⑥(完)
「どうやら、うまく逃げ出せたようだな」
「すごいわね、そのマジックアイテム」
ブレイブ王国の王都から数十km離れた草原に、カゲヒコ以外の勇者パーティー3人は立っていた。
ユウジの手には白い鳥の羽が握られている。それは魔王城から持ち帰った強力なマジックアイテムの一つで、空間転移の力を持っていた。
「さすが黒野さんだ。国王が裏切ることを見越して、ちゃんと逃げ道を用意しておくなんて」
ユウジの声には、年上の仲間に対する尊敬が込められていた。
勇者パーティーの名目上のリーダーは、当然ながら【勇者】である白井ユウジである。しかし、実質的なトップは黒野カゲヒコであるとユウジは思っていた。
カゲヒコは基本的にマイペースで怠慢、ダメな大人の見本のような男であった。
しかし、ここぞという場面ではいつも豊富な魔法でパーティーを助けてくれた。年長者ゆえに他国の権力者との交渉の際にも率先的に前に出てくれていた。
口に出したことこそなかったが、いつも飄々として余裕を崩さないカゲヒコのことを、ユウジ達は本当に頼りにしていた。
「それにしても……怪盗って本気なのかしら?」
レナが呆れたように言った。
3人は事前に、国王が裏切ったときにはマジックアイテムを使って脱出するように、カゲヒコから言われていた。そこから先はカゲヒコと別行動をとることになっており、最年長の仲間がどこにいるのか誰も知らなかった。
頼りになる大人の男と別れることに抵抗はあったものの、最終的には「叶えたい夢がある」というカゲヒコの意思を尊重することにした。
その夢が何かは聞いていなかったが、まさか怪盗なんて子供じみた夢だったとは驚きである。
(黒野さんにも子供っぽいところがあったんだな……)
掴みどころのない大人の男だと思って憧れていたカゲヒコだが、どうやら自分が思っていた以上に子供だったらしい。ユウジは苦笑を浮かべた。
「とりあえず、これから隣国に向かってみようか。ひょっとしたら、本当に神器があって、元の世界に戻れるかもしれないし」
ユウジがレナとシノンに提案する。2人は頷いて、それぞれの意見を述べてくれる。
「ええ、私はユウジについていくわ。どこまでもね」
「私は聖教国に行ってみる。あの国の大司祭様は信用ができる人だし、たぶん力になってくれると思う」
「そうか、じゃあ途中まで一緒に行こうか」
(次に会うときには、もっと強い男になってやる。黒野さんに誇れるような大人の男に)
ユウジ達は、元の世界に帰る方法を見つけるために歩き出した。
いつか再会することになるであろう仲間。自分の夢を追うために分かれた仲間に、胸を張れるような生き方を見つけるために。
かくして、勇者パーティーは解散して、それぞれが新しい道を歩き出すことになった。
『怪盗シャドウ』と名乗る神出鬼没の大泥棒が現れる1ヵ月前のことである。
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