ガウェイン・マグリット
短めです。
そもそも魔法というのは才能に依存する。魔法の源である魔力は個人によって大きく差があり、たとえ魔力が十分にあったとしても使える魔法も個人で異なる。リーヴァのように魔力は多くても魔法との相性が悪いというケースは珍しくない。リーヴァがかつて目の敵にしていたアリスの場合、魔力が多い上に、基本となる火、水、風、土の四属性魔法に加えてそれらより遥かに使い手の数が少ない治療魔法すら扱えた。これほど多種類の魔法が使える人物は極めて稀である。
だがしかし、そのアリスであってもせいぜい100年に1人の天才と褒め称えられる程度であろう。リーヴァのそれは格が違う。それこそが復活魔法だ。
復活魔法が確認されたとされているのはかの聖女伝説のみ。その聖女すら存在したのかどうか怪しく、復活魔法を治療魔法の応用と考える学者も少なくない(今日の魔法研究の発展のきっかけにはこの復活魔法の再現というものもある)。
実際、親バカのガウェインでなければ、リーヴァの力を見ても復活魔法の使い手などという発想にはたどり着かなかっただろう。
そのリーヴァはというと
「お父様、何を言っていますの?私が復活魔法の使い手などありえませんわ。」
恐ろしく常識的に父にツッコんでいた。
「そもそも私が復活魔法を使えたのだとしたら、お父様たちはさっきまで死んでいたということになります。確かにお父様たちは一瞬行方不明になっていましたけど、何でそれを死んでいたと断言できるのです?この人数を遺体1つ残さず抹殺する方法などあるわけがありませんわ。」
あるのだが、リーヴァは知らない。
「ま、待て、リーヴァよ。確かにお前の指摘はどれも正しい。しかしあれだ、復活魔法ならこの状況を説明できるではないか。そうだ辻褄が合うのだ。」
「お父様、弁解になってませんわ。」
「うう、アーテよ、リーヴァが私に厳しいのだが…。」
「旦那様、お嬢様の方が正しいです。」
「私の味方は何処へ……。」
「あなた、気をしっかり。」
そうしてガウェインが味方をほとんど失っていたところ、少し遅い昼食の時間になった。
ガウェインはリーヴァの話しを聞いてからずっと思案に耽っていた。考えているのはリーヴァのことである。アーテの話が正しければ、リーヴァのそれは復活魔法であろう。現在、人や物を転移させる魔法はまだ開発されていない。あったとしても研究者がやっと開発できたぐらいの段階だろう。リーヴァが使えたとは考えられない。かといって自分たちが単に姿が見えなくなっていた訳でもない。もしそうならリーヴァが探している最中に気づく。既存の魔法でこの状況を説明できるのは復活魔法だけだ。
しかし、そうだとするとまた分からないことができる。自分たちはどうして死んだのか、だ。リーヴァによると屋敷だけでなく、王都中の人間が消失(おそらく死亡)している、遺体1つ残さず。
そんな芸当ができるのは魔法のみ。おそらく何者かが新たに開発したのだろう。というか心当たりは既に、リーヴァの話しを聞いた直後からあった。
現在、ルードス王国はアークタ帝国と緊張状態である。というかつい先日とうとう帝国が進軍を開始した。連中の軍事力で成り上がった国故、今回の防衛は苦戦を強いられるはず。なのに軍部の連中はどこか余裕があった。
ガウェインは王国の政治において、それなりに高い地位についておりいわゆる大臣として働いている。国家機密級の情報も知っていた。そのうちの1つが、軍部の脳筋どもがつくりあげた最終兵器だ。
流石に開発段階の大量破壊兵器を実戦で使うことはあるまいと考えていたが、どうやら自分は奴らを過大評価していたようだ。今回の原因はあれに違いない。
となると、今後の対応を考えねばならない。最終兵器の作動に失敗したのは明らか。では今すべき事の1つは被害の確認だ。王都全域は確実に死んだ。では王都以外の街はどうか?いや、王国内だけで済んでいたらまだマシだろう。これが帝国、ひいては戦争に無関係な国に及んでいれば王国は国際社会から袋叩きにされてしまう。
生き残るための鍵は最愛の娘リーヴァだ。彼女の復活魔法があれば、王国の復興も不可能でない。
では自分は何をすべきか?実は1つ決めていることがある。これはリーヴァではなく自分にしかできないことだ。
軍部の失態が本当なら、奴らにはそれなりの代償を払ってもらわなければ困る。同じ過ちを繰り返さないという態度を他国に見せなければならないのだ。それに、自分のこれまでの推測が正しければ奴らは自分や自分の部下と使用人たち、そして何より最愛の妻と娘を1度殺したのだ。
その対価はあまりに重い。