から早く脱却するんだぞ~」
「よ――余計なお世話ですッ!」
意地悪言って駆け出してったこよりちゃん。私はその背に向かって叫んだが、彼女が止まることはなかった。
「ふぅ…………ほんと、素直じゃないんだから」
***
松田と旧友
スーパーに向かう前、道中にあるガソリンスタンドに俺は寄っていた。そこで懐かしい顔に会う。
「ああッ! 松田じゃん! 久しぶり!」
「……梶間か!」
高校の同級生、梶間頼人だ。もう一方の計量器で給油している。
「え、マジ何年ぶりだべ? 松田に最後に会ったのって確か……」
「成人式ん時だろ」
「そだっけ? んじゃなに、もうかれこれ6、7年経つってこと?」
「ま、そうなるわな」
俺がそう答えると、梶間は頭を押さえて「でー、マジかよヤベーなー」と時の流れに嘆いた。
髭生えてるし眼鏡かけてるしで最初は誰かと思ったけど……んでもやっぱ、当時の面影は残るもんだな。
旧友との再会で俺が感慨にふけっていると、梶間が口を開く。
「にしても松田、なんかスゲー感じかわったな」
「そうか?」
「めちゃかわったよ。だって昔は服とかブランド物で固めてたし、車だって黒塗りのイカチィの乗ってたじゃん。あの外車の」
「あーっと……だった、かな?」
誰しも若気の至りという魔法の言葉で流したい恥ずかしい時期があるはずだ。いわゆる大人になってからの黒歴史。だから俺は誤魔化すような笑みを作った。
しかし梶間は逃がしてはくれない。
「だったかな? じゃなくてそうだったんだよ。いかにも成金って感じだったぞ」
「や、やめろ言うな恥ずかしいッ! 男子三日会わざればってあんだろ? あれだよ! だから今の俺はもう別人みたいなもんだよ!」
「なんじゃその屁理屈。でもま、一概に間違ってはねーか……見た目は好青年、車も軽、すっかり丸くなったな」
「まあま……色々あんだよ」
「……なに? 実は結婚して家族がいるとか?」
「いいや、俺はまだ未婚だよ」
給油が自動停止、すなわち満タンの合図。俺は給油ノズルを元あるところに戻した。
「んじゃ、俺は行くわ」
「おう! じゃあな松田! 今度飯にでも行こうぜ!」
俺は軽く手を挙げ、運転席に乗り込んだ。
自分を飾るのに使う金なんてないし、もう必要ない。俺にとっての最優先は、もうとっくにかわっちまってるんだから。
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