不運
7月7日はポニテ記念日!
ミノタウロスを腑分けするオバリー大尉とリオン。アイアンラインと接しているセンチュリオン王国南部では魔獣によって人が襲われることが珍しくない。その為、倒した魔獣はその場で腑分けされ、人を食っていないか確認される。
ふたり共褌一丁で作業をする。彼等の服はミノタウロスの返り血で汚れていたため、沼の水で洗ってマングローブの枝にひっかけられていた。
「こればっかりは、いつまでたっても慣れねぇな……くそっ! 肉が固いんだよ!」
ぶつくさ言いながら、ナイフで筋肉に覆われたミノタウロスの腹を割くオバリー大尉。こうして引っ張り出した胃や腸の中にあったものを全てかき出すと、未消化の肉片、骨片を丁寧に洗って内容物を調べる。
「無いな」
「無いですね」
「もう出しちゃったってことはありませんか?」
「女の子がいなくなったのは昨日の昼前。直後に食われたにしてもそれは無いだろう。ここへ来る前に食ったと思われる魔獣の一部も残ってるしな」
「ですね……」
結果、行方不明の女の子は見つからなかった。出てきたのは、昨夜殺された男の遺体の一部。それからゴブリンなど魔獣の肉片も見つかった。これらは湿地帯を渡ってくる前に捕食したものと推察できる。
ミノタウロスは服も骨も気にせず飲み込んでいたようだ。もし女の子が食べられてしまったにしても、それが全てが消化され排泄されたとは考えにくい。
「まあ、良かったじゃないか」
「そうですね」
それからオバリー大尉とリオンは水浴びして汚れを落とすと、マングローブの木陰に腰を落ち着けた。火をおこして暖をとり服が乾くのを待つ。
間もなくデビット、ラニ夫妻が里から人手を連れて戻ってくるだろう。彼等に最悪の報告をしなくてすんだことにほっとしていた。
「まだ寝るなよ。一応警戒中なんだからな」
「はい。すみません」
うとうとし始めたリオンの肩を揺さぶる。
昨日から眠れていない上に、追跡、戦闘、腑分けと続いて流石に身も心もくたくただった。眠くなるのも仕方がないが、湿地帯を越えていつ魔獣が現れるかもわからないこの状況で寝るわけにもいかない。
「デビット達が戻ったら、彼等の里で休ませてもらおう。それまでの辛抱だ。ああ、それとも早いとこ帰るか? お前は早くバネットとシュガリーに会いたいだろう」
「会いたいですけど、その前にしっかり風呂に入っておきたいですね」
「ははは! 違いない!」
腑分けで染みついた悪臭は水浴び程度では完全に落ちない。しっかり湯に浸かりたいのはオバリー大尉も同じだ。
他愛無い会話を交わして睡魔を誤魔化し時間を潰す。だが、彼等の受難はまだ終わっていなかった。
「ああ、こいつはまずい」
地面から伝わる微かな振動。水面の揺らぎ。マングローブの枝がこすれ折れる音。とてつもなく大きな何かがこちらに向かってくる気配に、半ば眠りかけた意識が覚醒する。
「こっちだグランス」
服を着る暇はない。まずは接近する相手を確かめるため、マングローブの木の陰に身を隠すオバリー大尉とリオン。そこに赤茶けた巨岩のような頭が姿を見せる。
現れたのは全長凡そ30メートル。ごつごつした固い外皮に加え、全身に無数の角を並べたてた四足の龍だ。
リオンは青くなって言葉を失い、オバリー大尉は瞑目して己が不運を嘆いた。
「アーマードラゴン……まったくついてない」
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