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賢者から怪盗に転職しました  作者: レオナールD
第1話 怪盗の流儀
13/62

⑥(完)


「あら、お帰りなさい」


 怪盗シャドウ――黒野カゲヒコがアジトに戻ってくると、ベッドの上で少女が横になって寛いでいた。

 ヒラヒラとこっちに手を振って出迎えてくれたのは、行きつけの食堂の店員であるサーナだった。


「……男の家に勝手に上がり込むなんて、悪い娘だ」


「うふふ。カゲヒコさんにだったら、いつだって食べられても構いませんよ?」


「残念だなあ。青い果実も、毒のある肉も、俺の好みじゃないんだよ」


 カゲヒコは銀仮面を外して、アイテムボックスの魔法で収納する。代わりに、今夜の仕事の戦利品である白い布を取り出してサーナへと投げ渡す。


「何ですか、これ? ブラジャー?」


「おっぱいの神様からもらった、巨乳のお守り。それを持ち歩いているとおっぱいが大きくなるらしい」


「……い、一応、もらっておきますね」


 サーナはマティルダのブラジャーを大切そうに折りたたんで鞄にしまった。


「それで、目的の物はちゃんと手に入れることができましたか?」


「ああ、情報提供に感謝するよ」


「それはよかったです……しかし、出来れば例の文書は持ち帰ってきていただけると嬉しかったんですけど……」


 ふう、とサーナは悩ましげにため息をついた。


 目の前にいる幼児体型の少女は、実は闇ギルドに所属しているエージェントである。


 彼女が所属している闇ギルドと怪盗シャドウは協力関係にある。

闇ギルド側はシャドウが狙っている財宝やオーバーアイテムの情報を提供する。その対価として、怪盗シャドウは闇ギルドの仕事にある程度協力をする。

 今回の仕事も、もともとは闇ギルドがトラヤヌス侯爵の暗殺を依頼され、その達成のために邪魔な『聖竜の瞳』を怪盗シャドウを使って排除しようとしていたのがきっかけとなっている。


 持ちつ持たれつ、あるいは利用し利用される関係である。


「まあ、いいですわ。『聖竜の瞳』を失ったおかげでトラヤヌス侯爵は丸裸も同然。今なら楽に暗殺することもできるでしょうし、多少のおイタには目をつぶりましょう」


「そうかい、用事が終わったなら早く帰って寝たほうがいい。夜更かしするとおっぱいが大きくならないぞ」


「あら、私のおっぱいを気にかけてくれるのでしたら、是非ともお揉みになってくださいな。男性に触られたら大きくなると聞きましたよ?」


 サーナは自分の服の胸元を引っ張り、貧乳をチラチラと見せつけてくる。カゲヒコは鬱陶しそうに眉をしかめた。


「黙れ、貧乳が感染うつる」


「感染りませんよ!?」


 もう! とサーナは怒ってダンダンと音を鳴らして床を足で踏む。ぴょんぴょんと跳ねるツインテールを横目に、もう一つの戦利品である『聖竜の瞳』を取り出した。

 青い宝石を月明かりへとかざして、その輝きを存分に楽しむ。無視されることになったサーナは不満げに唇を尖らせた。


「……まあいいです。ところで、前から気になっていたのですけど、カゲヒコさんがオーバーアイテムを狙っているのは、やっぱり元・勇者パーティーとしての責任が理由ですか」


 勇者パーティが魔王を倒して、人類は魔族の脅威から逃れることができた。

 しかし、それで人間社会が平和で幸福なものになったかと聞かれると、答えはノーである。

 むしろ、魔王討伐の混乱に乗じて魔国から人間サイドに持ち出されたオーバーアイテムによって、様々な問題が引き起こされることになってしまった。


 怪人シャドウがオーバーアイテムを狙っているのは、ひょっとしたら魔王を倒してオーバーアイテムを世に広げてしまった責任をとろうとしているのかもしれない。


 そんな風に思っての質問であったが、カゲヒコはあっさりと首を振って否定した。


「責任? それは俺から最も程遠い言葉だな」


 青い宝珠を手の中で転がしながら、カゲヒコは肩をすくめた。


「俺がオーバーアイテムを狙うのは、とある女性に頼まれたからだよ。

『たくさん集めてきたら自分を好きにしていい』なんて言われたら、やらないわけにはいかないだろ?」


「まさか……そんな理由でオーバーアイテムを? 大勢の権力者を敵に回して、命がけの危険を侵してまで?」


「そうとも」


 カゲヒコはサーナの言葉を肯定して、笑う。


 ああ、そうだ。

 こんなことに命をかけるなんて、本当にくだらない。

 しかし――


「こんなくだらないことに命をかけるなんて、しょうもなくて面白いじゃないか」


 善人であれ、悪人であれ、人生の最後はみんな同じ。死んで骨になっておしまいだ。

 ゴールが同じなのだから、寄り道を存分に楽しまなければ損じゃないか。


 あっけにとられたようにするサーナに、カゲヒコはキスをするように顔を近づけた。


「無駄と不合理を存分に楽しむ。それが怪盗の流儀だ」


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