悔し涙
ロリvsショタの戦いです。
真夏だというのに黒装束と覆面で全身の覆った変質者……いや、彼もまた厩舎で楽しいアフターライフを送るひとりだった。
どこからどう見ても忍者だが、それは世を忍ぶ仮の姿。その名は“忍”これでも一応馬丁である。
「“忍”急に出てくるから驚いたじゃないか! いつからいたんだよ!」
テイオの言葉に私もこくこく頷く。
私はこれでも周囲に気を張る癖がついている。だから気配を全く感じさせなかった“忍”にテイオ以上に驚いていた。
「いつからも何も、拙者はお前たちの横でずっとニンジンの皮をむいていたのだが?」
つまり最初からいたのだ。全く、忍者半端ない。
「驚かせたか? すまない。クセなんだ」
驚きで声を失っている私の頭を撫でる“忍”。
“忍”は背格好から男性であることがわかるくらいで年齢不詳だが、声は前世でファンだった赤いなんとかさんに似ている。
安心感のある美声に私は落ち着きを取り戻す。
「ところで“サージ”。決闘に立ち合人が必要なことは知らなかったのか?」
“忍”に言われてしゅんと肩をすくめて頷く。知らなかったです。
「ふむ。まぁ“サージ”が知らなくても無理はない。正式な決闘など滅多に目にする事は無いからな。決闘には本来お互いが示した条件を書面にした決闘証明書と、立会人の同席が必要だ。それが無ければただの私闘だから下手をすると罰せられる場合がある。覚えておくといい」
実際の決闘って結構面倒くさいようだ。
「まあ、ふたりが遊びで勝負するというなら拙者も放っておいたところだが、本気だっんだろう?」
私とテイオはそろって頷く。
「ならば尚のことだ。“サージ”と今のテイオでは力の差がありすぎて勝負にならないからな。決闘としてはとても認められん」
「えっ!? 何だよそれ!? 俺が負けるってのかよ」
「ああ。あのまま立ち合えばお前は数秒で負けていただろう」
「なんだと! 俺だって本気を出せば女なんかに負けるはずねーよ!」
女の子相手に勝負にならない。秒殺されると言われてプライドを傷つけられたようだ。不満そうに声を上げるテイオ。
けれどテイオが思っている以上に今の私とテイオの間に力量差があるのは事実だ。正直言って私はテイオに負ける気がしない。
“忍”もそれを見抜いているからこその発言なのだが……まあ、テイオが素直に受け入れられないのも仕方ないと思う。だって男の子だもん。
それにしても、女なんかとはね……これは教育が必要かな?
「だったら、条件とかそういうの無しで勝負しよう? “忍”それならいいでしょう?」
“忍”は頷く。
「無論だ。ただ競い合うだけならば止める理由は無い」
「よし! テイオもいいよね?」
「ああ、やってやるよ!」
テイオもやる気のようだし、私とテイオは線を描いただけの土俵の前で再び向かい合う。
「“忍”秒で終わらせるから数えてて」
「心得た」
行事を務める“忍”にあえて時間を数えているように頼んだのはテイオへの挑発だ。案の定テイオは真っ赤になっている。
「お前絶対に泣かしてやる!」
「いいよ。やってみな」
生憎だけど今日泣くのは私じゃない。
でもいつか来る別れの日までに……別れが辛くて泣くくらい良い男になってみせな。テイオ。
私達は睨みあいながら腰を落とす。
でもそれだけで力量ってのは見えてくるものなのだ。テイオはやはり形だけ。ここのおっさん達、本当に何も教えてないらしい。
手をついて集中する。
手加減はしない。
相手が素人だろうが、油断することなく、持てる力を出し切って勝つ!
はっけよい!
私はテイオの胸に勢いよく飛び込む。テイオはそれを受け止めはしたものの私は既に勝利を確信していた。
テイオはこれまで自分より身体が大きい大人としか遊んだことがないのだろう。最初から負けても当然なくらいの感覚でしか相撲を取ったことが無いのだ。
私も王宮でお姫様してた頃はそうだった。でも南部に行って同年代の友達が出来て、時間があれば一緒に遊んだ。相撲だって何度もやったよ。
私はテイオが思ってる程強くない。魔法が無ければ私は大して力もないから負けてばかりだった。
それでも楽しかった。どうしようもなく楽しかった。
テイオはそうやって友達と遊ぶことを知らないんだ……
テイオは重心が高く基本がまるでなっていない。それに緊張しているのか腰も引けていて押し返す力も弱い。
日々労働してだけあって、テイオの体力は同年代の子供と比べてもある方だ。運動神経も良い。なのにそれが全然活かせていない。
いきがってたクセに情けないね。そんなんじゃ駄目だよテイオ!
私はテイオの身体を抱えるように持ち上げると容赦なく地面にひっくり返してやった。
大の字で倒れるテイオを見下ろして私は勝利の喜びに酔いしれる。
ああ、もう……!!
いきり男子を負かすのって快感……!!
「勝負あったな」
「時間は?」
「5秒だ」
“忍”の言った通りの秒殺。勝負は私の圧勝だ。
「女なんかに負けた気分はどう?」
「くそっ!」
地面を叩くテイオの顔は悔し涙に溢れていた。
あーあ。やっぱり泣かしちゃったな……私もちょっと大人げなかったかもしれないと反省する。テイオはしっかりしているけど8歳の子供なのだ。
「ほら、情けない顔してないで立ちなさい」
差し出した手をテイオは握った。私の手を借りて立ち上がったテイオだったが、そのまま身体を預けてきたので私はそれを抱きとめた。
「テイオ?」
「すまん……でも……」
テイオは私の肩に顔を埋めて泣いていた。
「なんでだよ……俺とお前でこんなに違うんだよ……男は強くなって女を護るもんじゃないのかよ……皆俺の事騙してたのかよ……騙して、隠して、俺……一体何なんだよ……」
「テイオ……」
私はしっかりとテイオを抱きしめた。
まさかこんな風に甘えてこられるとはね。悪い気はしない。むしろ可愛い……
「テイオは弱くないし馬鹿でもないよ。働き者で、とってもかっこいい男の子だよ」
「うむ。女の子といっても“サージ”を基準にしてはいけない」
私は余計なことを言う“忍”の方を睨むと、“忍”は覆面の下で視線を逸らした……ような気がした。
「ところで“サージ”。前から気になっていたが、君の身のこなしはエルフに師事を受けたものではないか?」
流石は忍者。気が付いたか。
私の本来の体力はテイオと大差ない。それでも彼を圧倒出来たのは、エルフの里で習った体術のおかげだ。
テイオを抱いたまま私は頷く。
「やはりそうか。しかし彼等が人に技を教えるとはな……」
“忍”の言う通り。軍に入った私は3ヶ月の基礎訓練が済んだ後、半年くらいエルフの里で特別に指導を受けていた。本来エルフは人とあまり関わらないように暮らしているが、どうやら私は彼等に気に入られたらしい。
半年という短い時間だったが、私は彼等の下で沢山のことを学んだ。
骨格の構造や筋肉の特性、重心の取り方などが緻密に噛み合うことでより大きな力を引き出すことができる体術。
彼等がリアルタイムで体験してきた世界の歴史。
精霊や魔獣に関する人里では知られていない貴重な知識。
そして一生の友人が出来た。
カノン……元気にしてるかな?
私は遥か南の地にいる少女の顔を思い出しながら、テイオの頭をそっと撫でた。
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