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その頃、王都では……

久々に王様達が登場。この時期はまだ近衛騎士団長がグレッグさんです。

 王は激怒した。


「ボルドめ!! どういうのつもりだ!!」


 手にした書簡をくしゃりと握り潰す。


 インヴィンシブルから早馬が着いた時には、エリュシアリアに何かあったかと心配を露わにしていた王だったが、受け取った書簡に目を通すやいなや、顔を真っ赤にして起こり始めた。


「失礼いますわね」


 書簡を今にも破り捨てそうな様子を見かねて、第1王妃ソフィアが王の手からそれを取り上げる。


 王の執務室には宰相のラーキン、近衛騎士団長のグレッグ、それにソフィア、ネリス、エルドリアの3王妃が集まっていた。


 ソフィアやエルドリアと違い、国政にあまり関わらないネリスがこの場にいることは珍しい。だが、幼い王子や王女を連れて視察に赴くことの多い彼女は、実は最も国民に親しまれている王妃だったりする。その日も、王都で行われる行事への出席の打合せの為に執務室を訪れていた。


 ソフィアは素早く目を通すと、書簡を他の者にも見えるように机の上に広げた。インヴィンシブから届いたのは、ボルドからの書簡の他にセフィリアからの親書も添えられていた。上品な羊皮紙に書かれたそちらもも丁寧に開く。そこには盟約に基づきエリュシアリアをフィンレに招くことが流麗な字で書かれていたが、エルフ独自の古風な言い回しと、達筆すぎる文字のせいでその場で読めた者は()()()()()だった。


「あら、まあ! エリュがセフィリア様とフィンレに」

「なんですって!! エリュを許可なく国外に出したというの!?」


 書簡にはエリュシアリアがセフィリアの招きでフィンレに向かった事が書かれている。期間は半年。理由はエルフの持つ知識と技術でエリュシアリアの加護の力を完全なものにするためとされている。


 内容を見た者の反応は様々だった。


 まず王と同じく怒りを露わにしたのは、エリュシアリアの実母であるエルドリアだ。書状に目を通した彼女は、怒髪天を衝く形相でボルドの更迭と、フィンレへの出兵を王に具申する。


「陛下。どうか私に兵をお貸しください。フィンレに向かい即刻エリュを取り返して参りますわ」


 エルドリアの実家は武闘派で知られるバーテック辺境伯家だ。彼女自身も優れた軍略家であり兵を率いるのもお手の物。彼女が外交の達人と言われるのも、バーテックが持つ小国なら3日で落とせるほどの兵力が背景にあることが大きい。


 とはいえ、流石に乱暴すぎる。窘めようとしたソフィアだが、その前に王がエルドリアを止める。


 ほっとしたソフィアだが、それは一瞬のこと。


「待てエルドリア! それならば私が出向こう。軍務大臣を呼べ!! 直ちに兵の動員を!!」


 ソフィアはずっこけそうになった。お前もか!?


「お待ちなさい!」


 ソフィアは、王とエルドリア。ついでに軍務大臣を呼びに駆けだそうとしたグレッグの頭を立て続けに扇子でひっぱたく。


「何をするか!?」

「何をするかではありません!! 貴方はフィンレと戦争をするつもりですか!?」

「エリュを連れ去られたのだぞ!?」

「フィンレとセフィリア様は数百年間我が国と共に帝国と戦ってきた盟友です。それにフィンレの在処は我々も把握していないというのに何処に攻め込むというのですか?」


 答えてみなさいと言わんばかりにソフィアはふたりを睨みつける。王もエルドリアは罰が悪そうに首をすくめてみせた。


「精霊の森を焼き払ってしまおうかと」

「私もそのつもりだった」


 再び扇子が二度、小気味の良い音を立てた。


「世界中を敵に回すつもりかしら? それにセフィリア様と戦うことがどういうことかわかっていますわよね?」


 かつてイグレス帝国が大軍を送りフィンレを滅ぼそうとしたことがあった。だが、セフィリアの怒りを買ったことで帝国軍は壊滅。帝国は大陸南西部への進行を断念することになる。それ以後、自分からフィンレにちょっかいを出す馬鹿な国はいない。


 いくらセンチュリオンの兵が強いといっても人間同士の話。精霊王には敵わない。それに、精霊の森は精霊信仰の聖地だ。それを焼いたとなれば、世界中が宣戦布告してくるだろう。ソフィアとて王やエルドリアの気持ちはわかるが、国、そして兵のためにも、武力を用いることを認めるわけにはいかなかった。


「し、しかし……」

「何かしら?」

「……スマン」

「……申し訳ございません」


 王とエルドリアを笑みひとつで黙らせると、ソフィアはラーキンへと向き直る。


「宰相様。セフィリア様からの親書の内容は確かなのですか? 本当にフィンレとの間にこのような盟約が?」


 セフィリアの親書を読めたソフィアはその内容を宰相のラーキンに確認する。


「盟約だと?」


 親書が読めなかった王達のためにソフィアが親書の内容を読み上げる。


【地上に守護者生まれしとき、フィンレにてあらゆる外敵を打ち払う天空の剣を授け賜う】という古の盟約に基づきエリュシアリアが来るのを待っていたが、一向にくる気配がないのでわざわざ迎えに来ることになった。親書の内容を要約するとこんな感じだ。


「じ、自分は聞いたことがありませんな」


 冷や汗をかきながら返答するラーキン。


「急ぎ確認を。セフィリア様が自ら赴くほどの重要な盟約です。忘れましたではすまされませんよ?」

「は、はぁ……されど、我が国とフィンレとの付き合いは1000年以上に及びます。既に資料は残されておらぬやもしれません」


 建国から1000年。センチュリオンの王都は幾度となく戦火で焼かれている。既に資料は消失していたとしてもおかしくない。事実、王を始め、宰相であるラーキンも外交の達人と呼ばれるエルドリアでさえ、盟約について耳にしたことがなかったのだ。


「ございますよ」


 そう答えたのは、成り行きをひとり静かに見守っていたネリスだった。彼女も親書を読めたひとりである。


「本当なのかネリス」

「はい。城の書庫の奥に隠し部屋に入った際に城の図面を目にしまして、一緒にあった城の設計を手がけた者の手記にそのような記述が残されておりました」


 その場にいた全員に唖然とした顔で見つめられ、ネリスは小動物のように肩を竦める。


「ネリス。今何と言った? お前は城の見取り図を見たのか?」

「も、申し訳ございません陛下。書庫を探索していたところ偶然見つけたのです。しかし、城の図面なんて機密中の機密でしょう? それで見てしまったことを今まで黙っていたのですが……」

「いや、責めているのではない。隠し部屋も城の図面とやらも聞いたことがなかったからな」


 センチュリオン城の図面は完成後に全て破棄されたとされていた。もし残されていたとすれば大発見だ。センチュリオン城には現在では再現できない技術が使われている上、城下町は城を中心に防衛のための様々な仕掛けが施されている。図面が残されているならば、当時の優れた建築技術が手に入るばかりか、進められている城下町の区画整備にも大いに役立つだろう。


「ええ!? てっきり知っていて隠しているものだと思っていましたわ」

「はぁ……これだから天然は。以前貴女がたまに城で姿を消すと騎士達が噂していましたが、その部屋に籠っていたのですね」


 頭を抱えるソフィア。ネリスは自分が大変な発見をしたとは夢にも思っていなかったようだ。


 ネリスは幼いころから本の虫であり、歴史や伝承に詳しい。13歳の若さで王妃になったのも、一刻も早く王宮にある貴重な蔵書を読み漁りたかったからと公言している。その後もどうやら王宮だけでは飽き足らず、王妃の立場を利用して城内を始め、あらゆる書庫や資料室に進出しているらしい。隠し部屋については、書庫を漁っていて偶然見つけてしまったが、国の機密に関わることと思って黙っていたようだ。


 そこにあった資料は好奇心に勝てず全て読んでしまったそうだが……


「それで隠し部屋はどこにあるのだ!?」

「司書室の奥にある棚を動かすと入口がありますわ。未整理の書物が積まれていてたどり着くまでが大変ですけど」

「す、すぐに確認してまいります」


 そそくさと退室するラーキンを見送り、王はネリスに目を向ける。彼女は一度読んだ本の内容を忘れない歩く図書館だ。緩く波打つ薄茶色の髪を揺らすその小さな頭の中に、いったいどれだけの知識が詰め込まれているのか、王は戦慄する思いだった。


「しかし、何故そんなところに? それに盟約が陛下や、外務局にも一切伝わっていないとはどういうことです?」

「それは……戦乱の最中どんなに優れた武人や聖女を派遣しても突き返されたことから、いつしか御伽噺とみなされ、惑わされないようにと、刻まれた石碑と共に城の地下に封印したとそれには書かれておりました」


 国難に際し、藁にもすがる思いでフィンレに向かったが裏切られた。当時の者の気持ちを思えば仕方がなかったのかもしれない。


「そ、そうか……盟約は確かにあったのだな。しかし、ボルドはそれを知っていたのか?」

「フィンレと交流の深い南部では伝えられていたとしてもおかしくありません。それに提督はセフィリア様と個人的に親しいとか」

「確かにな……」

「ふふふ。エリュがはセフィリア様のお孫さんとお友達になったそうですわね。きっかけは謝肉祭の相撲大会で対戦したからだとか。応援に行きたかったですわね」


 ボルドからの書簡はかなりの枚数があったが、彼女はいつの間にか最後まで目を通していたようだ。そこに文字がある限り、それを読まずにいられない。ネリスはそういう性分なのである。


「まあ、本当なの?」

「ほら、ここに。結果は負けてしまったようですけれど」

「なんてこと!? それは応援に行きたかったわ!!」


 ボルドの書簡にはエリュシアリアの近況が、軍人らしい簡潔な文章で書かれている。それをネリスを中心にして3人の王妃達がその様子を想像しながら会話に花を咲かせ始めていた。


 戦争寸前にまで高まっていた空気はすっかり変わって、和やかな時間が流れる。


「敵わんな」


 妻達の姿を見て王はそう呟くのだった。

読んで頂きましてありがとうございます。


今回は第2王妃のネリスお義母様にスポットを当ててみました。13歳で王家に輿入れした天然ロリ巨乳幼な妻(作中だと26歳)で、天使級の加護持ち。それに甘党、食いしん坊、本の虫という属性攻撃のオンパレードのようなお方です。

3人の王妃の中で一番子供が多いというのも納得ですね! ね? 王様?

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