①
「墓荒らし? それは怪盗の仕事じゃないなあ」
「そうおっしゃらずに、受けてはいただけませんか?」
スレイヤー王国王都にある行きつけの食堂で、カゲヒコはサーナから頼み事をされていた。現在、食堂にいるのはカゲヒコとサーナの二人だけである。食事時でないため他の客の姿はなく、店主の男は買い出しに出かけていた。
「この依頼はかなり大口の仕事なんですよ! 私のことを助けると思ってお願いします!」
ウェイトレスの制服を着たサーナが両手を合わせて拝むように言ってくる。彼女は昼間は食堂の店員をしているが、実はスレイヤー王国の影で暗躍する闇ギルドのエージェントである。
闇ギルドとカゲヒコ――怪盗シャドウは協力関係にあり、時折こうして厄介事を持ち込まれていた。
「そう言ってもなあ……死者の眠りを邪魔するってのはロマンがなくていただけないね。こう見えても、盆の墓参りは欠かしたことがないんだぜ?」
「お墓といっても、すでに半分遺跡になっているような場所ですから! 遺跡に眠る財宝、ロマンがあるじゃないですか!」
「んー……」
カゲヒコはずずっ、とお茶を一口啜って思案する。
遺跡の発掘と聞けばロマンがあるが、サーナが指定した場所は50年ほど前まで人が住んでいた場所である。
「サブロナ城」と呼ばれるその城は、かつてサブロナ家という貴族が居城にしている場所であった。隣国との戦争でサブロナ一族が滅ぼされて、今は人が住まない廃城となっている。
現在は戦争で亡くなった人間達がゴーストになって彷徨う魔窟となっている。サブロナ一族が隠したとされる財宝を目当てに探索に向かった冒険者が、何人も行方不明になっていた。
依頼の内容は、幽霊城となったサブロナ城にある財宝を探して盗んできて欲しいというものだった。
「この間はオーバーアイテムの情報を教えてあげたじゃないですか! お互い、持ちつ持たれつでいきましょうよ!」
「んー、それを言われると弱いんだが……一体、誰が幽霊の巣になった城の宝なんて欲しがってるんだよ?」
カゲヒコが訊ねると、サーナは困ったように首を振った。彼女の首の動きに合わせて、左右でくくった髪がぶんぶんと振り回される。
「依頼人の名前は明かせません! ただし……かつてその城に住んでいた人物とだけ言っておきます」
「ふむ?」
サブロナ城が廃城となったのは50年も昔のことである。そこに住んでいたという事は、かなりの年齢だろう。
(忘れ物を取りに行くにしちゃ時間が経ちすぎだろ。裏がありそうな依頼だ。面白いじゃないか)
「報酬は依頼額の50%、そこからオーバーアイテムの情報料を引いた額をお渡しします。ご不満でしたら色を付けて私の身体で……」
「それはいらん。でも仕事は受けよう」
サーナの言葉をバッサリと切りつつ、カゲヒコは怪しげな依頼を了承した。
「最近、暑くなってきたからな。少し早い肝試しも悪くはないだろ」
「むー……」
そう言って、カゲヒコはなぜか不満そうに頬を膨らませているサーナの頭をポンポンと叩いた。
週末の予定は肝試し。場所は幽霊の巣窟「サブロナ城」に決まった。
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