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8、再び異世界へ

「おかあさん、事故だなんて大丈夫ですか?大変だったでしょう。」

保育園の先生も、優しく心配してくれた。

「ご心配おかけして申し訳ありません。意識を失っていましたが、奇跡的に軽症で、こうして帰って来られて良かったです。仕事も明日から行けそうです。」

実は死んでいました、なんてとても言えるわけもなく、私はなんとか誤魔化そうとした。

「後遺症が後から出てくる話も聞きますので、どうか無理されないでくださいね。」

「はい、本当にそうですね。無理しないようにしたいです。」

先生との会話も無事に終えた私は、息子の手を引いて家路を急いだ。

 小さな温かい手、まだ頼りない手、何があっても離してはいけない手。

「お月さま、はやいねー。」

「そうだね、はやいねー。」

空の月が、歩くのに合わせて付いてくるのを見て、竜成は喜んでいる。

 こんな毎日の他愛もない時間が、どれだけ大切なものだったか、失うと思って、改めて感じた。

「今日の夕飯はカレーよ。」

「わあい!カレー大好きー!」

帰宅してすぐに、昨夜のうちに作っておいたカレーを温める。

 こんなこともあろうかと、先に夕飯を作っておいて、本当に良かったと思う。

「とうもろこしと、にんじんと、お肉入れてー!」

「とうもろこしもにんじんもお肉も入ってるよー。」

足元にまとわりつく竜成の頭を撫でながら、二人で用意する夕飯は楽しかった。

「ママのカレーは、日本一!」

「ありがとうりゅーくん、竜成も、日本で一番可愛いよ。」

可愛いことを言う竜成に、胸がいっぱいになりながら、この幸せを絶対に守ろうと、私は改めて心に決めた。


 勤めている会社には、事故の怪我のせいで、しばらく出勤できなくなる旨を伝えた。

 上司はいたく心配してくれて、休職の手続きは代わってしてくれると言う。本当にありがたい。

 突然出勤できないなんて、本当に申し訳ないけれど、早いところあちらの世界を結実とやらをさせて、また無事に戻らせて貰えたらありがたいと思うけれど、最悪クビになっても仕方ないと思った。

 どちらにしても、命が掛かっている大仕事なのだ。しばらくはあちらの世界で全力で頑張らなくてはならないだろう。


 翌朝、私はいつものように竜成を起こし、朝ごはんを食べさせて保育園に送り届けた。


「時間ピッタリだにゃ、えらいにゃん。」

8時20分、きなことミケが、玄関の前まで迎えに来てくれていた。

「家まで迎えに来てくれるのね。」

「その方が楽だにゃ。」

「まあ、確かにありがたいわ。」

「じゃあ、行くにゃ。」

ミケは玄関の中に入ると、家の廊下にワープホールを作ってくれた。確かにここなら、周りからも怪しまれなくて良い場所かもしれなかった。


「ところで、行く前に確認しておきたいことがあるんだけど。」

「なんだにゃ?」

私はワープホールに入る前に、ミケに話しかけた。

「私を轢いたトラックの運転手はどうしてるの?」

「運転手はいないにゃ。」

「いない?」

「あのトラックは、持ち主のいないトラックを、運転手なしで魔法で暴走させたものだにゃ。あなた以外には大きな被害を受けてるものはないから、安心していいにゃ。」

「そうなんだ…。ちなみに私の治療費、昨日だけで二万五千円も掛かっちゃったんだけど。」

「それは申し訳ないにゃ。経費として渡せるように手配しておくにゃ。」

「よし。」

ひとまず運転手の問題と、治療費の問題を解決できたことに満足し、私は改めてワープホールを通ったのだった。


 螺旋滑り台のようなワープホールを落ちて行くと、足元に、セレナの姿が見えた。

 セレナは登校するための馬車の中に座っていた。

 馬車の屋根を貫通して、私の意識はセレナの中に入っていった。

 ここにきて、私はようやく、ワープホールで移動しているのは、私の身体ではなく、意識だけなのだと気が付いた。

 けれど、馬車の椅子に一緒に座ったきなことミケの二匹の猫は身体ごと移動しているようなので、色々な移動の仕方ができるのかもしれない。

 この世界の法則については、まだまだ分からないことが多かった。


 パチパチと瞬きをすると、目の前でキラキラとした銀の睫毛がひらめくのが分かる。

 銀の髪に張りのある小さな顔、元の世界ではもうどんなに望んでも手に入らない、天然の若い張りのある肌になれるのは、純粋に楽しかった。


 けれどこれから登校した後、ヒロインに意地悪をしなくてはいけないと思うと気が重かった。

 昨日は挨拶をしただけで意地悪認定して貰えたけれど、今日もそう上手くいくとは限らない。


 もしも竜成が小学生に上がって、クラスメイトから毎日いじめを受けたらと思うと、絶対に許せないと思う。

 そう考えると、例えお金のためであったとしても、誰かをいじめるなんて、子を持つ親として、到底できるものではなかった。

 であれば、お金に関しては、何とか他で稼げるように考えるとして、どちらにしても、何らかの形で王子とヒロインをくっつけなくてはならない。

 苛める以外で、どうすればお互いの好感度を上げることができるのか。

 正直かなり難しいクエストだった。


 しかし、これを成功させなくては、お金云々の前に、私が一年足らずでまた死んでしまう羽目になるのだ。

 それだけはなんとしても避けなくてはならない。

 私は教室に入る前に、どうすれば恋のキューピッドになれるのか、しばらく頭を捻ったのだった。


 

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