朝陽
朝日にしたくなかったんですよね(´・ω・)
炎の精霊王との戦いは夜が明けるころに終わりを迎えた。
炎の精霊王に押し倒されるように地面に倒れるSFXー0。だけどその後炎の精霊王からの追撃は無く、動きを止めた炎の精霊王が光の粒になって消えていく。その後に残されたのは生まれたままの姿で眠る……
「カノン!!」
コックピットを飛び出した私はカノンに駆け寄る。
「シーリアさま……」
虚ろな目を向けて、小さな声で私を呼ぶ。身体が熱い。最初に炎の精霊王を召喚した時と同じような症状だけど、呼吸は弱弱しく、汗もかいていない。
私は絞りつくされたかのように、力なく横たわるカノンの身体を抱き寄せる。
「カノン!! しっかりして!!」
もはや呼びかけに応じる体力も無いのだろう。カノンの瞳は開かれることなく、僅かに唇を動かすのみ。
症状からは重度の熱中症のようにも見える。だけど、熱中症の治療に私の聖炎による治癒魔法は使えない。体内から失われた水分や塩分を回復させることが出来ないからだ。
あの時、セフィリア様は一晩休めば回復すると言っていた。けれど、とてもそれまで持ちそうにない。カノンの命は今まさに尽きようとしている。
せっかく……せっかく助けられたのに!!
≪極度の疲労と脱水症状が見られますが、これはエレメント02の気配に釣られたエレメントがカノンに集まっているのが原因です。その為通常の治療では効果がありません≫
「ヘキサ様!?」
見ると傍らにヘキサ様の立体映像が映っている。
アルコード文明では既に精霊の存在を科学的に解明している。おそらくカノンの治療もできるだろう。しかし、アスラネットワークサービスは惑星リデルタの現地人への医療行為を制限している。
助けてください!!
私はそれが言えなかった。ヘキサ様は助けてくれない。それがわかっていたからだ。
誰でも神様以上の存在になれる文明に生きる彼女達は、法と規則を絶対に曲げない。
わかっている。わかっているけど、ヘキサ様からできませんと言われたら……
もしそれでカノンが死んだら……私は、ヘキサ様もアスラネットワークサービスも許せなくなる。
ヘキサ様が悪いわけじゃない。今日、世界を助けてくれたのはアスラネットワークサービスだ。
理屈では分かっていても、無理だろう。
≪守護者様、手を≫
「手?」
立体映像のヘキサ様が手で水を掬うような仕草をみせたので、私もそれを真似る。
すると私の手から冷たくてとても澄んだ水が湧き出てきた。
「これは? 私以外に特別な医療サービスは行わないのでは?」
≪その水はエレメント03からの本件へのお詫びだそうです。エレメント03の力が込められているので、飲ませればカノンの容体はすぐに安定するでしょう≫
エレメント03……水の精霊王か!? そういえば水の精霊王とエレメント01、地の精霊王はこの一件に不参加だった。
このタイミングでお詫びって、もしかしするとヘキサ様は、自分が手を貸すことはできないからできないからと、彼の存在に助力を頼んでくれたのだろうか?
≪エレメント達は今回の件で我々の力をよーく理解してくれようで、進んで後始末を引き受けてくださいました≫
恫喝に近かったのかもしれない。
≪さあ、早く守護者様≫
「あ、はい。 ありがとうございます」
しかし、飲ませるといっても、既に意識の無いカノンにうまく飲ませる方法が……
いや、ある。
私は意を決して水の精霊王から貰った水を自分の口に含んだ。
口から口へ。口移しというやつだ。もちろん初めての経験。初めてのマウストゥマウス。
カノン、お願い。戻ってきて。
願いが通じたのか、こくりと喉を鳴らし、カノンが水を飲みこむ。
変化は劇的だった。カラカラだったカノンの肌に艶が戻り、体温が下がっていく。
すごい! これが液体を司る水の精霊王の力!
呼吸も落ち着いて、どこか満足した顔をして眠っているカノン。私はお姫様抱っこで彼女を抱き上げると、膝立ちの状態で待機しているSFXー0を見上げた。
朝陽を受けてSFXー0の白い装甲がキラキラと輝いている。
「ありがとう。ヘキサ様。それに相棒」
≪こちらこそ。カノンを救ってくださいましてありがとうございます≫
礼を述べるヘキサ様。どうやらヘキサ様はカノンやセフィリア様とは親しい関係らしい。
「わたしは何も……」
≪いいえ、今回カノンが助かったのは、守護者様は戦闘中に何度もカノンに呼びかけていたからです。もし、守護者様の声が届かなかったら、カノンはエレメント02の中で意識を保つことはできなかったでしょう。救出できたとしても良くて廃人。恐らくは、エレメント03の協力を得ることも出来ず、命を落としていました。我々が半ば諦めていたカノンの命を救えたのは、想定を超える成果です。本当にありがとうございました≫
そう言って綺麗にお辞儀をするヘキサ様。
≪状況終了につき我々はこれで撤収いたします。フィンレでまたお会いいたしましょう≫
「え? このまま連れて行ってくれれば早いのでは?」
≪申し訳ございません。アスラネットワークサービスは、この惑星で交通、運搬サービスを行っていないのです。それでは≫
お役所かよ!!
SFXー0は立ち上がった後、ふわりと浮かび上がる。それから星の剣に変形すると西の空へと飛び去っていった。
まったく。なんて面倒臭い宇宙人なんだ。
その場に置き去りにされた私は、ちょっと寂しい気持ちで愛機を見送ったのだった。
仕方なく私はカノンを背負って荒野を歩く。それで気が付いたのだが、地面は炎の精霊王とSFXー0との戦いでボコボコだったはずなのにその後が見られない。
地の精霊王からのお詫びなのだろう。
それからしばらく歩いていると、馬に乗った兵士が私達を見つけて駆けつけてくれた。
「ブレイウッド二等兵!! いや、姫様!! カノン様も!! ああ、無事でよかった!! おっと、ご無事でなによりです!!」
その兵士はSFXー0のことなど何も聞かなかった。ただ良かったと、安心した様子で笑顔を見せた。
私が王女であることは既に知られされているみたいだ。もし、私が見つからなければ大問題。きっと必死で探していたのだろう。いや、王女かどうかなんて関係ないか。私の無事を喜ぶ兵士の表情からそう思った。
兵士の操る馬に乗せてもらって皆がキャンプしている場所へ戻ると、すぐにオバリー大尉が飛び出してきた。私を抱き上げて、嬉しそうにその場を回転する。
疲労と寝不足でハイになっているようだけど、その喜びようから、どれだけ心配されていたのかが伝わってきて涙が出そうになった。
「よかった!! 俺の首は繋がったぞ!!」
ああん? 結局自分の心配かこの男は!? そう思ったのはわたしだけではなかったようだ。
「何言ってんだこのへっぽこ大尉!!」
「やっちまえ!!」
「おい!? 上官への暴行は懲罰ものだぞ!? や、やめ……」
「私が許す!!」
「王女殿下のお許しがでたぞー!!」
「日頃の恨みを晴らせー!!」
クソ上司、みんなで殴れば怖くない。
その後オバリー大尉は兵士達に寄ってたかってタコ殴りにされた。もちろん、私も一発蹴っ飛ばしておいた。
巨大ロボットと大怪獣が一晩中暴れていたのだから仕方がないが、昨晩兵士達は一睡もできなかったみたいだ。そこで、今日一日は休息に当てて、移動は明日からと決まった。私だって疲れていたし異論はない。
「シーリアちゃん、あなたには本当になんてお礼を言ってよいかわからないわ。カノンを救ってくれてありがとう」
「いえ、カノンは自分の力で火の精霊王の束縛を解き、逆に支配下においてみせました。カノンが助かったのは彼女自身の強さがあってこそです」
「そう……本当に大した子だわ。この子も、あなたも」
カノンをセフィリア様に預けると私も休むことにした。仲良く一枚の毛布にくるまって、先に休んでいたレノアとファーファの間にお邪魔する。
寝ぼけたファーファに抱きしめられたと思ったら、今度は私ごとレノアがファーファを抱きしめる。ちょっと苦しい、でも幸せなサンドイッチ。満たされた気持ちで私の意識は落ちていった。
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