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空っぽの感情


――ゴォーーーン


 鳴り響く除夜の鐘。

もちろんテレビからの音声だ。


「お待たせ! できましたよっ」


「お、うまそう!」


「今年は三人で年越しだね」


 先輩の家で年を越す。

本当だったら愛と一緒の年越しになる予定だったけど……。


「エビデカい!」


「でしょ? ちょっと奮発しました!」


「武ちゃん、卵も入れる?」


「うん、純平は?」


「入れます!」


 何だかモリモリそばになってきた。

三人でそばを食べ、近所の神社にお参り。


――ガランガラン


 今年のお願い事。『新しい出会いがありますように!』

と、願をかけるが期待はしない。

去年と同じお願いで、結果このざまだ。


 おみくじを引き、先輩と雅は大吉。

俺だけ中吉だった。『待ち人現る』本当かな?

財布におみくじを入れ、露店の甘酒をみんなで飲む。


「あったまるぅー」


「美味しいね。来年も来ようね」


「そうですね。来年先輩就職活動ですよね? ここに残るんですか?」


 先輩は来年四年生。俺と雅は三年生になる予定。


「まだわからないな。内定をもらえるかも分からないしね」


 先輩も俺もいつか社会人になる。

それまでに色々と経験しておかないとね。


 神社を後に、二人は先輩のアパートに、俺は自分のアパートに帰る。

暗く冷えた部屋。誰もいない部屋。一人っきりの部屋。

誰か、俺にかまってくれる人はいないのかな?


 パソコンの電源を入れ、ネットを見る。

そこで目に入った広告の文字。『近所で出会える』


 無料で登録でき、サイト上でメッセージ交換。

そして、そこで気が合えば直接やり取りして、出会う事ができる。


 ま、無料だし遊んでみるか。

クリックし、偽名で登録。名前はもちろん『翼』。


 課題をしつつ、先輩たちと一緒に仕事をして帰る。

行きつけのコンビニでは、俺が何も言わないのに温め、袋の分け方、そして箸やおしぼりを入れない。

などの、無料サービスを受ける。そしていつも俺に笑顔を見せてくれる。

この子、常連さんの事を理解するいい子ですね。

非情に助かります。そして、何気に可愛いのが素晴らしい。


「今日もありがとう! 君の温めるお弁当が一番おいしいよ」


「ふふっ、誰が温めても同じですよ」


「違うんだよー、わかってないね。じゃ、またね」


 世間話も普通にできるようになる。

そして、自宅に帰り、パソコンとにらめっこ。

メッセージ来てるかなー!


『明日、夜に時間とれます。どうしますか?』


 最近ずっとやり取りしていた真美さん。

主婦の方でどうも旦那が単身赴任中らしい。

一人で暇なんだって。


『明日の夜、俺も暇です。待ち合わせしますか?』


『分かりました。では、駅前で八時に。車で行きますね』


『了解。着いたら連絡ください。番号は――』


 そして、翌日の夜。

初めて主婦の人と出会う。


「こんばんはー」


「こんばんは……。翼君?」


「ですです翼です。真美さんでいいのかな?」


「はい、初めまして」


「初めまして! よろしくね!」


「元気だね。若いっていいねー」


「若くないよ、それにあまり元気じゃないし!」


「そうなの?」


「そうなんです。できれば、真美さんに元気にしてほしいなって」


「私が翼君を?」


「うん、真美さん綺麗だし、きっと俺元気になれそうな気がする」


「うまいこと言うね。じゃ、ドライブでも行こうか?」


「お願いします!」


 こうして、愛の無い、好きと言う感情もない関係を求めていく。

お互いに好きも愛もないのは楽だ。

裏切られないし、裏切る事もない。空っぽの感情。


 そして、コンビニの子にも声をかけ、俺は部屋に連れ込み世間話をする。

彼女の欲しかったそう高くもないプレゼントをして、部屋で一緒にご飯を食べて。

そして、一晩を共にする。


 簡単だろ? 信じなければ、空っぽのまま生きればいい。

感情に動かされない、相手が望むような自分を作る。

そうすれば少なくとも相手は心を少し開く。

そこから生まれる、好きでも愛でもない感情。


 ただ、自分の埋まらない心を誰かで埋める行為。

その時だけが心を満たす。人を信じない分、無くなってしまった心。


 俺は、自分の心を満たすためだけに、肌を重ねる。

学校が始まっても、その生活は変わらない。


 お互いに時間のとれる時に心を埋める。

俺は誰の為に生き、誰の為に存在している?


 目的のない生活。

誰の為にもならない、必要とされない生き方。

俺って、存在価値ないよね?


 学食のすみっこで素うどんを食べる。

そろそろ後期の試験だ。

流石に勉強しないとまずい。

あわてて過去問とレポートをかき集める。

やばいな、大分遅れてしまった。


 遠くに北川と優希の姿が見えた。

二人共以前より仲がよさそうで、特に優希は笑顔を見せている。

髪も背中位まで伸び、少し大人っぽくなった感じだ。


 俺は二人に隠れるように、急いでうどんを食べ、学食を後にする。

……なんでだ? 俺が学食にいても問題ないだろ?

何さけてるんだ?


 俺は、このままここにいてもいいのか?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いので続きが気になる。 [気になる点] 主人公だけ苦しんでるような。 [一言] 主人公ここまで落ちちゃったか。一人ヤバい人間がいると周りまでダークサイド落ちするね。主人公に関わった人た…
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