表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/108

魔獣の脅威

主人公不在の三人称です。

 空が明るくなり始めた頃、オバリー大尉とリオンは、デビットの案内で兎系獣人族の里にたどり着いた。


 兎系獣人族の里は1000人程が暮らしているちょっとした町だった。里の入り口に人だかりが出来ている。デビットの娘の捜索が未だに続いているようだ。


「ラニ!」

「あなた!」


 デビットが呼びかけると、ひとりの可愛らしい女性がデビットに駆け寄ってきて彼に抱き着いた。デビットの妻でラピアとラピナの母親であるラニだ。


「心配になって戻って来たよ。それでラピナはまだ見つかっていないのか?」

「ええ。ずっと探しているのだけど……」

「そうか。僕達の後を追ったんじゃないかって思って気を付けながら戻ってみたけど、見つからなかったよ」


 ラピナのことは里でも夜通し探していたようだが、残念ながら未だに見つかっていないという。デビットも里への道すがら探していたが、見つけられなかったことを告げる。


「私達もこれから里の外を探しに出ようと思っていたの」


 そこにはラニの他にも20人程の若者の姿があった。彼等は明るくなるのを待って里の外に捜索に出るつもりでいたようだ。


「それだけど、里を出るのは少し待ってもらえるか? そうだなランド」

「ああ」

「どうして? あの、あなた方は?」


 里の外への捜索を待つように言われて訝し気に、デビットの同行者してきたオバリー大尉へと視線を向ける。


「ああ、こちらはセフィリア様のお客人だ。魔獣が出たと聞いて来てもらった」

「センチュリオン王国軍アイアンライン警備隊所属。ランド・オバリー大尉です。及ばずながら協力させて頂こうと長殿に同行させて頂きました。こちらは部下のリオン・グランスです」

「リオン・グランス二等兵です。よろしくお願いします」

「まあ!? センチュリオンの!?」


 ラニが驚いたように声を上げる。若者達の中からも同じような声をあげる者もいる。


 兎系獣人族の里はそのほとんどが高齢者だ。若者の多くはフィンレを出て外の世界で暮らしている。ラニもデビットと結婚するまではセンチュリオン王国の田舎でひっそりと暮らしていた。そのため、センチュリオンの騎士や兵士の武勇についてよく知っていた。


「ああ。ラピナのことも心配だけど、魔獣がいるかもしれない状況で不用意に外に探しに出るのは危険だ。すまないラニ。二次被害を出さない為にも、里の外を探すのはランドの意見を聞いてからでにしてほしい」


 ラピナのことは心配だが、その為に里の者が魔獣に襲われては元も子もない。今、里を出ることは長として認められないことを、沈痛な表情でデビットは伝える。


 行方の知れない娘の事を思うと居ても立っても居られないラニだが、ここにいる里の者も、誰かの子供であり、親であり、かけがえのない伴侶だ。彼等を危険に晒すことはできない。そう考えられる程度にはラニは冷静だった。


「え、ええ。そうね。わかったわ」

「ごめん」

「いいのよ。私は里の長の妻だもの」

「ありがとうラニ」


 デビットはラニを抱きしめる。それから彼女の長い耳にそっとキスをする。耳へのキスは兎系獣人のポピュラーな愛情表現だ。


「あっついねも~」

「あー、やってらんねー!」


 夫婦の仲睦まじい様子を里の者から揶揄い、ずっと緊張感に包まれていた里にほんの少しだけ笑顔が戻った瞬間だった。


「あー、こほん。そういうのは後にしてもらっていいですかね?」


 空気の読めない男。オバリー大尉である。


「す、すまん。ランド」

「ああ。では、早速魔獣の痕跡というのを見せて貰えますか? 大丈夫。時間はとらせません。痕跡から魔獣の種類を特定出来れば対処法をお教えします。わからなかったらわからなかったで、捜索の際我々が護衛を務めます」

「え、ええ。わかりました。こちらです」


 顔を赤くしたラニに案内されて里の外れへと向かう。


「大尉。何もいい雰囲気に水を差さなくても」

「出来れば水をぶっかけてやりたかったんだが」

「……自分もさっさと結婚すればいいのに」

「何か言ったか?」

「いえ、何も」


 魔獣と見られる痕跡を見つけたのは、畑仕事をしていた老人だった。だが、当人はショックが大きく話すことが出来ないというので、老人の身内という男性が変わってその時の状況を説明することになった。


「畑仕事をしていた爺さんが、見たことねぇような大きな影をみたんだと。そいつは柵の向こうからじっとこっちをみていたそうだ。爺さんの声でオラが駆けつけたんだが、爺さんが大声を上げたらそいつは里の外へ走っていったとかで影はもうどこにも見えんかった。だけんど、そこに妙な足跡が残っていいてな。んでも見たこねぇような足跡だし、もしかしたら影は爺さんの見間違いで、足跡も何か別の跡かもしれねぇ」

「ふむ。影だけで実際の姿は見えなかったのか」

「んだ。でも爺さんは怖がって穴の中に潜っちまった。こりゃしばらく出てはこねぇだ」


 兎系獣人は狭くて暗い穴の中が大好きだ。特に大きなショックを受けたりすると、穴に潜ってしばらく出てこなくなったりする。


 オバリー大尉は、目を細めて太陽の位置を確認する。確か昨日はよく晴れて一日中日差しが強かったことを思い出す。因みにフィンレの空はバリア内側に投影された映像なのだが、そんなこと彼等は知る由もない。


「いつ頃だ?」

「昼飯食ってしばらくしてからだな」

「なるほど。昼過ぎだと逆光になって全容は見えづらかもしれないな」

「ああ、ここだ」


 里の周辺には大きな獣は出ないということで、柵の高さはオバリー大尉の胸の高さほどしかない。そんな柵の外側に地面に、一定間隔で確かに窪みが見える。


 人の足より遥かに大きいが、爪や指の痕のようなものはない。老人が見たという大きな影という証言が無ければ、誰も気にも留めなかったかもしれない窪みは、外の向こうの林へと続いていた。


「こいつは!? 確かに足跡だな……」


 オバリー大尉の顔つきが厳しいものに変わる。彼には何の足跡か一目でわかった。そして非常に危険な相手であるということも。


「グランス。この足跡から何の魔獣かわかるか?」


 オバリー大尉はあえてリオンに問いかける。リオンもまた緊張感を露わにしてじっくりとその足跡を見つめた。


「足跡が深い。かなり大型で、二足歩行ですね。それでいて指や爪の後が見えない。まるで蹄のような……まさか!? ミノタウロスですか?」


 リオンの見立てにオバリー大尉も頷く。


「ああ、たぶんな。歩幅からして体高はざっと3メートル。一匹だけか」


 ミノタウロスは牛の頭部に人の身体を持つ魔獣だ。腕は人のように5本の指を持つが、脚は固い蹄を持ち、二足歩行をする。雑食で木の実なども食べるが好物は肉だ。気性が荒く、他の魔獣や獣を捕食して食べる。凄まじい怪力を持ち、人間など捕まればひとたまりもない。


「影を見たという老人はよく無事でしたね」

「向こうも初めて人間を見て警戒したんだろう。だが、夜のうちにどこかの家を襲っているかもしれん。デビット! 急いで各家を回って住人が無事か確認しろ! 特に孤立している家は注意して、事が片付くまで避難を呼びかけるんだ。単独行動は厳禁。常に複数人で行動するように!」

「わ、わかった」


 オバリー大尉の剣幕に押されて、デビット達は慌てて里の若者を集めてグループを作ると、手分けして里の家々を回っていく。


 そして……程なくして里の外れで若者達の悲鳴が上がった。


「大変だぁぁぁぁぁ!! 炭焼きのタン爺さんの家が!!」


 オバリー大尉が予想した通り、ミノタウロスは夜中に里の外れにあった一軒の家を襲っていた。そこでは年老いた男と、その息子夫婦が炭を焼いて暮らしていたらしい。


 オバリー大尉とリオンは襲われた炭焼き小屋に入って中を調べる。


 破壊された扉。中に入るとむせかえるような血の匂いが漂い、真っ赤に染まった小屋の中には、バラバラになった人間の肉片が散らばっていた。


「うぅ……ひでぇ。タン爺さん。カンタ……ネーヤ……」

「ネーヤは身重で、もうすぐ生まれるって楽しみにしていたのによぉ」


 平和な里に突如として起こった惨劇に涙を流す若者達。フィンレは治安が良く、滅多に人間が死ぬような事件は起こらない。悲惨な現場に耐えきれず、ひとり、またひとりと外へと飛び出し、胃の中のものを吐き出す。


「大丈夫か? グランス」

「はい。吐くのはエルフの里に戻ってからにします」

「そうしろ。バネットとシュガリーに思う存分介抱してもらえ」

「そうします」


 面白くなさそうに口をへの字にしたオバリー大尉。それから何とかその場に残ってたデビットに目を向ける。


「ここに住んでいたのは3人だけか?」

「ああ、炭焼きの爺さんに、その息子とその女房。女房の腹の中には子供がいた」

「そうか……」


 実質4人がミノタウロスのために犠牲になった。オバリー大尉は瞑目すると、調査を開始する。


 身体をおかしな方向に曲げた老人の亡骸はまだ原型をとどめている。室内に散乱した遺体は食い散らかされて分かりづらいが、どうやらひとり分のようだ。


「炭焼きの老人は殺しただけか。食われたのは息子だな」

「奥さんの遺体が見つかりませんね」


 ここにある遺体は男のものだけで、女の遺体が無いことにリオンも気付いたようだ。


「ああ。どうやら女の方は持って行ったようだな」

「ネーヤは連れ去られたのか!?」

「生きてる望みは低いがな。ミノタウロスは普段群れで暮らす魔獣だ。それが一匹ということは偶然だったんだろうな。この里に至る道を見つけたそいつは3人を襲い、若い男はその場で食べて、女は群れへのお土産として持って行ったんだ」

「そんな……なんてことだ」

「追うぞ。グランス。こいつが群れに合流する前に倒す。でないと早晩里にミノタウロスの群れが襲ってくるぞ」


 魔獣の生息地と人里とはこれまで湿地帯によって隔絶されていた。しかし、そのミノタウロスは偶然にも湿地帯を抜ける道を見つけてしまった。


 新たに縄張りになりそうな土地。そして餌場を見つけてしまったのだ。

ランドじゃわからないだろうと思って、三人称でもオバリー大尉って書いてましたけどやっぱり違和感……今更ですけどね(-_-;)


読んで頂きましてありがとうございます。よろしければブックマーク、評価を頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ