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異種族コミュニケーション

3月3日はうさぎの日だそうです。

 惑星リデルタには魔獣、亜人種といった、何らかの因子を受けて異常進化した生物が数多く暮らしている。その発生原因は、神、精霊、悪魔、謎の宇宙エネルギー、生命の奇跡など様々だ。そんな彼等は、個としては通常の生物より強力だが、正当な進化を辿らなかったが故に、環境に必ずしも適応しているとは言えず、種としては案外弱い。


 例えば魔森(ヘルヘイム)魔海(バミューダ)に住む大型の魔獣は、魔界を出ればその巨体を維持するための食料を確保できず餓死してしまう。亜人種にしても、エルフは出生率が低く、数が少ないため種族単体で文明を作り出すことが出来ないし、獣人種にいたっては、持って生まれた獣の習性が故に他種族との共存が難しい。


 そりゃ、ウェアウルフみたいに他の種族を襲って食べちゃうような種族が嫌われるのも仕方がないと思うし、逆に兎系獣人なんて、可愛すぎてハントされまくった結果、他種族が信用できなくなって隠れ里に引きこもってしまった。


 因みに猫科獣人種は凶暴で気まぐれなため、基本的に友好関係を築くのはほぼ不可能だそうだ。まあ、これはあくまで種族としてだ。個人としてはまた別の話。


 個人としてみれば、亜人種は人の上位互換と言って差し支えない。しかし、種としては決して優れているとは言えず、結果この世界では圧倒的に数が多い人が威張っている。


 野生の動物がそうであるように種族が違えば共存が難しい。でも、実はそんな亜人種が集まって、仲良く暮らしている奇跡のような場所がある。フィンレって言うんですけど。



✤✤✤



 エルフの里に他の種族の里から族長達が集まっていた。フィンレに暮らす種族はエルフを中心に纏まっており、彼等にとってセフィリアはまさに生き神様だ。彼女の言葉は絶対であり、来いと言われれば喜び勇んで参上する。


 フィンレで暮らす亜人種は、兎系、羊系、獅子系の獣人。それからドワーフ、ヤシャ、ネレイス、ナイトメア、エルフの8種族。ネレイスとは水陸両用種族であり、ナイトメアとは、地球ではサキュバスやインキュバスと呼ばれる悪魔と似たような特性を持った方々である。空は飛べないが。


 セフィリアはカノンが二柱の精霊王の守護を受けたことを明らかにし、カノンが15歳になったらエルフの長の座を明け渡すと宣言。集まった各種族の族長たちを驚かせた。


 セフィリアはその場で、オバリー大尉、リオン、レノア、ファーファのことも紹介する。警護対象に置き去りにされたオバリー大尉達は、その後エルフの里で厄介になっていた。


 フィンレに暮らす者の中には人と出会うこと事態始めてな者も多く、興味津々な様子でセンチュリオンからの客人を歓迎した。中には人に警戒心を露わにする者もいたが、セフィリアが彼等が自分と共に戦った戦友であると語ると、そういった目も消えていった。


 堅苦しい話が終わればコミュニケーションの時間だ。


 セフィリアは自身に献上された品や金品を各種族に分配し、酒を振る舞う。


 オバリー大尉は族長達の環に入り、剣術談議に盛り上がってた。


「玄鋼の剣か。こうしてじっくり見ると中々に美しいな」


 厳めしい顔をしたドワーフの長、ワグリンが、オバリー大尉の剣を眺めて感嘆の声を漏らす。


 玄鋼とはセンチュリオンの武器に使われているやたら重くて固い鋼のことだ。センチュリオンでしか産出されない特殊な金属で、北西諸国連合の国にしか輸出されていない。色はやや黒みがかっており、光沢も鈍いため、ぱっと見は地味でよく安物と勘違いされるが、盗難品が他国に出回った際には、ミスリル製の武器の10倍の値が付くと言われる。使いこなせる人間は限られるが、逆に我こそはと、玄鋼の武器を求める戦士は多かった。また、見た目にしても、機能性重視で飾り気の無い無骨さと、玄鋼のいぶし銀の輝きに魅せられる者は少なくない。


 ファンタジー世界のお約束に漏れず、リデルタに暮らすドワーフも鍛冶や建築が大好きである。ワグリンはかねてからセンチュリオン王国で使われている武器に興味を持っており、これ幸いとばかりに武器を拝見させてくれるように願い出た。


 自分達が他国で化け物扱いされているせいか、センチュリオン王国では亜人種への偏見はほとんどない。オバリー大尉は長達の輪に加わり、快く愛用の剣をワグリンに見せた。


 他の種族の族長達も交代で剣を見せてもらって、その重さに驚いていた。こんな武器を本当に人が扱えるのかという疑問に答えるため、オバリー大尉が軽く演武を披露する。


 しかしオバリー大尉。本当はセフィリアと談笑するヤシャ、ネレイス、ナイトメアの女族長が気になる様子。ヤシャの長は7歳になる娘を連れていたが、ネレイス、ナイトメアの長は若く美しい未婚の女性だ。しかも、どちらも素晴らしく魅惑的な肢体に、とてもお子様には見せられないような目のやり場に困るほど露出の多い衣服を身に着けている。


 剣を持たせりゃ嵐のごとし。剣豪ランド・オバリー。邪念を振り払うかのように剣を振るう。その益荒男の剣舞に、族長達から惜しみない賞賛と拍手が贈られる。


 その間、リオン、レノア、ファーファの3人は子供達グループのに交じって交流を楽しんでいた。


 集まった各種族の族長達は、時代を担う自分の子供を連れてきていた。これはセフィリアの指示があったためで、カノンとの顔合わせの場としたかったのだろう。元気な子供達を眺めることが出来てセフィリアは満足そうにしている。


 はっけよい、のこったーーっ!!


 褌一丁になったリオンが相撲をとっている。相手は同じ年頃の女の子だ。


 肩まで伸びたふわっとした白い髪。前髪からは赤いくりっとした目が覗く。その頭の上には白い毛に覆われた長い耳。彼女の名はラピア。兎系獣人の長の娘である。


 相撲は異種族とのコミュニケーションとしても重宝されている。世界中どんな種族でも、組み合って相手を倒す似たような競技や遊びがあるからだ。各種族によって基本的なルールはあまり変わらない。


 正々堂々、裸になって力と技を競い合う。それが相撲だ。皆、土俵の上ではひとりの力士であり、そこに種族や性別の垣根は存在しない!!


 ラピアはリオンのまわしをとり(実際には褌だがここではまわしと表記する。異論は認めない)張りのある膨らみかけの乳房をリオンの薄い胸板に押し付けリオンを吊り上げようとする。


 兎系獣人は他の獣人と比べると強い種族ではないが、人よりは高い身体能力を持っている。相手が女の子とはいえ、リオンはやや押され気味だ。体格も同じくらいで、強い力で吊り上げられて、彼の身体は何度も浮かび上がる。


 積極的に攻めてくるラピア。リオンもラピアのまわし(尻尾がある獣人式の締め方をした褌)を掴んでなんとか堪える。そんな状況。


 お互いに相手を吊り上げようとまわしを引く。相手を引き付けるため、リオンの手はラピアの尻の部分に回される。そこにあった馴染みの無い感触。それは綿毛のようなラピアの尻尾に触れたものだった。


 尻尾の下の部分でリオンはラピアのまわしを引く。


「ひゃぅ!? ふぅ……んっ……」


 ラピアの口から漏れた甘く、熱い吐息が耳を撫で、一瞬リオンの心を惑わせる。


(痛かったのかも)


 優しい性格のリオンはラピアを心配して力を緩めてしまう。だけど、その隙をラピアは見逃さなかった。


「えいっ!」


 高らかに持ち上げられてから地面に叩き落とされるリオン。


 周囲から歓声と、約二名の悲鳴が上がる。


「ふぅ、な、なーんだ。センチュリオンの兵士っていっても大したことないんだね」


 見事勝利したラピア。息も絶え絶えになりながら、リオンを見下ろして得意げな笑みを浮かべた。


「ばーか。手加減されてるんだよ」


 そんなラピアをその父親が嗜める。兎系獣人の長、デビットだ。歳は20代後半でふたりの娘を持つデビットだが、小柄で若く見えるという兎系獣人の特性故に10代にしか見えない。


「えー、それ本当? もしかして女だからって手加減したの?」

「いや、そんなことしないよ。僕は本気だった」


 父親の言葉に可愛らしく口を尖らせるラピアだが、実際手加減なんてしていなかったリオンは本気だったとそれを否定する。


「ほら、この子もそう言ってるじゃん」

「だったら、そいつの剣を持ってみな」


 デビットは脱いだ服の上に置かれていた彼の剣を指さした。目線でリオンの了解をとると、ラピアはそれを取ろうとする。


「うわっ!? 重っ!? なにこれ!?」


 普通の剣とは明らかに違う重量に、ラピアは驚いて声を上げた。持てない程ではないが、それで戦うのは彼女の力では無理そうだ。


「ははは! センチュリオンの兵士はその剣を軽々と振り回すんだぞ。その少年が本気なら、お前なんざ速攻で負けてただろうさ」

「えーっ! そんなぁ」


 手加減されていた上に嘘までつかれたのが不満だったようで、頬を膨らませてラピアはリオンを睨んだ。


 ラピアはフィンレから出たことが無い。人に会ったことも今日が初めてで、センチュリオンについての知識は、セフィリアが昔一緒に帝国と戦った国という程度でしかなく、加護やその強さについては全く知らなかったのだ。


「いや、その剣を振るとき、僕達は女神の力を借りて筋力を高めるんだ。でも相撲をとるのに女神の力は借りれないからね。誓って僕は本気で全力を出していたんだよ」


 リオンが女神タグマニュエルの加護と聖炎について説明するが、ラピアはまだ納得がいかない様子だ。


「ふーん。そっか。でもそれを使えばキミはボクに勝てたんだよね?」

「かもしれない。でも相撲は自分の力で勝たなきゃ、本当に勝ったとは言えないよ」


 リオンが説明しても、ラピアはどこか納得していない様子だった。人は獣人より力で劣る。なのに彼はハンデを背負いながら使える手札を使わないという。その理由がいまいち理解できなかったのだ。


「そうかなぁ。キミは人なんだし、普通にやって獣人のボクに勝てるわけないじゃん。キミは獣人であるボクのことをズルいとは思わないの?」

「うん。思わないよ。君と僕。全力で相撲をして君が勝って僕が負けた。それだけだ。負けて悔しい気持ちはあるけど、勝てればいいみたいな恥ずかしい勝負を、レノアやファーファの前で見せられない」


 幼馴染で婚約者だというふたりの少女。同性の自分から見ても可愛い彼女達の前でこの少年は負けた。それも豪快に吊り落とされるという格好悪い負け方だ。もし、自分が妹の前であんな負け方したとしたら、ショックで深い穴に潜ってしばらく出てこれないと思う。


「相撲でその聖炎ってのを使うことは、女に相撲で負ける事より恥ずかしい事なの? それも大切な人の前で」


 リオンは晴れやかな笑みを浮かべる。そんなの決まってるからだ。


「もちろん。僕の周りは強い女の子ばかりだからね」


 その後少年、少女達は相手を変えながら相撲コミュニケーションを楽しんだ。

兎系獣人の相撲では吊り合いが基本。獣人は力があるので女の子でも豪快に勝敗が決まります。


読んで頂きましてありがとうございます。リオン君が許せないと思ったら是非ブックマークをお願いします。

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