10、冒険者マユミさん
昨日冒険者登録をしたギルドに入ると、まずは仕事が載っている掲示板をチェックした。
私の冒険者レベルは1なので、まだクエストレベルも1の仕事しか請け負えない。
しかしクエストレベル1の仕事は数が少なく、あっても、庭の雑草取り1日で千円など、労力はかかるのに報酬は少ないものばかりだった。
「うーん、どうしようかなー。」
掲示板とにらめっこをしていると、隣にも同じように掲示板を見ている女性がいた。
「あ、どうぞ。」
私がいては邪魔になるかと、私はその女性に場所を譲った。
「あ、ありがとうございます。」
黒髪に、品の良い冒険者アーマーを付けた女性は、私の言葉に丁寧にお辞儀を返してくれた。感じの良い人だった。
「あなた、ビギナーさんですか?」
女性はおっとりとしたしゃべり方で話し掛けてきてくれた。
「はい、昨日冒険者登録したばかりで、クエストを受けるのもこれが初めてです。」
「そうなんですね、なら最初は簡単なのから始めた方が良いですね。」
「そうですね。」
その女性は、しばらく何かを考えながら、こちらを見ていた。
「あの、もし良ければなんですが、私とパーティーを組みませんか?今受けたい仕事が、二人で受けた方がやりやすいので、どうしようかと思っていたんです。」
「え?良いんですか?」
その女性の申し出に、私は目を輝かせた。初めてのクエストは、やはり心細かったので、経験者と一緒にできるのは嬉しかった。
「私はマユミ・シマカゼです、得意なのは楽魔法です、よろしくお願いします。」
「私は、セレナ・リファイディングです。得意なものは、まだこれから考えます。」
私はマユミさんの出された右手と、固く握手をした。
「ええと、マユミ・シマカゼさん…?」
日本人のような名前に、もしかしてマユミさんも転生者なのだろうかと不思議に思う。
「この辺りでは珍しい名字ですよね。私はここよりもずっと東にある、ミヤビノ国というところの出身なんです。」
「そうなんですね。」
ミヤビノ国、という名前は完全に日本を連想させた。けれどマユミさんの見た目は、黒い髪に金の瞳をしていて、完全に東洋人というわけではない。やはりここは異世界なのだと思う。
私は慧眼を使って、マユミさんのステータスを見てみた。
【マユミ・シマカゼ
総合レベル:70
冒険者レベル:50
HP:86
MP:90
職業:主婦/冒険者
特技:楽魔法
持ち物:竜笛
好感度:→セレナ0+1】
(職業に、主婦っ…!?)
マユミさんはかなりレベルの高い冒険者なことが分かったけれど、それよりも、職業に主婦が入っていることが驚きだった。
「私が受けたいと思った仕事は、アナモグラの駆除なんですが、アナモグラの習性として、出入りする穴が二人あるので、二人で挟み撃ちにして退治した方が効率が良いんです。一人でやると、時間が掛かって夕方までに帰れなくなるかもしれないので…、」
「夕方までには帰りたいんですか?」
「子供を両親に預けているので、夕方までには帰らないといけないんです。」
マユミさんの返事に、私は同士だと感じて嬉しくなった。
「お子さんがいらっしゃるんですね。」
「はい、まだ4才なんですが…。」
「同じですっ!」
私は思わずそう叫んでいた。
「え?」
「今は訳あって悪役令嬢の中に入っていますが、本当の私は、家に4才の子がいる主婦なんですっ…!」
「え?あ?そうなんですか?」
見た目が少女の姿になっている私にそんなことを言われて、マユミさんは面食らっていたけれど、私の後ろにいる二匹の猫を見て、納得したようだった。
「その猫たち、特別な子達ですね。あなたは異世界からの転移者なのですね。」
「はい、昼だけ転移しています。私も夕方には、子供のお迎えで帰らないといけないので。」
「では、同じですね。」
「はい!」
初めて出会った、こちらの世界でのママ友の存在に、私の心は浮き立った。
「転移者の方は、かなり強力な魔法が使えると聞いたことがあります。そんな方と…、しかも同じ主婦の方と出会えたなんて、嬉しいです。」
「転移者って、他にもいるんですか?」
「伝説程度にしか聞かないので、詳しくはないのですが、時折いるようです。」
「そうなんですね、私まだ転移二日目で、こちらの世界に詳しくないんです。」
「私の知ってることなら、何でもお教えしますよ。」
「ありがとうございます。助かります!」
マユミさんは、近くの食堂に場所を移すと、この世界の地理や歴史について、簡単に教えてくれた。
冒険者として、実際にこの世界を歩いているマユミさんの説明は、とても分かりやすくて、本当にありがたかった。
食堂で頼んだチキンの香草焼きもすごく美味しくて、子供抜きで誰かとランチをするなんて、子供を産んでから初めてだな、という部分にも感動する。
食事をしながら、この世界のことや、この後の仕事の説明などを聞いていると、時間はあっという間に過ぎていってしまった。
「では、行きましょうか。」
「はい。」
こうして私は、冒険者としての初仕事を、マユミさんという頼もしい先輩と一緒にできることになったのだった。




