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エルフ狩り

久々の更新です!

 ぶぉぉぉぉぉん!! ぶぉぉぉぉぉん!!


 再び角笛が響く。


「後方より武装集団!!」

「盗賊か!?」

「不明です!」

「ギガスクイードを討伐に来たハンターということは?」

「わからん、総員警戒!」

「第1小隊は前衛! 第2は馬車を護るように陣を組め!」


 一難去ってまた一難。ギガスクイードを撃退したかと思ったら、今度は謎の武装集団の襲来である。


 一応こっちは軍隊なもんで、規則で先制攻撃を禁止されている。相手が敵か味方か一般人か区別がつかない状態では、どんなに怪しくてもこちらから手を出すことが出来ないのだ。


「撃ってくるぞ!」


 接近中の武装集団が、馬の上から弓をつがえるのを見て声を上げる。そして次の瞬間、放たれた矢が馬車の一台に突き刺さる。


「攻撃を受けた!」

「接近してくる騎馬集団を適正存在と認識!! 総員、戦闘用意!!」


 兵士達は馬上から射かけられた矢を剣や『フレイムショット』でうち落とす。センチュリオン兵に生半可な弓は通用しない。だからこそ帝国は射槍機ジャベリンという、人間相手にはオーバーキル過ぎる上にでかくて重い武器を大量配備せざるを得なかったのだ。


「『ファイアフラッシュ』照射始め!」


 『ファイアフラッシュ』はサーチライトのように収束率の高い光で対象を照らすことができる加護魔法だ。兵士達は『ファイアフラッシュ』の強烈な光で接近する騎馬集団の視界を奪う。とはいえ昼間では一瞬視界を遮る程度の効果しかないだろう。だけどそれで十分だった。


 敵兵が目をかばった瞬間。


「突撃!」


 ほんの一瞬生まれた隙を逃さず『バーニングマッスル』で身体能力を強化した王国兵が跳躍し、剣を振るう。そして寸断された首が鮮血の尾を引いて幾つも宙に飛んだ。


 彼等を乗せていたお馬さん達は、主の首無し死体を乗せたまま呆然と立ち尽くし、一部は降り落として逃げていく。


 お馬さんは何も悪くないからね。兵士達は馬を傷つけることなく、乗ってる人間だけを切り伏せる。


 圧倒的じゃないか、わが軍は。ついそんな台詞が出てしまいそうになる。


 武装集団の戦力はざっと見たところ100人程度。盗賊にしては大きい規模だが、今回ばかりは相手が悪かった。アイアンライン警備隊の相手は主に魔獣だが、当然盗賊なんかの取り締まりも任務のうちだ。そのため対人戦の訓練にも抜かりはなく、その練度、実戦経験は国内でもトップクラスだ。はっきり言って、100人くらいなら圧勝間違いなしである。


 だが、前衛が敵本体と戦闘を行っている隙を突くように、数人の男達が真っすぐ私達のいる馬車の方に向かってくる。


「ヒャッハー!!」

「肉ぅぅぅぅぅ!!!!!」


 人間とは思えない素早い身のこなし。おそらく亜人種だ。その証拠に頭から三角形のケモ耳が生えている。それにふさふさの尻尾。


 うわぁ! もふもふだ!


 なんてね。


 いくらケモ耳に尻尾があっても汗臭そうなマッチョなおっさんに心をときめかせたりなんてしないよ。


 全身毛皮か、イケメンになって出直してこい!


「エルフのにくぅぅぅぅぅ!!!!!」


 セフィリア様めがけてまっしぐらに襲い掛かるケモ耳のおっさん。だが、オバリー大尉によってあっさり撃退される事になる。


 仲間を巻き込みながら吹っ飛んでいくケモ耳のおっさん。オバリー大尉ってモブっぽい顔して実は無茶苦茶強いんだよね。前にそう言って褒めたらほっぺたつねられた。


「何だったんです? 今の?」

「ウェアウルフのようだったな。どうやら、ただの盗賊ではなさそうだ」


オバリー大尉は不振がるのも当然だ。


 亜人種は人と基本的に距離をとって生きている。センチュリオン王国は亜人種にも寛容だが、それでも生活圏ははっきりと分かれている。理由は大きくふたつが上げられる。ひとつは、他種族を食らう肉食の獣人のように、相いれない種族的習性と倫理観を持つ種族と、共に生活するのが難しいというのがひとつ。そしてもうひとつが異種族間の婚姻が忌避されているという点だ。


 異種族間でも性行為は可能だ。だが、違う種族の間で出来た子供は、間違いなく異形か、障害を持って生まれることになる。


 とはいえ、出会いがあれば愛だ恋だが生まれることは避けられないわけで…不幸な子供を産まない為にも、この世界では基本的に種族ごとに生活圏を分けているのだ。


 話が脱線したが、本来、人喰い種であるウェアウルフを仲間にするなど、羊と狼の友情くらいありえない。ウェアウルフが満足できるだけの餌を与え、飼い慣らすにしても盗賊程度では無理だろう。


 さて、戦闘開始間もなく20人以上を討ち取られ、もはや勝負は決している。軍隊において、3割も損耗すれば全滅とみなされる。一応まだ数的には連中の方が多いが、盗賊にしてもまともな指揮官ならば勝ち目が無いことを理解して、撤退を命じるはずだ。


「敵は少数だ! 進めっ! 進めっ! 進めぇぇぇぇぇ!!!!! セフィリアを殺せぇぇぇぇぇ!!!!!」


 どうやらまともじゃなかったっぽい。


 しかも、狙いがセフィリア様だと叫んでる。これはもう自分達の正体を明かしているのも同然だ。エルフを、それもセフィリア様と知って命を狙う勢力なんて帝国だけなのだから。


 セフィリア様が苦笑する。


「あらあら。どうやら彼等は帝国の諜報部と、そこに飼われているエルフ狩り部隊のようね」

「なるほど。盗賊にしては良い装備してると思ったらそういうことか」


 オバリー大尉は倒した敵兵が落としていった武器を眺める。白銀に輝くククリナイフはかなり高級そうに見えるが、どうやらミスリル製らしい。


 センチュリオン王国を始め、北西諸国連合でミスリルはほとんど産出されない。そのためミスリル製の武器はとても高価だ。


 対して帝国はミスリルを始めオリハルコンなど希少金属の鉱床を豊富に持っている。帝国を世界最大の覇権国家になれたのは、鉄の武器よりも強いミスリルの武器を大量に用意できたというのが大きい。


 まあ、筋肉には通用しなかったけど。


 筋肉の女神の加護を受けるセンチュリオン兵は、玄鋼という超高比重金属製のクソ重い武器を軽々扱う。そんなの鬼が金棒もってるようなもので、軽量なミスリルの武器はあまりにも分が悪い。


 速さで勝負できる達人もいただろうが、そんなのは稀だ。多くは圧倒的パワーの前に捻り潰される事になる。


 戦争中に鹵獲された帝国製の武器は、我が国の国庫を大いに潤したらしい。そんなこともあって、時代が進むと帝国はセンチュリオンとの戦いにミスリルのような高価な武器を用いなくなったという。


「間違いないわね。最初に襲ってきたのはウェアウルフ。霧を持つ我々エルフを追うために帝国に飼われた猟犬よ」


 霧とはエルフが使う隠形魔法のことだ。オバリー大尉のような達人の目でさえくらませることができるが、足跡や空気中の残り香まで消すことはできないのだという。帝国は嗅覚に優れたウェアウルフを仲間にしてエルフを見つけ出し、殺しているのだ。


「この辺りではこれまでにも何人かの同胞が彼等の手にかかっているわ。セリカ……この子の母親も……ね」


 そう言ってセフィリア様は抱きかかえたカノンに目線を落とす。


「え?」


 私も驚いてカノンを見るが、カノンはセフィリア様の腕の中で眠ったままだ。


 カノンの母親が既に他界していたことは聞いていた。でも殺されていたというのは初耳だ。


 そんなつらい過去を持ちながら、カノンはいつも明るく元気だった。


 まったく。この子はどこまで強いんだよ。


「では、この連中はカノンのお母さんの敵かもしれないんですか?」

「ええ。可能性は高いわね」


 オバリー大尉がじとっとした目をセフィリアに向ける。


「もしかして狙ってましたか?」


 オバリー大尉はセフィリア様が自らを餌にして、帝国兵をおびき出したのではないかと疑ったようだが、セフィリア様は心外と言った顔で首を振る。


「まさか。そんなことに子供達を巻き込まないわ。それに仕掛けてきたタイミングからして、おそらくそちらの要塞で私を目撃したためじゃないかしら?」

「はぁ。まぁ、そうですねぇ」


 大きくため息をひとつ吐いて頬をかくオバリー大尉。


 連中がセフィリア様を狙って現れたなら、インヴィンシブル要塞の謝肉祭で目をつけられた可能性が高い。つまりは帝国の間諜が警備隊内部か来場者に潜んでいたという事である。来場者はもちろん、軍関係者の身元を洗うにも限界があり、オバリー大尉としては頭が痛いところだろう。


 元々、何事も筋肉で解決するセンチュリオン王国は情報戦が苦手としている。


「あなた達がいてくれて助かったわ。この場はお任せしても?」


 本当ならセフィリア様は自分で敵を排除することが出来る。だけどセフィリア様の力もまた私やカノンと同じく大きすぎてこの程度の戦闘で使用するには向いていない。今の状況でその力を振るえば、確実に兵士達を巻き込んでしまう。


 聖母のような笑みを浮かべるセフィリア様。だけどその目は笑っていない。


 まっとめて吹っ飛ばされたくなかったら貴方達でなんとかしなさい。


 その目はそう語っていた。


 セフィリア様は父方の祖母だからセリカさん。殺されたカノンのお母さんはセフィリア様の娘ではない。けれど身内なのは間違いないし、誰よりも長く生きているセフィリア様にとって、里にいるエルフは皆彼女の子共も同然だと聞いている。


 憎い敵を前にしてセフィリア様は本当は内心で怒り狂っている。私ですら気づいたのだ。オバリー大尉が気が付かないはずがない。


「勿論です。敵の首魁を御前に挙げてご覧に入れましょう」

「ふふふ。期待していいかしら?」

「はっ!」


 顔をひきつらせたオバリー大尉は、セフィリア様の圧力から逃げるように愛用の長剣を手に踵を返した。


「バネット! シュガリー! 俺はちと敵の大将とっ捕まえてくる。セフィリア様とカノン様を任せたぞ」

「り、了解!」

「ご武運を!」

「おう! グランスはそのまま馬車を護れ!」

「了解です!」


 レノアとファーファには私達の護衛を任せ、リオン君には馬車の護衛を命じる。荒野の旅では水や食料など物資を運ぶための馬車は命と同じくらい大切だ。他の馬車にも少なからず兵士が護衛についている。


 それからオバリー大尉は私に近づいてそっと耳打ちする。


「まあ無いと思うが、もし俺がしくじったら味方ごとでかまわん。『プロミネンス砲』で敵を殲滅しろ」

「いいんですか?」

「ああ。セフィリア様の信用を失えば、センチュリオンとエルフの同盟にも関わってくるからな。何よりこの場でもし精霊王の力を使われたら俺達も危うい」

「確かに……」


 カノンが召喚した大精霊の力を目の当たりにしたばかりなため私は頷くしかなかった。精霊の力は聖炎と違い普通に人の命を奪う。


「頼んだぞ」

「了解であります」


 最前線へと向かうオバリー大尉を見送ると、私はセフィリア様に向かっておずおずと口を開いた。


「あ、あの。カノンのお母さんが亡くなられた件について、よかったらお聞かせ願えないでしょうか?」


 本来こちらから踏み込むようなことではない。でも私にはそれを聞かなければならない理由がある。


 オバリー大尉、レノア、ファーファ、リオン君。それに護衛についてくれてる二個小は私の為にいる。


 元々セフィリア様とカノンに護衛なんて必要ない。私が王女でなければいなかったはずの人達なのだ。


 今戦っている兵士達はセフィリア様と帝国の事情に巻き込まれたのではない。私の事情に巻き込まれたのである。


 私は王女。彼等に守られ、戦わせる限り責任がある。そして盟友であるセフィリア様やカノンが復讐を望むなら力も貸す。


 その判断を下すのはセフィリア様やオバリー大尉ではない。私が行うべきものだ。


 だから、私は知る必要がある。兵士達の命を預かっている者として……


 そんな私の心境を見透かしたように、セフィリア様は私の目を見てとても悲しそうな顔をした。


「そんなに早く大人になろうとしなくてもいいのよ?」

「それでも私は王女ですから。盟友である貴女の苦しみを黙って見ているわけにはいきません」


 セフィリア様は目を伏せて静かに頷いた。


「まったく。センチュリオン王は子供にいったいどんな教育をしているのかしら」


 私を教育したのは3人のお母様達です。お父様は完全に任せてましたね。お母様達の教育によって日本の引きこもりJKだった私の性根は根本的に叩き直されたといっても過言ではない。


 一息ついた後、セフィリア様は話始めた。鋼が打ち鳴らされる音と怒声、悲鳴が聞こえてくる戦場の真っただ中で、私は彼女の言葉に耳を澄ます。


「セリカ。カノンの母親が死んだのは昨年のことよ。セリカは年々大きくなるカノンの服の買う為に人の町へ行ったの。里にあった子供の服はもう何十年も前の物ばかりだったし、どうしても新しいのを自分で選びたいって言うものだから。でも、その帰り道で消息を絶って、数日後に首だけが町の門に吊るされていたの」


 エルフは精霊信仰の象徴だ。それを残忍に殺して見せて首を晒す。帝国らしいやり方だ。


「あの子の荷物はそれからしばらくして見つかったわ。そこには荷物の他に遺体の一部が残っていたの。それで分かったのよ。あの子は殺されて、解体されて食べられていたの。帝国に尻尾を振ったウェアウルフ達によってね。セリカは50年も生きていない若いエルフだったわ。戦にかかわったこともない。初めてできた子共の為にって、楽しそうに出かけて行ったの。それなのに、どうしてそんな目に合わなければならないの?」


 セフィリア様の言葉を私は一語一句、噛みしめるように心に落とし込む。


 カノンのお母さん。セリカさんはカノンの為にフィンレを出て殺された。悔しかっただろうね……セフィリア様の怒りは当然だ。敵の首魁を捕え、洗いざらい白状させた後、彼女には復讐する権利がある。


「わかりました」


 私は顔を上げまっすぐセフィリア様を見つめて言った。


「人の起こした不始末です。オバリー大尉がもし討ち損じるようなことがあれば、私が敵を殲滅します」

「シーリアちゃん」

「私の魔法なら人命を損なわずに無力化できますから」


 オバリー大尉から許可ももらっているしね。ただし服や装備は吹き飛ばしてしまうから、荒野に多数の全裸男が転がることになる。


 できればやりたくないから、頑張ってくれオバリー大尉!

読んで頂きましてありがとうございます。


なんと本作、HJ小説大賞2020後期一次選考通ってました。これも応援していただいた読者様のおかげです。本当にありがとうございます。


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