判決
ハクラの視点でサクッと進みます。
「いいでしょう。異議を認めます」
「ありがとうございます」
流石に綱渡りなタイミングだったことは否めない。この時ばかりは僕は心から礼を言った。
心証が悪いのは覚悟の上。なんせ僕の役目はこっちの用意した筋道以外は無いと陪審員の貴族様に理解させることだからだ。
そのためには騎士団側の言い分をことごとく論破し、徹底的に潰し、抗う気力まで無くさせる必要があった。
……決して趣味だけでやったわけではない。
まず言っておくが、この裁判は本来はそれほど難しいものではなかった。
被害の大きさに目を奪われがちだが、実際は加護を受けて間もない僅か6歳の娘が引き起こしてしまった神災だ。
誰もが想定しておらず、誰にも止められない、起こるべくして起こった神災なのだ。
それでも誰かが責任を取るべきだと言うならば、制御不能な力を与えてしまった女神様としか言いようがない。
だというのに、どうして近衛騎士団が繰り出してテロだ国家反逆罪だのという騒ぎになったかといえば、引き起こしたのが王族だったからだ。
身分制度があるこの国では身分が高いものほどしがらみに縛られて生きている。
もしもえりゅたんがただの平民の娘だったなら、今頃貴重な加護の使い手として国に手厚く保護されていたはずだ。
国家反逆罪なんてアホな容疑をかけられたり、裁判に引っ張り出されることにはなかっただろう。
でもえりゅたんはこの国のお姫様だ。それも結構特殊な立場にいるらしい。そりゃあ色々あるんだろうってことくらい簡単に想像できる。
王家の力を削ぎたい勢力はこの機会に鬼の首を取ったように騒ぎ立てるし、王家に近しい者でも王家の信用のために皆が納得できる落としどころを求める。こうしてやんごとなき方々の意向が法を超えて作用してしまうのだ。
特にこの国の連中は脳筋だからね。王侯貴族だからこそ戒めが必要っていう輩が多い。
その辺の馬鹿な事情がこんがらがって、加えてえりゅたんも自分は責任を負うべきだって思いこんでるもんだから、あれよあれよと国家反逆罪の出来上がりってわけ。
しかも近衛騎士団が余計な事するでしょ?
近衛騎士団は元々王家の私兵だ。そんな彼らに主である王族を逮捕させるものだから、そりゃおかしなことになる。
連中は国よりも主を優先するからね。それを堂々と裁判で言うものだから僕も、あと裁判長もキレかけてたな。
一応法の番人を自負しているからね。あの髭の裁判長。
これまで貴族の犯罪に対して働いてきたのも近衛騎士団だ。実力もコネも後ろ盾もある。だから今回もそれと同様に扱うなら問題は無かった。
でもあいつらそれが出来なかったから仕方がない。
なら近衛騎士団以外に適当な部署がなかったのかって話だが……なかったのだ。
法務局の役人には無理。
他の貴族にしても、王都のそれも近衛騎士団本部で起こった事件であり、王家内部の問題として直接介入はしなかった。民間人に被害がでれば別だったろうが、結局横から口だけ出すにとどめた。
200年前に王族が裁かれた時は戦時下で、敵に情報を漏らしたとかそんな類の話だったから、軍事法廷が適用されて即刻処刑されたらしい。そんなもん参考にならん。
それで結局……
「判決を下す。今回の事件は女神による神的災害であると認め、被告人は無罪とする。騎士団側は即刻エリュシアリア姫を開放するように。また王家側には姫の力の管理と教育に尽力することを要請する」
裁判長が判決文を読み上げる。
何故か皆凄くぐったりした感じでそれを聞いている。
加護の無い僕がまだまだ余裕だっていうのに変な話だ。実は加護って大したことないんじゃないかって、裁判の度に思う。
近衛騎士団で副団長をしている親友に視線を送ると、僅かに睨まれた。まあ、他の団員からの視線に比べれば可愛いものだけど。
今回僕の後ろ盾となり、情報をくれたり逃走の手助けをしてくれたりと、彼は色々便宜を図ってくれた。感謝してるよ剣聖様。
決して後味の良い裁判ではなかったけれど、最高に良い出会いにも恵まれたしね。
僕はえりゅたんの後姿を見つめる。
あのポニテをもふれるならばに手打ちにされてもいい……
視線に気が付いたのかえりゅたんが振り返る。回虫を見るような眼をしていた。
嗚呼、エリュシアリア姫。我が目が生涯貴女様を今のその姿で映すことが出来るように、我が脳裏に刻み込ませる事をお許しください。
だが廷吏が間に立ってえりゅたんの姿を隠してしまった。陛下の差し金だろう。
僕はそれを掻い潜ろうとするが……
「これにて閉廷とする」
かこーーん!!
逃避行への合図が鳴った。
せめて一目!! しかし、騎士団の連中、法務局の上司、それにえりゅたんの侍女が一斉に僕を捕えようと向かってくる。
殺される!?
「待て!! ハクラ・エルベン!!」
命をとるか、愛を取るか? 究極の選択を迫られたその時、可愛らしい声が僕を呼び止める。見るとえりゅたんの方から僕の方に駆け寄ってくるじゃないか!?
神の奇跡か!?
きっと救ってくれた僕に好意を持ってくれたんだろう。彼女の気持ちを受け止めるためなら、その後でどうなったって構わない。
僕は彼女を受け入れようと両手を広げてその瞬間を待った。
軽やかに跳躍したえりゅたんは身をひるがえすと、小さな足を僕の顔にめり込ませた。
「あんっ!!」
読んで頂きありがとうございます。
次へ進みたいのでさっさと終わらせました。これで第2章は終了し、次回から少年との幼き日の思い出を綴る幼馴染編に入ります。今後ともよろしくお願いいたします<(_ _)>




