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相撲大会~決着~

 休憩が終わって取り組みが再開される。


 公式のルールでは水入りに入った時の状態から再開されるんだけど、今回はとりなおしが採用された。


 地方や大会の趣旨によってそのへんはあまり厳しくないらしい。


 映像記録が残ってるわけじゃないし、同じ状態からといっても難しく揉める原因になったりもするわけで、選手が納得できればそれで良しとされている。


 私にとってはあのまま押し切られる結果しか見えなかったから文句はない。


 カノンからも異論は無く、私達は再び仕切り線を挟んで見つめあう。


 カノンの左の頬が赤く腫れている。ごめんね。と私は心の中で謝っておく。口にするのは勝負が終わってからだ。


 力も体力も向こうが上だ。正面からぶつかったらさっきの二の舞になる。


 私は作戦を考える。


 力で勝てないなら頭を使って勝つしかないからだ。


 よし!


 イチかバチかだが、私は思いついた作戦を実行に移す事を決めた。


 私はそれを悟らせないために、カノンの瞳から目を逸らさない。


 私の視線を受け止めるカノン。


 侮るでもなく、照れるでもなく、ただしっかりと見つめ返してくるその顔はポーカーフェイスに覆われていて感情が全く読めなかった。


 そのすまし顔、すぐに泣き顔に変えてやる……!!


 仕切り線に手を突く。心持ちやや後ろ。


 はっけよい!!


 激突。


 前と同じくカノンは真っすぐ向かってくる。私はそれを迎え撃つ。


 頭で。


 石頭でなら負けない!


 ごっちーん! と頭をごっつんこ。


 衝撃と痛みが走り、目に火花が散る。


 痛ぁ~~~っ! この子骨まで頑丈かよ!


 私もノーダメージとはいかなかったけど、たんこぶひとつを対価に払って意表を突くことには成功した。最初から備えていた分、私の方が持ち直すのは早い。よろめいたカノンに食らいつく。


 押せ! 押せっ! 押せぇぇぇぇぇえええええ!!!!!


 脇の下から手を差し込み、頭を胸に押し当てて全力で押す。


 その瞬間、私は初めてカノンを圧倒した。好機を逃さず押し倒すつもりで押す。


 けれど、すぐにカノンも持ち直して押し返されてしまう。


 ──駄目だったか。


 千載一遇のチャンスで勝負を決めることが出来なかった。策を講じたところでやはり体力差を覆すには及ばなかったのだ。


 まわしを引かれて強引に上体を起こされる。お腹まで密着させて吊り合いに競り負けて私の足が浮く。土俵際まで運ばれて必死に伸ばした足が俵にかかる感触。


 敗色濃厚な状況。


 でもまだ……まだ……


 土俵際。私は最後の逆転に望みをかける……




✤✤✤




 もう逃がしません!


 私はシーリアさまのまわしをしっかり掴むと胸とお腹をくっつけてシーリアさまを捕まえます。


 何だか胸の奥から切ない気持ちが広がってきて、ずっとくっついていたい。そんな変な気持ちになってきました。


 シーリアさまの肌は温かくておもちみたいにぷにぷにしています。


 シーリアさまはあまり力が強くありません。押し返そうと押し付けてくる身体は羽毛のように柔らかくて軽いです。土俵際で粘るシーリアさまですが、よほど油断しない限り私が負けることはありません。


 でも、シーリアさまはきっと最後まで諦めません。今も必死に抵抗しながら勝つための手段を考えているはずです。


 シーリアさまは何をしでかすかわかりません。


 頭をぶつけたの絶対わざとですよね? すごく痛かったです。張り手されたほっぺたも腫れちゃったし。


 お返しはきっちりさせてもらいますからね! 覚悟してください!


 私は狩りをするときのようにどうやってシーリアさまを仕留めようか考えます。


 私は狩りが好きです。


 エルフの子供はものごころつくと森で生きる術を教わります。


 森の歩き方、危険の見極め方、そして狩りをして糧を得る方法を学びます。


 捌き方も習います。


 最初は可哀そうで泣いてしまったけれど、今はうさぎや鳥など小さな動物を捕らえて自分で捌きます。


 子供ですから、まだ弓は使えません。その代わり罠を使います。獲物の行動を予想して罠へと追い込み、かかったところをナイフで仕留めるのです。


 獲物との知恵比べはいつも思い通りにいくとは限りません。逃げられてしまったり、思わぬ反撃を受けることもあります。


 今日の獲物はシーリアさま。


 狩人の私はシーリアさまがどう動くのかを考えます。行動を予想して罠を張ります。


 力のないシーリアさまが出来ることは多くありません。狙うとしたら土俵際。自滅覚悟で何かしてくるはずです。


 今も私の胸の中で必死に足掻いているシーリアさま。諦めの悪いシーリアさまだからこそ絶対に動くと私は確信しています。


 だから私はただ真っすぐにシーリアさまを追いつめました。シーリアさまがこちらの罠にかかってくれるのを楽しみに待ちながら……


 土俵際で俵に足をかけて抵抗するシーリアさまですが、その力が不意に消えます。


 シーリアさまがわざと身体を引いたのです。捨て身のうっちゃり。いえ、私の勇み足を狙ったのかもしれません。しかし、それこそ私が待っていた瞬間でした。


 倒れる瞬間体を返そうとするシーリアさま。でもそんなことはさせません。私は力の緩んだシーリアさまの身体を思いっきり投げ飛ばしました。


 土俵の外にころりと転がるシーリアさま。なんだかすごくいい気分です。


「勝負あった!」


 行司さんの声。私に軍配が上がります。


 私の勝ちです!


 嬉しさと、安心感がこみ上げてきました。


 よかった……


 私は不安でした。負けたらもうシーリアさまとはもう会えないような気がしていたからです。


 目の前にシーリアさまのお顔がありました。大きな目にいっぱい涙をためています。その目をみていたら嬉しさよりも切なさが溢れてきて私はシーリアさまを抱きしめたくなりました。



✤✤✤



 最後のうっちゃりは不発に終わり、私はカノンに投げ飛ばされた。


 衝撃とざらつく冷たい土の感触が私に敗北を告げ、行司さんがカノンに勝利を告げる。


 私は負けたんだ……


 負けた……負けた……


 負けたーーーーーっ!!!!!


 悔しい! 悔しい! 悔しい!


 涙で滲む視界の中で私を見下ろすカノンの顔が見えた。カノンから差し出された手。


 カノンエンドと同じだ。エリュシアリアはその手を取らなかったけど、私はその手をとって立ち上がる。


「おーほっほっほっほっほ!」


 観客席でセフィリア様が高笑いしながら、ボルド提督の肩をべしべし叩いている。


 激闘を称える拍手と歓声が聞こえた。でも私の顔に笑顔は無い。


 土俵を下りた私はファーファの胸を借りて泣いた。


 レノアもいたけれどファーファの方が()()()()()から無意識にそっちを選んでいた。


 バッドエンドのこととか頭になかった。ただ悔しくて泣いた。


「頑張ったよ。シーリアちゃんはよく頑張ったよ」 


 ぎゅっと抱きしめて優しく頭を撫でるファーファ。私はその胸に顔を埋めて柔らかい感触に癒される。シナリィ……会いたいよシナリィ……


「あ、あの……シーリアさま……お怪我はありませんか?」


 自分を呼ぶ声が聞こえて顔を上げる。カノンだ。


 私はその時になってようやく敗者の運命を思い出した。ゲームだと勝負に負けたエリュシアリアはカノンと女の子同士の愛に目覚め、全てを放棄して彼女についていく。


 ……それもいいかな。


 カノンの腫れた頬、頭に出来たたんこぶは私が作ったものだ。


 なのにカノンは私の身体のことを心配している。優しい子だ。彼女ならいいかな……


「私こそ、ごめんなさい」


 そっと彼女の頬に触れる。聖炎の力で彼女の傷を癒す。聖炎の癒しはエルフの身体にも有効なようだ。すぐに腫れは引いて元の白桃のような頬に戻る。


 まわしが燃える。だけど構わなかった。頭のこぶも同じく癒す。

 カノンが慌てて声を上げる。


「シ、シーリアさま! いけません! こんなところで!?」

「怪我させたのは私だから」


 今更かまうもんか。私は身を捧げる覚悟を決めていた。


 生まれたままの姿。丁度いいだろう。


「私はもうあなたのものです。どうぞお好きになさってください」

「ふ、ふぇぇぇ!? ど、どうして!? わ、私はただ……シーリアさまとお友達になりたかっただけなのに……」


 どうしてって? カノンは私を食べちゃうんでしょう?


 相撲イベントで負けたら彼女に食べられる(性的な意味で)と、設定資料に書かれていた。


 いいよ。カノンなら。前世の頃からファンだったし。


 カノンとお友達なんて私から言いたかった言葉だ……でも、カノンが望むなら……その先でも構わない……


 ん? ()()()


「ガキが一体なにやっとるんじゃ」

「ぴぎゃ!?」


 後ろからチョップさて私は頭を抱えてうずくまる。振り向くとそこにはしてやったりとした表情のオバリー大尉。


 今の私の身体はぼろぼろだ。体力は限界。頭にはたんこぶ、投げ飛ばされて全身砂まみれ。


 そんな幼気な幼女にこの男は!?


 涙目で睨みつける。今ここ私が王女であると打ち明けたらどんな顔をするだろう?


「シ、シーリアさま! 大丈夫ですか!? あなたシーリアさまになんてことを!?」

「あ、いや、とても見てられなくてな? ほら、この子はお友達から始めましょうって言ってるだろう? 何ませたこと考えてんだお前は」


 カノンに睨まれたオバリー大尉は誤魔化すように私を諭すと、私の丸まった背中に自分の上着をかけた。


 腹は立つけどそれで私もちょっと冷静になれた。カノンとの関係は既にゲーム通りではない。この先彼女とどういった関係になるかは私の行動次第。


 だから私は涙を堪えて笑ってみせた。


「カノン。私は大丈夫だよこの()()()()も悪い人じゃないから」


 おじさんのところで語気を強めたのが気に入らなかったのか、オバリー大尉の大きな手が頭に載せられる。たんこぶに頭ぽんするな!


「でも……」

「大丈夫。ほら」


 私は聖炎で自分の身体を癒す。温かい金色の炎によって腫れが引くとカノンも安堵したような表情を見せた。


 オバリー大尉に食って掛かるのも、私の身体を心配するのも、子供らしくただ純粋な気持ちからだ。


 ゲームの16歳の身体じゃない。今の私たちは6歳だ。性的に食べられるにはまだ早い。

 

「まったく……さて、負け組の貴様らには提督から特別任務だ」


 そう言ってオバリー大尉は含みのある笑みを浮かべた。


 特別任務。またかよ。

お相撲大会終了! 次回より通常運転に戻ります。作者の趣味にお付き合いいただきありがとうございました。


よろしければ感想等いただけると嬉しいです。

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