センチュリオンの戦い
なんと本作がHJ小説大賞2020後期二次選考通ってしまいました。びっくりです。
何故? 何故こんなことになってしまったのだ……
ザイックは血塗れで地に伏していた。
眼前には部下だった男の首が転がっている。
『ファイアフラッシュ』を受けて落馬したザイックは、衝撃で意識を失った。その際に偶然斬られた彼の血を浴びたことで、死体と思われ見逃されたらしい。
数分後、意識を取り戻したザイックの目に入ったのは、仲間だった者達の屍と血の海だ。ある者は首を落とされ、またある者は袈裟懸けに胴を寸断され、五体満足な遺体など無いといっていい。
恐れをなしたザイックは、そのまま仲間の死体に紛れて死んだフリをすることにした。
まだ戦っている仲間がいる。上司であるマルコも健在なようだ。
それがどうした? 奴らは普通じゃない。化け物だ。
獣人をも圧倒する身体能力を持ち、炎を打ち出し、閃光魔法を操る。
戦っても勝ち目なんてない。
生きていると気付かれたら間違いなく殺される。
自分が生き残るために、ザイックは仲間の断末魔に耳を塞ぐ。
また近くに誰かが倒れてくるのを感じた。まだ息があるかもしれない。だがザイックは自分の安全の為に死んだふりに徹する。
そんなザイックにその誰かは小声で話しかけてきた。
「おい。生きてるんだろう?」
「ひっ!?」
ザイックは小さく悲鳴を漏らす。
「しっ! 大きな声を出すな。気づかれる!」
その声には聞き覚えがあった。
「ポチロー? 無事だったのか?」
いけ好かない亜人種の男だが一応味方だ。ザイックは胸をなでおろす。
気づかれないようにそっと顔の向きを変えると、頭から血を流したぞっとするような顔があった。
「よう」
血塗れの顔で、ポチローは犬歯を覗かせる。
口調はしっかりしていることから、どうやらポチローも自分と同じように血塗れになることで死体を装っているらしい。
「あんたと同じで死体のフリしながら、ようやくここまでたどり着いたぜ」
「あんまりよるな。気持ち悪い」
「おいおい。そこに転がっている本物の首よりマシだろう。それにこれからどうするかも話したいしな」
「……ちっ」
ザイックは仕方なくポチローと顔を突き合わせる方を選ぶことにした。
「どうする? 奴らセンチュリオンの正規兵だ。マルコの旦那がまだ頑張ってるようだが全滅は時間の問題だぜ?」
ポチローに言われるまでもなく、ザイックも巡礼者についていた護衛がセンチュリオンの兵士であると気が付いていた。ザイックとて軍人である。彼等が傭兵やフリーランサーではなく、訓練された兵士であることはすぐに察した。
「どうするもなにも作戦は失敗だ。死にたくなければ投降するしかないだろう」
戦闘終了後、遺体を調べる前に兵士は必ずその身体を槍で突く。死んだふりをしていないか確認するためだ。だからどの道、このまま死んだふりでやり過ごそうとしても結局殺されてしまう。
今不用意に動いたら殺されかねない。投降するなら戦闘が終わったタイミングでだ。
ザイックは帝国諜報部に所属し、センチュリオン王国へ潜入している特殊部隊の仕官である。帝国軍の情報を持ってセンチュリオンと取引し、助命を乞うしか助かる道はない。
そんなザイックをポチローは鼻で笑う。
「何が可笑しい?」
「それは甘すぎるぜ。センチュリオンの連中はともかく、セフィリアが俺達を許すはずがない」
「それもそうだな……」
ザイックは反論できない。自分達はこれまで何人ものエルフを殺し、それを見せつけるように誇示してきた。セフィリアにとって、今更帝国の動向など知ったことではなく、取引に応じる見込みは低い。
かつての戦争でセフィリアは精霊王の力を振るい、数万の帝国兵を単身で壊滅させたとされている。帝国においてセフィリアは悪魔よりも残忍で恐ろしい存在であると伝えられていた。そんなセフィリアが自分達の命乞いを聞き入れるだろうか? 否である。
センチュリオン国内。せめて国境付近ならば望みはあった。しかし、今いる場所は既にフィンレの目と鼻の先の位置にある。セフィリアが何故センチュリオン兵を連れているのかは不明だが、センチュリオン兵がセフィリアの意思を尊重する可能性が高い。
ここで捕虜になったとしても、センチュリオンに保護されなければ、セフィリアに殺されるか、本国の手によって抹殺されるかのどちらかだ。
ザイックは内心で頭を抱えた。この先どう転んでも生き残れそうな選択肢が見えない。
いっそ飛び起きて、全力で逃走しようかとも考えた。しかしそれが最悪の選択であることを彼は理解している。
「奴らは化け物だ。振り切って逃げるのは不可能だ」
「ああ、だが俺にいい考えがある」
血に染まった顔を歪めてポチローは笑みを浮かべた。
「ひとりでやるのはきつかったんでな。あんたがいてよかったぜ」
「何をするんだ?」
「さっき突入したときに見たが、連中の馬車の周辺にはガキが何人かいた。そいつらを人質にして馬を奪おう」
「なるほどな」
ザイックはポチローの立てた案に頷く。センチュリオン兵は強いが弱点もある。それは継戦闘能力の短さだ。普通に逃げてもすぐに追いつかれてしまうが、人質を盾に上手く時間を稼げれば逃げ切れる可能性はある。
亜人種風情に主導権を握られるのは癪だが、他に良い手も思いつかない。
だが問題もある。まずセンチュリオン兵の練度はザイックから見ても高く、馬車まで近づくのは不可能に思えた。
それにもうひとつ。センチュリオンの兵士は子供でも強い。
「そいつらは巡礼者の服を着ていた。それにやたらちっこいのもいたし問題ねえよ」
ザイックは自分達はセンチュリオンとセフィリアに嵌められたのかと考えていた。だが、自分達をおびき出す罠だったとすれば、経験の乏しい子供兵を使うのも不自然だ。ポチローの言う通りなら、本当に巡礼者の護衛をしていたのかもしれない。
「しかし、どうやって馬車に近づくかだが……」
丁度その時、センチュリオン兵に動きがあった。センチュリオン兵の一団がマルコ率いる本体に攻勢に出たのだ。
「今だ!」
「おう!」
ザイックとポチローはこの絶好のタイミングを逃すまいと転がりながら地面を移動する。
馬車の周辺にはまだ護衛は残っていたが彼等の注意が前線に向いていたことで、ザイックとポチローはまんまと馬車の下に潜り込むことに成功する。そこから様子を伺うが、セフィリアや子供の姿は確認できない。どこかに隠れたのだろう。
「人質にするガキは俺が探す。お前さんは馬を頼む」
「わかった」
ポチローとザイックはナイフを手に、静かに馬車の下から這い出した。
ポチローは爛々とした目で辺りの匂いを探る。
どこだ? どこだセフィリア……
ポチローはエルフを食らうことを諦めていなかった。それは自身の命よりも優先するほどに。
生き残ろうとするザイックと、エルフの肉に囚われたポチロー。決定的に目的が違っていたことにザイックは気は付いていなかった。
✤✤✤
その頃。オバリー大尉は……
「ちぇすとぉぉぉぉぉ!!!!!」
剣を上段から振り下ろし、立ち塞がった相手を縦一文字、真っ二つに切り捨てる。
「甘い甘い!!」
また、数人が大楯を携えた状態で突進し、押しつぶそうとしてくるが、オバリー大尉は剣を横なぎに一閃。帝国兵はふたりまとめて盾ごと胴を寸断された。
敵の指揮官の元へと突っ込んだオバリー大尉。その戦いぶりは無双と呼ぶにふさわしい。
彼に付き従うのはほんの数人の兵士だけだった。残りは指揮官を逃がさないように距離をとりながら包囲し、『フレイムショット』で弾幕を張って牽制している。
センチュリオン兵は前衛に多くの戦力を全投入しない。それは身体強化魔法である『バーニングマッスル』のスタミナ消費が激しい為、交代で戦闘しなければならないからだが、味方の攻撃での同士撃ちを避ける為というのも大きな理由である。
センチュリオン兵は元より一騎当千の強さを発揮するため、大人数の混戦になるより、少数を前衛に、残りは後衛としてフォローに徹する方が効率が良い。もし、センチュリオン兵が総攻撃を仕掛けるとしたら、それは殲滅戦を仕掛ける場合か、玉砕を覚悟した時である。
「たったひとりに何をやっている!! 大楯隊!! 敵の包囲を食い破れ!!」
マルコの指示で大楯を持った帝国兵がテストゥドと呼ばれる陣形を組み、包囲を破ろうと迫ってくる。彼等の持つ盾は表面に魔法攻撃を無効化するオリハルコンが使われていて防御は万全に思われた。
だが、それはセンチュリオン相手には悪手である。
「馬鹿め。蒸し焼きにしてやれ」
後衛を指揮する小隊長の号令の下、センチュリオン兵は一斉に『フレイムショット』を連射する。彼等から放たれた金色の炎が盾に身を隠すように隊列を組んだ帝国兵を捕えた。
威力の低い『フレイムショット』ではオリハルコンの盾を破壊することはできない。だが、濃密な炎の弾幕に焙られては中の人間は耐えられない。どんなに武器の性能が良くても、持っているのは所詮普通の人間なのだ。熱に耐えきれずついに大楯隊は自慢の盾を放り捨てて逃げ出してしまった。
その様子にマルコは歯ぎしりする。
「ぐぬぬぬぬ!! 情けない連中め!!」
大楯隊は精霊魔法を得意とするエルフとの戦での切り札だった。それを失い、戦力も大半を失っている。セフィリアを討つことは諦めるほかない。それどころか生きて帰れるかどうか……
もしこの場を逃れることができたとしても、地位の失墜は明らかだ。責任を取らされ死罪もありうる。
(おのれ!! おのれ!! おのれ!! 何故こんなことに!? それもこれも全て!! 全て!! 全て!! 俺をこんなところに送った連中のせいだ!! ならば……)
最早これまで。剣を抜いたマルコはその切っ先を自身に向けた。
マルコは黒魔術の使い手である。ギガスクイードを呼び出したのも彼だ。
最後に自らの命と引き換えに悪魔に願う。憎悪の対象はセフィリアでもセンチュリオンでもない。遥か遠い故郷である帝国だ。
地位も名誉も手に入れられず、帰ることさえ叶わないともなれば、今更軍人として祖国に殉じる意味があるだろうか?
マルコにはない。だから彼は悔しさと憎しみを使えるべき祖国に向けた。
「我が命を賭した願いを聞き届けたまえ……」
帝国の主要都市は黒魔術による結界によって守られている。自分ひとりの命を捧げたところで無効化されるだろう。そんなことはマルコも理解している。それでも、それでもせめて一矢報いたい。その一心で自らの心臓を貫こうとするマルコ。だがその望みさえも叶えられることはなかった。
キン!
鋼が打ち合う音を立ててマルコの剣が弾き飛ばされる。
マルコの自害を間一髪防いだのはオバリー大尉だ。
「あんたが指揮官だな?」
剣豪ランド・オバリーは暗殺対象のひとりであり、マルコはその顔を知っていた。
最後の望みだった黒魔術を邪魔をされたマルコは憎々し気にオバリー大尉の顔を睨みつける。
「なんでセンチュリオンの兵がここにいる?」
「お前らに言われたくねぇよ。帝国兵」
「ははっ!!」
自嘲気味に乾いた笑い声を上げるマルコ。勝てない相手と理解しているのか、最早諦めたのか。マルコは抵抗する素振りを見せなかった。オバリー大尉はがっくりとうなだれるマルコの首筋を剣の柄で殴りつけて昏倒させる。
「ふぅ。これでブレイウッドに撃たれる心配はなさそうだな」
目標は果たしたが、まだ戦闘は終わっていない。オバリー大尉は全軍に聞こえるように声を張り上げた。
「敵の指揮官は捕えた!! 殲滅戦に移れ!! ひとりも逃すな!!」
オバリー大尉の声に、これまで後衛として控えていた部隊が残った敵に総攻撃をかける。
敵は帝国の工作部隊だ。今回はセフィリアを狙ってきたようだが、センチュリオンの部隊が国境を越えてフィンレに向かったと帝国が知れば、帝国は本格的に探りを入れてくるだろう。シーリア・ブレイウッドのことを知られないためにも誰ひとり逃すわけわけにはいかないのだ。
敵の殲滅は他の兵士に任せ、オバリー大尉は気を失ったマルコの首根っこ掴んでを引きずっていく。そこに血相を変えた兵士が駆け寄ってきた。
「大尉!! 大変です!! 馬車が襲われブレイウッド二等兵が人質に!!」
「なんだと!? まったくあいつら何やってやがる!?」
オバリー大尉はマルコを兵士に任せると馬車へと走った。
前回の更新から一ヵ月以上が経過してしまいました。更新遅くて本当に申し訳ありません。次回はもう少し早くお届けできるように頑張ります。(m´・ω・`)mゴメン




