相撲大会~壱~
お相撲大会始まります。
センチュリオン王国の国民は相撲が大好きだ。女の子でも褌締めて相撲をとるのが当たり前。プロの力士もいるし、毎年王都では国中から力自慢が集まって、国王の前で上覧相撲が開かれるくらい盛んに相撲が行われている。
謝肉祭でも訓練場には幾つも土俵が設置され、毎日どこかの会場で何かしらの相撲大会が行われていた。筋肉の女神に捧げる奉納相撲。部隊間での対抗戦や興行相撲の力士を招いての交流戦など様々だ。私がこれから参加するのは、12歳までの新兵と謝肉祭におとずれていた子供達とで対抗戦を行うという、地域の皆さんとの親善を目的とした子供相撲大会だった。
だが主催者はあのボルド提督である。そんなほのぼのイベントで終わるはずがない。
訓練場に設置された土俵の前には裸の子供達が集まっている。
警備隊から新人兵士25人。
来訪客からも25人。
男子も女子も関係なく皆まわし一丁である。
この相撲大会は地域の皆様との友好を謳っているが、本当の目的は新兵の羞恥心の克服にある。
私達が女神に与えられた聖炎は心で燃やす炎であり、精神状態に左右されやすい。心が熱く燃えたぎっていれば力を増すが、逆に絶望したり萎縮したりすれば力は低下する。
精神状態なんて人間である以上どうしようもない部分もあるが、訓練次第で克服できるものもある。そのひとつが羞恥心だ。
特に女性兵士にとって羞恥心は大敵である。
──恥ずかしい。
──見られたくない。
そういった感情で心が乱れ委縮すれば聖炎は弱まり、致命的な隙になりかねない。
おっぱいを晒そうがすっ裸にされようが、ひるむことなく闘士を燃やし続け、組み打ちで敵の首をへし折る気持ちでいなければ生き残れない。
セクハラと叫んだところで敵兵も魔獣も止まらない。負ければ全てが奪われる。それが戦争だ。
そのため軍では男女問わず徹底的に羞恥心を克服するための訓練を施す。
もっともそれは軍に限ったものではない。騎士団でも、自警団でも、王宮の侍女であっても、誰かを護るために戦わねばならない立場にいる者は必ずその訓練を受けている。
この国で相撲が盛んに行われているのは、肌を晒すことに慣れ、どんな相手にも裸一貫でぶつかっていける心身を鍛えるのに最適だからだ。
そういった意味もあってこの相撲大会で駐留軍から参加した新兵25人のうち20人は女の子だった。決して提督の趣味ではない。提督の趣味ではないのだ。ここ大事。
残る5人の男子にしてもリオン君を始め見るからに草食系が選ばれている。
彼等は裸の女の子たちに囲まれて目のやり場に困っているようだ。初心な反応は年相応であるが、残念ながらそれでは戦場で生きていけない。
可愛い女の子や色っぽいお姉さんと戦うことがあったらどうする?
彼女達は甘い言葉を吐き、魅惑的な身体を武器にして寝首を掻いてくる。戦場でフェミニズムは通用しないのだ。
「ぎゃははははは! ボクちゃん達~? 何照れてるんでちゅか~?」
「おいおい、おっぱいが恥ずかしいってよ? これだから童貞は!」
「まだガキなんだからそれは勘弁してやれよ!」
「情けない! 見られて恥ずかしくないだけの筋肉を付けておらんからだ!」
そんな小さな紳士達に、ベテラン兵士から口汚いヤジや笑い声が飛ぶ。
会場は大勢の兵士が詰めかけていた。
彼等は純情な少年を笑い飛ばし、穢れの無い少女の身体を無遠慮に眺め回す。
この変態共! とぶっ飛ばしたくなるが実は彼等は恥ずかしがる者や、情けない相撲をとる者に容赦なくヤジを飛ばすために集められたサクラだ。
決して少年や少女の身体に欲情する変態集団ではない。謝肉祭の開催中は見るべきイベントは他にもある。にもかかわらず、彼等は自由時間を削り、心を鬼にして後輩を鍛えるために集まっているのである。
……たぶんね。
また、本当に邪な目を向ける者をシャットアウトするのも彼等の役割だ。
最前列にはオバリー大尉の姿もあった。私と目が合うと親指を立てる。
おーい! ここに本物の変態がいますよー?
気の弱いファーファは既に泣きそうな顔をして、リオンやレノアの影に隠れている。気丈に友人をかばうように立つレノアとリオンも平気なわけではない。
レノアだって顔は真っ赤だし、リオンは女の子の方を見ないようにしているらしく視線が定まっていない。
そして、私はというと……
隠すな! 見せつけろ!
センチュリオン王国第4王女エリュシアリア・ミュウ・センチュリオンの玉体を存分に拝むがいい愚民ども!
開き直っていた。
この世界で生きていくならばいつかは通る道なのだ。
シナリィやお母様達。私の大切な人達は皆経験してきたのだ。だったら私も逃げたりなんてしたくない。
「おや? お嬢ちゃんも出るのかい? 飴やるからがんばりな~」
「わーい! ありがと~」
応援に来ていたおばちゃんに飴を貰う。
まあね。所詮私は6歳児。なんかちっこいのがいるな~という具合に温かく見守られている。
私なんてまだまだちんちくりんの幼女ですから。恥じらってたら寧ろ不自然。子供の心で飴もらって喜んでいる方が自然で目立たない。
既に第二次性徴に入っているレノアやファーファは結構いい身体してるんだけどね。この国の人達は欧米人っぽい人種だから結構早熟で、平均身長とか現代の日本人を越えている。それに鍛えているからスタイルもいい。レノアはすらりと綺麗に伸びた手足が魅力的で、身長も160センチを超えているし、ファーファは身長は普通だけど、胸は大変立派なものをお持ちだ。それでいてふたり共まだまだ成長期。まだまだ伸びる余地がある。
飴を口の中で転がしながら私は一般人側の出場者を見渡す。
試合は25対25の団体戦だ。
男の子15人、女の子9人……おかしい。ひとり足りない。
彼等の半数は近くの町にある孤児院の子供達で、残り半数は興行に来た少年力士や踊り子さんだ。
見た感じ皆10歳から12歳くらいで、私の対戦相手としてつり合いがとれそうな感じの子供は見当たらなかった。
これはあれだ。恐らくボルド提督は私の対戦相手を既に用意して隠しているのではないか?
昨日、ボルド司令官は、わざわざ教導隊まで呼び出して私に相撲の稽古をつけさせた。
教導隊の稽古といっても所詮は付け焼刃だ。簡単に結果に繋がるとは思えないが、それでもボルド司令官は私に頑張ってもらいたいらしい。
王女である私が情けない姿を見せて罵倒されるのを防ぎたかったのか、いい結果を出したことを王都に報告してお父様の心証をよくしたかっただけかもしれないが……
提督は何かを企んでいる。
そう思ってしまうのは、今の状況がゲームであったあのイベントによく似ているからだ。
ゲームのシナリオ通りなら、私が彼女と出会うのは10年後。でも……確信めいた予感があった。
彼女がここに来ていると……
一抹の不安がよぎる中、相撲大会は始まった。
私達新兵側は男子5人の後に女子が続く。対して一般人側の順番は男女入り混じっている。元々男女比が違うこともあるが、実は私達の相手は自分が苦手とするタイプと当たるように仕組まれていた。
例えば、腕に覚えがある自信家には本業力士をぶつけて叩き潰す。
例えば、男性に免疫のない貴族令嬢には同年代の少年を。また、初心な草食男子には奇麗な少女をあてがうといった具合だ。
ゲーム風に言うならば弱点属性が当たるように仕組まれているといったところだろうか?
対戦表を作ったのは警備隊の参謀部だ。彼等には私達の身長、体重はもちろん、育った環境から、好きな食べ物。果ては異性の好みまで把握されている。
参謀部の見事な采配によって哀れな新兵達は次々敗れていく。負けた悔しさと容赦ないヤジに泣きながら土俵を下りる新兵達。
勝ち星が無いまま5戦目。土俵に上がるのはリオン君だ。
リオン君は南部で小さな領地を持つ男爵家のひとり息子である。同じく男爵家の令嬢であるレノアとファーファとは家ぐるみで仲が良く、将来はふたり共リオンのお嫁さんになるらしい。
仲睦まじくていいよね。前世の頃から幼馴染に憧れていた私には3人の関係がちょっとうらやましい。
田舎でのびのびと育ったリオン君は優しくて誠実な少年で、ふたりの幼馴染をとても大切にしている。
そんなリオン君の前に裸の美少女が現われた!
彼の相手は踊り子の一座で見習いをしている女の子。セスカちゃん12歳。
ふたりの可愛い婚約者の前で他の女の子の裸を見るわけにはいかない! と、なんと彼は目を閉じて相撲することにしたらしい。
リオン君いい子だし、とても優秀なんだけどね。発想はやっぱり12歳。
対するセスカちゃんは12歳にしては発育が良く、背丈もリオン君より少し高い。また、踊り子として日々厳しい稽古を積んでいるため、彼女の身体にはしなやかな筋肉が付いている。
セスカちゃんは大勢の人の目がある中で裸を晒しても全く物怖じした様子を見せなかった。踊り子として見られることに慣れているのだ。
精神的にも肉体的にも彼女は強い。いくら優秀なリオン君でも目を瞑って勝てる相手ではない。
相撲において立ち合いの瞬間は重要だ。相手を見ていなければ有利な体勢をとられてしまう。
案の定リオン君は立ち合い後あっという間に抱えあげられて、くるくると踊るように振り回された挙句土俵の外へと放り投げられた。
参謀部大勝利。
「ヘタレ―――!!」
「チ○コ付いてんのか!?」
「筋肉が足らん!」
ヤジと笑いが会場を埋め尽くす。
醜態を晒し、悔しさで涙を滲ませるリオン君。そんな彼にレノアとファーファがそっと寄り添う。
リア充爆発しろ……
ヤジを飛ばしていたサクラの兵士の表情が敗北感に包まれる。その後のヤジは恨みの籠った一層激しいものになったのは言うまでもない。
試合は続く。
はっけよい! のこった! どすこーーーい!
速攻で突き倒されて尻餅ぺったんファーファさん。待ってましたとヤジが飛ぶ。
ファーファの相手は孤児院で暮らす少女でミウちゃん11歳。
元々気の小さいファーファは既に場の空気に呑まれてしまっていた。それでも決して非力ではないファーファがこうも簡単に負けてしまったのは、ミウちゃんがとても小さくて、細い身体をしていたからである。
優しいファーファはミウちゃんが怪我することを恐れて強く当たることが出来ず、自分が倒されてしまったのだ。
またしても参謀部大勝利。
土俵から下りたファーファを抱きしめるレノア。尊い……
次の試合。
レノアの相手はミウちゃんのお兄さんでナユタ少年12歳。
ふたりは土俵中央でがっぷり四つに組み合い、一進一退の熱戦を繰り広げる。
見事勝利した妹に続きたいナユタ少年。だがレノアだって負けてはいない。体格では互角。だけど体力では日頃から鍛えているレノアに分があった。少しずつ押され始めるナユタ少年。
レノアは大人しい性格のファーファやリオンをリードしてきた面倒見の良いお姉さんタイプだ。負けてしまったふたりの分まで頑張ろうという強い意気込みを感じさせる。ナユタ少年の手が胸に当たろうが顔に当たろうが一歩も怯まない。
情けない相撲をとる者を罵倒するためにいるサクラの連中も今は役割を忘れ、大一番に声援を送っている。
そんな中はらはらした表情をしているのが、参謀部の連中だ。
貴族令嬢のレノアは、同世代の男子だと幼馴染で婚約者であるリオンくらいしかまともに話したことが無い。そのため同年代の異性に対して免疫が無く、男子相手には普段の実力を発揮できないだろう彼等は予想していた。
ところがまさかの大奮闘。
一般人側の敗北は彼等の敗北だ。参謀部の面々の表情に焦りが見え始める。
やがてレノアがナユタ少年を土俵際まで追いつめるとムンクのような顔をする参謀部。
新兵側の初白星まであと一押し。
だがその瞬間悲劇が起きた。レノアの褌が燃え始めたのである。
この大会で私達が締めているまわしは、普通より厚く丈夫な相撲競技用の褌だが、実はこれ、普段使われている聖布ではない。普通の綿にグレイシープという、聖炎に反応して僅かでもその力を使うと燃えてしまう魔獣の毛を織り込んだ、加護の制御訓練用の特性のまわしなのだ。
相撲は己の力と技を競い合う競技だ。そのためセンチュリオン王国では土俵の上で女神の力を借りる事を禁じている。けれど加護持ちの中には勝負の最中、その気が無くても聖炎を発現させてしまうことがある。そこで公式大会なんかでは、加護の使用、未使用を明確に見極めるため、グレイシープの毛を組み紐やミサンガにしたものを身に着ける。
軍では加護の制御が未熟な者を訓練するため、あえて燃えやすいまわしを締めさせていた。まわしを燃やして恥ずかしい思いをしたくなければ、必死で加護を制御してみせろってわけだ。
加護のオン、オフが完璧に出来なければ、うっかり人を傷つけたり燃やしたりしてしまうことがある為危険だ。軍隊のように集団生活をする場ならなおさらなんだけど……まったく、とんでもない大会だね。
レノアも最初は聖炎の発現をちゃんと抑えていた。けれどその負けん気の強さ故、最後の最後で聖炎を発現させてしまったのだ。
レノアのまわしが金色の炎に包まれる。
「あちちちち!!」
彼女の褌を掴んでいたナユタ少年は、突然上がった炎に驚いて自ら土俵の外に出てしまった。けど勝負はレノアの不浄負け……いや、反則負けだ。
兵士達はヤジを言うことも忘れ、一糸まとわぬ姿となったレノアは暫し呆然と立ち尽くしていた。
周囲が静まり返った中、参謀部の連中だけがただほっと胸をなでおろしていた。
読んで頂きましてありがとうございます。
作中でえりゅたんが締めている褌はまわしではなく、京都の上賀茂神社の烏相撲で使用されているごつめの6尺褌をイメージしています。
ただし、作中「まわしを掴む」など相撲用語としてまわしと表現する場合がありますのでそこはご容赦ください。
リオン君を主人公にラブコメ書いた方が面白いような気がしてきました。時間があれば……
続きが気になる。えりゅたん頑張れ! この作者変態だーーっ! とシンパシーを感じてくれましたら是非ブックマークをお願いします。




