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襲撃者

更新が遅くなって申し訳ございません。小説の書き方がわからなくなってしまいました。(´・ω・`)

「ふふふふふ。手筈通りだ!!」


 獲物へと駆けだしていく配下を見送りながらマルコはほくそ笑む。


 どれだけの戦力を投入しようと、人の力では精霊王には及ばない。そこで、マルコ達は黒魔法を用いて大型魔獣をあの場に呼び出し、セフィリアが介入せざるを得ない状況を作り出した。ギガスクイードはセフィリアを消耗させるための囮だったのだ。


 ギガスクイードを倒した炎の精霊。あれほどの精霊を呼び出した後ならば、セフィリアといえど相当消耗しているだろう。周囲の護衛達も油断している様子だ。


「対価はそれなりに支払ったがな。まあ、()にする子供などまた攫ってくればよい」


 隣で馬に乗っていたマルコの部下、ザイックがほんの僅かに顔をしかめる。


 ギガスクイードを召喚する為に、マルコは10人の子供を生贄として悪魔に捧げた。


 生贄とされたのはセンチュリオン王国内で攫ってきた子供である。マルコ達は、将来帝国の先兵とするべくセンチュリオンの子供を攫い、洗脳し訓練を施していた。()とはその相称である。


 センチュリオン王国の南部には、()を訓練するための帝国の秘密基地が存在する。だが、帝国兵の中にはお気に入りの()を連れ帰り自分の手で育てる者も多かった。センチュリオンに潜入している帝国の間諜は普段は一般人として生活しているため、カモフラージュとして子供がいた方が都合が良かったのである。


 もちろん、欲望の捌け口としての目的の方が大きいのは言うまでもない。


 生贄にされたのはそうして連れてこられていた()だった。


 帝国兵にとって、()は道具であり、駒しかない。だが、それでも共に暮らしていれば多少なりとも情も移る。


 生贄となった()の中には、ザイックが娘として面倒を見ていた少女も含まれていた。


「幼い子供が10人命を賭して呼び出した魔獣だというのに、こうもあっさり敗れるとはな……理不尽だとは思わんか?」

「ええ、許されることではありません」


 マルコの言葉にザイックは頷く。


 炎に焼かれるギガスクイード。その様子を眺めながら、彼は短い間とはいえ娘だったの少女の顔を思い出す。


 表面上は仲の良い父娘として過ごし、夜になればその未成熟な身体に欲望を発散させてきた。


 顔を腫らし、慈悲を請う愛娘の泣き顔。


 ……お気に入りだったというのに。


 実際に殺したのはマルコだ。だがザイックは怒りをセフィリアへと置き換えた。


 10人分の幼い命を費やした黒魔法が、エルフがほんの少し精霊にお願いしただけで容易く破られてしまう。あまりにも理不尽だ。人の努力と命を馬鹿にするにも程がある。


「作用でございますな。やはり亜人種は人にとって害悪。皆殺しにしなければなりません」


 ザイックの言葉にマルコは満足したようだ。それでこそ帝国臣民と頷いてみせる。


「うむ。セフィリアさえ討ち取れば、他のエルフなどは恐れるに足らん。フィンレを滅ぼす事もできるはずだ」


 帝国でもフィンレの正確な位置は掴めていない。だがそれもセフィリアと精霊王の力の為だと考えられていた。


 セフィリアさえいなければ!


 帝国が長年セフィリアを討つことに拘り続けるのもそういった理由がある。


 全て順調だ。どこの国の巡礼者かは知らないが運がなかった。そこそこの護衛は連れているようだが、所詮はフリーランサー。倍の戦力で攻められればすぐに逃げ出すに違いない。


 護衛を排除すれば、あとはどこかに隠れているであろうセフィリアを、じっくり炙り出すだけである。そのために鼻の利くウェアウルフ共も連れてきた。荒野の真ん中で女の足だ。例え逃げたとしても何処かで力尽きるだろう。


 見せしめに巡礼者達を殺していくのもいい。


 子供がいれば好都合だ。人と関わりたがらないエルフでも子供には情が移るらしく、一年ほど前に行ったエルフ狩りでは、幼い子供を餌にしたところ、まんまとおびき出すことに成功した。


 そのエルフの女は、子供の命を助けることを条件に、自らその身を差し出した。結局餌にした子供もろとも殺し、躯はポチロー達にくれてやったのだが……亜人種とはいえ、絶世の美貌を持つ女がウェアウルフ共に解体され、貪られる様子は中々に見応えのあるショーだった。


 セフィリアもまた美しい姿をしていると聞く。


 自然と笑みが浮かぶ。


 もうすぐだ。もうすぐ……


 特等席から最高の瞬間を観戦するため、マルコとザイックも馬を走らせる。


「ただ……気になることが」

「どうした?」


 妄想に水を差され、マルコはいかにも不機嫌な視線をザイックに向けた。


「今の炎の精霊でしたよね」

「そんなの見ればわかるだろう。何が言いたい?」

「文献によると、セフィリアは風の精霊王の守護を受けていたはずですが?」

「何?」


 ならばあの炎の精霊は何だったというのか?


 実際マルコは相手側の戦力を完全に読み違えていた。ここで慎重になって引き返せばまだ間に合ったかもしれない。


 だが、プライドの高いマルコは止まらなかった。


 破滅に向かって彼等は走り出す。もはや歯止めの利かない欲望のままに……



✤✤✤



 匂う!! 匂うぞ!! エルフだ!! エルフだ!! エルフだぁぁぁぁぁぁ!!!!!


 目を血走らせ、涎を垂れ流しながらポチローは駆ける。


 彼の鼻はエルフの気配をはっきりと捕えていた。ポチローを先頭にウェアウルフ達はまっすぐセフィリアめがけ駆けていく。


 ひゃっはーーーーーっ!!!!! 肉ぅ!! 肉ぅ!! エルフの肉ぅぅぅぅぅ!!!!!


 ポチローは走る!! ウェアウルフは走る!! エルフの肉を求めて彼等は走る!!


 殆ど遮蔽物の無い荒野だ。巡礼者に同行していた護衛がウェアウルフ達の接近に気が付く。


 通常なら矢の一本も飛んできそうなものだが弓をつがえる者はいない。もっとも矢などに当たるような彼等ではないが。


 とろくさい連中だと、ポチローは内心で嘲笑う。


 数だけはそこそこだが、どいつもこいつも大した装備を持っていない。


 対してポチローが手にしているのは白銀に輝くミスリル製のククリナイフだ。エルフを狩るために帝国が彼等に与えた牙である。


 軽く強靭なミスリルの武器は機敏なウェアウルフの動きを損なうことなく威力を発揮する。切れ味も抜群で、一般的な鉄の防具なら易々と切り裂ける。


「あん?」


 ポチローの前に男が立ちはだかる。商人っぽい服装でやや大ぶりの長剣手にしている。飾り気のない安っぽい剣だ。


「はっ!」


 羽虫を払うかのように、ククリナイフを振るう。疾風のような一撃は男の首筋を一瞬で切り裂く……はずだった。


 ギンッ!! と、火花を散らし刃が打ち合う。


 ウェアウルフの膂力にミスリルの武器が合わされば、そこらの鉄の剣など容易にへし折れただろう。だが、男の剣はポチローの一撃を受け止めた。まるで岩に打ち込んだかのような衝撃が腕を伝う。


 なんだ!? どうなってやがる!? そんな安物の剣で俺の一撃を受け止めやがっただと!?


 あわや獲物をとり落としそうになったポチローに対し、相手の男は余裕のある表情を見せる。


「なんだ? 動きが良いわりにやけに軽いな?」

「なっ!?」


 驚愕の表情を浮かべるポチロー。そして次の瞬間には空中にいた。


 軽く男が剣を振るっただけで、ポチローは吹っ飛んだ。仲間を数人巻き込んで地面に叩きつけられる。


 この俺が!? そんな馬鹿な!?


 巻き込まれた仲間がクッションとなりポチローは辛うじて軽症だった。だがポチローの下敷きになった者は泡を吹いて意識を失っていた。


 追撃はない。ただ、虫を払うかのようにあしらわれた。


 ウェアウルフである俺が人種風情に!?


 ポチローは信じられない気持ちで周囲を見渡す。一緒に突入したウェアウルフの仲間達はほぼ討ち取られてしまったようだ。この一瞬で、しかも相手側には手傷を負わせれた様子はない。


 ……馬鹿な!?


 その時、馬蹄を響かせ、馬に乗ったマルコが率いる本体が突入していく。だが連中の出鼻を挫くように閃光が瞬く。


 閃光魔法!?


 眩い光に視界を奪われる。その後聞こえる悲鳴、血の匂い。


 視界がもどった頃には本体の半数近くが血を流して地に伏していた。


 奇襲を受けたにもかかわらず、群として的確に相手を無力化する手際。フリーランサーではない。


 この力!? こいつら、まさかセンチュリオンの正規兵か!?


 ポチローはその時、ようやく何を敵に回したかに気が付いた。

読んで頂きましてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 著者のおかげで、これまでのすべて。 ストーリーが最初にどこに向かっているのかに興味をそそられ、とても楽しかったです。 しかし、私はその話を読み続けるとは思わない。 ベルフィナとプリンセスの戦…
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