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欲望

三人称が続きます。

「誰だ!?」


 馬車を奪おうとしたザイックだが、そこでひとりの少年に見つかってしまう。巡礼者の服を着ているが腰に剣を差していることから、ザイックはこの少年が実は兵士であると一目でわかった。


「敵だ!! 敵兵が侵入しているぞ!!」


 少年が叫ぶ。それは馬車の警護についていたリオンだ。


「くそっ」


 早々に見つかってしまったことで焦るザイックだったが、逆にポチローは尖った犬歯を覗かせて笑みを浮かべる。


「はっ! ついてるぜ!」


 ポチローはリオンを人質にしようと手を伸ばす。剣に手をかけるリオン。剣を抜くには間合いが近い。ナイフの方が有利な距離。ポチローは薄ら笑いを浮かべるが、突如それが苦悶の表情に変わる。


「ぐふぉ!?」


 彼の腹には剣の柄がめり込んでいた。一瞬で間合いを詰めたリオンは、剣を抜くのではなく、柄でポチローの腹を殴りつけたのだ。


 まだ身体も小さな少年とはいえ、加護を持つリオンの一撃は強力だ。普通の兵士なら十分戦闘不能に出来ただろう。しかし残念ながら、ウェアウルフであるポチローの意識を堕とすには至らなかった。


「……ったく、舐めたことしやがって」

「くそっ……離せ!」


 ダメージを負いながらもリオンを捕えたポチローは、太い腕をリオンの首筋に回し絞めあげる。必死で抵抗するリオンだが、やがて意識を落とされる。


「よし! 人質は確保した! 逃げるぞポチロー!」


 御者台に上り、ザイックはポチローに早く馬車に乗るように促す。しかし、ポチローはリオンを捕えたままその場を動く様子を見せない。


「何してるんだポチロー! 早く馬車に乗れ!」

「うるせぇ! ここまで来てセフィリアの腕の一本も食わずに帰れるかってんだ!」

「何っ!? 貴様まだそんなことを!?」

「そんなことだと!? 馬鹿野郎!! 俺達ウェアウルフはエルフの肉を食う為に帝国に従ったんだ!! 仲間も死んだ!! こんな人のガキひとりじゃ割に合わねぇんだよ!!」

「馬鹿が!」


 子供といえど所詮は一介の兵士。セフィリアの身柄との取引を持ち掛けてたところで向うの指揮官が応じるはずがない。人質が欲しかったのは交渉の為ではなく、逃げ切るまでの盾にしたかったからだ。


 言い争っているうちにセンチュリオンの兵士が集まってくる。大部分が殲滅戦に向かっている為、馬車の警護に残っていたのは5人だけだったが、ポチローとザイックのふたりを相手にするには十分すぎる数だ。


「おっと! 動くんじゃねぇ! セフィリアだ! セフィリアを連れてこい! でないとこのお坊ちゃんの細い首がへし折れちまうぜ?」


 セフィリアは上手く姿を消しているのだろう。ポチローの嗅覚でも位置を特定することは出来なかった。だが、近くでこの状況を見ているのは間違いない。


 啖呵を切るポチローとセンチュリオン兵との間で睨み合いになる。


 センチュリオン兵の先頭には槍を携えたふたりの少女がいた。レノアとファーファである。意識の無いリオンの姿に彼女達から悲鳴が上がった。


「リオン! しっかりして!」

「獣が! リオンを離せ!」

「うるせぇ! 返して欲しけりゃセフィリア出せっつてんだろ!」


 大切な婚約者を捕えられて、レノアもファーファも怒りをあらわにしてコルセスカの切っ先をポチローに向ける。


「ほう……」


 ザイックは勇ましい少女の姿に目を奪われた。失った娘と同じくらいの歳の少女がふたり。しかも上玉だ。薄茶色の髪の気の強そうな少女も、うねるような白い髪の少女も、タイプは違うが甲乙つけがたく美しい。


 ザイックの中で彼女達を手に入れたいという欲求が生まれる。


 ザイックは思った。自分は死ぬかもしれない。それなら最後に馬鹿を見習ってみるのもいいかもしれないと。


 どうやら少女達にとって少年は大切な存在のようだ。これは利用できるとザイックはほくそ笑む。


「そこの娘。あの少年の事が大事か?」

「おい! お前何を?」


 突然声をかけられて驚くレノアとファーファ。それはポチローも同じだったが、ザイックはそれを無視してもう一度聞く。


「少年が大事か?」

「ええ、リオンは私達の婚約者よ」


 レノアの言葉にファーファが頷く。


 何だと!? ふたり共このガキの婚約者!?


 縊り殺せ!!


 ポチローに思わずそう言いかけたザイックだが、何とかそれを飲み込んだ。


 巡礼者の恰好をしているが、彼女達もセンチュリオンの兵士だ。センチュリオンでは貴族の令嬢でも兵役に入ることは珍しくない。センチュリオンで潜入工作をしていたザイックは当然それを知っている。


 貴族なら一夫多妻は珍しくない。


 ザイックは帝国の平民の出身であり、貴族が嫌いだった。


 帝国では貴族は大して苦労せずに仕官になれる。他国への潜入工作に回されることもない。そういった面では貴族でも特別扱いされないセンチュリオンはまだ好ましく見える。


 だがこの差は何だ? 自分は苦労して仕官になった挙句、間諜として遠い異国の地で過ごすことを余儀なくされ、生きるか死ぬかという岐路に立たされている。


 対してこの少年は兵役を終えた後、美しい少女ふたりを嫁にして、順風満帆な人生を送るのだろう。


 そんなの許せるものか!!


 どうせポチローは少年を殺す。ならば少女達の方は俺が壊す!! ぶっ壊してやる!!


 嫉妬と怨嗟で狂いそうになりながら、ザイックは表面上冷静を装う。


「そうか。なら彼の代わりに、お前達ふたりが人質になれ。できるな?」

「もちろんよ」


 レノアとファーファは迷わず頷くと、その場に武器を捨てた。ズシリと重い音を立ててコルセスカが地面に落ちて、ザイックは内心冷や汗をかく。


 ふたりとも見た目は可愛らしい少女だがやはりセンチュリオンの兵士なのだ。大の男でも力でねじ伏せられる保証はない。


「おいおい。ふたりは欲張りすぎだぜ?」

「黙ってろ!」


 ポチローに言われたくは無い。娘ふたりくらい、セフィリアを手に入れようとするのに比べれば遥かにマシだ。


 それにいくら力が強くても所詮は小娘だ。やりようはある。


 ザイックは口元を吊り上げて言った。


「ふたり共その場で服を脱げ」


 裸になれば大抵の女は大人しくなるもんだ。男を知らないような年頃の娘なら楽勝だろう。そう考えたザイックは服を脱ぐように命じる。


「いいわ」


 レノアとファーファは服と靴を脱ぎ捨てた。予想に反して迷いも恥じらいもない様子にザイックは拍子抜けしたが、胸を覆うさらしと褌を残し、美しい少女の肌があらわとなると、ザイックは卑猥な笑みを浮かべた。


「よし! 下着もだ!」


 レノアもファーファもそれには若干躊躇した。だがそれも一瞬で、ふたりは胸にまかれたさらしを解く。


 その場にいた他の兵士達は、ある者は痛まし気に目を伏せ、ある者は怒りで肩を振るわせる。


 そしてまたある者は……言わずもがな。


「下もだぞ!」

「わかってるわよ! いいわねファーファ?」

「うん。もちろん。このくらいなんでもないよ」


 相撲大会で苦杯を舐めた経験を彼女達は忘れていない。やるべき時に全力を出し切れなかったときの悔しさと恥ずかしさに比べれば、裸を晒すくらいなんだというのか。


 リオンを助けるために今やるべきなのは時間を稼ぐことだ。


 チャンスは必ず来る。


 ふたりの手がゆっくり褌の結び目に掛かる。


「早くしろ! 脱いだら馬車に乗れ。大人しく言うことを聞けばガキは返してやる!」

「お、おい。あんた……へへへ。やるじゃねぇかよ」


 ポチローもこの手の趣向は嫌いじゃない。エルフの前には霞んでしまうが、若い娘は大好物だ。


 身体も締まっていて食いごたえがありそうだし、食う前にも中々楽しめそうだと、ポチローは舌なめずりをする。


「おいセフィリア! 見てるんだろう? お前が出てこないならこの娘達を頂いていくぜ?」


 ポチローが食い入るように身を乗り出したその瞬間だった……


「えりゅたん稲妻きぃぃぃぃぃっく!!!!!」

「ぎゃわん!?」


 ポチローの顔面に金色の閃光が襲い掛かった。

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