相撲に負けて勝負に勝つ話
この作品を読んでくださっているフンドシストの皆さん。申し訳ございません。
いいお尻の日に間に合いませんでした!(>_<)
ゲーム『剣の国のエリュシアリア』にもカノンは登場する。
エリュシアリアが16歳の時に起こった相撲大会イベント。カノンはその対戦相手という役割だった。
エリュシアリアが勝利した場合、この後カノンに出番はない。
負けた場合はカノンとの愛に溺れる素晴らしき百合エンドが待っているというもの。
……それだけだ。
このスーパー美美美美美美美美美美媚少女エルフっ子がそれだけの役割だったのだ!
メーカー様無能かよ!
前世ではベルフィーナが倒せない件と合わせて、カノンの扱いについてもメーカーにクレームを入れたものだが、その願いが通じたのかはわからない。
私が転生したこの世界では、何故かこのイベントが10年早く発生したのである。
センチュリオン王国を始め女神信仰の国々では、秋になると実りと筋肉に感謝する謝肉祭を行う。それは7日間にも及び、私が配属されたアイアンライン警備隊も、その間は隊を上げて盛大に盛り上がる。そんな祭りのイベントとして開催された相撲大会で、私とカノンは対戦することになった。2年前のことだ。
多少訓練を積んだところで、お姫様育ちの私が森を駆けまわって暮らしているカノンに体力で敵うはずがない。すってーんと土俵の外まで投げ飛ばされて私は惨敗。
あのときは悔しくて泣いちゃったよ。
ゲーム通りに進むなら、カノンとの百合エンドを迎えるわけだけど……
6歳の子供でそんなの起こるわけないんだよね。私とカノンは普通に仲良くなって、今では大親友と言える関係だ。
その後、私はエルフの里に招かれ、そこで自分が何者なのかを知らされる。
加護の秘密。何故私に強力な加護が与えられているのか。
おかげで『プラズマインパクトガン』『フレアフライト』などゲームに無かった魔法が使えるようになる。
負けたことで言い方向に転んだのだ。
相撲に負けて勝負に勝つってこういうことを言うんだね。 あれ? なんか違ったけ?
「カノン。まったくいつもいつも……こら、どきなさい!」
「いやです!」
ぎゅーっと抱きしめてくるカノンと抵抗する私。地面の上でごろごろ取っ組み合う。私もだいぶ体力がついたけど、まだ力では敵わない。組み伏せられて私は抵抗を諦める。
あーあ。せっかく水浴びしたのにまた泥だらけだよ……
「最後に会ってからもう92日も経ってるんですよ! どうかもう少し、もう少しだけ、このままでいさせてください」
「まったくもう……しょうがない子だなぁ」
私だって可愛い子に抱き着かれて悪い気はしない。私はカノンが満足するのを待つことにした。
100日会えなかったら死んじゃいます! とか言って、カノンは頻繁にインヴィンシブル要塞に遊びに来ていた。今みたいに急に現れるカノンに押し倒されるのは、最早挨拶のようなもの。
カノンがすべすべの頬っぺたを押し付けてくる。私はまるで猫をのように甘えてくる彼女の透き通るような緑色の髪を優しく撫でた。カノンの髪はふわふわと柔らかくて果物みたいないい匂いがする。これもエルフの秘術というやつなのだろうか? とてもアイアンラインから長い旅をしてきたとは思えない。
「まったく、相変わらずだなぁ。でも久しぶり。よく来られたね?」
「はい。シーリアさまが何者かに狙われたと聞いていてもたってもいられず……勝手に出てきてしまいました」
やっぱりかーー。
エルフは数そのものが少ないうえに、出生率も人に比べて遥かに低い。ためそのためエルフの子供というのはとても希少で里で大切に育てられる。その上カノンはエルフの中でも1000人にひとりの確率で生まれてくると言われているハイエルフだ。彼女が消えたとなれば今頃エルフの里は大騒ぎになっているだろう。
「シーリアさま。私に何も言わずに帰ってしまわれるなんて酷いです! 砦の人達も行き先を中々教えてくれないし、オバリーさん問い詰めて、やっと教えてもらったんですよ!」
オバリーさんというのは私の上司だけど、どっちかというと保護者に近かったと思う。
「ごめん……でも、よくここがわかったね?」
カノンは私が王女であることは知っている。でも普通厩舎にいるとは思わないだろう。
「今朝、広場でお見かけしたので後をつけました。でもお城に入ったところで見失ってしまって、先ほどようやく見つけることが出来たんです。まさか、お姫様が馬小屋にいるとは思いませんでした」
ですよねー。
「カノンはひとりで王都まで来たの?」
「はい。商人の馬車に紛れ込ませてもらって、王都には昨夜着きました」
エルフってやつは魔法で姿を隠して人の馬車にタダ乗りして移動する。
まあ、その辺りこの世界では暗黙の了解がなされているのだが……
「また無茶して! 知らない人について行っちゃいけないってセフィリア様にも言われたでしょ? カノンみたいに世間知らずで可愛い子は、悪戯されて遠い国に売られちゃうんだから! セフィリア様は知ってるの?」
セフィリア様とはエルフの里の長でカノンの祖母にあたる。800年以上生きてるハイエルフで、髪の色や顔立ちなんかはカノンにそっくりだ。カノンはお婆さまと呼んでいるが、見た目は20歳くらいなものだから、年の離れたお姉さんにしか見えない。
「ごめんなさい」
小さく舌を出すカノン。
やっぱり黙って出てきたようだ。こりゃ、セフィリア様は今頃きっとカンカンだぞ? てへぺろじゃ許してくれないと思うぞ?
え? ひとりで飛び出して迷子になった挙句、べそかいてたところを偶然通りかかった商人に王都まで連れてきてもらったお姫様がいたって? 迷惑な奴だなー。誰だそれ?
「まったく、無事に会えてよかったよ」
私はぎゅっとカノンの頭を抱きしめた。
「えへへ、はい!」
嬉しそうに顔をとろけさせて笑うカノン。
仕方ない。セフィリア様には私からも謝っておこう。カノンが私を追って王都に来ることは予想できた。
「それで、カノンの他に私の後をつけてきた人はいなかった?」
「最初は何人かいましたが、城までつけてこられたのは私だけです。優秀な戦士が目を光らせているものですから私も中々近づくことが出来ませんでした」
優秀な戦士と褒められてもいい気はしないだろうな。その気は無いだろうけど皮肉にしか聞こえん。
成り行きを見守っているボージャンさん達は未だに彼等は剣を構えたままである。顔には出さないけど、彼等のプライドは大きく傷つけられただろう。
ハイエルフとはいえカノンは見た目通りの8歳の女の子だ。でも、子供でも歴戦の兵を簡単に出し抜いてしまうくらい、エルフというのは規格外の存在なのである。
優れた精霊魔法の使い手であり、戦闘力も高いが、加えて姿や気配を消す魔法を使うことが出来るため、人里では基本姿を消して活動している。人がエルフに滅多に会えないのはそのせいだ。
「姫様……それで我々はどうすればいいのですかな?」
「あ、ええと……彼女は私の親友です。危険はありませんので皆さん少しの間、後ろ向いててもらえませんか?」
「はあ、わかりました」
彼等が後ろを向いた隙に、私は素早くカノンの頬っぺたにキスをする。
「ふあ……いいでしょう。私を置いていったことは許してあげます」
カノンはにゃふーと満足した表情を見せると私を開放する。
私はもう一度水を被って身体についた土を洗い流し、聖炎で乾かす。
「こら! カノン! それは自分で出来るから!」
「いやです! 私に手伝わせてください!」
「いいよ! 褌返して!」
着替えを手伝おうとするカノンと、じゃれあいながら服を着る。
「はい。もういいですよ」
「はあ、本当に仲がよろしいようで」
「はい」
私は頷く。少し顔を赤くしているのは、着替えでちょっと色々手間取ったせいだ。
「皆さんにご紹介します。彼女はハディス・セフィリア・イゼルダ・ルージェ・スリヴァン・セリカ・カノン。精霊の愛し子たるハイエルフであり、私の親友です」
私が紹介するとカノンは優雅にエルフ流の礼をする。
「これは、姫様のご友人とは知らずに失礼を」
そこでようやく彼等は剣を鞘に収めた。
センチュリオン王国で国教とされているのは女神信仰だけど、精霊への敬意と感謝も忘れてはいない。火おこし、浄水、土木作業、船舶の航行などにおいて普段の生活において、精霊の恩恵を多分に受けているからだ。当然、精霊の代弁者とも呼ばれるエルフに対しても敬意を持って接するべきとしている。その上位種であるハイエルフは本来ならば国賓待遇で歓待するような相手。とはいえ、無法を許せるかというとそうもいかないから、ボージャンさん達は侵入者であるカノンを扱いかねている様子だ。
「どうやら、あちらに全部お任せしてしまった方がよさそうですな」
そう言ってボージャンさんは城を見上げる。
わらわらと駆け付けてくる近衛騎士。その先頭に立つのは……お父様!?
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