ランド・オバリーの回想~アンリミテット~
6月24日は全世界的にUFOの日ですね!! ←毎年言っていくスタイル。
今回はオバリー大尉の視点になります。
俺が駆けつけた時、既に状況は最悪の一歩手前だった。
シーリア・ブレイウッドが……
エリュシアリア姫が……
エルドリアの娘が捕えられている……
ブレイウッドを捕えている男の顔には見覚えがある。俺が最初に交戦したウェアウルフだ。小脇に抱えられたブレイウッドの右手からは、絶え間なく血が地面に滴り落ちている。
その小さな手は指を失っていた。
くそったれ!!
怒りで俺は奥歯を噛みしめる。
天使級の治癒能力があっても失った身体の一部が戻ることはない。ブレイウッドはこれから右手を使えずに生きていくことになる。
シーリア・ブレイウッドは才能に溢れた娘だ。例え剣を握れなくなったとしても出来る事は多いだろう。それでも女性として、王族として彼女が大きなハンディキャップを負って生きていくことになるのは用意に想像できた。
「お前らがついていながら!!」
俺はその場にいた連中に怒りをぶちまける。
そこにはバネットとシュガリー。それに馬車の護衛に残してきた兵士がいた。
ああそうとも。分かってる。八つ当たりだ。
ブレイウッドを彼女達に任せたのは俺だ。責任は俺にある。
あの時、あのウェアウルフを斬っておけば……
俺がブレイウッドから離れなければ……
ブレイウッドが傷つかずに済んだ選択肢は幾つもあったはずなのに、俺はそれを選べなかった。
万が一が起こらないためにこれだけの護衛が付いてたってのに、結局俺達は肝心なブレイウッドを疎かにしてしまった。
真っ青になって立ち尽くしているバネットとシュガリーは、どういうわけか裸だった。何があったか後で詳しい話を聞く必要があるが、恐らく彼女達は頑張ったのだろう。
槍で喉を突かれ息絶えている帝国兵、気を失っているグランスからそれは想像がつく。
だが、バネットとシュガリーにはブレイウッドの護衛を命じていた。それが安全な場所に置いておくための方便だったとしても、ふたりがブレイウッドを守れなかったことに変わりはない。実際周囲はそうみるだろう。
シーリア・ブレイウッドは非公式とはいえ王族だ。陛下だけでなく、3王妃や王太子殿下からも溺愛されているという。俺とボルド提督が首を差し出したとしても守ってやれないかもしれない。
俺は兵士達を下がらせ、単身奴と交渉するために前に出た。
「不味ぃ」
ウェアウルフの男はクッチャクッチャと咀嚼していたソレをペッと吐き出す。真っ赤な淡に塗れた赤黒いソレはブレイウッドの指だったモノ。
ぶっ殺す……!!
俺の怒りが伝わったのか奴は愉快そうに顔を歪め、ブレイウッドの手から滴る血を舐めて見せた。
くそっ!! ブレイウッドが人質にされてなければ秒で倒せる相手だっていうのに!!
「ほら……早くセフィリアを出せよ。でないとこいつ死んじまうぞ?」
右手からの出血はかなりのものだ。早く止血して手当しないと危い。
セフィリア様とブレイウッドで天秤にかけるなら、俺達がとるべきはブレイウッドだ。それは予めセフィリア様からも言われている。だが、セフィリア様が出てきた場合の奴の行動が予想できん。あのウェアウルフは人質を盾にして逃げることをせず、ブレイウッドの命と引き換えにセフィリア様の身柄を要求している。
「セフィリアだ……セフィリアの腕を斬り落としてこっちに投げろ。そうすればガキは返してやるし、俺の命もくれてやらぁ」
「そんな要求飲めると思うか?」
「あん? 良いんだぜ? セフィリアが食えないなら、こいつで我慢してもよ。こいつ、姫様なんだってな。さっきそこの女が言ってたぜ?」
なんだと?
どっちだ?
バネットとシュガリーをチクリと睨むと、しゅんと目を伏せたのはバネットだった。
お前か。
まったく。機密事項漏洩……お仕置きだな。
「姫様? 何のことかわからんな」
「とぼけるなよ。嫌われ者のセンチュリオンの奴らが、何故こんなとこに出てきてるのか疑問だったが、王族を護衛していたなら合点がいく」
ちっ……この犬っころ。見た目より頭が回りやがる。
センチュリオン王国をはじめ、北西諸国連合が他の国と交流が少ないのは帝国が圧力をかけているからだ。
まあ、やっかみと嫉妬を受けているのも事実だがな。
帝国をも退ける力。
1000年以上の間、飢饉も疫病も起こったことがない豊かな土地。
誰もが羨むような女神の祝福を独占しているのだ。俺達は。
そういう理由もあって、センチュリオン王国は友好国が少なく、平時に軍が国境を超えることなどこれまで滅多と無かった。奴らが勘ぐるのも無理はない。
「エルフとは比べられねぇ程不味い肉だが、センチュリオンの姫君を道連れに出来るなら悪い話じゃねぇ」
ブレイウッドの首筋に牙を突き付けるウェアウルフ。
「待て!! 待ってくれ!!」
思わず頭を下げて、俺はウェアウルフに懇願する。普段部下の前で見せられないような情けない姿だが、これ以上ブレイウッドが傷つくのは見ていられない。
「くくくっ……早くしろよ。あんまり待てねぇぞ?」
あのウェアウルフは命よりもエルフが食うことの方が大事らしい。エルフの肉を頬張りながら死ねるならきっと本望なのだろう。
奴は狂ってる。もしここでセフィリア様が出てきたら何をしでかすか分からん。意識がなく、身を護る術の無いブレイウッドは更に危うくなる可能性が高い。
セフィリア様もそれを考えて姿を現さないのだろうが……
だが、そこに思いもよらぬ乱入者が現れる。
「シーリアさま!!」
戦闘はほぼ終結しており、手の空いた兵士達が集まってきている。その包囲をかきわけて、小さな影がウェアウルフの前に飛び出して来たのだ。
くそっ!? 誰も止めなかったのか!?
「カノン様!? 駄目です!! お下がりください!!」
だが、俺の声などカノン様の耳には入っていなかった。指を失い、血を流す友人の姿を見たカノン様から悲鳴が上がる。
「シーリアさまっ!? いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
その姿にウェアウルフの顔が歓喜に満たされる。
「セフィリアの孫娘か!? いいぜぇ、お前でも。ほら、おいでお嬢ちゃん。こいつと3人でおじちゃんと良いことしようじゃないか!!」
「おい、てめぇ!! 命だけは助けてやる!! その娘置いて今すぐ消え失せろ!!」
「はははっ!! それは出来ねぇな!! だが、こっちはもういらないから返してやらぁ!! ほぉら取ってこい!!」
そう言ってウェアウルフはブレイウッドを明後日の方向に放り投げた。
くそっ!!
ブレイウッドを助けようとすればその間にカノン様は殺される。カノン様を助けるために奴を仕留めればブレイウッドは落下し地面に叩き付けられる。俺が助けられるのはどちらか一方。
他の連中はとても間に合わん。
俺は後ろ髪を引かれる思いでブレイウッドを助けると決めた。カノン様は強かだ。兵士達が駆けつけるほんの一瞬、奴から逃げることを俺は期待した。それが望みの薄い可能性だとしても。
だが……
その時、意識を失っていたブレイウッドがうっすらと目を開く。血塗れの手に聖刻が光るのが見えた。
その瞬間、俺の胸の奥から爆発的な力が湧き出してくる。
これは……『アンリミテット』!? 救世級だけが使える、聖炎増幅魔法!!
友達を助けてくれと、そういうことなのか? ブレイウッドはその為に『アンリミテット』を……
任せろ!! お前もカノン様も、全部俺が救ってやる!!
オバリー一刀流宗家総師範。ランド・オバリーの剣に賭けてな!!
俺はカノン様を助けるために大地を蹴った。通常の聖炎では得られない加速。一瞬で俺はウェアウルフを肉薄する。
ブレイウッドを囮にしてカノン様に襲い掛かったウェアウルフ。だが、その牙がカノン様に届く前に追いついた俺は、剣で奴の足を一本斬り飛ばした。僅かに遅れて、虚空から現れたセフィリア様が、風の刃で残っていたもう片方の足を斬り落とす。
「まだだぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
両足を失ったウェアウルフだが、奴の執念も凄まじかった。カノン様に向けて伸ばされた腕、だがその腕もまた二本とも切断されて失われる。斬ったのはバネットとシュガリーだ。
『アンリミテット』が扱えるのは救世級のみで、その存在は30年前の聖女セイナ以後確認されていない。他の兵士達は初めての『アンリミテッド』に戸惑うことになったが、ブレイウッドと同じ訓練中隊で、既に『アンリミテット』を体験したことがあるバネットとシュガリーだけは咄嗟に動くことが出来たのだ。
俺はウェアウルフが無力化されたのを確認すると、すぐにブレイウッドの方に向かう。
四肢を失って地に伏すウェアウルフ。それとほぼ同時に、俺は無事ブレイウッドを受け止める。『アンリミテット』が無ければ間に合わなかっただろう。
こいつ、こんなになってまだ心が折れてなかったとはな……
俺は意識を失っているブレイウッドを強く抱きしめながら膝をつく。『アンリミテット』は通常の『バーニングマッスル』以上にカロリーを消費するため、流石の俺もくたくただ。
それだってのに……
「カノン!! やめなさい!! 精霊に呑まれては駄目よ!!」
セフィリア様の声に振り向くと、そこには赤く燃え上がる竜の姿があった。全身に炎を纏ったその姿は、まるで抑えきれない怒りが噴き出してるかのようで、ギガスクイードを倒した時とは明らかに気配が違っている。
「精霊王!? まさか制御できていないのか!?」
まったく。もうくたくただって言ってるだろう……
ザイックは絶景を目にしながらあっさり死にましたが、ポチローは楽には死なせません。
読んで頂きましてありがとうございます。( _´ω`)_オツカレー




