魔獣事件~子狐~
ごめんなさい! 水曜日に間に合いませんでした~(>_<)
なんてね。根拠なんてねーよ! こんちくしょーー!
あえて言うならゲーム知識だが、そんなもんを信用してくれって方が無理だ。第一私だって前世のゲームの知識を100パーセント信じているわけじゃない。それに今は物語が始まる9年も前で情報が少ない。
でも……
ゲームには帝国に攫われた子供達が登場している。
帝国によって洗脳され、兵士としての訓練を受けた彼等は子狐と呼ばれ、エリュシアリアを最も苦しめる敵となる……
普通に市民として暮らしていた子狐は、帝国が侵攻を開始すると、その本性を現した。
仲間が、友人が、恋人が、家族が突然襲い掛かってくる悪夢のような出来事に国内は混乱。主だった将兵が暗殺されたことで、疑心暗鬼になった軍や騎士団は疲弊し、ついに侵攻してきた帝国軍に敗北する。
エリュシアリアも子狐との戦いで多くの友人や仲間を失った。座して待てば将来私も同じ轍を踏むことになりかねない。
なんとしても避けなければ……
南部に子狐を育成するための帝国の軍事拠点があることまではゲーム中に明確に語られていない。私が気が付いたのは単純な逆算からの推測だ。
子狐の多くはエリュシアリアと同世代の少年少女だった。ならば洗脳と訓練、潜伏期間などを鑑みて、この時期誘拐されていた可能性が高い。
子狐の多くが南部でフリーランサーとして潜んでいたこと、部隊として統率されていたことからも、南部のどこかに子狐を育成する施設があると予想するのは、あながち的外れではないはず……
確証はない。それでも、もし既に子狐の教育が行われているのなら何としても助け出さないと……
広大な未開地の探索を行うにはお父様の……国の力が必要だ。
「サバランの目的が売買ではなく、加護を持つ我が国の民を帝国兵とする為に子供を集めることにあったと考えればどうでしょう? 辺境の村を魔獣で襲うのも誘拐の痕跡を消すためだとすれば納得できます。それに……先日私を襲った刺客の中には、我が国の下士官が含まれていました。彼女がそうだとは言い切れませんが、調べる価値はあると思います」
いまわの際に“くたばれ”と言い残したロジーナ伍長。彼女から伝わってきた強い憎しみの感情。子狐の心には洗脳によって強い憎しみを植え付けられていた。彼女も子狐だった可能性はある。
「勿論、彼女についても調べているよ。そういえば、彼女の経歴については今日インヴィンシブルから送られてきたばかりだったな」
そう言って、お兄様は束になった封書のひとつを開く。私の前の職場であるインビジブル要塞から送られてきたロジーナ伍長についての報告書だ。
「ローラ・ロジーナ伍長。6年前に12歳で入隊……出身は……父上!?」
「ふむ、なるほど。確かに繋がっているな」
お兄様が何かに気付き、お父様も眉をしかめる。
私にも見せて!
禿げ……もとい、ラスカル騎士団長の背中に飛び乗って、肩越しに覗き込む。
一下士官。それも平民出身となれば、書かれている内容はそう多くない。お父様とお兄様は、彼女の出身地が気になるようだけど……ロングリッジ? はて、そんな地名あったかな?
「エリュの言う通り、南部を徹底的に調べてみる必要があるのでは? 少なくともインヴィンシブルにスパイがいたのは事実なわけですし」
ラスカル騎士団の背中から私を引きはがすお兄様。そのまま自分の腕に納める。やっぱりお兄様はちょろい。
「勿論インヴィンシブルは調べる。だがな……」
お兄様から私を取り上げたお父様は、すぐに下ろさずにじっと私を見つめる。
「簡単に決められる事ではない」
ロジーナ伍長の件といい、南部が帝国工作員の巣窟になっている可能性はある。
だが、南部全域を捜査するだけの人員を送るには、私の予想だけではあまりにも弱い。もっと確かな証拠が必要なのだ。
転生者であることやゲーム知識を隠しながらお父様を動かすには、やっぱり弱いか……
だが、援軍は思わぬところから現れた。
「自分は姫様の意見に賛成であります」
「ラスカル?」
禿げ!?
「5年前、自分は子供を国外へ売却するルートを洗い証拠を得ようとしましたが、何も出てきませんでした。思えばそれが間違いだったのでしょう。奴らは手に入れた子供を国外に出すつもりなどなく、国内に隠していた……そう考えれば腑に落ちる点が幾つもございます」
深々と頭を下げるラスカル騎士団。
「元はといえば私の落ち度。処分はいかようにもお受けする所存です」
海外で高値で取引されるセンチュリオンの子供達を、いつまでも国内に置いておくはずがない。その思い込みにより間違った捜査が行われ、相手に証拠を隠す隙を与えてしまった。
しかし、彼を一概に責めることもできない。
貴族による犯罪の対処は近衛騎士団が行っている。貴族を取り締まるには王の権力が必要だからだ。だけど王都を拠点とする近衛騎士団は辺境では地の利が無く、回せる人員も限られる。
あらゆる可能性を考慮した多角的な捜査を行うには決定的に人手が足りない。あたりを付けた見切り捜査になるのも仕方がなかったのだ。
それら人材不足、法整備の遅れは王の責任である。
「わかった。エリュの言うことが正しければ他にも帝国に協力する貴族がいるやもしれん。南部を徹底的に調査しよう」
よし!! よくやった禿げ……いや、ラスカル騎士団長!!
「陛下。お願いでございます。どうか自分に南部の調査をやらせてください。必ずや敵のアジトを突き止め攫われた子供達を奪還してご覧にいれます」
「ならん! 今のお前は我が近衛騎士団の団長なのだ。私情にかられて私の傍を離れることは許さんぞ」
「……も、申し訳ございません」
ラスカル騎士団長の願いをあえなく却下するお父様。
まあ、それが近衛騎士団ってやつだからしょうがないね。
誰もが憧れる近衛騎士団の団長という職務も、なったらなったで失う自由がある。グレッグさんも大変だったんだろうな。私は毎日楽しそうにお馬さんと遊んでる前騎士団長の姿を思い浮かべる。
「まあ聞け。こういった事態にうってつけの連中がいるだろう?」
にやりと、中々ハンサムな顔に笑みを浮かべるお父様。
「陛下!? まさか監察室に!? 奴に任せるつもりですか!?」
「うむ。こういう時の為に作った部署だ。当然だろう?」
監察室? はて? 聞いたことが無い部署だ。話についていけずお兄様の袖をちょいちょいとひっぱる。
「国土監察室。王侯貴族を含む全ての犯罪を法の下で公平に裁くために、新しく法務局に作られた警察機関だよ。2年前のエリュの裁判が無茶苦茶だったからね。国を統べる立場にある者の誠意の証として父上の主導で設立されたんだ。当然貴族からは反発もあったけどかなり強引に押し切ったね」
監察室には全国を行脚し内偵を行う巡察官と、執行官と呼ばれる専属の武官が配置され、高い情報収集能力と、確かな実行力を伴う組織として設立されたらしい。合わせて法務局の改革も行われ貴族への発言力、権限が向上している。
つまり王侯貴族を役人によって逮捕、捕縛することが出来るようになったのだ。
流石ですお父様! 確かにそういった部署なら今回の事件の捜査にうってつけだ。それに帝国に協力的な貴族にも睨みを利かせることが出来る!
時代の分岐点。現状絶対王政を敷くセンチュリオン王国も、立憲君主制に変わろうとしている。観察室はその一歩だ。
でも、議会政治の導入は帝国との戦争が終わってからにしてほしい。前世日本人の私は議会政治のとろくささをよく知っているからね。
「監察室の初代室長はあのハクラだけどね」
何考えてんですかお父様!! あの変態に誘拐された子供達の捜査だと!? めっちゃ張り切ってやるだろう。
「出世とか興味なさそうな印象だったのによく引き受けましたね」
「僕もそう思ったけど、エリュに近づくために地位が欲しくなったんじゃないかな?」
何それ気持ちわる~。能力のある変態って何やらかすかわからんな……
まあ、誘拐された子供たちの為にその変態力を存分に振るってほしい。
「しかし父上。流石にこの件は彼等には荷が重くないですか? 実績もありませんし辺境だと存在すら知られていないでしょう。領主の協力が得られるとは思いませんが?」
捜査には地元領主の協力が不可欠だ。当然領主自身が帝国と関わっている可能性もありそれも含めての捜査である。
出来立てほやほやの部署に平民出身の室長では舐められるのは目に見えている。お兄様の懸念はもっともだった。
「だろうな。だからアルフォートお前も行け」
「えっ? 僕が出すか?」
「うむ。お前に全権を委ねる。監察室と協力して南部に寄生するウジ虫共を撲滅してこい」
一瞬呆けた顔になったお兄様だがすぐに引き締まる。
「謹んでお受けいたします」
「お前にとって初の大仕事になるな。頼んだぞ」
「はい!」
お兄様の肩を叩くお父様。
王太子であるお兄様が一緒ならば監査室が侮られることは無い。監察室が実積を得るのと同時にお兄様にとっても良い経験になるとお父様も考えたのだろう。南部は遠い。いちいち王都に伺いをたててはいられないしね。
お兄様も私やお母様と離れるのが嫌でちょっとはごねるかと思ったけど、やっぱり王太子なんだね。成長しているようで妹として嬉しいよ。
「ところで父上。南部にはエリュも連れてっていいですか? 戦力としてもオブザーバーとしても最適なんですけど」
前言を撤回する。やっぱりお兄様だった。当然お父様の雷が落ちます。
「いいわけないだろう!! いい加減妹離れしろ馬鹿者!!」
「ですが……」
「ですがじゃない! 少しはマシな顔をするようになったと思ったらこれだ」
不安はあるがそれでもお兄様を南部に向かわせる方針は変わらないようだ。次にお父様はラスカル騎士団長の肩を叩く。
「すまんなラスカル。お前の気持ちはわかるつもりだ。だがここは次代のために譲ってほしい」
「滅相もございません。自分こそ考えが至らず情けない限りです」
「そう言うな。だが南部の件ではこれ以上の失敗は許されん。特捜部からも人員を出して監察室をサポートしろ。現場での情報は全て共有するよう徹底させ、犯罪に対し国が一丸となって取り組む姿勢を見せつけるのだ」
「はっ!」
その2日後、総勢1000人以上の大査察団が南部に向けて出発することになる。私はそれを見送る立場だ。私としては一緒に南部に行きたかったがお父様の許可が下りなかった。
「エリュ。お前は明日も朝早いのだろう? 早く帰って休みなさい」
はい。今の私は一介の馬丁見習いです……
時間は既に0時近い。眠れるのは4時間ほど。寝坊は確実だけどテイオは起こしに来てくれるかな?
あと一応テイオの家族の事を聞くとお兄様が教えてくれた。
「あの少年はロングリッジ伯爵……いや、元伯爵の遺児だ。ロングリッジというのは件の子供を売っていた領主だよ」
まったく。因果だね……
読んで頂きましてありがとうございます。
今後とも応援よろしくお願いします(*^▽^*)




