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幕間2『華音』

7月7日はポニーテールの日! ということで特別に幕間を投稿いたします。


内容は舞台のベースとなったゲームのイベントとエンディングを抜き出して小説にしたものです。そのため視点となるエリュシアリアは本編のヒロインとは別のゲーム内でのエリュシアリアになります。本編からの流れで読むと混乱するかもしれません。


また女相撲や女性同士の恋愛といった内容が含まれていますので苦手な方はご遠慮ください。


 王立修学院では男女問わず兵科訓練が必修となっている。エリュシアリアが入学してから半年。彼女を含めた学院生は、訓練の一環としてアイアンライン警備隊の拠点であるインヴィンシブル要塞を訪れた。

 アイアンラインは魔森ヘルヘイムと国境との間にある緩衝地帯であり、アイアンライン警備隊はヘルヘイムから現れる魔獣の国内侵入を防ぐために設立された国軍の独立部隊だ。最も過酷な現場と呼ばれ、殉職率も群を抜いて高い危険な場所だが、魔獣との戦闘経験を積むため、学院生は必ずこの地で実習を受けることになっている。


 着いた早々魔獣との戦闘に巻き込まれた学院生達。傷つきながらもなんとか魔獣の撃退に成功する。


 多くの生徒が始めて実戦を経験したその夜、インヴィンシブル要塞では歓迎の宴が開かれた。


 だが主賓である学院生達は疲れ果て、また怪我をした仲間を心配して宴は一向に盛り上がる気配はない。


 そんな彼女達を砦を訪れていた傭兵達が揶揄う。


「はん! あの程度でへばってんのか? これだから貴族のお坊ちゃん達は」


 無礼な! と、男子学生が声を上げる。だが、相手は百戦錬磨の荒くれ者達だ。それで収まるはずもない。


「無礼? こちとら納税者様だぜ貴族さんよ! お前ら何で飯食ってんのかよく考えな!」


「お嬢様、ここは社交会ではございませんよ? まあ、男を漁る場という点では同じですけど」


 お約束の学生いびり。現場からの手荒い洗礼に学院生達も負けじと反論する。


「なんだと! お前達に部屋住みの苦労が分かるものか!」


「馬鹿か? 飯はナイフとフォークで食べるに決まっているだろう?」


「うるせーーよ!! ブーース!!」


 小さな諍いは次第にエスカレートし、学院生と傭兵団の間で大乱闘が始まる寸前、ついに中央要塞のトップである司令官が声を上げた。


「止めないか! 仲間同士で喧嘩はご法度である! 破れば誰構わず厳罰に処す!」


 騒ぎは一旦落ち着くも、一触触発の空気は変わらない。


「ならば相撲だ!!」


 司令官は叫ぶ。


「揉め事は相撲で解決しろ! それがこの砦のルールだ! そういう訳で、これより親善相撲大会を開催する!」


 この世界で相撲は交流の手段として重宝されている。どんな地域や種族にもだいたい似たような競技が存在し、場も盛り上がることから、いつしかルールが統一され相撲交流は世界中に浸透していった。


 土俵の上では誰もが一介の力士であり、身分も性別も関係ない。


 沸き立ったのは砦にいた兵士たちだ。


 アイアンライン中央要塞は人里から隔絶された場所にあって娯楽が少ない。そのため学生の実習を受け入れては、際にはお祭り騒ぎにかこつけて親善相撲大会を行っていたのである。


 恐る恐るひとりの女生徒が手を上げる。


「あの~? 私達もですか?」


「当然だ!!」


「「「「「「え~~~~~っ!!!!!!」」」」」


 女子生徒達から悲鳴のような声が上がる。


 だが言うまでもないが、彼等の本命は女子生徒達による女相撲だ。女相撲とはいつの時代、如何なる世界でも最高のエンターテインメントなのである。


「君たちの為に選りすぐりの対戦相手を用意してある! 胸を借りるつもりで勝負に挑んでもらいたい!」


 にやにやと笑みを浮かべる男の傭兵達。女性の傭兵達も若い学生達を獲物を見るような目で見つめている。


 彼等の挑発は彼女達が逃れられぬようにと最初から仕組まれたものだったのだ。


 あれよあれよと準備は進む。演習場には既に立派な土俵が用意され、観戦用のやぐらまで立てられていた。


 学院生達の間では予選が行われ男女5人ずつの選抜メンバーが決定すると、傭兵団vs王立修学院で団体戦が始まった。


 ……


 男子の部が終わり女子の部が始まる。


 予選を勝ち抜き、選ばれた代表の中にはベルフィーナ、そしてエリュシアリアの姿もある。

 彼女達が身に着けるものはぎゅっと締め込んだ聖布の褌とさらしのみ。訓練で鍛えられた肉体と玉の肌を惜しげもなくさらす乙女の姿に砦中の男達から最大級の賛辞の拍手が送られるのだった。



✤✤✤



 ()()()()()。私はセンチュリオン王国第4王女エリュシアリア・ミュウ・センチュリオンです。


 この度、親善相撲大会アイアンライン場所において王立学院側で大将を務める名誉を賜りました。菲才な身ではありますがタグマニュエル様の御前に恥じぬよう、正々堂々全力で戦いたいと思います。どうか皆さま熱い声援をよろしくお願いいたします。


 司令官さんたっての希望で私が選手代表として挨拶すると歓声と拍手が上がった。


 司令官さん? ボルド提督でしたっけ? 後でゆっくりお話しさせて頂きましょう。


 それに男子。次の演習で覚えてろ。


 学院の男子達は対立していた傭兵団の人達と既に和解したようで、今は仲良く肩を並べて観戦席で鼻の下を伸ばしている。


 まったく……


 男子の戦績だが傭兵側の選抜メンバーに全く歯が立たず完敗だった。


 それでも学院の男子が弱かったからとは言い切れない。何故なら傭兵側の選抜メンバーが獣人やドワーフといった人より身体能力に優れた種族で構成されていたからだ。


 獣人やドワーフ、そしてエルフといった人に近しくも別の種族がこの世界には存在する。彼等は数は少ないが、個人で見れば人の上位互換といえる優れた能力をもっているのだ。


 だから男子がぼろ負けしたからといって笑ってはいられない。


 学院側の先鋒は明朗快活で力自慢のアトリシアだ。傭兵側からは相手は白く長い耳とふんわり丸い尻尾を持つ兎系統の獣人の少女で、ふたりの間に体格的に大きな差は無い。平均的な身長に引き締まった身体付き。白い聖布が彼女達の健康的な肉体美を引き立たせている。


「はっけよい!」


 行司を務める教官の鋭い声と共に、肌がぶつかる音が響く。


 両者がっちりとまわしを掴んでの四つ相撲。


 力持ちのアトリシアだけど、やはり獣人相手には分が悪い。次第に押され始め土俵際へと追い込まれる。技量的には負けていないだろう。でも種族による力の差を覆すには至らない……


 俵に足をかけて懸命に粘るアトリシアだったが、ついに持ち上げられて彼女の両足が土俵を離れる。


「きゃっ!」


 小さく悲鳴をあげて、土俵の外へと投げ飛ばされたアトリシア。


 観客席から大きな拍手と歓声が上がる。


 負けてしまったのは残念だったが、私も熱戦を繰り広げたふたりに惜しみない拍手を送る。


「ごめん……全然敵わなかった」

「相手が悪かったわ! 元気出して!」


 しょんぼりと土俵を下りたアトリシアの背中についた土を払う。 


 続く次鋒戦。傭兵側の代表はなんとヤシャ族の少女だった。艶やかな黒髪に頭から伸びた一対の角。背はそれほど高くない。顔立ちも年齢より幼く見えて可愛らしい。しかし、ヤシャ族は遥か東方の魔境で暮らす戦闘民族だ。恐らく力では先鋒の獣人の少女より上だろう。


「アイネ! 勝ち負けなんて気にしなくていいから精一杯やってきなさい!」

「はい、ありがとうございます」


 私は悲痛な表情で土俵に向かうアイネに声援を送る。


 学生側の次鋒として出場するアイネは私の数少ない友人のひとりだ。成績優秀でその上予選を勝ち抜いて代表に選ばれるだけあって武芸にも優れていると非の打ち所がない。


 などと私が褒めても嫌味にしか聞こえないらしいんだけど……


 アイネが土俵に上がるとギャラリー席の男子達から大きな歓声が上がった。彼女はモテる。とにかくモテる。

 優等生で、性格も良く、器量良し。実家は子爵家と家柄も良い(私やベルだと家格が高すぎて並の男子は引いてしまう)となれば当然だろう。

 そして何より圧巻なのは彼女のスタイルだ。ベビーフェイスに似合わぬ豊かな胸のふくらみはあのベルをも上回る。さらしから今にも零れ落ちそうなたわわな果実に学院生だけでなく多くの男共の視線を集めていた。


 ああ、もう! 今すぐプロミネンス砲でここにいる邪な連中を消し去ってしまいたい!

 

 ヤシャ族の少女も中々良い身体をしているけれど体格ではアイネが有利。


 仕切り線を挟んで構えると、大きな胸、肉付きの良い太もも、そして聖布が食い込むお尻が強調され息を吞むような緊張感の中生唾を飲む音が聞こえてきた。


 こいつらは……


「はっけよい!」


 立ち合い。バシッっと肉がぶつかり合う音が響く。


 勢いよくぶつかっていくアイネ。相手はそれを正面から受け止める。


 のこった!


 のこった!


 お互いにまわし(正確にはちょっと違うが、ここではそう表記する)を引き合い、胸を合わせて相手を押す。

 

 普段の優等生の顔を捨て、ふたつ結びの金髪を振り乱し必死の表情で懸命に押していくアイネだが、やはり正面切っての力比べは相手に分がある。やがてアイネはその豊満な身体を高々と吊り上げられてしまった。


「勝負あった!」


 最後まで足掻いてみせたアイネだが土俵の外へと吊りだされて軍配はヤシャ族の少女に上がる。


「よく頑張ったわ」


 私は頬を朱に染めて帰ってきたアイネを抱きしめて頭を撫でる。


 ヤシャ族の少女は本当は一瞬で決められた勝負をわざと引き延ばしていたのかもしれない。手放しがたい抱き心地の良さに私はそう思った。


 アイネにとっては不本意だろうけど……


 まあ、仕方ないわね……


 こちらも加護の力を使えばいい勝負になったかもしれないが、相撲は己の力のみで戦う真剣勝負。土俵の上で女神の力に頼れない。


 先鋒、次鋒戦を落とし、早々に後がなくなった学院勢。まぁ、負けて罰をうけるわけじゃないんだけどこのまま全敗では名門王立修学院として格好がつかない。


 続く中堅戦の相手は私達と同じ年頃の人の少女だった。どうやら5人全員が異種族ということはなかったようだ。


 白い肌に白い髪。すらりと伸びた脚線が目を引く美少女だが体格的には細身である。また恥じらうような様子から人前で肌を晒すことにも慣れていないようだ。どうしてこんな子が代表に選ばれたのだろう?


 私が不思議に思っていると、その顔を知っていたらしいアイネが私にそっと耳打ちする。


「あの子、Aクラスハンターのステライアですよ」

「あら? あの子が」

「はい。魔獣と戦いの中で助けてもらいましたから間違いありません。それに副将は相棒のジルです」


 ステライアとジル。可憐な容姿と高い実力で、市井に疎い私でもその名を聞いたことがある魔獣ハンターだ。


 どうやら指令官さんはこの日のためにドリームチームを用意したらしい。


 この立派な土俵といい櫓といい、軍の予算をなんてことに使っているのでしょう?


 ステライアもジルも、腕利きとはいえ同年代の人の女の子だ。条件が同じならば決して勝てない相手ではない。学院側の中堅であるラフタルは身体は小さいが体力がある。数分間にわたる大相撲の末に土俵際でもつれ合うように倒れ、軍配がラフタルに上がる。


「姫様やりました!」

「小さな身体でよく頑張った! 感動した!」

「ち、小さいは余計です!」


 熱戦を制して汗と土にまみれたラフタルを抱擁で迎える。ギャラリーからも拍手喝采だ。


 副将戦。こちらからはエースであるベル……ベルフィーナが出場する。


 持ち前の美貌でギャラリーの視線を攫うベル。対するジルは優れた格闘家として多くの武勇伝が語られている魔獣ハンターだ。背丈はベルよりやや高く、波打つ金髪に、豊満な身体と、貴族令嬢でも滅多にいないくらいゴージャスな容姿をしている。

 

 ジルも肌を晒すのには慣れていないのか、ステライアと同じく、最初は恥じらう様子も見せていた。だけど、土俵中央でベルと向かい合うと、表情が途端に鋭いものに変わる。ベルの強さを本能的に感じ取ったのだろう。


 相手は百戦錬磨の剛の者。これは流石のベルでも苦戦するかもしれない。


 何故だろう? ベルが負けるところを想像するだけで心が騒めくのを感じる。


 私は強くて美しい彼女に密かに憧れを抱いている。例えその想いが一方的なものだとしても……


 拳を握って勝負の行方を見守る。


「はっけよい!」


 美しき獣が土俵中央で激突する。


 体格と実戦経験の差からジルが有利に思われた。しかし……


 私の心配は杞憂に終わった。試合はベルがジルを一気に寄り切って勝利する。


 横綱相撲という言葉が相応しい内容に私は胸がすく思いだった。


 これで戦績は2勝2敗。勝負は大将戦に持ち込まれた。


「ご苦労様」

「いえ。大した相手ではありませんでしたから」

「そ、そう……流石ね」


 私は勝ち名乗りを受けて戻ってきたベルをねぎらうが、彼女は相変わらず素っ気ない。


 さあ、私も自分の試合に集中しないと。


 相手側の大将はずっとマントを被り姿を隠しているため正体がわからない。体格的にはそれほど大きくはなさそうだけど……


 名うてのフリーランサーか、もしくは異種族か……?


 私達を強さ順にすると、一番はベル。次に私、アトリシア、アイネで同じくらい。それからラフタルといったところだ。もし向こうが一番の実力者を大将に据えているなら私に勝ち目は無い。


 でも私が大将になることはわかってるから、あえて王女である私に相応しい相手を用意していることは考えられる。


 有名なフリーランサーをわざわざ呼び寄せてドリームチームを用意するくらいだ。むしろその可能性が高い。


 誰が相手だろうと、ベルが見てるんだ。


 ベルの前で他の誰かに負けたくない。絶対に勝ってやる。


 獣人でも鬼人でもなんでも来なさい!


 私はそう心に誓って土俵に上がった。


 だけど……対戦相手がマントを脱いだとき、私の意気込みは、思わぬ肩透かしを食らうことになる。


 そこに立っていたのは息をのむほど美しい少女だったからだ。


 篝火に照らされて神秘的な輝きを見せる緑がかった長い髪。

 私より少し小柄で線の細い身体。形よく伸びた長い手足、白い素肌は星明りを集めて形作ったかのようだ。


 私はその姿に思わず見惚れた。私だけではない。歓声に沸いていた周囲も呼吸を忘れたかのように静まり返る。


「エルフ……」


 誰かが呟く。


 小さな頭から細く伸びた耳が、彼女の種族を物語っている。 


 歳は同じくらいだろう。人より遥かに長い寿命を持つエルフの年齢は分かりにくいが、まだ幼さの残る彼女の顔立ちから見た目通りの年齢だろうと推測する。

 エルフといえど子供から大人に成長するまでの時間は人と変わらないからだ。


 彼女が私の相手? やられたわね。


 見た目こそ美しいが彼女は決して強そうには見えない。エルフは身体能力的には人と同等だ。体格的にも私に分があり一見私に負ける要素は無いように思える。


 だが実は世界最強の力士がどの種族かと問われると実はエルフなのだ。


 それは種族の特性が大きくかかわる。


 相撲のスタイルは種族ごとに特徴がある。


 獣人や鬼族などフィジカルに優れた種族はパワーを生かした力相撲。


 人は理学に基づき、効率的な押し相撲。


 そしてエルフは圧倒的な柔。しなやかさを生かした非常にピーキーな相撲を好むことで知られている。

 エルフの身体能力は人と同程度で決して恵まれているとは言えない。それを覆すために彼等は技を磨き上げていったのだ。

 そしてこれはあらゆる分野で言えることだが、エルフはその圧倒的に長い寿命故に研鑽にかける時間が他の種族に比べて桁違いだ。


 相撲もまた然り。エルフの中にはその筋で神ともいえる達人が数多く存在する。


 指導者の差によって生まれる優位性は計り知れない。年若いエルフでも同年代の人よりも数段上の実力を持っていると考えていい。


 彼女の美しさ。そして人の上位種であるエルフと対峙する緊張……


 相手も同じなのだろうか? 人とはいえ王女を相手にする事に戸惑いがあるのかもしれない。美しい翡翠の瞳がじっとこちらを見つめている。


「ふたり共、もういいか?」

「は、はい! すみません」


 行司役の教官に呼ばれて我に返る。


 盛り上がっていたギャラリーも今は不気味なほどに静まり返っている。誰もが息をする事すら忘れて私達に集中している。


 時間いっぱい……


 手をついて、待ったなし……


 蹲踞の姿勢で腰を落とし、片手を付ける。


 勝負に集中しろ。エリュシアリア。相手が何者だろうと全力でぶつかって打ち負かす。それだけだ。


「はっけよい!!」



 低い位置から当たってくる相手を私は上から押さえつけるように受け止める。先に懐に潜り込み有利な体勢を取ったのは相手の方だ。


 やっぱり強い!


 少女は可憐な見た目に反して力もあり、そして上手かった。少なくとも相撲は嗜み程度な私より経験を積んでいることは間違いないだろう。力比べでは若干優勢だが押し切れそうにない。


 私は慎重に彼女の上体を少しずつ起こしながらまわしを掴む。


 取った!!


 利き手である右の上手を取ると胸を合わせ、吊り上げるように土俵際まで一気に寄る。


 このまま寄り切る!


 少女も粘りを見せて抵抗する。左手で掴んでいたまわしを切られるが、このまま押し倒す勢いで私は体重をかける。


 !?


 その時ふと押し返そうとする力が消えて、まわしを引かれる。バランスを崩した私の身体が傾いた。


 しまっ……!?


 それは一瞬の逆転劇。


 深く潜り込まれての下手投げに私は身体が跳ね上げられるのを感じた。意思に反して傾く身体。地面を離れた片足が大きく宙を泳ぐ。


「くっ……」

「んっ!」


 体勢的に不利なのは私。だけどまだ体格で覆せる可能性はある。私はなんとか投げ返そうとまわしを掴んだ右手に力を籠める。


 だけど結局競り負けたのは私の方。投げられた私の身体が反転する。


 足が地面から離れ、僅かな浮遊感……敗北が決定的となった瞬間選手席にいるベルと目が合った。


 表情はいつも通りだが、その目に映るのは失望──


 お願い……! そんな目で見ないで!


 衝撃。背中から倒れた私に相手の身体が重なる。


 ──負けた。


 ──この子、凄い。美しいだけでなく、強くて真っすぐだ。力で負けても諦めることなく、華奢な身体で最後まで粘り、ついに一瞬のチャンスをものにして私を負かした。


 彼女は強い。心も身体も私より……


 目の前に奇麗な顔があった。


 少女の顔は高揚し、桜色の唇からは艶めかしい吐息が聞こえてくる。愁いを含んだ瞳が何かを伝えようとしていたが、その時の私には彼女に気を使う余裕はなく、ただ悔しくて唇をかみしめていた。


 差し出された手を取ることもなく……



✤✤✤



 王都に戻って一週間が過ぎた。


 学院で変わらない日常を送る私だったけれど、心の中ではまだあの敗北を引きずっている。


 最後に見せた彼女の顔がどうしても忘れられない。彼女はあの時何を伝えたかったんだろう?


 名も知らぬまま別れたエルフの少女。彼女はまだアイアンラインで戦っているのだろうか?


 そんなある日、寮の部屋に戻ると一通の便箋が置かれていることに気が付いた。


 紙が普及して久しいご時世に珍しい羊皮紙の便箋だ。


 ……誰だろう?


 部屋には鍵が掛かっていていて、警備も厳重だ。誰かが勝手に忍び込んで便箋を置くことは難しい。


 不思議に思いながら便箋を手に取る。微かに甘く、清涼な香りが鼻孔をくすぐる。


 そこにはこう書かれている。



 0時に学院裏の大樹の元まで来てください。



 それを見て私の胸が高鳴った。


 学院の裏にひっそりと生えている大樹。その木にはちょっとした伝説がある。それはその大樹の前で告白して結ばれたふたりは永遠に幸せになれるというもの。


 0時と言えば寮の門限を過ぎた時間だ。普段なら申し訳ないが無視しただろう。私は王女だ。このような形での告白は受けられない。


 だけど私には予感があった。これはきっと彼女から……


 期待に胸を膨らませながら私は手紙のことを誰にも告げず夜を待った。


 深夜に寮を抜け出し大樹のもとへ向かう。夜の帳はしっかりと降りているというのに、何故か大樹の下だけが昼間のように明るく照らし出されている。


 そこで彼女は待っていた。


「やはり、あなたでしたか」


 予想した通りあの時のエルフの少女だ。


 少女は淑やかに礼をする。それは貴族の作法とは違っていたが、とても優雅で私は再び彼女に見惚れた。


「私はハディス・セフィリア・イゼルダ・ルージェ・スリヴァン・セリカ・カノンと申します。突然呼び出した無礼をお許しください。どうしても、もう一度あなた様にお会いしたくて、こうして来てしまいました」


 ハディス・セフィリア・イゼルダ・ルージェ・スリヴァン・セリカ・カノン。私はその名を刻み込むように心の中で何度も反復する。


 長い名だが、実は最後のカノンの部分が彼女の名前だ。


 この長い名乗りだが、実は一族の名前を連ねて言っているだけだったりする。相手が血縁者だと気づかずに恋仲になることを防ぐためのエルフの風習らしい。数百年の間にぽつぽつと子供をつくる種族のやむを得ない事情なのだそうだ。


 私も丁寧に礼を返す。長い年月を生きるエルフをぞんざいに扱うほど人は野蛮な存在ではない。エルフには身分を問わず敬意を持って扱うのが常識なのだ。


「お久しぶりですカノン様。私もあなたとは今一度お会いしたいと思っておりました」

「私の歳はあなた様と変わりません。ですからカノンで結構です。プリンセスエリュシアリア」

「そうですか。では私のことはエリュと呼んでください。それでカノンに聞きたいのですけど、この手紙はどうやって?」

「エルフの秘伝です。詮索はしないで頂くと助かります」


 人差し指を口に当てて悪戯っぽく微笑む彼女に、私は詮索を控えることにする。


 学院の警備を難なく破り、大樹の下を昼間のように明るく照らす力。エルフとは本当に偉大な種族だ。


「では私に会いたかったというのは……?」

「それは……」


 彼女は頬を染め私を真っすぐ見つめる。


「それは私はあなた様にどうしようもなく恋をしてしまったからです」


 それは純粋で素直な告白だった。


「あの日あなたと立ち会い、全力で競い合ってからもうあなたに夢中なんです。会いたくて、話をしたくて、もう一度触れ合いたくて、私はここまで来てしまいました」


 そこにいたのは高潔なエルフの娘ではなく、年頃のひとりの少女。そして私は、それがとても嬉しかった。


 私も一目見た時から彼女に恋してしまっていたから。


「わ、私……も……」


 あの日彼女と接したのは僅かに数分。しかし、全身全霊で肌を合わせ、相手の身体と心を受け止めあったことで私達はお互い惹かれあい恋をした。


「ああ、私……どうして、こんなに嬉しいの……? 私は王女として相応しい男性と結ばれなければならないというのに……なのに、カノン。今はもうあなたしか見えない……」


 一国の姫として許されない恋。だけどもう止められない。


 涙がこぼれる。彼女の手が伸びてそれをそっとぬぐう。


 心の中で我慢してきたものが溢れてくる。


 叫びたい。私は本当は女の子が好きだったのだと。


「可哀そうに。ずっと辛かったのですね。でも、もう我慢しなくていいんです。これからは私がいます。例えあなたが旅立たれても、私はあなたを永遠に想い続けましょう」


 カノンが私を抱き寄せる。


 力が抜けて彼女に全てを委ねてもたれかかったとき、重くのしかかっていたものが消えたかのように感じた。


 ああ、私はもう自由なのだ。


 そして私は甘く柔らかな彼女の中に溺れていった。1000年の時を生きるハイエルフの一生の中で私の寿命なんてほんの一瞬。それでも、私は彼女の中で生きていく……


 それは剣と魔法の国の物語。その結末のひとつである。



✤✤✤



 BAD END。


「お、おぉぉぉぉぉ……」


 私、桜井あんずは、コントローラーを握ったまま固まってます。


 画面は既に切り替わり、タイトル画面に戻っている。


 だけど私の思考は余韻に浸ったままだった。


 いやね? とんとん相撲のイベントを連射パッド無しでやって負けちゃったわけなんですけどね?


 なんなんだこのエンディングは!!!!!!


 全を放棄して美少女エルフとの百合ENDですってぇぇぇぇぇ!!!!!


 エリュシアリアエロカワイイ!! エルフちゃんマジ天使!!


 最高じゃないですか!!


 なんでこれがバッドエンドなんだよ! シナリオ無能かよ!?


 私はもう一度今のシーンを堪能するべくセーブデータをロードする。


 カノンちゃんかわえぇぇぇ……この子になら押し倒されてもいいよぉぉぉぉぉ!!!!!


 などと鼻息荒く画面に向かう私は、まさか来世でそれが現実になるとは夢にも思っていなかったのである。

ここまで読んで頂きましてありがとうございます。この作者ほっとけない! と心配してくださった方ぜひブックマークをお願いします。


もし要望があれば本来のシナリオであるエリュシアリアの勝ちパターンも書かせて頂きまので感想欄にコメントをしていただけると嬉しいです。

また、明日は水曜日ですが投稿お休みします。ごめんなさい!!<(_ _)>


設定資料(公式)

ハディス・セフィリア・イゼルダ・ルージェ・スリヴァン・セリカ・カノン


エルフの少女。ゲーム登場時の年齢は16歳。

身長159cm

体重47kg


ミニゲームの対戦キャラとして登場するサブキャラクターだがエリュシアリア、ベルフィーナに並ぶ作中最強クラスのビジュアルを持つ美少女。

相撲イベントで彼女に負けると食べられてしまう(性的な意味で)バッドエンドが発生する。通称百合エルフ。



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― 新着の感想 ―
[一言] ま、まさか…百合展開は本編ではお目にかけられないのでしょうか? 場幕だけの展開なのでしょうか!?
[良い点] ああ、これはタイトルで言及されているエルフですか? 姫様が彼女が誰であるかを知った今、この新しい人生で彼女に会うのが待ちきれません。 エルフが他の種族と比較して相撲に成功する理由や、途方も…
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! ポニーテールの日だとは知らなかったです。ポニーテール好きなのにw あとはストレート髪型も好きですw いやいやいやいや、確かに百合はノーマルじゃないけど、流石…
感想一覧
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