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精霊の森

地の文で流します。

 精霊の森とは大陸南西部に広がる森林地帯だ。その広さはちょっとした国にも匹敵するほどで、森都フィンレはそのどこかに隠されていると言われている。


 かつては多くの探検家や権力者がフィンレを探し出そうと躍起になっていた。だけど300年くらい前に、帝国がフィンレを攻め滅ぼそうと精霊の森へ侵攻する事件が起きる。


 大陸南西地域は元々精霊信仰が根強い土地柄で、当時そこにあった国々はフィンレやそこに住むエルフ達とも友好的な関係を築いていたという。だが、帝国はそれらの国々に圧力をかけ、フィンレ侵攻の先兵として兵を出させたばかりか、帝国への恭順を示す証として国内にいたエルフを殺させたのだ。


 精霊を信仰していた国家の裏切り。それは当時既にエルフの長にあったセフィリア様を大いに怒らせることになる。


 帝国と周辺諸国の連合軍は10万を超える兵で精霊の森に侵攻したが、セフィリア様の操る風の精霊王の力により、たった一晩のうちに壊滅。生き残ったのは、口伝するためにあえて生かされた僅かな者だけだったと言われている。また、帝国のいいなりとなってセフィリア様を裏切った国は風の精霊が人に力を貸さなくなった。


 その時セフィリア様が使用したのが、広範囲を真空にする魔法『サイレン』だったことから、この事件はサイレンナイト事件と呼ばれることになる。


 人々はこの歴史上もっとも静かで残酷な殺戮に畏怖し、それ以来、フィンレに手を出すことは禁忌とされるようになったのだ。


 護衛部隊と別れた私達は、荷物を運ぶための二頭の馬を連れて、徒歩で精霊の森へと入った。それから2日森を歩いて、大陸における精霊信仰の総本山とされる神殿に立ち寄る。その名もセフィリオン神殿。誰を奉っているかは言うまでもないだろう。


 セフィリオン神殿は、かつて帝国の圧力に屈してセフィリア様を裏切った国々によって建設された。300年間必死にご機嫌取りしてるみたいだけど、どうやら未だに許してもらってないらしい。


 セフィリア様の急なご来訪……というかご降臨に神殿の人達は大慌てだ。同行していた私達を何者かと勘ぐっていたが、セフィリア様が自分の友人であると伝えると、察したようにそれ以上詮索しなかった。また、神殿の人達はカノンの事が気になって仕方ないようだったが、セフィリア様はそれも無視していた。どうやらカノンを教えていないらしい。


 セフィリア様は歓待しようとする神官達を制して、自分の馬車を用意を命じた。


 セフィリア様専用の馬車と聞いて、さぞ豪勢なのかと思いきやそんなことはない。飾り気なんてまったくない。窓すらついていない頑丈そうな木の箱だった。中には里に運ぶための麦などの食料や、布や金物といった生活用品が詰め込まれている。これらは精霊信仰の国々からセフィリア様へと献上された品々だ。


 無骨な馬車は、さながら現金輸送車か動く宝箱といったところだろうか。ただ、屋根の上に太い柱が、まるで取っ手のように取り付けられているのが気になる。嫌な予感しかしない。


 私達は連れてきた馬を神殿に預けると、セフィリア様専用の馬車に乗って早々に神殿を後にする。神殿に滞在したのは、馬車の用意ができるまでの僅かな間だけだ。


 私達はお茶の一杯も頂くことなく神殿を出る。神殿の人達はセフィリア様の連れである私達に対しても丁寧な態度をとってはいたが、向けられる視線は決して好意的とは言えないものだった。


「あの人達も薄々は気づいているでしょうから、気にしなくていいわ」


 精霊を信仰する彼等にとって、エルフはその御使いであり、崇拝の対象である。しかし、エルフ側からしてみれば人の国の宗教など知ったこっちゃないわけで、どうやらほとんど一方的な片思いであるらしい。


 強大な帝国に対して彼等の祖先はあまりにも弱かった。国を守るためという事情があったにしろ、帝国に言われるがままにエルフを殺し、兵を出した国々はセフィリア様からの信用を失い、風の精霊からも見放されたのだ。


 セフィリア様が、唯一帝国に屈することなく戦い続けるセンチュリオン王国だけを戦友(とも)として信頼していることを、神殿の人達は理解している。しかし、現在においても南西地域の国々は帝国を恐れ、北西諸国連合に対し鎖国を行っている。我らが筋肉の女神タグマニュエル様も邪神扱いだ。


 まあ、わかりやすく恩恵を与える精霊と違って、神様のありがたみはわかりにくい。特にタグマニュエル様は自分が庇護する北西諸国以外に加護をあたえていないから、人気がないのは仕方がないのかもしれない。


 私は黙って馬車を見送る事しかできない神官達が哀れだった。


 彼等がどれだけ精霊を、セフィリア様お慕っていてもセフィリア様が彼等に微笑むことはない。彼等の祖国は帝国に通じ、フィンレやセフィリア様の動向を探るよう神殿に圧力をかけている。神官達は祖国と信仰の板挟みになりながら日々精霊に祈りを捧げているのだ。センチュリオンへの妬みと嫉妬で、狂いそうになりながら。


 今のセンチュリオン王国の繁栄も、セフィリア様からの信頼も、我が王国の先達達が戦って戦って、戦い抜いて、幾多の屍の上に築き上げたものだ。


 私は王女として、その信頼と祖先の志を裏切らないようにしなければと胸に誓う。


 森に通された道を馬車は進む。このあたりは聖域とされ、フィンレの住人以外の立入を禁止しているらしい。重たい馬車が悠々と通れる道も、エルフ達によって整備されたものだ。


 やがて馬車は木々の間を抜けて、開けた場所へとたどり着く。そこは背の低い草と色とりどりの花々に覆われた美しい湖畔だった。


 まるでユニコーンや妖精が訪れてくつろいでいそうな、幻想的な光景に一同が揃って感嘆の声を上げる。


 湖面に正三角形の霊峰ヘイロゥが写り込んでいる。私は遠い日本の富士山を思い出してしまい、ちょっぴり切なくなった。


「さあ! ここでキャンプするわよ!」


 セフィリア様はここをキャンプ地とする宣言をすると、馬車を引いていた馬を解き放ってしまった。神殿で飼われている馬は、自分で神殿まで帰れるように訓練されているから心配無いらしい。


 いや、お馬さん無しでこのごっつい馬車どうするんだろう? オバリー大尉にでも引かせるつもりなのだろうか?


 私達の疑問にセフィリア様は答えることなく、オバリー大尉は青い顔をして、カノンもそのうちわかりますと言うばかり。


 どうやら、フィンレに入るには条件があるらしく、セフィリア様でさえ、いつでも出入りできるわけではないらしいのだ。


 それから数日。湖畔でのキャンプは楽しかった。


 午前中はオバリー大尉の指導のもとで訓練を行い、午後は湖畔を駆け回ったり、湖に飛び込んだりと自由に過ごす。夜は星空の下でバーベキューだ。


「カノン様! それっ!」

「ひゃぁ!? 」


 水かけっこしているカノンとレノア。水は少し冷たいが、訓練で火照った身体には心地良い。


 当然、水着なんて着ていない。皆素っ裸である。


 広場があれば、褌一丁になって相撲をとり、川があればすっぽんぽんになって飛び込むのがセンチュリオンっ子である。


 レノアもファーファも貴族令嬢とはいえ田舎育ち。これまでよく領民の子供と一緒になって遊んでいたらしく、中々にわんぱくだ。


「大丈夫。水は友達。怖がらないで顔をつけて」

「あぷあぷ……」


 私はというとファーファに泳ぎを教えている。


 前世知識もあって、私は泳ぎが達者である。湖に飛び込んで久々に泳ぐことを堪能していたところ、泳ぎが苦手なファーファにコーチを頼まれたのだ。


 当然、私はコーチを引き受ける。むっちむちのファーファのお尻や足を公然と弄り回す権利を逃せるはずがない。


「ほら、カエルさんの気持ちになって、足はこう」


 ファーファの足首を持って、ぐいぐいっと足を曲げてかえる足を教える。鍛えているだけあって、ファーファは意外と筋肉質だ。動かすたびにうねるように流動する筋肉が見て取れる。


「ひゃん! 触り方が、いやらしい……です」

「そんな我儘な身体してるファーファがわるい。ほれほれ、もっと力抜いて、足開いて」

「シーリアさん!? きゃっ!? そ、そんなとこ触っちゃ……だめ……ぶくぶくぶく」


 そんな私達の様子を、子供好きのセフィリア様は私達が戯れているのを毎日飽きもせず見守っている。


 緑の上に腰を下ろしたセフィリア様の姿は絵画のように美しい。まるで湖の女神のようだ。


 目つきはちょっとばかり怪しいけど。


 だが、ロリコンと断じるなかれ。長い時を生きるエルフでも、子供の時間は人と変わらない。子供の時間というのは一瞬のうちに消え去ってしまうきらめきであり、何よりも美しく、尊いものとセフィリア様は以前熱く語ってくれた。


 女性陣が水遊びに興じている間、オバリー大尉とリオン君の男性陣はというと、離れたところで談笑しながら釣り糸を垂らしていた。


「じゃあ、お前ら兵役が終わったらすぐに結婚するわけじゃないのか」

「はい。僕達が結婚したら、3家の領地をひとつにして新たに伯爵領とするそうです。そこでしばらく他の領主の元で、伯爵としての領地経営を実地で学ぶことになっています」

「なるほどな。未来の伯爵様か。いいじゃないの」

「本当は王立修学院に行きたいと考えてるんですけど、両親からは中々理解されなくて」

「そうだな。実地も重要だが、王都に出て同年代の貴族と付き合うことは、一生の財産になる。それに積極的に社交界にも出ていかなきゃ、折角の新しい伯爵領が田舎で埋もれちまうだろう」

「ええ。僕もそう思うんですが、両親は僕を中央へやりたくないみたいで……それに受験勉強しようにも、うちにはあまり書物も無くて」

「確かに。田舎の悩みだな。ご両親の説得はとにかく、勉強なら俺が見てやってもいいぞ? どうせ訓練の時間以外は暇だしな」

「本当ですか? それは嬉しいです!」

「ああ、未来の伯爵様に恩を売れるなら俺にとっても悪くない。ただ、やっぱり教材になる書物がいるな。フィンレにあるか、セフィリア様に聞いてみるか」


 男ふたり、絆を深めあっているようである。因みにだが、ふたり共釣りの腕前はさっぱりだ。ここへ来て毎日のように釣り糸を垂らしているが、これまで釣った魚がまともに食卓に並んだことは無い。魚はいつも女子勢が水遊びのついでに手づかみで捕らえている。それを指摘すると、男共は揃ってロマンがわかっていないと言う。


 悪かったね。女の子はロマンよりもマカロンの方が好きなんだ。


「今日も釣れませんね」

「ああ。まあ、いいじゃないか」

「レノアにまた怒られます」

「それもロマンさ。悪くないだろう?」

「まぁ、そうですね。でも、オバリー大尉って女性とお付き合いしたこと無いんですよね?」

「うるせーよ」


 オバリー大尉が脇でリオン君を小突く。


 湖面に大波がたって釣り竿が大きく揺れたのはその時だった。


「オバリー大尉!! あれ!?」

「ああ!? おいおいまたか……」


 見ると透き通った身体の竜が湖面にそそり立っている。水の精霊王(アクエリアス)だ。


 水かけっこで劣勢になったカノンがムキになって召喚したみたいだけど……まったく大人げない……いや、大人げないのは6歳児に手加減しなかったレノアかな?


「カノン様ずるい! シーリアさん! 私に『アンリミテッド』を!」


 やらないよ! たかが水かけっこで、なしてそこまでせにゃにならにゃならんのだ。一応切り札なんだぞ『アンリミテッド』は。


 案の定というか、すっ飛んでいたオバリー大尉とセフィリア様に、レノアとカノンはそれぞれはげんこつを落とされる。その日の夕食で、ふたりはお肉抜きにされて涙目になっていた。


 翌日の朝、楽しいキャンプも終わりを告げる。


 目が覚めると、空が巨大な建造物に覆われていたのだ。

読んで頂きましてありがとうございます<(_ _)>


オバリー大尉DT疑惑。

実は剣聖様やハクラも……

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