13、エミ-リア令嬢勧誘開始
今回のアナモグラ駆除の報酬は、一匹千ギル×二十匹で、二万ギル。
更に完全駆除報酬の二万ギルも合わせて四万ギル。
これをマユミさんと山分けして、一人につき二万ギルの報酬だった。
つまり、一日で約二万円の稼ぎをできたことになる。
これはかなり破格だった。
もちろんこれは手取りであり、ギルドへの手数料、国への所得税などはあらかじめ引かれている。
異世界での収入は、多分自分の世界で確定申告しなくても良いだろうし、異世界の収入は異世界の国家に税金を納めているので、脱税の罪悪感もない。
この二万円があれば、ずっと息子が食べたがっていた、おいしいいちごを、久しぶりに食卓に上げてあげることができるだろう。
何よりありがたいお金だった。
この調子で毎日稼いでいけば、デザートのいちごどころか、息子がずっと欲しがっている、NATO`のNゲージ京急セットだって、いつか買ってあげられるかもしれない。
私は改めて、明日からも冒険者を頑張ろうと心に決めて、本日の異世界生活を終わりにした。
今日も走って、最愛の息子、竜成を保育園へと迎えに行く。
「りゅーくーん!今日はなんと、デザートはいちごよー!!」
「いちご大好きー!!」
いちごと聞いて大喜びするぷくぷくのほっぺたを抱き上げながら、その可愛らしさに、私も満面の笑みになった。
「りゅーせい、いちごこれだけ食べる!」
もみじのような手を開いて、五個!と誇らしげに言う竜成の可愛い姿に、私も嬉しくなる。
「五個よりもっと、好きなだけお腹いっぱい食べて良いのよ、今日はお母さんたくさんいちごを買ったから!」
「わあい!いちごパーティーだ!」
食卓に用意した山盛りのいちごに目を輝かせて、竜成は小さな口いっぱいにいちごを頬張った。
「一つずつよ、ほっぺがりすさんみたいよ。」
いちごで膨らんだ頬をつつくと、竜成はくすぐったそうに笑った。
この笑顔を守るために、明日も異世界生活頑張ろうと、私は改めて誓ったのだった。
翌朝、私は昨日と同じように竜成を保育園に送ると、再び猫のきなことミケに導かれて、異世界へと出勤した。
アラサーの意識が、馬車で待つセレナ令嬢の中へと入る。
さっきまで辛かった、肩こりも腰痛も、すーっと楽になり、指先にはもちろんアカギレなんてものはない。
顔も、さっきまで目の周りが乾燥でシパシパしていたのに、プリッと張りも水分もある肌に変わっている。
(若いっていいなあ…!)
自分が若かった頃には当たり前だと思っていたことは、本当は二度と戻らないかけがえのないものだった。
失ったことのある、今の私にはそれが分かっている。
そして同時に、今手元にある当たり前のように見えるものも、時が過ぎれば、二度と戻らなくなるかけがえのないものなのだと。
それらを失わないために、私は今を頑張らなくてはならない。
例え難しいクエストに思えても、成果を出さなくては大切なものを失ってしまうのだ。
私は覚悟を決めると、今日のミッションを達成するために、教室のドアを開けたのだった。
今日のミッション、それは、まずはエミ-リア令嬢を冒険者に引き込むこと。
そしてエミ-リア令嬢とデジレ王子と一緒にパーティーを組み、その中で二人の好感度がお互いに上がるように協力することだった。
私は机に座ってノートの整理をしていたエミ-リア令嬢を見つけると、早速話しかけた。
ミッション開始である。
「おはようございます、エミ-リア令嬢、良い朝ですわね。」
「え?あ、は、はい!おはようございます!セレナ様!!」
突然話しかけられたエミ-リア令嬢は、すぐさま席を立つと、そのまま身体が二つに折れそうなほどに勢い良く頭を下げた。
清々しい程の過剰反応である。
「あら、どうかそんなに緊張されないで、お楽になさって。」
私はなるべく優しく微笑もうとした。
現実世界では、優しそうと定評のある私の笑顔だったけれど、悪役令嬢であるこの異世界では、どうしても意地悪そうになってしまうようだった。
「は、ははははい!」
ちっとも緊張が解けない様子で、エミ-リア令嬢はどもりながら返事をしてくれた。
「ねえ、ところでエミ-リア令嬢、課外授業にご興味はあって?」
「課外…授業ですか?」
「ええ、教室内での授業だけでなく、職業体験をして、報酬を得ながら単位をいただけるの。庶民の生活を知らなくては、貴族として正しい行いはできないわ。」
「あ、でも……。」
エミ-リア令嬢は、古布で作られたうさぎのぬいぐるみを握りしめた。
たぶん、自分は庶民の出だから、今さら庶民の生活を知る必要などないと思ったのだろう。
「私、昨日から冒険者に登録しましたの。」
でも私は、とりあえず話を進めた。
「冒険者…ですか?」
「ええ、冒険と言っても、未知の旅へ行くようなものではないけれど、まずはこの街のことを知りたくてね。」
「それは素晴らしいですね。」
ようやく普通に返事をしてくれるようになったエミ-リア令嬢に、私はついに本題へと入った。
「そこで、どうかあなたに協力をいただけたらと思って、声を掛けさせていただいたの。」
「協力…、ですか?」
「ええ。」
私は言葉を選びながら、エミ-リア令嬢への勧誘大作戦を始めたのだった。




