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「久々に来るけど、嫌な思い出しか無いわね。」

「あ、あの、お嬢様…」

「いいのよ、アーテ。別に誰かに嵌められたわけじゃない。あの件は私の責任なの。こうしてその分埋め合わせができるならいいことじゃない。」

「はい…。」


 リーヴァは現在学園の中のダンスホールにいる。例の舞踏会及び悪役令嬢(リーヴァ)の断罪イベントが行われた場所だ。なぜこんな所にいるかというと、学園の生徒たちの安否確認のためだ。


 ガウェインはリーヴァの証言を聞いて、まず学園に向かうように命じた。リーヴァが生存者を探したのは、マグリット公爵邸と王都の一角のみ。故に他の場所の捜索を任せたのだ。もちろんリーヴァだけでなく、屋敷の使用人たち総出で捜索しており王城にはガウェイン自らが向かった。


 そして、学園内を探し回った結果ここにも誰もいなかった。この場合は練習も兼ねて復活魔法を使えとのことだった。


「はあ…じゃあやってみるわ。」

「お嬢様、頑張ってください!」

「ありがと。いくわよ。」


リーヴァは目を閉じ、己の中の魔力を強く意識する。そして魔法を使った光景をイメージする。このイメージこそが魔法の発動において鍵を握る。リーヴァは魔法こそ使えなかったが、それを補おうと座学を頑張っていた(そちらでもアリスには負けていたが)。故に魔法を使うために必要な知識はほぼ完璧に覚えている。そして今なら復活魔法が使える。つまり何も問題はない。


(思い浮かべなさいリーヴァ。この学園の、あるべき姿を。あなたの罪を償うチャンスなのです。さあ、頑張って。)


心の中で強く念じるが、一向に魔法は発動しない。

「何で、何で発動しないの……。これじゃ、私……」

「お嬢様、その、あまり自分を責めないで下さい。私に出来ることなら、何でもお手伝いします!だから、」

「ありがとう、アーテ。だけどこれは私の問題だから。それにあなた、魔法使えないでしょ?」

「うぅ……。お力になれず、申し訳ありません。」

「いいのよ、私はあなたがいてくれるだけでうれしいわ。」

「……っ!」


途端に顔を赤くして押し黙るアーテだった。


「とはいえ、どうしようかしら。まあこの仕事は練習も兼ねてるし、もっと色々頑張ってみるわ。行きましょアーテ。こんな所にずっといても気が滅入るわ。場所を変えましょ。」

「はいっ!お嬢様!」




 リーヴァとアーテは学園内を散策していた。教室、図書室、中庭とあちこち巡ったが、やはり人がいないというのは並々ならぬ違和感がある。


 そんなとき、寮舎の前にやってきた。

 王立学園は基本的に全寮制であり、校舎のすぐ近くに生徒及びその使用人たちの暮らす寮がある。


 そんな寮舎の前でリーヴァはふと立ち止まった。


「お嬢様?いかがなさいました?」

「アーテ、ちょっと中に入ってみましょ。」

「?は、はい。」


リーヴァは徐に寮の中に入ると、ある部屋へと向かった。そこは、リーヴァが自宅謹慎となるまで暮らしていた部屋だった。


 リーヴァは自分の部屋の前に来ると、鍵を開けて中に入る。因みに鍵は来る途中で管理人室から失敬した。

 部屋に入ったリーヴァは書き物机に向かい、引き出しから便箋を取り出して何かを書き始める。

「お嬢様、いったい何を?」

「……できたわ。ねえ、アーテ。アリスの部屋はあっちだったわよね?」

「え?」

「お詫びよ。あの夜はあんな風になっちゃったから、私ちゃんとアリスに謝れてないのよ。だからせめて手紙だけでもって思って。」

「お嬢様……!」


涙腺が緩みだすアーテ。リーヴァが平民の少女をいじめたと聞き、やがてそれが真実だと知ったときはとてつもなくショックだったが、今こうして彼女が悔い改めようとしている姿に胸を打たれたのだ。



 アリスの部屋は他の生徒たちの部屋から少し離れた所にあり、見つけやすかった。やはりいくら入学を許したとはいえ、貴族と平民はなるべく分けておきたいのだろう。


 リーヴァはこれまた失敬した鍵で中に入る。

「立派な不法侵入ね。やってるのは私だけど。」


そうして机の上に手紙を置くと、立ち去ろうとしたのだが、


「………アーテ。やっぱりここでもう1回復活魔法を使ってみるわ。」

「え?」

「あの子を、アリスを私は助けなきゃいけない。だから、『学園の生徒たちの1人』じゃなくて、『アリス』として助けたいの。私より勉強も魔法もできて、みんなに好かれる素敵なアリスを、私は死なせたままにしてはいけない!」

「お嬢様……。」

「アリス、戻ってきなさい。あなたは、こんな簡単に死んでいい人間ではありません!」


そして、魔法が溢れ出す。リーヴァの復活魔法がその若草色の光を迸らせながら、アリスの部屋を埋め尽くす。光の粒が集まり、やがてその場に人の形を成す。

 光が収まった部屋には、机に向かって伏せているアリスの姿があった。


「アリス!」

(良かった、成功だわ!でも何ででしょう、アーテを生き返らせたときより魔力が多くもっていかれた気が……)


「うっ……え?」

「気がついた!アリス、大丈夫ですか?怪我はありませんか?」

「っ!リ、リーヴァ様、どうしてここに?私はどうして……」

「あ、え、えっと……説明すると長くなるんだけど、あと、信じられないような内容なんだけど、聞いてくれますか?」

「………はい。」


アリスとて、リーヴァからのいじめにトラウマが無かったわけではなく、本当はどこかに行って欲しかった。しかし今のリーヴァからはあの時のような悪意は感じられず、ひたすらに自分を心配している様子であり、何があったのか気になったのだ。



 リーヴァはこれまでの経緯をアリスに包み隠さずに伝えた。リーヴァが話している間、アーテはアリスの体調に異常が無いのを確認すると、壁際でただ2人の様子を眺めていた。


「……と、こういう訳なの。信じられないような内容でしょ?別に私も信じろなんて言わないわ。アリス、今まであなたにしてきたこと、本当にごめんなさい。あなたは私なんかよりずっと素晴らしい魅力を持っていて、私はそれに嫉妬してしまったのです。どうか謝らせてください。本当にごめんなさい。」


リーヴァはアリスに深々と頭を下げた。公爵令嬢だろうと、平民だろうと関係ない。人としてアリスへの非礼を詫びたのだ。


「いえ、いいんです。あの件はもう水に流しましょう。それよりも……」

「それよりも?」

「私はリーヴァ様の魔法で生き返ったんですよね?」

「?ええ、そうですわ。」

「どうして……」

「?」

「どうして死んだままにしてくれなかったんです。」

悪役令嬢ものはヒロインとも仲良くしてほしい派です。

あとアリスはいい子です。

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