相撲大会~中入り~
カノン視点で語られます。
しれっと世界の背景が語られます。
お相撲大会はまだ続きます……
お婆さまに連れられて私は初めて人の国。センチュリオン王国へとやってきました。
私はこれまでフィンレどころかエルフの里すら出たことがありません。初めての外の国。人の国。わくわくしながらの馬車での旅です。私達エルフには交通のいんふらというのがありませんから人の馬車にこっそり忍び込んで移動します。
タダ乗りはしませんよ? ちゃんと対価は残していきますし、魔獣や盗賊に襲われたら進んで用心棒なども買って出ます。
そいうわけですから、この辺りでは人の馬車側でもわざと席をあけたり、気づかないフリをしたりとエルフが忍び込みやすいようにしていたりしているのだとお婆さまが教えてくれました。
それからいくつかの町や村に立ち寄りながらセンチュリオン王国へとやってきました。センチュリオン王国は昔からエルフと親しい国です。その理由は後から説明しますが、国境を護るインヴィンシブル要塞を見て私はその大きさに驚きました。
石を削り、幾重にも積み重ねてこんな巨大な建造物を作る人の力が怖くなりました。
確かに私は子供ですが、精霊の力を借りれば人の町を破壊することができます。
しかし、エルフがどんなに集まっても町を作ることはできません。
それはエルフの数が人に比べてとても少ないからです。
フィンレにあるエルフの里も住んでいるのは100人程です。人の国にある小さな村と大して変わりありません。
初めて見るものだらけで目が回りそうでした。
そこにはたくさんの子供がいました。そして老人がいました。
エルフの里には私以外の子供はいません。一番歳が近いリアンでも20以上年上です。
そして老人もいません。エルフには寿命はありますが老いることがないからです。
初めて目にする私以外の子供。そして老人。
皆が楽しそうに祭りを楽しんでいます。見たこともないくらいの人の数です。
まるでゴ……いえ、さすが人はひとりいたら100人いると思えって言われているのも納得です。
はぐれないようにお婆さまの手をしっかりと握っておっかなびっくり進みます。
私とお婆さまは『ステルスミスト』で姿を隠しているので誰にも気づかれることはありません。
『ステルスミスト』は姿や気配を遮断する魔法です。
不老長寿であるエルフは今でこそ大切にされていますが、昔は人や他の亜人種に妬まれ、迫害を受けていました。
それを助けてくれたのが別の世界からやってきたというヘキサ様。ヘキサ様は私達エルフを庇護下に加え、安全な土地とアスラの力を与えてくれました。
森都フィンレはヘキサ様の種族が最初に町を築いた場所です。人や魔獣が外から入ってこれない場所に隠されていて、現在はエルフの他に幾つかの亜人種が暮らしています。
アスラの力はヘキサ様の世界の魔法で『ステルスミスト』は自分達の庇護下にある種族がフィンレの外で危険が及ばないようにとヘキサ様が与えてくれた力なのです。
ヘキサ様は800歳のハイエルフであるお婆さまよりも長く生きていらっしゃいます。
それなのにとても若々しくて、誰に対しても丁寧で優しく接してくださるとても素敵な方です。
そんなヘキサ様にお婆さまはお使いを頼まれました。
なんでも守護者さまがお生まれになったから自分のもとに連れてきて欲しいのだとか。
守護者というのは神、精霊、勇者、魔王という元からこの世界にある戦力では対抗できない敵に対処するためにヘキサ様の世界が用意した防衛システムの要……だそうです。
その時の話はとても難しくて私にはよくわかりませんでした。
守護者となる者は人が北西諸国連合と呼ぶ地域で生まれるようになっているそうです。
なんでも彼の地で女神の加護と呼ばれているのは実はアスラの力なのだとか。
私達が霧を与えられたように彼等は炎を与えられました。
実は北西諸国連合の国々にはヘキサ様と同じ世界からやってきた人々が大勢暮らしているそうです。だから帝国などの覇権国家に荒らされないように力を授けられたのだとか。
なのに人はそれを知らず、筋肉の女神タグ……なんとかという女神から力を与えられたとして筋肉を崇拝しています。
ヘキサ様は自身のことやアスラの力を人に知られたくないようですが、どうしてそうなるのでしょう? 馬鹿なのでしょうか?
北西諸国連合の中でも今回守護者さまがお生まれになったセンチュリオン王国は、昔からフィンレと交流がある国です。
センチュリオン王国は1000年以上帝国を退けて国土を護ってきましたが、そこには密かにフィンレの協力があったのです。
ですからヘキサ様はてっきり向こうから守護者さまを連れて来るものと思っていたようですが、いつまでたってもやってきません。
地上に守護者生まれしとき、フィンレにてあらゆる外敵を打ち払う天空の剣を授け賜う。
という言葉を同盟の証としてセンチュリオン王国に残したらしいのですが、人の寿命は短く代変わりしているうちに忘れてしまったみたいです。
そんなわけでお婆さまは私を連れて、はるばる守護者さまがいらっしゃるというインヴィンシブル要塞までやってきたのです。
私も連れてきてもらったのは、守護者さまが私と同じ年の女の子だからというのと、その頃人の国ではお祭りをやっているので、せっかくだから私に楽しんで欲しかったからだそうです。
私はすぐに疲れてしまったのですが、お婆さまは楽しそうでした。
屋台でつまみ食いしたり(ちゃんとお金は払いました!)、暗がりでいちゃつくカップルにイタズラしたり(私は目隠しをしていました!)。
お婆さまは何度も来たことがあるのでしょう。関係者以外立ち入り禁止と書かれた区画も勝手知ったるかのように進んでいきます。そうして誰にも見咎められないまま、私達はインヴィンシブル要塞で一番偉い人の部屋までやってきました。
予め来ることは伝えてあったので、その部屋の主である提督さんはひとりで私達のことを待っていました。
提督さんが言うには、守護者さまは訓練に出ているため今要塞にはいないとのこと。
お婆さまは守護者さまをよこせと提督さんを脅し……いえ、話をしましたが、提督さんも中々首を縦には振りません。実は守護者さまはこの国のお姫様で、勝手に国外に連れ出すわけにはいかないそうです。
わたしはびっくりしました。
お姫さまといえば、お城でドレスを着て、大切に育てられているのが普通だと思っていたからです。エルフの里には人の国の本がたくさんあるから、私だってそれくらい知っています。それなのに、私と同じ年で、軍隊に入って人々を護るために訓練しているのです。きっと立派な方なのでしょう。私の中で守護者さまへの憧れが強くなっていきました。
訓練を終え、守護者さまが帰られたのは翌日になってからでした。それまでお婆さまと私は提督さんに至れり尽くせりのもてなしを受けていました。接待というそうです。
正直鬱陶しかったのですが、お婆さまは今のうちから慣れておけと言っていました。
ようやく守護者さまの御姿を見ることが出来たのはその日の夕方。訓練を終えて帰還を喜ぶ宴の席のことでした。
その時受けた衝撃を私は一生忘れないでしょう。
守護者さまはエルフと並んでも遜色が無い程に大変可愛いらしい方でした。
金色の髪は上品な色合いで、瞳の色も夜明けの空のように鮮やかな黄金色でとても奇麗です。
日に焼けたお顔は野うさぎのように愛くるしくて、決して美貌を損なうものではありません。
しかし、そんな可憐な容姿よりも、似合わない簡素な兵衣を着て、小さな身体で立派な敬礼をしてみせる守護者さまの姿に私は心を打たれました。
凛々しい横顔。それは訓練を積み重ね、誇りと使命を胸に秘めた戦士の顔です。
まわりはずっと年上ばかり。そんな中に混ざって訓練を続けてきた彼女の努力と苦労がどれほどのものか想像もできません。
私は守護者さまから目を離すことが出来ませんでした。
どうしようもなく彼女に惹かれていきました。
それが初恋だったと気づくのはもう少し後のことです。
私が守護者さまに見惚れていると、お婆さまと提督は何やら賭けをしているようでした。
え? 私と守護者さまでお相撲して私が勝ったら里に招くことに協力してくれるのですか?
それは負けるわけにはいきません!
絶対に勝って守護者さまを手に入れてみせます!
読んで頂きましてありがとうございます。
相撲大会が長くなりまして申し訳ありません。どうか温かい目で見守って下さると幸いです。




