強さの理由
7月7日はポニーテールの日!! ぽにみゅらはポニテヒロインを応援していきます。
1年前……
人の町に行って帰ってこないおかあさんを、私は何日も待ち続けました。
おばあさまやおとうさんにいつ帰ってくるのか聞いても困った顔をするばかり。みんなもおかあさんの帰りが遅いことを心配しているようでした。
そしてある日、おばあさまから、おかあさんがもう帰って来ないと聞かされました。
私は泣きました。悲しくて悲しくて、食事も取らずに家に閉じ籠って泣き続けました。
そして泣き疲れて眠ってしまった私に夢の精霊が教えてくれました。
おかあさんに何があったのか全部夢で見せてくれました。
人の町で買い物をするおかあさん。私の為の服を楽しそうに選んでいました。
でもその帰り道、おかあさんが乗った馬車を帝国の兵隊が襲ったのです。おかあさんは戦いましたが襲い掛かってきた兵隊達は精霊魔法が通用しない盾を持っていました。おかあさん次第に追い詰められていって、馬車に乗っていた人達も次々と殺されていきました。
それでも、おかあさんひとりなら霧の力を使って逃げることもできました。
でも、わたしと同じくらいの歳の子供が人質になってしまって、おかあさんはその子を見捨てることができず、その子供を助けるために捕まってしまいました。
おかあさんが助けようとした子共は結局殺されてしまいました。
おかあさんを助けようと、夢の中で私は泣き叫びました。
手を伸ばしても、叫んでも、私の声は届きません。そして、私が見ている前で、おかあさんは帝国の兵隊達に弄ばれて殺されました。
彼等は殺したおかあさんの身体をバラバラに切り裂いて食べました。私はそれを泣きながら見ていました。
夢の中で涙が枯れるまで泣いて、目覚めるともう涙は止まっていました。
その時、私の胸の中には悲しみとは別の感情が芽生えていて、私を支配していたのです。
それは激しい怒りでした。
おかあさんを殺した帝国を私は絶対に許さない。
怒りの感情はやがて炎の精霊王を呼び寄せ、私は闘うための力を手に入れました。
そして……
「肉……お前の肉を……よこせ……」
手足を失って足元に倒れているウェアウルフ。私はこの男を知っています。
こいつはお母さんを弄びました。
こいつはおかあさんを殺しました。
こいつはおかあさんをバラバラにして食べました。
こいつはシーリアさままで傷つけました!!
おかあさんを、シーリアさまを、私の大切な人を、こいつは……こいつは……!!!!!
✤✤✤
「……とまあ、そういうことがあってだな」
「はぁ……それでこれですか」
甘ったるい超高カロリーの携帯糧食をもぐもぐしながらその光景を眺める。
赤茶けた大地の上に太陽があった。
外が明るかったからてっきり1日くらい寝ていたのかと思っていたが、実はあれから数時間しか経っていなかったらしい。空はすっかり夜の帳が下りているが、大地は夕日のように赤い炎に照らされていた。
「あの炎の中にカノンが?」
「ああ。今はセフィリア様が抑えているが、長くは持たないそうだ」
怒り狂い、大地を焼き尽くそうとする炎の精霊王を、セフィリア様が風の精霊王の力で強引に抑え込んでいるらしい。
現在私達の馬車は、帝国軍との戦闘があった場所から数キロ離れた丘の陰で待機していた。幸いにも戦闘での死傷者はゼロ。だが、どさくさで敵の首謀者を逃がしてしまったそうだ。あーあ。
ひとつめ携帯糧食を平らげた私はふたつめに手を伸ばす。センチュリオン軍で食べられている携帯糧食は日本にあったカロリー〇イトによく似た形状で、より固く、よりパサついていて、より甘いといった感じだ。腹ペコだったので一気に食べてしまったが、本来水無しで食べるのはきつい代物である。
「シーリアさん。はい。お水」
「ありがと。レノア」
水の入った木製のコップを渡してくれたレノアはメイド服姿だった。レノアとファーファは私の付き人として来ているから、メイド服を持ってきていても不思議はないんだけど、今は何故かリオン君もそれを着て、交代で休息をとる兵士達に携帯糧食を配っている。
「大尉。あの格好は一体?」
「ああ、グランスの奴、自分が人質になったせいで迷惑をかけたって落ち込んでいたからな。ちょっとした罰ゲームってやつだ」
戦闘中に遅れをとったからといって罰則を与えるようなことはない。でも真面目なリオン君が責任を感じていたことから、洒落で済む程度の罰を与えていたらしい。
リオン君の顔は女の子みたいに可愛いから、きっとウイッグでもつけていれば似合っていただろう。
「なるほど。ではレノアは?」
「あいつ、お前が王女だとうっかり口を滑らせたみたいでな」
そういえば気を失う前にレノアの声が聞こえた気がする。咄嗟のこととはいえ、機密を軽々しく口にするのは確かによろしくない。
「幸いそれを聞いていた帝国の犬は捕えているし、護衛の連中には何かあれば公表しても良いことになっていたからな。そういうわけで別に問題は無いんだが、まあ、これもケジメだな」
「なるほど。でも、何故にメイド服?」
「せっかく持ってきてるなら見たいっていう、連中たっての希望だ」
「さいですか」
まったく。男というのはどうしてこうもメイド服が好きなんだろうか? まあ、私も好きだけどさ。
お転婆令嬢のレノアだけど、花嫁修業の一環で侍女としての教育も受けている。兵役が終わればどこかの家で侍女を経験して、それから結婚するんだとか。メイド服姿も様になっていて、いつもはポニーテールにしている髪を後ろでまとめて止めている。露わになったうなじが色っぽくていい感じだ。
普段彼女を小娘扱いしている兵士達も、普段より大人っぽいレノアの姿に、緊張した様子を見せているのが面白かった。
ふと、リオン君と目が合ってしまう。顔を赤らめながらカーテシーを見せたリオン君に私は喉を詰まらせる。
「ケホケホ……」
やめてむせる。
ただでさえ炎の匂いがきついのだ。レノアから水のお代わりを貰ってそれを飲んでなんとか落ち着く。
「ははは! 大丈夫か?」
笑いながら私の背中をさするオバリー大尉。だけど、この男は決定的に子供の扱いが下手だった。気持ちは嬉しいが力が強すぎて逆に苦しい。
「は、はい。それで、持たなくなったらどうなるんです?」
私はオバリー大尉の手から逃れて話を戻すと、笑っていた大尉の顔から笑みが消える。
「暴走する精霊王を止めるためには、核となってるカノン様を殺すしかないそうだ」
「そんな……」
「精霊王はカノン様が燃え尽きるまで地上で暴れまわるだろう。それがいつまで続くかわからんが、一週間もあれば大陸の半分は焼け野原になるだろうな」
センチュリオンの兵力をもってしても精霊王は止められない。対抗できるのは現状、同じ精霊王の守護を受けたセフィリア様と、『プロミネンス砲』という切り札を持った私だけだ。
「とにかく、現場まで行きます」
「身体は大丈夫なのか?」
「はい。何で倒れたのか分らないくらいぴんぴんしてますよ」
「そうか。ならいいんだ」
オバリー大尉が私の右手を取ってそっと撫でた。
「何か?」
「いや、いいんだ」
目を反らすオバリー大尉。私の手を気にしている?
私は自分の右手を見る。もしかしてあれは夢じゃなかったのか? でも指はちゃんと5本そろっている。
加護を与えられてからというもの、私の力について様々な検証が行われた。その結果、私が持つ癒しの力は天使級と同等とされている。
小さな傷や、簡単な骨折ならすぐに治せるが、複雑骨折や、体内に異物が入った場合は外科的な処置との連携が必要で、失った血も戻せないから、大きな傷だと治癒が間に合わず失血死してしまう。身体の欠損箇所まで再生させる万能聖女みたいな力は無いことは既に現場で確認済みだ。
救世級としても同様で、かつて存在した救世級と比較して特に強い力があるわけでもない。私が特殊なのは現在のところ『プロミネンス砲』が使えるというこの一点に尽きる。
でも、わかっていないだけでまだ秘めた能力があっても不思議ではない。
例えば自己再生。自分の手足を切るような実験はこれまでされなかった。
他人の欠損部分は治せなくても、自分の身体なら出来るのかもしれない。例え出来たとしても、試すようなことはないだろうけど。
「ところで、行ってどうするんだ? お前の力でカノン様を撃つつもりか?」
「もちろん。精霊王だろうが『プロミネンス砲』で吹っ飛ばしてやるつもりです」
相手は人の理から外れた強大な精霊王だ。この世界の人間にとって神に等しい存在であり、普通の人間ならば、ただ祈りを捧げ、怒りが静まるのを待つ事しかできないだろう。
でも、私には力がある。いや、出来なくてもやるんだ。力の有る無しの問題じゃない。
「出来るかわからないけど、もし、何とかできるとしたらそれは私だけです」
「なるほどな。セフィリア様もお前に期待してこれまで炎の精霊王を封じていたのかもしれないな」
セフィリア様は風の精霊王力で炎の精霊王を抑え込んでいるが、攻撃は仕掛けていないようだ。そう。セフィリア様は待っていたのだ。カノンを救える可能性を持つ私が目覚めるのを……
セフィリア様はカノンを死なせることでしか救えないかもしれない。でも私はそうじゃないから。
精霊の都合なんて知らんけど、大事な友達は返してもらうよ。
私はそう決意してみっつめの携帯糧食を飲み込んだ。
✤✤✤
オバリー大尉に背負われてセフィリア様の元へ向かう。巨大な火球となった炎の精霊王だが、熱さはそれほどでもないのはセフィリア様が召喚している風の精霊王のおかげなのだろう。
「ああ!! シーリアちゃん。無事でよかったわ!!」
私の姿を見て、セフィリア様は顔を綻ばせる。
私が眠っている間、ずっと風の精霊王を召喚し続けていたセフィリア様は汗だくだった。
薄いドレスが肌に張り付き、スレンダーなボディラインがあらわになっている。透けちゃいけないようなところも色々透け透けである。
汗まみれになってもやっぱり美しいセフィリア様。私は馬代わりのオバリー大尉の目を背後から塞いだ。
「おい」
「目に毒です」
「いいのよシーリアちゃん。馬に見られるくらい全然かまわないわ」
「だそうだ。俺は馬だぞ。ヒヒーン」
「むう……」
仕方なく私はオバリー大尉の目から手を放して背中から降りた。
「セフィリア様。この度は大変ご心配をおかけしました」
ちょこんと礼をすると、セフィリア様は私に抱き着いてきた。
「良かった! 本当に無事でよかったわ! 指も治ってるのね! 守護者の力とは素晴らしいわ!」
あ、やっぱり私の指食われてたんだ。それで治ったのもやっぱり守護者の力なわけで。
自分が本当に人間なのかちょっと不安になってくる。
「ん、んっ……コホン!」
わざとらしい咳ばらいをしたオバリー大尉。馬扱いされてもセフィリア様からはしっかり顔を反らしていた。
「セフィリア様。その件はあまり……」
「そ、そうね。私としたことがうかつだったわ」
どうやら私の指が再生したことについて話題にしたく無いようだ。まあ、気持ちのいい話ではない。
「ブレイウッド。お前の失った指が再生したことは現場で秘密にするよう、セフィリア様の名で緘口令を敷いた。それは、お前が持つ未知数の力にすがろうとする輩を遠ざける為に必要だと判断したからだ。お前はこれまで、幾人も他人の傷を癒してきたが、治せなかった傷や、助けられなかった者もいる。だけどお前は、決して力を出し惜しみしてたわけじゃないんだろう?」
「はい……」
「ん。ならそれで話は終わりだ」
頭をぽんと叩かれる。
「ありがとうございます」
「いいさ」
オバリー大尉はニヒルな笑いも様になる頼れる大人だ。もう少し歳が近ければときめいていたかもしれない。
「あとは任せるぞ。俺はお前を担いで走るだけの馬だからな」
「ふふ。カノンが助けられれば、大尉には私からも謝礼させて頂くわ」
「ただの馬にですか?」
「それで十分よ。まあ、助けられなければ、シーリアちゃんを危険にさらし、敵の首魁も逃した駄目指揮官としてセンチュリオン王に報告させてもらうけど」
あ、それマジで首飛ぶわ……
いや、今もう既に首の皮一枚ってところだろう。ここでカノンを救ってセフィリア様に恩を売り、お父様に便宜図ってもらえないと、オバリー大尉とボルド提督の処罰は免れない。勿論護衛であるレノア、ファーファ、リオン君もだ。セフィリア様はレノア達まで不幸になることは望まないだろうが、事が王宮に露見し、王族を護れなかったというレッテルを張られたら、3人はもうこの国の貴族社会では生きていけない。
どうやら私の肩には皆の将来までかかっているようだ。
「それでカノンは?」
「見ての通り、怒りで炎の精霊王に取り込まれてしまったわ。どうやらあの子、セリカの最後を知っていたみたいね。おせっかいな精霊が告げ口でもしたのかしら」
「告げ口ですか?」
「ええ。エルフにはよくあることよ。あのウェアウルフの顔を見てカノンの様子が急変したの。もしかするとセリカが殺された一部始終を見せられたのかもしれないわ」
ちょっと待って! カノンのお母さん。セリカさんって殺されて食べられちゃったんだよね?
それを一部始終って……そんなの酷すぎる。
「でもそれなら納得できる部分もあるの。あなたから見てカノンはどんな娘かしら?」
「カノンはとても強くて優しいとても素敵な子です。私はカノンと友達になれて、友達として見てもらえていることがとても誇らしく思います」
自分でもくさい台詞だなと思うが本心だ。私の答えにセフィリア様も満足したように頷いて見せた。
「そうね。あなたがいう通り、カノンは強い子よ。ちょっと逞し過ぎるくらいだけど。母親が死んで泣きじゃくっていたあの子が、僅か数日で立ち直ったのには私も驚いたわ。でもね、それには理由があったのよ」
「理由ですか?」
「そう。あの子の原動力であり、強さの理由。それは怒りよ」
そう言ってセフィリア様は炎の精霊王を見上げた。
「カノンは心に常に怒りを抱えているの。炎の精霊王が気に入って手放したがらないくらいの激しい怒りをね」
計り知れないポテンシャルを持つえりゅたんですが、何故これで悪役令嬢に勝てないんでしょうか?
作者にも分かりません。




