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私はそんなもの欲しくない

アリス視点です。

「どうして死んだままにしてくれなかったんです。」

「………え?」


 リーヴァは私の発言に驚いてるみたい。


「ど、どういうことです!まるであなたの発言は死にたいと言っているように、」

「そうですよ。」

「なっ、」


楽になろうと思って死んだのに、リーヴァが余計なことをしなければ、もう苦しまずに済んだのに……


「リーヴァ様のお話によると、皆さんは遺体1つ残さず亡くなられたようですね。でも私は違います。私は自分で死のうと思って、勇気を振り絞って死んだんです。それをあなたが生き返らせたりなんてしたから……」

「ど、どうして、どうしてあなたが自殺なんてするんですか?もしかして、私が…」

「それは違います。リーヴァ様の事は理由じゃないです。多分、あなたにも、他の方にも分からないと思います。」

「え……?」


そう、あなたたち()()()()()()()には私の苦しみなんか分かりっこない。



 私は元々地球の日本という国で暮らす平凡な女子校生だった。人付き合いはあまり上手くなく、素人ではあったがゲームが楽しみだった。

 ところが高校3年のある日、交通事故で死んでしまった…はずだった。


 気がつくと、私は地球とは違う魔法の存在する異世界に転生していた。そして、私はその世界を知っていた。


 そこは私が生前プレイしていた乙女ゲーム『聖女の恋とワールズエンド』と瓜二つの世界だった。平民ながら魔法の才能に恵まれた主人公(つまり私)が第一王子を始めとする攻略対象たちと恋をしていくというストーリーだ。ここまでなら普通の乙女ゲームだろう。だがこのゲームの特徴は、基本バッドエンド傾向というところだ。

 まず攻略に失敗したらヒロインが心を病んで自殺する。そして問題は攻略できたときだ。攻略対象の好感度を順調に上げていくと、物語の舞台であるルードス王国の情勢がどんどん悪化する。最終的には確実にどこかの国と戦争になる。追い詰められた王国は『最終兵器』と呼ばれる魔法を行使するが、発動に失敗、全人類を巻き込んで滅亡し、ヒロインと攻略対象が互いに愛し合いながら最期の瞬間を迎えるという壮大なバッドエンドだ。ただし逆ハーレムルートの場合は魔王軍と戦争をし、魔王に負けて王国だけが滅亡する。

 このような内容ゆえに、攻略失敗、逆ハールート、その他の攻略対象成功の順でハッピーエンドといわれている。


 ちなみに私が今話しているリーヴァはいわゆる悪役令嬢だ。第一王子の婚約者で、どのルートでも主人公をいじめ、最終的に断罪されて処刑される。そしてこの断罪イベントの辺りからバッドエンドへ向かい始める。


 そんなゲームの世界に転生した私が感じたのは、絶望だ。どうせならもっと明るくて楽しいゲームの世界が良かった。どう転んでもこの国は滅亡する。攻略失敗ルートで自殺しなければまだ可能性はあるけど、ゲームの作風からして希望はもてない。


 だったらせめて、好きに生きてやろうと思った。前世でも勉強は嫌いじゃなかったし、魔法の授業は本当に楽しかった。攻略対象たちの事は放っておくことにした。ゲームの中ならまだしも、リアルで王族や貴族と付き合うなんて、面倒でしかない。私が関わらなければリーヴァも悪役令嬢にならずに済むし、みんなハッピーだ(たぶんすぐに戦争が始まるけど)。


 だが想定外の事態が起きた。第一王子のルージズから私に近づいてきたのだ。もしかしたら必然だったかもしれない。私は乙女ゲームの主人公で彼らは攻略対象。ゲームのストーリーに縛られたこの世界では私は必ず彼らの関わりを持たねばならないのだ。

 リーヴァのいじめもすぐに始まった。しかしはっきり言ってこの原因は私だ。この世界では身分の差を弁えないのは非常識でしかない。日本人だって海外から日本に来た人に土足厳禁をお願いする。それとなんら変わらない。不本意ながらではあるものの、平民の私が婚約者のいる第一王子と仲良くするなんて責められたって何も言えない。


 リーヴァは悪くない。私と第一王子のせいで狂ってしまったんだ。彼女は被害者だ、いじめっ子なんかにしたくない。

 そう思った私は前世の記憶を頼りに、リーヴァの嫌がらせを先読みしてなるべく回避してきた。当然回避に失敗したものも多かったが、ひどいやつは全部クリアした。リーヴァは結局断罪されてしまったけど生きている。恩着せがましいかもしれないけど、私が上手く立ち回ってなかったら間違いなく死刑だっただろう。


 リーヴァの断罪イベントから2週間ほど経った。ルージズ王子から呼び出しがあり、放課後に彼に会いに行った。

「アリス、突然呼び出してすまない。」

「いえ、お気になさらないでください。それよりも私にどのようなご用が?」

「実は、君に大事な話があるんだ。」

この話の流れはおそらくあれだろう。

「僕が君を一生幸せにする。だから、僕の妻になってくる。」

ルージズが跪いてこちらへプロポーズしてくる。


 とうとうこの日が来てしまった。こうなるだろうとは思っていた。何故かは分からないけど私はルージズルートに入り、常識的な振る舞いをしていただけなのに彼の好感度は上がる一方だったのだから。


「……ない。」

「え?」

「あなたとの婚約なんて、私は欲しくない!」

「え⁉︎ま、待ってくれアリス!」


ルージズの静止を振り切り、私はその場から逃げ出した。彼の婚約者になんかなりたくなかった。願ったわけでもないのにバッドエンド確定のゲームの世界に転生して、好きに生きようとすれば強制的にストーリーをなぞらされ、挙げ句の果てにリーヴァを悪役令嬢にしてしまった。


もういやだ、こんな世界いたくない。


 部屋に戻った私は机に向かい、その引き出しを開ける。ハサミを取るためだ。


そして私は、そのハサミで、喉を切り裂いた。


少し躊躇いはあったが、覚悟を決めれば一瞬だった。意識がなくなるまでの短い間、思い出していたのは何故かあの悪役令嬢リーヴァだった。


 入学式の日、講堂に入ってきたリーヴァを見て、綺麗だと思った。ゲームの設定通りならば、リーヴァは魔法を使えない。貴族としては落ちこぼれと呼ばれてもおかしくない。それなのに、彼女は凛として一切の劣等感を匂わせなかった。魔法が使えなくても、第一王子の婚約者にふさわしい人物になろうとしているのだと、その真っ直ぐな目から察することができた。


 そんな素敵な人を私は狂わせてしまった。私がいなければ、王子と結婚して幸せになれたかもしれないのに、私がルージズと仲良くなったから。


(ごめんなさい、リーヴァ。あなたと、もっと仲良くなりたかった。)


後悔と罪悪感が入り混じる中、私の意識は崩れていった。

鬱ゲーってどんなものかよくわからないので、「こんなのバッドエンドと呼ぶには弱すぎる!」という猛者の方がいたらすみません。

え、攻略対象?そんなん書いてる暇あったら百合書きたいんだよ。

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