男の子の事情
テイオ視点の一人称になります。
冷静になってサブタイトルを変更しました。どす恋は無いですね……
そいつに勝負しようと言われた時はわけがわからなかった。
「なあ、“けっとう”ってなんだ?」
そいつは気が抜けたように、あからさまにため息をついた。クソ腹立つ。
「はぁ……そこからか」
悪かったな。馬鹿で。どうせ俺は字も読めねーよ。
「テイオは悪くないよ。悪いのは遊んでばかりで貴方に勉強を教えないおっさん達だからね」
勉強か……そういえばそのうち教えるって言いながらやってないな。まあ、これまではあんまり困ってなかったから、いいかって思ってたけど、こいつといると自分が何も知らないんだと気づかされて凄く悔しい。
こいつにとって字の読み書きは当たり前。それに本当に何でもよく知ってる。
昔の事……歴史って言うらしいけど、大人が驚くくらい詳しいし、俺によくかけるぷろれす技やじゅーどーの技は親方やグレックさんが認めるくらいの腕前だ。しかも魔法まで使える。
俺と同い歳なのにどうしてそんなに色んなことが出来るんだ?
そいつは肩を落としながら決闘の意味を教えてくれた。
相手に決闘を挑むことは特別なことでとても勇気がいるらしい。何か大切なものを賭けて戦う真剣勝負だからだ。
何でそこまでするんだ?
「ねぇテイオ。私と決闘してくれる?」
そいつは俺をじっと見つめて俺の返事を待っている。
この国では茶色い瞳がほとんどだけど、こいつの瞳は朝焼けのように明るくてとても奇麗だ。
髪の毛の色も淡い金色で、それだけは俺が一番可愛いと思った女の子に似ている。何年か前に厩舎の裏で倒れていたのを助けたのだが、こいつと違って細くて白くてまるでおとぎ話に出てくるお姫様みたいな子だった。
まあ多分貴族様だろうからもう会うことは無いだろうけど。
きっと女の子ってのはああいう子なんだと思う。
なら、こいつは何なんだ?
「なぁに?」
「べ、別に……」
目が合った瞬間に俺の顔や胸の奥が熱くなるのを感じた。
な、なんだよ……これ。
その気持ちを気づかれてはいけない。そんな気がして、俺はいつもの何でもないような顔でそいつを見て言った。
「な、なんで俺がそんなの受けなきゃいけないんだよ……?」
何故だ……?
本当は“いいぞ”って言いたかったのに口から出たのは真逆の言葉だった。
こいつと何かするのが嫌なわけじゃない。むしろ勝負なら望むところだ。こいつには今までやられっぱなしだし、見返してやりたい気持ちもある。
なのになんで俺はこいつの前で素直になれないんだよ!?
「だって、私の秘密が知りたいんでしょう? 私もテイオに名前で呼んでほしい。だからお互いに相手にしてほしい事を賭けて決闘しようって言ってるの」
「……そんな事しなくても名前で呼んでやるから秘密を教えてくれ」
俺だって本当はシーリアって名前で呼びたいんだよ。照れくさくて言えないだけなんだ……
さっきも魔法で傷を治してくれたのにお礼を言えなかったし、俺はいつもこいつの前では普通に喋れなくなる。
本当は素直に凄いなって言いたいんだ。
本当は一緒に遊びたい。色んな事を教えてほしい。
心の中がもやもやする。嫌じゃない。嫌じゃないのに落ち着かない。この気持ち何なんだ?
こいつが来てからずっと振り回されてきた。隠し事ばっかりで、俺をのけ者にしてるくせにこうして俺に構ってくる。
出会い方も最悪で、いきなり殴られて喧嘩になった。
鬱陶しい奴。そう思ってたはずなのになんで一緒にいたいって思ってるんだよ俺!
いいさ。名前くらいいくらでも呼んでやるよ!
シーリア、シーリア、シーリア、シーリア、シーリア、シーリア……
「それじゃ駄目。私の秘密はとっても重要なものだから簡単に教えちゃいけないの。でも私と決闘して勝ったなら教えてあげられる。決闘ってのはそれくらい神聖なものなんだよ」
こいつもこいつでめんどくせーー!!
やっぱ名前呼んでやるの無しだ!
「わかった。受けりゃいいんだろ?」
俺が半ば投げやりに返事をするとそいつは満足げに笑みを浮かべる。
どうやら既に勝った気でいるようだ。なんか腹立つな。
「魔法は使わないんだよな?」
「勿論。剣と筋肉に誓うよ」
そいつは腕を直角に曲げる妙なポーズをする。なんだそれ? だせぇ……
「そ、それじゃあ何で勝負するんだよ?」
「え? うーん。剣は私もまだ使えないし、格闘技もテイオは素人だしなぁ。うん、やっぱりお相撲にしよう!」
どうやら今考えたみたいだ。
それにしても何故相撲なんだ?
まあ、よく揉め事は相撲で決めろって言うからな。でも……
俺はそっと気づかれないようにそいつを見る。
背丈は俺と同じくらい。体重も多分変わらないだろう。力も体力も有り余ってるみたいだし、魔法も無しなら良い勝負になるかもしれない。
「でもお前、本当に女の子……なんだよな?」
「なによ? 喧嘩売ってんの? いいよ? 買うよ?」
そいつは目を吊り上げる。
「……だってしょうがないだろ? 普通女は男に相撲で勝負なんて挑まないだろ? それにお前裸見られると怒るじゃないか。せっかく女の子扱いして聞いてやったのになんで怒るんだよ?」
「言い方!」
「知るかよ! で、お前裸になるのか?」
相撲は裸でやるものだ。でもこいつは裸を見られることを嫌う。
始めて会った時はいきなり殴られたし。こないだも枕ぶつけられたし。
あ、顔が真っ赤になって睨んできた。なんか、いいな……何がいいのかは言い表せないけど。
「いてっ!」
なんて思っていたら頭を殴られた。暴力女め……
「テイオのスケベ!」
「なんでだよ! 相撲しようって言ったのお前だろう!」
「服着たままでいいじゃない! さ、やろ!」
そいつは俺の手を握る。
!?
心臓がドンと音を立てて跳ね上がったような気がした。
まただ。何だよこれ……大丈夫か? 俺の心臓?
「どしたの?」
そいつの顔を直視できなくて俺は顔をそむけた。
「大丈夫。なんでもない。今からやるのか?」
「うん! 善は急げって言うからね!」
おい。どこに善がある?
それにしてもやばい。心臓がバクバクいってる……病気か?
こんな状態で相撲とか、俺、死なないよな?
引っ張られるように外に出る。まあ、こいつが来たおかげで芋の皮むきが早く終わるようになったから時間はある。
さっさと終わらせて休もう。そうしよう。こいつになら負けてもいいや。秘密は気になるけど、ま、いいや。
「さて! 速攻で負かしてテイオを私の子分にしてやるんだから!」
前言撤回だ。こいつにだけは負けたくねぇ!
「なんで俺がお前の子分にならなきゃなんないんだよ!」
「だって名前で呼んでくれるだけじゃ私が損だもん」
「お前から言い出したんじゃないか!」
寮の前で俺達は向かい合う。
厩舎の周辺は無駄に広いから子供が相撲を取るくらいの場所には困らない。たまにぼろ落ちてるからそれにだけ注意が必要なくらいだ。
お互いに服は着たまま、地面に円を描いて土俵の代わりにする。
「女の子だからって手加減しなくていいよ? テイオなんかに負けたりしないから」
舐めやがって! こいつ、絶対泣かしてやる!
だけど俺の心臓はまだバクバクいってて、何だか足にも力が入らない。
一体どうなってんだよ……
だけど、勝負は思わぬ形で流れることになった。
「待たれよ。その勝負拙者が預かる」
いつの間にか、俺達の背後には黒装束に覆面の男が立っていた。
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