忍ぶ恋心
えりゅたんに特別な感情が芽生え始めたテイオ君。でもお相撲勝負でぼろ負けして泣いてるところを“忍”に連れ去られてしまいました。
今回主人公不在のテイオ視点になります。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
目を開けたらたらやたら高いところにいた。
何だここ!?
目の前に広がる光景に俺は茫然とした。
そこからは王都の街並みが一望できる。王都の端から端、その先の地平線まで……
「ここは城の尖塔の上だ」
「は!?」
し、城のあの高い塔の上!? なんで俺そんなとこにいるんだよ!?
俺は確か“忍”抱きかかえられて……視界を塞がれてたのなんて10秒くらいだぞ?
「すげぇ……」
目の前の光景。“忍”。何もかもに圧倒されてそれしか言えなかった。
「あまり騒ぐなよ? 見つかると色々厄介だ」
「う、うん……」
なんてったって城のてっぺんだ。本当なら俺みたいな子供が来たらいけない場所なんだろう。
だったらなんで連れてきたんだ?
「テイオ。今王都には大体20万の人が暮らしている」
20万という数字が俺には理解できなかった。まあとにかく沢山ってことなんだろう。
「その中で貴族籍にある者は2000人程だ。割合でいえば100人にひとりということになる」
割合ってなんだ? まあとにかく貴族は少ないってことなんだろう。
「“サージ”に惚れたか?」
!?!?!?
急にあいつの名前が出てきて俺の心臓がまた跳ね上がった。
惚れたってなんだよ……
「お前が今“サージ”に抱いている感情だ。“サージ”の事を考えると胸が熱くなるだろう? 彼女を
求め、常に視界に収めていたい。一緒にいたいと願っている。違うか?」
“忍”の言うことは当たっている。“忍”は馬丁の中でも一番わけわからない奴だ。まさか人の心の中が読めるのか?
「そんなもの見てれば誰だってわかるさ」
また読まれた!?
「な、何の事だよ……俺は、別にあいつの事なんて何とも思ってないよ」
あいつへの気持ちを見透かされたくなくて、咄嗟に俺は嘘をついた。
「ふっ……」
“忍”が笑った……気がした。
何だよ……どいつもこいつも俺を揶揄って!
「いや、すまない。あまりにも典型的な反応だったのでな。つい昔の事を思い出してしまった。拙者にも覚えがあるからな」
“忍”の言っていることはよくわからなかったけど、何だか“忍”の気配が柔らかくなった……気がした。
「人間であれば誰しも一度は経験することだ。何も恥ずべきことではない」
何故だろう? “忍”がなんかすげー似合わないこと言ってる気がする。
「失礼だな。拙者だって若かった時期はある」
また読まれた!?
「テイオ……君は考えが表情に出るからな」
「悪かったな……」
「悪くはないさ」
そういえばこれまで俺は隠し事なんてしてこなかった。する必要がなかったからだ。
でもどうして……あいつへの気持ちには素直になれないんだろう?
「話を戻そう。今テイオが“サージ”に抱いている感情を恋という」
「恋?」
「そうだ。恋とは特定の誰かに特別好意を抱くこと言う」
恋……この気持ちが恋。
「心地よいだろう? 相手の事を考えるだけで人の心は華やぐ」
「うん……」
「そしてつい隠してしまう」
「うん……」
「それでいい……恋とは忍ぶものだからな」
その時の“忍”の言葉がとても冷たく聞こえた。反論を許さない。そんな気配を感じさせる言葉だった。
「テイオ。“サージ”は貴族の娘だ。今は訳があって預かっているが、そう遠くないうちに別れはやってくる。そして二度と会えないだろう」
あいつが貴族……?
それは驚かなかった。なんとなくそんな気がしていたからだ。だから“忍”はそんな態度をとったんだ。平民と貴族は結婚できないから。
ただ今の俺には結婚なんて大人になってからの話より、あいつと別れる……二度と会えないという現実を突きつけられたのがショックだった。
涙が出てきた。滲んだ視界で王都を眺める。
沢山の人がいた。俺やあいつと同じくらいの子供もいる。
王都にはこんなに人がいるのに、なんで俺はあいつに恋、しちまったんだよ……
悔しくて、俺はこの光景を目に焼き付けようとした。“忍”もそう何度も連れてきてはくれないだろう。
「あいつは……こんな光景しらないんだろうな!」
いくらあいつでも、城のてっぺんなんて来たことは無いはずだ。
だけど“忍”は俺の頭に手を置いて空を見上げた。雲一つない、澄みきった青空だ。
「いや、“サージ”はここより遥か高みを知っている」
「は?」
ここより高いところってどこだよ!? あいつは鳥みたいに空でも飛べるってのか? そんな人間いる筈が……
ん? なにか思い出しかけたような……
「誇れテイオ。彼女は長く一緒にいられないことを知りながら、お前を友にと願っている」
「なんだよそれ……辛いだけじゃん」
「そうだな。だが、この先“サージ”は過酷な人生を歩むことなる。それを乗り越えるために楽しく過ごした日常の思い出を彼女は欲している」
思い出……
俺には気が付いたら厩舎で働いたから思い出なんていわれてもすぐには思いつかない。
しばらく前に男爵様のところに旅行に行ったときのことくらいだろう。男爵様やたら俺の事気に入ってくれたんだよな。
ワイバーンに襲われて散々だったけど……確かその時……
俺を食い殺そうとしたワイバーンがものすごい音と共に炎に包まれて爆発した。
俺はその衝撃で意識を失って……
でもグレッグさんに抱きかかえられて少しの間意識を取り戻したんだ……
朦朧とした意識の中で……空から人が下りてきたのを見た……
金色の髪の女の子……そうだ……あれは……あいつだった。
それでグレッグさんがあいつの前で跪いて……姫様って……
「あ……ああっ!!」
俺は声を上げた。
ワイバーンの恐怖でずっと忘れていた事を今思い出した。俺はあれからまた意識を失って、気が付いたら男爵様の邸にいた。これまではそこからの記憶しかなかったわけだけど……
身体が震える。
ワイバーンの恐ろしい姿。それよりもあいつが持ってる本当の力。そして正体……
「どうした? テイオ?」
“忍”に肩を抱かれて俺は思い出したことを口にした。
「お、思い出したんだ……俺、あいつに以前会ってる。南部でワイバーンに襲われた時、あいつ凄い速さで空を飛んできて……俺を助けてくれたんだ……その時、グレッグさんがあいつ……のこと……姫様って……」
これまで隠されてきたあいつの正体。それって……
あいつ……お姫様……なのか。
事実に気が付いた時、俺は石の壁に叩きつけられたかのような気分だった。どうあがいてもどうにもならない高くて堅い壁に絶望した。
「テイオ……」
“忍”が俺を抱きしめる。
「忍べ……心に蓋をしろ。落ち着いたらいつも通りに振舞え。いつも通りにだ……」
俺は頷く。俺があいつの正体に気が付いたと知れたら、今の関係はすぐにでも終わってしまう。そんな気がした。
あいつの方から真相を語ってくれるその日まで絶対に悟られてはならない。
やがて気持ちが落ち着くと俺は“忍”に聞いた。
「なあ、“忍”や皆もあいつに惚れているのか?」
「ああ。そうだな厩舎の者は皆“サージ”に惚れこみ力になりたいと思っている」
そうか……やっぱり……
「ロリコンばっかりだな」
「お前は何故そんな言葉を知っているのだ?」
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作者からの報告とお詫び。
主人公の年齢を7歳→8歳に変更いたしました。えりゅたんは2年間軍隊にいたことになります。




