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星の守護神

最初の流れからするとドン引きされるかも……

 精霊王は巨山のように燃え上がり夜空を焦がす。成す術を見いだせず眺めるしか無かった私の前にそれは現れた。


 夜空に浮かぶ巨大な剣。


 刀身は金色。鍔から柄にかけては白地に金の美しい剣だ。だけど……


 戦闘機。それを見た私は思わず日本語で呟いた。


 青白く光るスラスター。翼の先端には左右にそれぞれ赤と青緑に発光する航空灯。


 あれは剣ではない。前世は日本人で様々な漫画やアニメ、ゲームなんかでもそういったものを目にしてきた私だからわかる。


 全長は日本の超高層ビルくらいあって、戦闘機というには大きい。前方に鋭く伸びた刀身のような金色の衝角。鍔のように広がった主翼の下には長い砲身を持つ大砲を懸架している。


 間違いない。あれは地球やこの世界よりずっと進んだ文明によって作られた兵器だ。


 それにしても、始めてみる筈なのにどうしてこんなに懐かしいんだろう?


 前世で兄と一緒にロボットアニメを見たり、ゲームをやったりしていたからだろうか?


 無意識のうちに私は空に手をかざしていた。夜空に浮かぶその星の剣を掴もうと届くはずのない手を、高く空に。



✤✤✤



 気が付いたら、私は空中に浮かんでいた。いや、正確には外部が映し出された球体の中。その中心に浮かんだシートに腰掛けていた。


 眼下には赤く燃える炎の精霊王(サラマンドラ)


 ここは……あの戦闘機のコックピット!?


 座ってる感覚がないくらい身体に馴染むシートにはレバーやペダル。それに感触が無くて気付かなかったけど、私の身体は見たことない素材でできたシートベルトで固定されている。まるでチャイルドシートだ。


 今の小さな身体にぴったりのシートは、この機体が私に合わせて作られていることを表していた。


≪守護者の搭乗を確認しました≫


 コックピットに流れる声。これまで何度も頭の中に響いてきた声だ。


 私は理解した。やっぱりこの機体は私の為にあるのだと。守護者として星を護るために与えられた力なんだと。


「ふふふ……あははは!!」


 思わず笑いが出てしまった。


 剣と魔法のファンタジー世界に戦闘機!? あまりにも不似合いだけど確かにそうだ!!


 漫画やアニメで地球を侵略しようとするような連中ってどんなだった?


 数万光年の距離を越えてやってくる侵略者の大艦隊や、四次元から現れるような怪獣じゃなかったか? そういう類からこの星を護るために必要な力が剣や鎧なはずがない。そんなもん地上で振り回して何を護れるというのか!!


 助けられる!! これがあればきっとカノンも皆も助けられる!! 


『お気に召したようで何よりです。守護者様』

「ふあっ!?」


 すぐそばで声がした。見ると、ぴったりとした白いハイレグボディースーツ姿の10歳くらいの女の子が私の前に浮かんでいる。


 恐らく立体映像か何かだろう。その姿はうっすらと透けていた。


『驚かせてしまい申し訳ございません。私、アスラネットワークサービスリデルタ管制局所属。インターフェイスアンドロイドのヘキサと申します』


 なんですと!?


 ヘキサ様!? この女の子がフィンレの盟主!? それにインターフェイスアンドロイドって? つまり彼女はロボットってこと?


 私は瞬きすら忘れて彼女を見つめた。


 長めのボブカットに切りそろえられた真っ白な髪。肌も真っ白で、手足なんて私より細いくらいだ。まるでCGで作られたみたいな無機質な美少女。それなのに、冷たい印象を感じさせないのは、長いまつげの下から覗く、くりっとした青い瞳のせいだろう。


 頭からは銀色のメカニカルな耳が伸びている。けれどそれ以外は人間そっくりで、アンドロイドやロボットといったものを知らないこの世界の住人ならば、この耳と美貌から彼女をエルフと勘違いしてしまうかもしれない。


 とはいえだ。いくらアンドロイドとはいえ、見た目JSの女の子にこんなえっちな格好させるのはどうよ?


 この派手な戦闘機といい、フィンレって実は日本の秋葉原だったりしないだろうな?


 森都フィンレといえば、エルフの里の他にも様々な亜人種の集落がある言われるファンタジーの聖域のような場所だ。私の中に今でも大切に残されている少女の心を泣かせるようなことにならないでほしい。


『本来フィンレにて直にお会いする予定でしたが、不測の事態の発生により、このような形でご挨拶することになってしまったことをお詫びいたします』

「お詫びなんて……私はセンチュリオン王国王女エリュシアリア・ミュウ・センチュリオンと申します。こちらこそお会いできて光栄です。ヘキサ様」


 立ち上がって挨拶しようとするが、私の身体はシートベルトで固定されていて出来なかった。また、どうやらこの空間は無重力のようだ。さっきから頭のポニテがふわふわと落ち着かない。


「あの、私の指を治してくれたのはヘキサ様なのでしょうか?」


 嚙み千切られた私の指はいつの間にか治っていたらしい。その為オバリー大尉達は、私が傷を負ったことに関しては幻覚だったということにしたそうだ。


 私の力じゃない。セフィリア様でもない。それなら考えられるのはひとつしか無い。


 少しだけ笑みを浮かべ頷くヘキサ様。どうやら当たりらしい。


「えっと……ありがとうございました」

『私共にとっても大切なお身体ですから。しかし、この世界の医学の発展を阻害しないために、守護者様以外に行える医療サービスはいかなる理由があろうと制限されることをご理解ください』


 特別扱いされるのは私だけ。もし他に誰が死にかけていたとしても、私がどれだけ懇願しようと助けられない旨をヘキサ様は語った。


 それがルールなのだと。


『さて、時間がありませんので状況を説明します』


 それから私は炎の精霊王(サラマンドラ)がメルトダウンを起こしていることを聞いた。炎の精霊王(サラマンドラ)が地下のガス田に引火するまで、僅かな時間しかないという。どうやらカノンだけでなく、世界まで救わなくちゃいけないらしい。


「では、私はこの飛行機で炎の精霊王(サラマンドラ)をぶっ飛ばせばいいんですね」

『ええ。その通りです』


 飛行機『plane』という言葉を使ったのはわざとだ。当然、この世界には飛行機なんてものはない。あと、戦闘機『fighter』と呼ぶとこの世界では普通に戦士の意味になってしまう。


 ヘキサ様はサクライアンズという私の前世の名前をセフィリア様に託していた。


 彼女が私の事情を何処まで知っているのか? それとも全ての黒幕なのか? 推し量るためにあえて使ったのだ。


 ヘキサ様は私が飛行機という言葉を使ったことに違和感を持たなかった。やはり、私の精神が別の世界から来たことを知っているのだろう。


 何故? 


 彼女は、アスラネットワークサービスとは何者なんだろう?


 まあ、いいか。炎の精霊王(サラマンドラ)からカノンを取り返せるなら今はそれで十分だ。


『これから守護者様の脳に、SFXー0……この飛行機の操縦方法を書き込みます』

「SFXー0?」

『はい。この機体の名称です。名称を変更しますか?』

「いえ、今はいいです」


 SFXー0は確かに呼びにくい。ストライクやバイパーゼロみたいな愛称を付けていいなら付けたいところだけど、それは時間があるときゆっくり考えたい。


「あの、脳に書き込むとか大丈夫なんですか?」

『脳に直接書き込むことで、通常習熟に1000時間以上かかるところを10分に短縮できます。勿論無理に知識や技術を押し込めば人格の崩壊に繋がるリスクがありますが、何分時間がありません。守護者様は現在全身が生身ですので特に慎重に、書き込む内容は機体の挙動についてのみ最低限のものとします』

「それで、炎の精霊王(サラマンドラ)をどうにかできるんですか?」


 必要最低限動かせるだけになったところで、あの巨大な精霊王からカノンを取り戻せるものなのだろうか?


「武器とかは?」


 私が尋ねると、ヘキサ様は安心させるかのように私の手を取るように自分の手を重ねた。実態がない映像のはずなのになんだかそれが温かかった。


『必要ありません。たかが惑星ひとつ分のエレメント。SFXー0ならば、拳だけで問題なく制圧可能です』

「拳?」


 これ戦闘機だろ? なんでそんなものがある?


 まさか……SFXー0って……


『時間がありません。目を閉じて、呼吸を楽に、眠ってしまっても構いません』 


 言われたとおりに目を閉じて、深く息を吐く。


『それでは操縦マニュアルと必要な免許一式のインストールを開始します』


 頭の中に情報が流れてくる。それらはまるで最初から知っていたかのように、次々と知識として落とし込まれていく。


 私は何を与えられたのかを理解する。


 これまで使ってきたプロミネンス砲。加護とは何なのか、守護者の役割と権限。そしてSFXー0の操縦方法。


 それから免許だ。光速以下の惑星内航空機免許、3000トン級超大型作業機械免許、恒星級機関士免許、管理惑星内での殺傷許可証、アスラネットワークサービス社内規約……


 やっぱり! この戦闘機は!


 かかった時間は5分程。書き込まれたのは最小限のマニュアル。それから各種免許の取得。その情報量は百科事典1冊分に及ぶだろう。私はたった5分で、それだけの情報を記憶させられたのだ。


『気分はわるくありませんか?』


 身体に問題が無いことをヘキサ様はわかっている。この質問は精神的に不安は無いかを聞いているのだ。


 私は力強く頷く。


「はい! 問題ありません! 早速状況を開始します!」

『頼みます。守護者様。どうかカノンを助けてあげてください』

「はい!」


 笑顔を残してヘキサ様の映像が途切れる。


 私は操縦桿を握りしめた。


「カノン……今行くからね」


 操縦桿を僅かに傾けると、静かに浮かんでいただSFXー0が意のままに動き出す。通常空間で直接操縦は本来補助的なものでしかないが、炎の精霊王(サラマンドラ)相手なら十分だ。


「いくよSFXー0! 星の騎士(スターナイト)モードにトランスフォーメーション!」


 シート横のレバーを引くと、剣は騎士へと姿を変える。


 SFXー0は巡行形態である星の剣(スターキャリバー)と戦闘形態の星の騎士(スターナイト)。ふたつの形態を持つ可変スーパーロボットなのだ。


 翼のように広がった鍔は上下に分かれ、上部は折りたたまれてマントを纏ったような腕を形成。下部は脚部に。柄は長い尾部を持つ腰部となって脚部が接合され下腿を形成する。


 刀身部を形作っていた18基の独立機動兵装。ラピッドエッジはリング状に再合体して、後光のように背面に浮かぶ。最後にふたつ目を持つ頭部が本体から飛び出し、一対の角飾りとポニテっぽいトサカが展開して変形は完了だ。


 完成したのは白い甲冑を着込んだかのような全高120メートルの巨人だった。この世界に住む人々に分かりやすい救世主像として、デザインにまで拘った星の守護神。SFXー0の真の姿である。


 SFXー0は守護者の半身ともいえる機動兵器だ。


 私の脳内にはナノクォーツと呼ばれる、アスラネットワークサービスとの接続回路が埋め込まれている。ナノクォーツを介してSFXー0とリンクされた守護者は、SFXー0のジェネレーターからのエネルギー供給を受けることができる。これが、私が恐れていた強大な力の正体だったのだ。また、SFXー0のエネルギーを聖炎に変換してSFXー0武装や機能が使用できるようになる。『プロミネンス砲』も元々SFXー0の武器のひとつだったのだ。マニュアルのインストール前でも『プロミネンス砲』が使えたのは『プロミネンス砲』が内蔵火器ではなく外部オプションだったから。火器管制システムを使わず大砲を目視照準で撃ってたようなものだから、命中精度が悪かったのも当然だ。


『セフィリア様!! 結界を解除して避難してください!!』


 外部にスピーカーで呼びかけると、周囲を覆っていた風の精霊王(ウィンダム)の結界が消える。


 封じ込められた炎が一気に燃え上がるが、炎の精霊王(サラマンドラ)はその場に鎮座したままで動きは見られない。地下のガス田に気づいているのだ。このまま炎の精霊王(サラマンドラ)がガス田を取り込めばこの星に住む多くの生命が失われる。


 守護者とかまだ実感は沸かないけれど、ハッピーエンドへの道を邪魔する奴は許さん!


 セフィリア様を背負ったオバリー大尉が全速力で離脱していくのをモニターで確認すると、私は炎の中へとSFXー0を駈る。


 モニターに映し出された炎の精霊王(サラマンドラ)はギガスクイード戦で見たときとはまるで違っていた。SFXー0を超える巨体。美しかった鱗はごつごつした岩肌に変わり、煮えたぎった溶岩が全身から滝のように流れ落ちるその姿は、まるで爆発した火山が竜を形作っているかのようだ。人にはどうすることも出来ない天変地異の化身といえるだろう。だけど、恐れることはない。SFXー0のジェネレーター出力は最大で超新星爆発3個分のエネルギーを叩きだす。炎の精霊王(サラマンドラ)が例えこの星全てを賭して燃え上がったとしても、到底及ばないのだから。


「宇宙の広さを知れ! ファンタジー!」


 自分こそがこの世の王とでも言うように鎮座する炎の精霊王(サラマンドラ)をSFXー0はその鋼の拳で殴りつけた。

読んで頂きましてありがとうございます。

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