SFXー0vsサラマンドラ
女の子同士でお相撲させたい。←病気。
事象が個として存在を定着させるまで進化した存在。精霊。
彼等の祖は惑星リデルタが誕生したのと同時に発生したが、現在の形となったのは意外にも最近で、エルフの誕生と同時期であったとされている。
エルフという精霊を観測できる存在が生まれたことで、精霊は万物の事象を司る存在にまで進化した。
私が殴りつけた炎の精霊王はこの星の熱を司る者であり、数多の生命を育んできた偉大な一柱だ。
SFXー0はパンチ一発で、岩山のような炎の精霊王の巨体を容易く吹っ飛ばした。
大地に叩きつけられる炎の精霊王。その衝撃は周囲数キロに及ぶ地揺れと土煙を引き起こす。
怒りの咆哮を上げ、身を起こした炎の精霊王。赤く光る岩肌が内側から爆音を上げて、燃え上がる。
炎の精霊王の口腔内に炎が収束する。火焔だ。ギガスクイードを屠った時とは比べ物にならない炎がSFXー0を襲う。だけど、私はあえて回避も防御もせずにそれを受けてた。1億度の核の炎の直撃にも無傷で耐えられるSFXー0のスペースチタニウムの装甲には炎の精霊王の火焔だろうと通用しない。それを見せつけるためだ。
パワーも防御力も格上の相手であると気がついたのだろう。炎の精霊王が動揺をしたように後ずさる。偉そうな外見をしていても、意外と気は小さいようだ。
「さあ、来い! 精霊王!」
私は炎の精霊王を挑発するように、空手の構えをとる。言っておくけど私に空手の経験なんて無い。構え方は前世で大ファンだった格闘家、ランネイ・チャンの見様見真似だ。
挑発が効いたのか、雄叫びを上げながら炎の精霊王が突進してくる。巨躯を活かしたタックルしてくるのかと思いきや、炎の精霊王は急に制止するとその場で反転、燃え上がる尻尾を鞭のようにしならせて攻撃してきた。
リーチのある攻撃をしてきたのはSFXー0のパワーを警戒しているのだろうか? 怒り狂っているのかと思いきや意外と冷静だ。
「こっちにだってあるさ!」
SFXー0の腰部からは長い尾部が生えている。この尾部は80連装ホーミングフェザー砲や、ミサイルなんかが搭載されているウェポンベイとしての機能を持つが、当然格闘戦にも使用可能だ。
炎の尻尾と鋼の尻尾がぶつかり合う。
質量では圧倒的に炎の精霊王に分がある。しかし、SFXー0のパワーと強度がその差を覆して、炎の尻尾が千切れ飛んだ。
絶叫を上げて崩れ落ちる炎の精霊王。SFXー0はすかさずその身体に馬乗りになると、鋭く尖った指先を深々と炎の精霊王の胸に突き立てた。
血の代わりに炎と溶岩が噴き出す。
「カノンを返せトカゲ野郎!!」
私は炎の精霊王の体内に腕を突っ込んで、取り込まれているカノンを引きずり出そうとしたが、炎の精霊王の中核に達する寸前、炎の精霊王が爆発を起こした。
爆発の炎は再び竜の姿を形作る。
「いいよ! 何度だって相手になってやる!」
光波スラスターが瞬き、亜光速に迫るSFXー0の正拳突きが炎の精霊王の頭部を砕く。
爆発。再生。
この星が健在である限り精霊は不滅だ。完全に滅するには惑星もろとも消滅させるしか方法ないが、精霊も不変の存在というわけではない。エルフという観測者を得たことで、精霊は自我に目覚め、感情を持つように変化していった。
こうして心を持った精霊は、やがてこの星の頂点に君臨する存在となった。
けれど心を持ったことで、精霊は大きな弱点を持つことになった。
そう。例え身体は不滅でも心はいつか折れる。
だから私は炎の精霊王が屈服するまで殴り続ける。何度でも。
武装なんて必要ない。拳だけで十分と言ったヘキサ様の言葉は間違っていなかった。むしろ、格闘戦の方が格の違いを分からせやすい。
拳で、蹴りで、SFXー0は炎の精霊王を砕き続ける。
私は炎の精霊王の攻撃から次第に激しさが失われていくのを感じていた。
もう少し! 殴る、爆発、再生。
そして、ついに炎の精霊王が背中を見せた。星の化身ともいえる偉大な王が、逃げ出そうと背中を見せて逃走を図ろうとしたのだ。
しかし、SFXー0からは逃れられない。
SFXー0の本来のフィールドは星の海。宇宙空間での超光速戦闘だ。地上を這う炎の精霊王とではそもそも土俵が違う。
瞬く間に正面に回り込んだSFXー0は腕を一閃。炎の精霊王は胴を砕かれ、真っ二つになって爆散した。
やったか?
今までよりも確かな手応えがあった。
炎が収束し、再生する。炎の精霊王はSFXー0と同じくらいにまで小さくなっていた。外見も以前に見た、美しい火龍の姿になっている。
それを見て、炎の精霊王の戦意を奪ったと思った私は、とどめとばかりに拳を振るう。
「はいぱーえりゅたんぱぁぁぁぁぁんち!!!!!」
大振りの喧嘩パンチ。操縦者の私が格闘技素人だから洗練されてるとは言えないが、精霊王を吹っ飛ばすには十分な一撃だ。だけどその拳は空振りして次の瞬間、SFXー0は地面に倒れていた。パンチを躱し、頭を低くして腹の下に潜り込んだ炎の精霊王が、跳ね上げるようにSFXー0を投げ飛ばしたのだ。そこに巨大な尾で叩きつけられて、機体が大きく揺れた。
「ぴぎゃ!?」
再び迫る尻尾。私はスラスターを噴射して離脱する。
「やったな! このっ!」
カッとなった私は炎の精霊王に殴り掛かるが、今度も軽く受け流すように投げられてSFXー0は地響きを立てて大地に倒される。
これは武術? 炎の精霊王がどうして人間の技を?
怒りに任せていた状態から水の雫が見えたかのように、炎の精霊王の動きは明らかに変わっていた。お互いに力任せでの殴り合いならSFXー0に分があったが、炎の精霊王が武術の技を使うようになって圧倒できなくなった。
まずい……これでは炎の精霊王の心を折ることが出来ない。
でもどうして急に……まさか、もしかして……
私は思いついた可能性を確かめるために、わざと手加減してSFXー0を炎の精霊王にぶつける。
相撲を取るように組み合い、炎の精霊王の出方を見る。
至近距離。だけど炎の精霊王ブレスを吐くでもなく、牙をや爪を突き立てようともせず、SFXー0の脇から腕を回して投げ飛ばしてきた。
掬い投げ!? カノンの得意技だ!
地面に叩き付けられるが、前回りして起き上がり体勢を立て直す。
≪どうやら、エレメント02は現在カノンの制御下にあるようです≫
ヘキサ様から通信が入る。
やっぱりそうなんだ。
自然と頬が緩む。
カノンは無事だ。あれはカノンなんだ!!
「炎の精霊王の方は?」
≪エレメント02の意識は確認できません。どうやら不甲斐ないエレメント02に腹を立てたカノンが、主導権を奪い取ってしまったようですね≫
「あはははは!! それ、最高じゃないですか!!」
凄いよカノン! まさか炎の精霊王を乗っ取ってしまうなんて!
「それで、私はこれからどうすればいいんですか?」
≪メルトダウンを阻止し、エレメント02の戦意も失われたことで当初の目的は果たされました。あとは思いっきり暴れて、怒りを発散させればカノンも解放されると思われます。それまでどうかよろしくお願いします。守護者様≫
「了解」
通信が切れる。
モニターに映る火龍は猛々しくも美しかった。きっとそれがカノンの心の本質なのだろう。
「よし! 遊ぼうカノン!」
どすこいっ!!
数千トンの巨体同士がぶつかり合う。
人の英知の結晶たる巨大ロボットと偉大な精霊王はそれから数時間、大地のリングで子供のような取っ組み合いを繰り広げた。
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