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えりゅたんぱわーあっぷ!

 フィンレに来てから5日が過ぎた。私はSFXー0改めイクスショアラのマニュアルのフルインストールが完了。ヘキサ様の元で操縦訓練に励んでいる。シミュレーションでの戦闘訓練の他に、実際にイクスショアラを飛ばして宇宙に行って、宇宙遊泳や、お隣の惑星への着陸なんかを経験した。


 宇宙から見た惑星リデルタはとても綺麗で、とても小さかった。惑星を覆う水も大気も、危ういバランスで成り立っている小さな小さな生命の箱庭。それが私達が暮らす世界だったんだと気付かされた。


 それからエレメント00。太陽の精霊に挨拶するために太陽へと向かった。アスラネットワークサービスが入植時にコンタクトをとった原初の精霊であり、神と共にリデルタを見守っている存在である。


 太陽の精霊は、アスラネットワークサービスにリデルタの住民への過度な技術を与えないことを求めた。リデルタの住民が自分達の力で宇宙へ進出するまでどうか見守ってほしいと。


 神そして精霊という超次元の存在は、他の惑星からみれば喉から手が出るほど欲しい貴重な資源であるらしい。


 神と精霊は、自分の存在が侵略者を呼び込む事を危惧していたが、今のリデルタの文明では他文明からの侵略者に対抗できない。そこで、友好的な接触をしてきたアルコード文明人に対してリデルタの守護を委託したのだ。自分達の育んだ生命が、星の海へと飛躍するその日まで。


「エリュシアリア・ミュウ・センチュリオンは、守護者としてあらゆるから外敵から惑星リデルタとそこに住む生命を守護することを誓います」


 太陽の精霊の前で、私はリデルタを護る誓を立てて、私の守護者生活は始まったのである。


 ……センチュリオン式の誓のポーズをとったとき、ヘキサ様が噴き出したの私、絶対忘れない。




✤✤✤




 イクスショアラのコックピットは、重力が遮断された直径6メートル程の球体で、中心にパイロットが乗るシートが浮かんでいる。


 操縦席に座る私の目の前を、ふよふよと浮かぶヘキサ様。たまに頭から伸びたメカニカルな耳をぴこぴこ動かしながら、端末で先ほどのシミュレーションの結果を眺めている。ハイレグレオタードから伸びた細い手足を組んで、集中しているように見えるが、ぶつかりそうでぶつからないし、お尻をつつこうとしても避けられてしまう。無重力空間でも自由自在なヘキサ様。SFでおなじみの慣性制御ってやつかと聞いたら、念動力に近いというファンタジーな返答が帰って来た。


 イクスショアラはまだ素の状態である。それを私に使いやすいように調整するのもヘキサ様の仕事であるらしい。ヘキサ様から改善点などの要望を聞かれた私は、早速ロケットパンチをおねだりする。


「ヘキサ様。ロケットパンチ! ロケットパンチ付けてください!」

「は? 何故そんなふざけた武器をつけなきゃいけないんですか? 嫌ですよ」

「でも、最後に出てきたロボットが使ってたじゃないですか!」

「守護者様の記憶の中にあった地球の兵器を参考にしてみただけです。挑発くらいには使えるかとおもったんですけど、まさか本当に馬鹿正直に殴り合いに行くとは思いませんでした。でも、そんな挑発に乗ってしまうお猿さんはこの宇宙にあなた様しかいませんから意味ありませんよね?」

「うきーっ!」


 どうやらヘキサ様にはロケットパンチの魅力が分からないらしい。巨大変形ロボットなんて浪漫の塊みたいな代物作っといて、なんでロケットパンチは駄目なんだよ!?


「守護神の外観は、リデルタの住民の希望の象徴となるようにと、わかりやすい英雄像として、騎士に竜の意匠を組み合わせてデザインされました。そんな英雄の腕がいきなり飛んでったら、住民の皆さんがびっくりしてしまいますよ?」


 こんな巨大ロボット出てきた時点でびっくりするわ!


「主砲のプラズマインパクトガンが腕に装備されてるんです。腕を飛ばしたら戦力低下するじゃないですか」

「飛ばした腕から砲撃するとか?」

「それならラピッドエッジがあるでしょう。大体、殴るより主砲撃った方が強いので今度はちゃんと主砲撃ってください。はい、論破です論破」

「うきーっ!」


 効率論語るなら最初からそもそも巨大ロボットである必要無いだろうが! ロボット兵器の存在意義が、実用性より浪漫と様式美にあることを理解していないようだ。自分は美少女アンドロイドのくせに何故だ?


「もう。どうして可愛い顔してあなたは、直ぐ手や足が出ちゃうんでしょうね~?」

「な、なんででしょうね?」 


 ヘキサ様は私が格闘戦を行いたがるのが気になるようだ。


 すぐに手や足が出てしまうのは、たぶん前世で私に叩かれて喜んでた兄のせいだと思う。曖昧に返すと、ヘキサ様は私の前に飛んできて綺麗な顔を向けると、その手で私のほっぺを挟んでむにゅむにゅと捏ねはじめた。


「ひゃあ!? だ、だってせっかく腕も脚もあるんだし」

「あなたは原始人ですか? ちゃんと武器があるんですから使ってください。大体このシミュレーションは、火力のゴリ押しでS評価がとれるはずだったんですけど」


 なんだそのクソゲー。


「で、でも、パンチで倒せるのにビーム撃つのって効率悪くないですか?」


 そう考えてしまうのは、たぶん前世でやってたゲームの影響だろう。低燃費の格闘武器で倒せる敵に、弾数やエネルギーを食う射撃武器を使いたくないっていう心理が働いてしまうのである。決して私が乱暴だとか、がさつだからというわけではない。はず。


「低リスクで倒す方が合理的だと思いますけど? エネルギーは無尽蔵です。ビームをケチる必要はありませんよね?」

「はひ。ほの通りでちゅー」


 またもや論破された私。ぎゅーっとほっぺを挟まれてたこちゅーにされてます。


「そのくせデリバリーを機雷の散布で使い果たすとかどういうことですかね~?」


 びろーんとほっぺたを引っ張られる。


 それは予測攻撃が決まると気持ちいいからですよ! 計画通りって言いたいじゃないか。って痛い、痛い!


「殆ど当たってないじゃないですか」

「痛い。痛いでふ。離ひてくだひゃい」

「もう、しょうがないですね」


 たてたてよこよこまる書いてちょん。


 解放してくれたけど酷い。ぴえん。


「使えませんね。外しちゃいましょうか」

「えー! 機雷大好きなのに」

「戦術の幅を広げるのに有効かと思いましたが、ギャンブル的な使い方しかしないんじゃ宝の持ち腐れです。機雷は減らして、デリバリーの搭載数を増やしましょう」

「ぶー」


 抗議の甲斐もなく、空間に浮かんだコンソールを叩くヘキサ様。機雷は3分の1に減らされてデリバリーの数が2割増加される。


「あと、使用頻度が高いプロミネンス砲のチャージ時間をカバーしたいですね。ヒステリックエンジンの式を変更して瞬間出力を上げましょう」


 ヒステリックエンジンとは、7次元空間と3次元空間の矛盾で起こる空間の歪みからエネルギーを生み出すイクスショアラの動力源だ。絶対解けない式で宇宙が「うきーっ!」って癇癪を起こしている状態をエネルギーにしていることからその名がつけられたらしい。


 ヘキサ様が操縦席の下から指先ぐらいの小さなパーツを取り出して端末に差し込む。まさかこんなメモリーカードみたいなのが、超新星爆発3個分の出力を生み出す動力炉とは、どこぞの技術長でも思うまい。


 ヘキサ様は数分でヒステリックエンジンを調整し終えると元の位置に戻す。


「ややピーキーになって安全性が低下しますが、まあ誤差の範囲内です」


 ……宇宙大丈夫だろうな?


 本来ヒステリックエンジンは宇宙が崩壊するまでエネルギーを生み出す。超新星爆発3個分というのは、安全のために設けられた上限なのだ。

 

「あと接近戦用の武器の追加も必要ですね」

「え? いいんですか?」


 すぐに手や足が出る原始人と言われたばかりである。


「蹴ったり殴ったりするよりましですからね。それに人間が操縦する以上、想定外の事態で懐に飛び込まれる事態も想定するべきでした」


 人間ってのは感情に左右され、時に直感に任せたりする不安定な存在だ。中でも脆弱で、僅かな時間で寿命を迎えてしまう人は、本来超光速戦闘どころか宇宙進出にも向いていない。それをイクスショアラは、電脳空間へのフルダイブやら時間加速やらといった技術を駆使して、やっとこさ人でも操縦出来るようにしている。


 機体のAIが戦闘を全部やってくれるなら、素の状態でも完璧な仕事ができるんだろうけど、生憎操縦するのは人間である私だ。得意不得意もあれば性格的な趣向やら、癖もある。


 人間ってやつは、訓練されたプロでさえ、時速100キロで飛んでくるボールを確実に撃ち返せない程度の反射神経しかなく、20世紀の戦闘機の機動性に耐えられず意識を失うくらいに脆弱で、21世紀の市販コンピューターにボードゲームで勝てなくなるレベルの知能しか持っていない、最低最弱のクソパーツだ。そのくせ、最も大事にされるべき命ってやつを持っているから、安全性まで考慮しなければならない。


 最強の戦闘マシーンの操縦を、クソパーツである人間に任せるっていうんだから、アルコード文明人にとってリデルタの防衛は絶対ではないのだろう。まあ、守護者が負けてリデルタが滅びてもそれは運命だし、チャンスを与えてくれてるだけありがたいって話ではあるんだけど。


「あのあの、だったら刀っぽい武器が欲しいです!」

「刀……実体剣ですか。それならラピッドエッジがあるじゃないですか」

「いえ、それとは別で」


 確かにラピッドエッジは組み合わせることで様々な形状の武器を形成できる。だけど、さっきのシミュレーション中でも、独立攻撃ユニットとして使えるラピッドエッジは乱戦の中忙しく飛び回っていて、手元に持ってくる余裕がなかった。


「うーん。しかしそれは……」

「駄目ですか?」


 胸の前で手を組んで、目を潤ませて完成! えりゅたんおねだりポーズ!


 ちょっと図々しいけどさ。イクスショアラの腰に刀があったらめっちゃカッコいいと思ったんだもん。それにエリュシアリアの武器は太刀だった。


「鬱陶しいからやめてください」


 しかし、アンドロイドには通用しなかった。ぷにっと鼻をつままれる。しかもこんなに可愛い幼女を鬱陶しいとか、人の心は無いのか?


「駄目というか、そもそも守護者様は剣を使えるんですか? まだ剣の訓練はさせてもらってないんでしょう?」

「う……」

「刀はとても扱いが難しい武器です。まだ幼い守護者様が扱うならこん棒でも持ってた方がマシですよ」


 火器管制システムによる補正を受けられる射撃武器と違って、近接武器の扱いは操縦者の技量に大きく左右される。操縦者が碌に扱えないような武器をイクスショアラでも扱おうとしても無理なのだ。シミュレーションで最後に敵のロボットにやられたのも、私の格闘技の技術がしょぼかったからだ。モーション補正? 無いよそんなもん。ヘキサ様の言う通り、刀を持つくらいならこん棒を力任せに振り回した方がマシなのである。


「でも、それじゃああまりにもイメージが……」

「そうなんですよね。原始人の動きでこん棒振り回してるようでは、人々の希望の象徴になりえません。剣術初心者の守護者様が使うなら、お猿さんが振り回しても騎士に勝てるくらいの武器でないと」

「そんなのあるわけないじゃないですか」

「そんなことないですよ。例えばこれなんてどうですか?」


 猿扱いされて内心また「うきーっ!」ってなってる私にヘキサ様からデータが送られてくる。


「ブレイブレイザー。高速振動する光波で刃を形成し、目標物を切断する斬撃兵器です。発生器も小型で軽量なため、機体のデザインを変えることなく腕部に搭載できるのでお勧めです」


 これはビームサーベルじゃないですか!


 触れれば斬れるというチート武器。確かにこれなら適当に振り回してるだけで騎士にも勝てそうだ。


「これにします」


 手のひらくるり。かっこ良い武器が貰えるなら文句なんてあるはずがない。


「はい。では腕部と尾部にブレイブレイザーを追加しましょう」

「わーい! ありがとうございますヘキサ様!」


 両腕部に腕部に一基ずつ。尾部先端には更に大型のブレイブレイザー搭載されることになった。尻尾の先からビームの剣が出るなんて素敵。早く使ってみたいですわ。


 おっと。嬉しくてなんか変な言葉が出た。


 守護者には、イクスショアラの武装を生身でもある程度使用できるという特権がある。機雷みたいな実体弾は無理なのだが、ビーム兵器であるブレイブレイザーはおそらく使用可能だ。光の剣を振るう自分の姿を想像してわくわくしてしまうのは仕方ない。


 ブレイブレイザーはどうやら本体への内蔵型で、腕から直接刃が出るタイプのようだ。でもどうせなら発生器を柄型にして手持ちにできないだろうか? そう私が提案してみると、ヘキサ様は検討してみると言ってくれた。


「柄型ですか……確かにその形状の方が馴染みやすいでしょうね」


 やった! ビームサーベルゲット!


「あの! ブレイブレイザーの発生器を連結させて両端からビームを出すことってできませんか?」


 おねだりポーズ再び。


「は? そんな危ないもの絶対に使わせませんよ? 地球にあるフィクションの剣術真似されても困りますし、やっぱり柄型は却下ですね」


 今度は両耳を引っ張られた。ぴえん。


「ほらほら。改修はやっておきますから、守護者様は遊びにでも行ってきてください。カノンが不貞腐れていましたよ」


 そういえば、私を連れていかれてご立腹なカノンが、毎日のようにヘキサベースに襲撃をかけているらしい。ヘキサベースは通常見えないように光学迷彩をかけているんだけど、カノンは精霊の力で大方の位置を特定し、盛大に魔法をぶっ放しているようだ。ヘキサベースは精霊王の力でもびくともしないんだけどさ。


 ヘキサ様に首根っこ掴まれて、ぽいっとコックピットから放り出される。 


 イクスショアラの改装作業に忙しいのはわかるけど、私の扱いが日に日にぞんざいになってやしませんかね? まあ、畏まった態度でいられるより、親しみやすくて良いんだけどさ。なんかシナリィに似てきた気がする。


 悪い気はしない。だって私、綺麗なお姉さんに弄られるの大好きだから。でも、どうせなら体型の方も私好みにしやがれってんだツルペタアンドロイドめ。などと考えていたら、何処からともなくスパナが飛んできた。


 あいたっ!

読んでいただきましてありがとうございます。

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