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賢者から怪盗に転職しました  作者: レオナールD
第2話 ゴブリンの秘宝
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「貴様あああああああああっ! 殺せっ! その男を殺せええええええええっ!」


「ギイイイイイイッ!!」


 ゴブリンロードの怒号とともに、怪盗シャドウへとゴブリンが殺到する。


「第4階梯魔法『風塵乱舞ウィンドストーム』」


 シャドウがすかさず魔法を発動させる。

 銀仮面の怪人を中心に、凄まじい暴風が吹き荒れる。


「ギャアアアアアアアアッ!?」


 ゴブリンは暴風に巻き込まれて吹き飛ばされ、風の刃に切り刻まれる。


「ニンゲン、死ネエエエエええええええっ!」


 暴風を力づくで突破して、ゴブリンジェネラルがシャドウに大剣を振り下ろした。背後からの攻撃に反応できなかったのが、シャドウの身体が上下に両断される。

 しかし――


「オリジナル魔法『怪盗ファントムシーフ』」


「ガッ!?」


 大剣によって両断されたシャドウであったが、黒い煙になってその姿がかき消える。


「なっ、消えた!?」


「チート能力によってこの世界の全ての魔法を使える俺なんだが・・・この魔法はチートで覚えたものじゃなくて、俺のオリジナルだ。存分に堪能してくれ」


 シャドウがゴブリンジェネラルの背後に現れた。魔法を使って出した氷の槍でジェネラルの心臓を貫く。


「ガアアアアアアアアアア!?」


「まず一匹。そんでもって・・・」


 再びシャドウの身体が黒い煙に変わる。もう一体のゴブリンジェネラルの横に現れて、緑色の胴体に手をあてる。


「グゲえええええええええッ!?」


「ほい、二匹っと」


 炎の柱が二体目のゴブリンジェネラルを包み込む。業火に飲み込まれて、ジェネラルはたちまち炭の塊へと姿を変える。


「・・・すごい」


 ライムが呆然とつぶやいた。

 自分達がさんざん苦戦したゴブリンジェネラルを瞬く間に二匹しとめてしまった。その姿はまるで、おとぎ話に登場する英雄のようである。


 煙になっては現れ、また消えては現れる。

 それを繰り返しながら、シャドウは次々とゴブリンを屠っていく。


「そんな馬鹿な! 私が作ったゴブリンの軍団が!?」


 その光景を見て、焦ったのはゴブリンロードである。

『進化の秘石』を使って繁殖させ、進化させてきた同族たちが、たった一人の男によって壊滅させられている。それはさながら、悪夢のような光景だった。


(このままでは、私も・・・!)


 ゴブリンジェネラル以上の力を持っているロードであったが、目の前の男に勝利する自信はとてもなかった。逃げられる気すらしない。


「こうなったら・・・!」


 ゴブリンロードは地面に座り込んでいるライムの姿を見た。

 ロードによって服を破かれて半裸になった少女は、目を逸らすことなくシャドウの姿を見つめている。

 ゴブリンロードはそんなライムの身体に手を伸ばした。


「くうっ・・・!?」


「貴様! 動くな! この女がどうなってもいいのか!?」


 残った左腕でライムの身体を持ち上げ、細い首を締め上げる。


「追い詰められた悪党ってのは、みんな同じことをするんだな」


「黙れ! 貴様に何がわかる!? 私は生き残ってゴブリンの国を創らなければいけないのだ!」


 呆れた様子のシャドウに、ゴブリンが悲鳴を上げるように怒鳴った。


「我々ゴブリンは、ただ生きているだけで害獣扱いされて、お前たち人間に駆除されているのだぞ!? 生き残るために人間を喰って何が悪い!? 種を残すために女を犯して何が悪い!? 我々にだって生きる権利はある! 私は何も間違っていない!」


 それは全てのゴブリンを代表した、魂の叫びであった。

 ファンタジーな異世界ではおなじみ。序盤のレベル上げであっさりと殺されるゴブリン達。見た目も醜く、決して報われることのない怪物達。彼らの心からの叫びがそこにはあった。


「知らんよ。そんなこと」


 しかし、その魂の叫びをシャドウはあっさりと断ち切った。


「俺は正義のヒーローじゃない。ただの盗っ人。お前と同じ小汚い悪党だよ。種の保存がどうとか、難しいこと言われても知るか」


 シャドウの姿が消えて、ゴブリンロードとライムの目の前に現れる。


「っ!?」


「俺はただ獲物を盗むだけさ。今日のところは、これだな」


「えっ・・・?」


 シャドウは氷の槍をライムの胸へと突き刺した。

 彼女のむき出しの胸部を貫通して、背後のゴブリンロードを一緒に刺し貫く。


「き・・・さま・・・」


「『進化の秘石』。確かに頂戴した」


 ゴブリンロードの胸に嵌まっていた魔石が、氷の槍に貫かれて砕け散る。それを見届けて、シャドウは槍を引き抜いた。


「あ・・・へ・・・?」


 ぺたん、とその場にライムが膝をつく。彼女の白い胸元には、傷一つついていなかった。


「『怪盗』――これは自分の存在強度を変位させることにより、任意の物体を透過する魔法だ。敵の攻撃をすり抜けることも、壁抜けをすることも、お嬢さんの身体を通り抜けることだって自由自在。俺が、俺らしく生きるために創った最高の魔法。舐めてもらっては困るな」


「あの・・・」


 どうして自分が無事なのかはわからないが、ライムにだって目の前の男性が命の恩人であることは分かった。一言、礼を言おうとシャドウに手を伸ばすが、シャドウは手のひらをライムに向けて遮った。


「おっと、礼はまだ早いな・・・それはまだ生きてる」


「え?」


 ライムが慌てて振り返ると、赤い肌のゴブリンは地面に仰向けに倒れながらもピクピクと小刻みに痙攣している。


「・・・わた・・・しは、つくる・・・リンの国・・・すく・・・」


「・・・・・・」


 譫言のような言葉とともに血を吐いているゴブリンの姿に、もう肉親を奪われたことの憎しみは感じなかった。それでも、ライムは剣をとってゴブリンロードの傍らに立つ。


「私に・・・やらせてください・・・」


「いいとも。そのつもりで生かしてある。詳しいことは知らないが、因縁があるんだろう?」


「・・・・・・」


 ライムは答えることなく、ゴブリンロードへと剣を振り下ろした。


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