再会
秋から冬、俺は本社で仕事。
慣れない環境で馴れない仕事ばっかりだ。
それでも時間は流れ、忙しい毎日を過ごす。
取引先のアポ取りから始まり、資料の作成やデーター分析。
それになぜか人事や経理系の仕事も色々とすることになった。
幅広く仕事を行い、適性を見る。
多分そんなところだろう。
毎日が忙しく、家と会社を往復する生活の繰り返し。
ま、社会人一年目とかはこんなもんだろうな。
そんな日の夜、家でゴロゴロしていると携帯にメールが届く。
誰だろう?
『卒業式終わったよ! 就職もできた!』
雅からのメッセージ。
久々に連絡が来たと思ったらそんな時期か。
『おめでとう。良かったな』
簡単に終わる。
俺と雅の関係はこんな感じだ。
――
春は人事異動の時期だ。
半年前に本社に来たのに、なぜか辞令をまたもらう。
「この半年、片岡君の仕事ぶりは見せて貰った。新しい部門でその力を発揮してほしい」
「分かりました。今度はどこの部門ですか?」
「人事部門だ。採用した新卒の社員や中途採用社員を本社で一年間教育をする」
「教育ですか?」
「片岡君は人を見る目がある。その人の適性を見抜き、人を成長させる事に長けているようだ」
まぁ、色々ありましたから。
人を見て、その人にあった対応をしていれば自然とそうなりますよね。
「……わかりました。頑張ります!」
そして、俺は新しい部門で仕事をすることになり、人とのかかわりを持っていく。
その人に合わせ話をし、その人の力を伸ばしていった。
忙しい毎日、繰り返す日々、そして暗い部屋に帰りまた朝を迎える。
大学時代の皆はどんな生活を送っているのだろうか。
雅も先輩も就職し、きっと頑張っているはず。
俺も頑張らないと……。
そして、向かえた二年目の春。
珍しく北川から一本の連絡が入る。
『先輩! ちゃんと就職しましたよ! 引っ越しも終わって明日から出社です!』
「そっか、良かったな」
優希の事を聞くか悩んだが、俺から聞く事もないだろう。
『優希ちゃん、ちゃんと就職しましたよ』
「そっか。少し安心したよ」
『彼と離れるように一番遠い所を選びました。電話番号も変えたし、もう会う事もないと思いますよ』
そうか、やっとあいつから離れることができたんだな。
そして、新しくなった番号は俺も知らない。
二度と連絡を取る事もないが、これで良かったのかもしれないな。
「ありがとう。新社会人、頑張れよ」
『はいっ! 先輩も頑張ってくださいね!』
北川も優希も就職できた様だ。
これで俺の知っているみんなは社会に飛びだったな。
――
そしてこの春、俺は肩書主任になり、一つ昇格した。
ふふ、役職に着いちゃった。
なに、スピード出世ってやつ?
「片岡君も主任になった事だし、この春から部下を数名つける。より一層仕事を頑張ってほしい」
人事部長直々にお言葉を貰った。
ふふ、俺もやればできる男。
このまま課長になって、部長になる。
やっぱり男は仕事が一番だよね!
今日は初めての部下と会う日。
ちょっと緊張するね。
「片岡君。今日から出社する社員だが、よろしく頼むね」
「はい、任せてください!」
期待されている。
この俺が、期待されてる!
「支社から数名と、この春に採用した新人を何名かつける。支社からはもともと講師を担当していたり、店舗経験がある社員だ。彼女たちの力を伸ばしてやってくれ」
彼女? 男じゃないのか。
ま、部下になってくれるんだったら誰でもいいですけどね。
俺の手足になってバリバリ仕事してもらいましょう!
「分かりました!」
「そうそう、片岡君と同じ大学の子もいるから、地元の話でもして和ませてやってくれ」
え? 俺と同じ大学?
まぁ、それなりの企業だし、全国から採用しているし、そんな事もあるか。
地元の話とか盛り上がるんだよねー!
さて、部下と初顔合わせだ。
俺は主任。しっかりとみんなを引っ張っていかなければ!
オフィスの扉を開け、自分の席に座る。
初めましてみなさん。私が片岡主任だ!
……なんで?
なんでここにいるんだ?
髪が伸び、少し大人っぽくなった彼女が目の前に立っている。
俺は無意識に一言漏らしてしまった。
「また、会えて嬉しいよ。でも、どうしてここに?」
ほんの少しだけ瞼に涙が浮かんだかもしれない。
もう二度と会う事が無いと思った人に会えたんだ。
彼女は微笑みながら俺に答える。
「一緒に居たいから、追いかけてきました。私の心にはあなたしかいない……」
俺は彼女を抱きしめた。
強く、強く抱きしめ、そしてまた涙を流してしまった。





