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7、帰宅

 時計を見ると、すでに午後の3時を過ぎようとしていた。

「もうこんな時間。」

本当は何かクエストの一つくらいクリアした方が、経済的に良いのかもしれないけれど、時間が足りなかった。

「今日はよく頑張ってくれたにゃ。きちんと意地悪もしたし、王子のヒロインへの好感度も1アップしたから、報酬は6000円にゃ。」

ミケの言葉と一緒に、報酬ウィンドウが出る。



【本日の報酬

悪役令嬢クエストクリア:5000円

好感度+1:1000円】


そのウィンドウと同時に、お金の入った白い封筒が現れた。

「日給制なのね。」

「その方がわかりやすいにゃ。」

「あの程度でも、悪役令嬢の意地悪として認めて貰えたなら良かったわ。」

5000円のためにヒロインに意地悪するのは嫌だったけれど、ちゃんとお金を貰えるのは助かった。

「今日はもう、元の世界に帰っても良いの?」

「大丈夫にゃ。希望するなら、どこでもワープホールで向こうの世界に帰らせてあげられるにゃ。」

「そうなのねっ!」

やっと家に帰れると思うと、私の胸は踊った。こちらの世界に来てから、たったの半日も経ってはいないのに、もう1ヶ月くらいは経過しているような感覚だった。

「ちなみに、私が帰った後の『セレナ』はどうなるの?」

「どうもならないにゃ。プレイアブルキャラから、ノンプレイヤーキャラになる感じで、オートで帰宅して、食事して、風呂に入って寝るにゃ。」

「そうなのね。」

なんだか不思議な感じがしたけれど、自分が帰った後も『セレナ』が恙無く日常を送っているのなら、それは安心できた。


「明日は8時20分に迎えに行くにゃ。それまでそちらの世界で生活してくれて大丈夫にゃ。」

「分かったわ。」

「本格的な活動は、また明日から頑張ってくれたら良いにゃ。また明日必要なことはその都度案内するにゃ。」

「ありがとう、また明日もよろしくね。」

きなことミケは、人目に付かない路地裏に行くと、空中に不思議な空間を作り出した。

「これがワープホールにゃ。ここに入れば、元の世界に帰れるにゃ。」

「でも、忘れてはいけないにゃ、あなたはまだ完全に生き返ったわけじゃにゃいから、こちらの世界が結実しなかったら、あなたも一年後に身体が消えるにゃ。」

「え?はい…。」

改めて突きつけられた現実に、私は生唾を飲み込んだ。

「こたらの世界と、あなた自身のためにも、これからよろしく頼むにゃ。」

「わかりました…。」

ミケのシビアな要求に、気持ちを引き締めながら、私はワープホールに足を踏み入れた。


 ワープホールの中は、どこかぐにゃぐにゃとした不思議な感覚で、私はまるで螺旋の滑り台を通るような感覚を味わった。


 気が付くと私は、病院のベッドの上で横たわっていた。

 身体中に色々とチューブが繋がれており、看護婦さんがこちらを覗き込んでいる。

「先生!409号室の患者さんが目を覚ましました!」

「なんだと!?」

私の目覚めに、病院は一気に騒がしくなった。

「あんなに重症だったのに、目が覚めたのか!?奇跡だ!」

医者の言葉に、私は背筋が凍った。やはり私が致命傷を受けていたのは夢ではなかったのだ。

「もう大丈夫なので帰ります!」

「何を言ってるんだ!死んでもおかしくない大怪我だったんだぞ!」

「でももう元気なんです!私、息子のお迎えに行かないといけないんです!」

私は医者と押し問答の末、レントゲンで怪我のないことだけを確認して貰ってから、なんとか息子のお迎えのために病院を出ることに成功した。

 医者達は口々に奇跡だと言っていたけれど、実際に期間限定の魔法なのだから仕方がない。

 こんな時に、両親は遠方だし、頼れる旦那もいないのはなかなか不便だった。


 1日だけでもなかなかの額の治療費にギャフンと言いつつ、トラックの運転手に請求できるかもしれないと、領収書を取っておく。

 そもそもあのトラック事故の原因があの猫達にあるのなら、猫達に請求しても良いと思った。

 と言うか、あの事故がもしもそうであるなら、あのトラック運転手こそが一番の被害者と言っていいだろう。

 明日会ったら問い詰めようと思いつつ、私はとにかく愛しの竜成のいるなかよし保育園へと急いだ。

 病院ですったもんだしたせいで、保育園に着いたのは、夜の18時を回っていた。延長料金がかかってしまうギリギリの時間である。

「りゅーくん遅くなってごめんねー!!」

保育園にはあらかじめ、事故に合ってしまったせいでお迎えが遅れることは電話で伝えておいたけれど、愛する息子にはそんなことは関係ない。

「ママ遅かったねえ。」

絵本を読んでいた竜成は、私の顔を見ると満面の笑みで駆け寄ってきてくれた。

「りゅーくん!!」

もしかしたら、二度と会えなかったのかもしれない。そう思うと愛しさもひとしおで、私は竜成をきつく抱き締めた。

「あのね、りゅーせーね、ごほん読んで良い子で待ってたよ。」

「うん、えらいね、竜成は良い子だよ、可愛いよ、世界で一番可愛い良い子だよ。」

竜成の頭を撫でながら、私は感極まって涙ぐんでしまいそうだった。

 こんな可愛い大切な我が子を置いて死んでしまうなんて、絶対にしてはいけない。

 私は改めて、この子のためにも、きちんと生き返れるように頑張らなくては、と決意したのだった。


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