表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/108

ち〇こを狙え!

憧れのアイリス入りを目指してアイリス異世界ファンタジー大賞応募タグ入れてみました!


今回も主人公不在の3人称です。

 ミノタウロスの足跡は湿地帯へと続いていた。


 ミノタウロスの追跡にはオバリー大尉、リオンの他にデビット、ラニ夫妻が加わっていた。ふたりはお揃いの皮のマントを羽織り、弓を携えている。なんでもラニは以前猟師をしており、弓の腕は里でも随一とのこと。デビットはそんなラニに求婚するために必死で弓を覚えたそうだ。


「いい所じゃないか」


 陽の光を受けて煌めく水面には、青々とした浮草とマングローブ浮かぶ。その美しい光景に、オバリー大尉は感嘆の声を上げる。人界と魔界を隔てる広大な底なし沼と聞いて、どんな恐ろしい場所かと思いきやとんだ肩すかしである。


「時間があったらまた来たいな。ここで釣りはできるのか?」

「はい。できますよ。ビッグイールの大物なんかが獲れるので、他の里からもよく釣り人が訪れています。ただ、沼には落ちた魔獣を捕食するマッドスネークスが生息していますので、嵌らないようには気を付けてくださいね」


 ラニの言うビッグイールとは、2メートルくらいある巨大鰻で、大変美味である。マッドスネークスは沼地や湖などに生息する巨大蛇だ。大きい個体は10メートルを超え、人や魔獣を丸呑みにするが、基本的に水中でしか動けないので、陸地にいる分には危険は無い。


「ほほう。沼地の主ってところか」

「大尉。吊り上げようとか考えないでくださいね」

「マッドスネークスも幼体なら結構釣れるぞ? 肉もちゃんと泥を落とせば美味いから人気があるんだ」


 成長すれば恐ろしいマッドスネークスも、毒を持たず、肉が美味しいことから、幼体の間は他の生物に捕食されることが多い。兎系獣人の里でもよく食卓にのぼるらしい。


「危ない場所にはロープが張ってあるから、それを越えなきゃそうそう嵌ったりもしない。落ち着いたらまた遊びにこいよ。いい釣り場を教えてやる」

「そうしよう」

「それにしても、水の量が減っているわ。以前はあの辺りまで水があったはずなのに」


 ラニの言う通り、湿地帯の一部が干上がって、乾いてひび割れた地面が見えている。


「そういえば、この前の嵐で川の流れが変わったってナバ爺さんが言ってたな。そのせいかもしれん」

「足跡もそっちに続いているな。急ごう」


 地面が柔らかいせいか、ミノタウロスの蹄の形がくっきりと残っている。また、足跡の脇には何かを引きずったような跡も残されていた。


 一行はミノタウロスに気付かれないよう、慎重に足跡を辿る。


 それから間もなく……


「いたぞ。あいつだ」

「で、でけぇ……湿地帯の向こうにはあんな化け物が住んでいるのか……」


 マングローブの林を抜けたところでついにミノタウロスを見つけた。赤茶けた体毛に覆われ、目測で体高は3メートルを超える巨体。手には炭焼き小屋から連れ去った女を足首を掴んで引きずっている。既に息が無いことは明らかで、その上長時間引きずられていたせいもあって、その亡骸は見るにも無残なありさまだ。


「ああ、ネーヤ……酷い」


 彼女の生存に一抹の希望を持っていたラニは残酷な現実に目を伏せた。歳が近く、仲が良かったこともあってラニのショックは大きいようだ。


「くそっ! ラピナもあいつに!?」

「落ち着けデビット。そうと決まったわけじゃない。奥さんも辛いだろうが今は冷静に」

「ああ……あんな奴を野放しにはしておけない。ラピナのことはその後だ。なあ、ラニ」

「ええ。そうね」


 オバリー大尉に窘められて、デビットとラニはなんとか気を落ち着かせようとする。


「まあそう力むな。あんな見た目だが、ミノタウロスを倒すのは実はそんなに難しくはないんだ」

「いや、あんたらにとってはそうかもしれないが」


 見るからに屈強そうな体躯を持つミノタウロス。いくら心得があるとはいえ、彼等の持つ弓で致命傷を与えるのは困難だろう。


 危険を伴う魔獣の討伐にデビットとラニを連れてきたのは、今後の為に魔獣との戦いを経験させるという意味合いが強かった。


「なら、移動しよう。正面からの方が分かりやすいからな」


 オバリー大尉はにやりと笑みを浮かべる。苦笑するリオン。


 初心者にとって確かにミノタウロスは恐ろしいだろう。しかし、魔獣と言えども生物だ。落ち着いて観察すれば弱点を見つけ対処することはできる。それを教えるのに人型であるミノタウロスは絶好の魔獣だった。


 4人はミノタウロスに見つからないように先回りして、ミノタウロスを正面から確認出来る位置へと移動した。背の高いマングローブの陰に身を隠して接近してくるミノタウロスの様子を伺う。


「ミノタウロスのような人型の魔獣は、群れで行動する社会性と、道具を使ったり、獲物を罠に嵌めるような知恵を持っている厄介な魔獣だ。その上ミノタウロスは凶暴で、あの図体なもんだから単体でもかなり強い。だが、案外弱点も多いんだ。ほら、よく見て見ろ。明らかな弱点があるだろう?」


 ミノタウロスは見上げる程に大きく、目を覆いたくなるほど恐ろしい姿をしていた。デビットとラニは目を凝らしてそれを見つめ……理解した。


「ま、まさか……アレか?」

「ああ、そのまさかだ」


 デビットは驚愕し、ラニは……頬を染めて視線を逸らす。


 そのミノタウロスは雄だった。その股間にはぷらーん、ぷらーんと揺れる物体。人の数倍のサイズの立派な()()がぶら下がっていたからだ。


「人型の魔獣の急所は人間とかわらないからな。筋肉に覆われた部分は強靭だが、骨の浮いた部分や、手足の腱なんかを狙えば倒せないにしても撃退は容易だ。特にミノタウロスはでかい分急所も狙いやすい。メスなら柔らかい乳房が並んでるから刃も矢も通しやすいし、雄はまあ、見ての通りだ」

「ああ。よくわかったよ。それで、アレを狙って弓を射ればいいのか?」

「いや、今回は俺がやる」

「お、おい!? まさかその剣でちょん切ってしまうのか!?」


 滅茶苦茶嫌そうな顔をするオバリー大尉。


「状況にもよるが、今回はしない。大声出されて仲間がやってきたら困るからな」

「そ、そうか……」


 足跡からして沼を渡ってきたミノタウロスはこの一体だけだ。だが、急所を斬り落とせば、絶叫を聞きつけて仲間がやってくる恐れがある。


 どこか安心したような顔をするデビット。オバリー大尉も気持ちはわかる。アレを切られるなんて想像するだけでも寒気がくる。


「俺が斬り込むからふたりは脚を狙って動きを止めてくれ。だが、俺がしくじってやばいと感じたら……迷わず、やっちまえ」

「ああ……わかった」


 緊張した面持ちで頷くデビット。ラニはまだ落ち着いているように見えるが、行方の知れない娘のこともある。正直ふたりの牽制はあまり当てにしていない。


 ミノタウロス一体くらい、本当はオバリー大尉ひとりでも倒せる。それでもあえて牽制を頼んだのは、里の仲間を殺されたデビットとラニの気が済まないだろうと考えたからだ。


「僕はどうすれば?」

「まず俺が奴の鎖骨を叩き折るから、女性を回収してくれ。これ以上傷つけられたくないからな」

「分かりました」


 ある日突然家族と共に命を奪われた哀れな女性。その上これ以上遺体を傷つけられるのはあまりにも不憫だ。ミノタウロスの血で汚すことも許しがたい。それに、ミノタウロスが遺体を振り回したり、投擲したりと武器として扱う可能性は十分にありうる。オバリー大尉はそれを防ぐためリオンに遺体の回収を指示する。


「よし。行くぞ!」


 オバリー大尉の合図でデビットとラニがミノタウロスの脚めがけて矢を射かける。獣人の扱う弓だけあってふたりの弓はかなりの強弓である。デビットの矢は外れたが、ラニの矢はミノタウロスの膝蓋骨の下の関節部分を射抜いていた。たまらずその場に膝をつくミノタウロス。


 お見事! 大した腕だ。


 ラニの弓の腕に内心で喝采を送りながら、オバリー大尉はミノタウロスへと斬りかかった。一太刀で遺体を手にした方の鎖骨を両断する。筋肉に覆われていない鎖骨は、人型魔獣の弱点のひとつだ。丸太のような腕が力なく垂れ下がると、リオンが素早く女の遺体を回収していく。


「終いだ」


 水平に振るわれた剣が、ミノタウロスの首筋を薙ぐ。一泊遅れて盛大に血しぶきが舞い、ミノタウロスは崩れ落ちるように息絶えた。


「ざっとこんなもんさ」


 血糊を振り払い、剣を鞘に納める。


「凄いな。センチュリオンの戦士の実力は噂通りか!」

「あんたの奥さんもな」

「あはは……こればっかりはどうしても敵わないんだ」

「まあ、あなたったら!」


 矢を外したデビットはから笑いしているが、敵わないのは弓の腕だけではないだろう。私生活でしっかり尻に敷かれてるに違いない。


 鮮やかな手並みでミノタウロスを仕留めて見せたオバリー大尉にデビットもラニも興奮気味だ。しかし、十分に誇って良い結果にも関わらず、オバリー大尉の顔に笑みは無かった。


 湿地帯を渡れそうな場所もすぐに見つかった。そこにはミノタウロスが来た時の足跡が残っていたため間違いないだろう。


「ここは俺達が見張っているから、ふたりは里へ戻って人手を呼んできてくれないか? 魔獣が今後も現れる可能性がある以上、セフィリア様にも報告して対策を考える必要があるだろう。俺達もずっとここにいるわけにはいかないからな」

「ああ。わかった。ありがとうランド」

「いいさ」


 湿地帯を渡る道が存在する以上、交代で見張りを立てなければならない。


 犠牲となった女性の遺体を丁寧にマントで包んでデビットが背負う。彼はラニと共にオバリー大尉に一礼すると急ぎ里へと戻っていった。


 その背中を見送って、オバリー大尉は盛大にため息をついた。


「さてと。悪いがグランス。しばらく飯は食えなくなるぞ」

「ええ。覚悟してますよ」


 これからミノタウロスを腑分けして、これまで何を食べたかを確認する。何も、オバリー大尉達がそこまでやる必要はないかもしれない。腕の良い猟師だったラニならば、腑分けする技術もあっただろう。しかし、最悪の状況を見せたくなかったオバリー大尉は、自ら腑分けを行うことにして、ふたりを里に戻したのだ。


 勿論、ミノタウロスの体内から彼等の娘の痕跡が見つかれば、それを伝えないわけにもいかないのだが。


 倒したミノタウロス前にして肩を落としたオバリー大尉の背中を、リオンは素直に格好良いと思った。

主人公いらなくね(´・ω・`)?


読んで頂きましてありがとうございます。よろしければブックマーク、評価の方よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ