自分の夢
「優希ちゃん、大丈夫? ねぇ、大丈夫なの?」
北川が階段を上がり、優希の寝ていると思われるロフトに上がっていった。
「優希ちゃん……」
北川は優希の手を取り、一緒に下へ降りてきた。
優希はパジャマのまま、髪もボサボサでまるで引きこもりのようだ。
ん? 実際に引きこもりしていたんだからその通りか。
「よっ、久々。生きてる?」
昔の俺はもういない。
こいつと対面しても何も感じない。
もう、先輩でも後輩でもない。赤の他人だ。
「何しに、来たんですか?」
おっと、冷たいお言葉。
「北川に言われて来た。いい友達を持って良かったな」
「優希ちゃん、ご飯食べてる? ちゃんと寝てる?」
心配そうな目で優希を見る北川。
北川ってすごくいい子なんだよねー。
「それなりに食べてるし、寝てるから大丈夫」
にしては、目の下に熊さんが二匹いますね。
「さて、俺は用件を済ませたらすぐに帰る。明日も仕事なんだ」
まったく、この忙しい時期に。
「用件ってなんですか? お説教ですか? それとも、謝罪してほしいんですか?」
あー、ダメだこいつ。
どうしてこうなったのかは予想できるけど、これからこいつ大丈夫かな?
「用件は三つ。一つ、学校に行け。二つ、食べてしっかり寝ろ。三つ、今の彼氏と何としても物理的に距離を取れ。今のままだと多分死ぬぞ?」
用件は終わった。さて、帰るか。
「学校は行きますよ。卒業しないといけないので。それに食べて、寝てます。ご心配なく。彼とは……」
ま、言葉がつまりますよね。
相変わらず色々なところに傷がありますね。
早く治るといいね。
「一つ忠告しておく。今のままだったら、あいつから逃げられないぞ? お前、このままでいいのか? 夢とか、将来なりたいものとか無いのか? お前の希望、全部つぶされるぞ? それとも、その全てを犠牲にしても彼といたいのか?」
「将来……。私にもなりたいもの位ありますよ」
「だったら自分で何とかしろ。俺や北川ではどうする事も出来ない。自分の力で乗り切れ」
「出来るなら、そうしてますよ。とっくにそうしてますよ! できないから、こうして……」
弱いな。弱すぎる。
でも、きっとしょうがないんだよな。
「自分の人生だろ? 自分で決めろ。一年だけど俺はお前の先輩だ、助言してやる。相手が追ってこれないところまで逃げろ。そして、連絡を取るな。それがお前にできる選択だ」
「私の選択?」
「流されるな。自分で決めろ、今のままでいいのか?」
「……良くない。痛いのはもう嫌だよ。それに私にだって夢があるんだよ……」
優希の瞼に涙が溢れてくる。
昔の俺だったらそっと抱きしめただろう。
でも、今はその役目を北川がしてくれる。
「言いたいことは言った。あとは任せてもいいな?」
無言で頷く北川。
優希、いい友達持って良かったな。
俺は二人を残し、部屋を後にする。
きっと、これが優希と交わす最後の言葉になるだろう。
優希、お前の人生はお前が決めろ。
そして、お前の持っている夢を実現ささろ。
俺の人生は俺が決める。
俺の夢は俺が自分の手でつかみ取る!
……俺の夢ってなんだ?





